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2004.08.31
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カテゴリ: カテゴリ未分類



会社を出て、最初の信号を左に曲がるとすぐに前方の車が視界を占領した。
右側に2台、左側に1台が固まって見えた。
「すれ違いに苦労してるのかな? ヘタクソ!」
思いながら近づくと、右側の2台はどちらもハザードを点けてこちら向きに止まっている。
乗用車の後ろは配達業務の大型トラックで、どちらも運転手はいないようだ。

突然、左側のシルバーメタリックの国産乗用車がバックを始めた。
「前からの車を先に行かせるのかな?」
前方には、来るのを待っているタクシーや乗用車が待機しているのも見えた。

もたつく車の脇を、通行人が何人かすり抜けて行く。
道路の左側を歩いていた私は、すでにシルバーのすぐ後ろまで来ていたが、どうやっても通り抜けられる幅がないことを確認できた。

「オイオイ、無理だよ、やめなよ・・・・・・」
行こうとするシルバーに向かってつぶやいた。
私の声が聞こえたようにシルバーは止まった。

斜めに置かれた数台の路上駐輪車の中で、1台だけが道路に直角に置かれている。
がっしりしていて重そうな自転車だ。
「持てるかな・・・・・・」
重い手荷物を珍しく携えていた私は一瞬躊躇した。
下手な動かし方をするとシルバーに当たるし、通り抜けられるように置くには少々移動させなければならないからだ。

歩きながら決心した時に、シルバーの運転席のドアが開く気配がした。

私は自転車を持ち上げ数メートル運んだ。
「ありがとうございます。」
道路の傾斜を考慮して倒れないように自転車を着地させた時、運転席の脇に降り立ったドライバーの声が聞こえた。
私は、ほんの少し振り返りながら、黙って空いていた右手を上げた。

真直ぐに150メートル程歩いたあたりで、やっと後ろから来る車の気配を感じた。

一度は礼を言われているのだし、更なる礼を望んではいない。
それでも、占っていた。

シルバーは私の真横で止まった。
「どうもありがとうございました。」
開け放たれた助手席の窓の向こうから、ドライバーが頭を下げた。
35~6の笑顔の素敵な女性だった。
明るく爽やかな声は、笑顔以上に素敵だった。
「お気を付けて・・・・・・」
私は窓越しに声をかけ、シルバーを見送った。
私の笑顔を彼女が気に入ってくれたかどうかは分からないが・・・・・・。



実家に帰ると「ゆでたての毛蟹が2杯」とお袋が待っていた。
仕事のある日は面倒だから止めてくれ、と言ってあるのだが・・・・・・。

シャワーを浴びてから台所に立つ。
手と鋏と包丁で分解する。
甲羅の中には味噌がぎっしり入っていた。
食べやすいように、分解した足から身だけを外して甲羅の味噌の上に乗せていく。
かなり押し込んで、最終的には1杯分の身を全て綺麗に甲羅におさめ完成する。
2杯分終わるのに1時間かかった。

解体作業をしながら、昆布と鰹節で出汁をとる。
取った出汁に蟹の殻を入れて、さらに蟹出汁をとる。
濾して味を調え、葛をほんの少々に溶き卵で完成。

お袋が蟹1杯を隣の弟家族に届けた。
預かってきた鍋に、私はできたての蟹汁を分けてやる。
「そんなにやらなくて良いよ・・・・・・子供はご飯済んじゃったみたいだし・・・・・・」
「だってウチの分もこんなにあるよ、飲みきれないよ。」
「いいのよ、余ったら明日食べるから・・・美味しいから良いのよ・・・」
前回夏休み中に買ってきて食べさせたのが余程気に入ったらしい。
実際、殻だけでも蟹の良い風味が出て美味しい。

後片付けをして勝手口で煙草を吸っていると、弟の子供達が出てきた。
「蟹美味しかったよ、ボク味噌も食べた。」
「君達は晩御飯済んだんじゃなかったの?」
「もらった。パパも旨い旨いって食べてるよ。おじちゃんは?」
「僕はまだ・・・これから・・・」
食べやすいようにスッカリ殻を外してあるのだし、作業中に味見をしたが美味しかった。
不味いはずはなかった。


「何飲む?」
我が家の食事に先立って、お袋が聞いてきた。
コップを準備してくれようとしているのだ。
「今日は飲まない日なんだ。」
休肝日と決めた月曜だし、お腹の調子も今一だったので、私は飲むつもりはなかった。
シャワーの後もサイダーを飲んだし、ノンアルコール・ビールでも持ってくるつもりでいた。
飲むのなら、蟹の解体中から飲んでいた。
「そんなこと言わないで、何か飲みなさいよ、せっかく蟹があるんだから・・・ワイン飲みなさいよ」
「いいよ」
「じゃービール飲めば」
「別にいいんだよ」
「じゃぁ、明日と代えなさいよ」

そこまで言われたら飲まないわけにはいかない。
「具合が悪い」なんてとても言えない。
結局缶ビールを2本持ってきたが、1本飲んだらお腹が膨らんだ。
食欲はそれほどなかったが、お袋の会話に付き合うために焼酎のロックを舐めるようにしてしばらく時間を潰した。
「友達の姉さんが亡くなった」・「このあいだのメロンは苦かった」・「東急百貨店の高額商品カタログ」「次男は会社辞めたみたい」等々、私にはどうでも良い話だったが・・・・・・何となく話題がなくなるまで付き合ってあげた。

肉親であれ、他人であれ優しくしている自分が妙だった。
何かが切れていると言う訳でもない。
何かを望んでいるわけでもない。
ただ、淡々としている自分がおかしく思えて仕方なかった。
まぁ、こんな日があってもいいか・・・・・・そう割り切りながら睡眠に入った。





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Last updated  2004.08.31 17:23:00 コメントを書く


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