山行・水行・書筺 (小野寺秀也)

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2012.12.09
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カテゴリ: 犬のいる生活

透きとほる扉の向う詩を愛する犬たちがゐる夏のしづけさ
                                  水原紫苑 [1]

  イオは牝犬である。生後6ヶ月くらい、初潮の頃に避妊手術をしたが、それでも正しく女である。女として生まれでて、つまり生物学的な性は女で、ボーヴォワールではないけれども、成長しつつジェンダーとしての女に育ち、そしてそのセクシュアリティはヘテロである。
  したがって、当然のことながら、イオは牡犬に恋をするのである。

  じつのところ、イオの初恋はどれなのか判断する根拠はない。人間よりは行動パターンは読みやすいような気はするものの、「淡い初恋」などということになったら、分かりようがない。考えてみれば、自分の初恋がどれで、どんなふうだったのか、それすら判然としていない私が考えるのだから、あいまいなこと極まりない。

io0-1

    A:新聞を囓り散らし、次はお気に入りの人形。 (2000/12/2) 
    B:人形に飽きて、ブラシの柄。 (2000/12/18) 
    C:浴室から盗んできた湯桶(翌日、新品購入)。(2001/1/1) 
    D:1mのただの木の棒(これが1番の気に入り)。 (2000/12/3)

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                ワインだって囓るのだ。 (2000/12/9)

  イオの最初の異性との出会いは、シーズーの「マーくん」である。生後4ヶ月くらいで出会って、すぐにイオの方の体が大きくなったのだが、マーくんはいつも兄貴ぶって威張っていた。マーくんの後をついてまわっていたのは確かだが、初恋とは程遠かったのではなかろうか。それは、どちらかと言えば、成犬になるにしたがってシーズー嫌いになるような、なにか複雑な気持ちで付き従っていたようなのであった

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     まだテーブルのうえには届かない。1ヶ月後にはほぼ制覇。(2000/12/2/)

  同じ頃、たまにしか遭えなかったが、「ラッキー」という元気な牡犬がいた。成長した後のイオと同じ位の体格で、似たような毛並みをした雑種犬である。

  隻腕の飼い主と公園にやってくるラッキーは、もちろんリードに繋がれているのだが、まだ薄闇の「かわたれどき」に出会ったときには、ラッキーは広い公園を隅々まで走り回っているのであった。飼い主さんは、どうもラッキーを自由に走り回らせるために、誰もいない時間帯に出かけて来るらしいのである。
  職場の飲み会があって帰りの遅くなった私が、帰宅しようと夜中の一時半くらいに公園を横切ると、三人の人影のまわりを走り回るラッキーがいた。一人は飼い主さんで、もう一人は仕事帰りの中華飯店の若い経営者、もう一人はその公園を「ホーム」にしているホームレスの一人であった。その三人に酔っ払いの私が加わって、ラッキーと一緒に遊ぶ、そんなこともあった。

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            炬燵の周りでの寝姿。
            E:長々と (2000/12/20)。F:大股開きで (2001/1/31)。
            G:膝の上、両方とも熟睡  (2000/12/4)。

  時間帯を狙い澄まして現れては公園を駆け回るラッキーに出会うことができたときには、イオは必死になってその後を追いかけるのである。ラッキーは、けっしてイオを邪険に扱うことはないけれども、とくに相手をしてくれるわけでもない。ただ、ひたすらに自分のペースで走り回るのである。
  ラッキーはイオが目に入っていないようにふるまい、イオは自由に歩き回れるラッキーの後を必死になって追いかける。ラッキーはまるで広い公園のガイド役のようで、イオもそんな風に接しているように見えた。ある程度走り回ると、ラッキーがまだ走り回っていてもイオは私のところに戻ってきて、その日の遊びは終わるのである。

  イオの心のうちはよく分からなかったけれども、ラッキーへの恋心のようなものは感じられずに、割りとさばさばした遊びの先輩との付き合いふうなのであった。

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         広瀬川の堤防を駆け上がる雪中訓練。こうして筋肉系乙女に。
        丈夫な足腰とすさまじい突進力は「悲劇の恋」のもととなる。 
                                       (2001/1/12)

  初恋の相手は、人も犬もたくさん集まるその公園ではなく、民家から遠く離れた山沿いの早朝の広場である。

(続く)

[1] 「くあんおん 水原紫苑歌集」(河出書房新社 1999年) p. 181。
[2] 「シーズーぎらひ」HP『ブリコラージュ@川内川前叢茅辺』






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Last updated  2012.12.11 13:55:13
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