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2020年07月17日
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テーマ: 本日の1冊(3710)

「万葉学者、墓をしまい母を送る」上野誠 講談社

上野誠さんについては「万葉集から古代を読み解く」で手に取ったことがある。その語り口の優しさで悪い印象はなかった。その御母堂が身罷り、葬儀を司ったという。さぞかし、古代から現代にかけての貴重な知見を得たに違いないと思い紐解いた。

実は上野誠が葬儀に関わったのは御母堂だけではなかった。1973年から、祖父、祖母、父、兄、母と見送っている。でもまあ一般家庭とほぼ同じペースかもしれない(私も考えればよく似ている)。著者と私は同じ歳。ただし、福岡の旧家と岡山の庶民とは格式が違う、ということもわかった。焼香の順番であんなにも頭を悩ますとは!しかも、墓は二階建て人が5ー6人立ったままで入れる大きさだ(1930年建立)。まるで巨大古墳の石室の如し。上野家の格式の高さ、如何ばかりか。

さて、数々の葬式に出た著者は、最初の祖父の葬式(13歳)が1番格式高く、後の万葉学者として大いに「学び」を持った。
・死者に対して愛情と畏怖ふたつ持つのは何故なのか?
‥‥突き詰めれば、このひとつについて興味深いことを語っている(詳しくは本書を読んで欲しい)。これを深めたのは著者の「古事記」「日本書紀」の知識だろう。万事、業者に任せる現代では、なかなか体験できないこと(湯灌、衣服の焼却、茶碗割り)を解説する本書は、古代学・民俗学知識の開陳かのようだが、本人の体験に基づくこれらは、そうではなくて優れてエッセイ文学である。

ところが、格式あった巨大墓は、たった62年で墓終いをして霊園墓に移る(1992年)。ここで私は墓にも流行り廃りがあることを改めて思い知らされた。霊園墓は企画墓であり、案内図を見なければたどり着けない。墓のサラリーマン化。それは即ち戦後昭和の日本そのものだろう。だとすれば、令和の時代に、墓の姿はまた大きく違ってゆくだろう。何が変わって、何が変わらないのか。そういうことにも、私は想いを馳せた。

古代学・民俗学・墓学(?)も入っているが、やはりこれはエッセイであり、一介の学者の家族史なのである。だとすると、当然介護学(?)も入ってくる。本人は「自慢話」というが、私も多かれ少なかれ体験した「あるある話」である。

人によっては「お母さんの貯金が1000万円もあったのだから、施設の3ヶ月移転7年間の闘いなんて楽な話だろう。俺はもっと苦労している」「葬儀の外注化・簡素化は嘆かわしい」というかもしれない。もちろんもっと苦労している方は山ほどいる。未だにきちんとした葬儀をしている地方もあるだろう。しかし、著者の書きたかったのはそんなことではない。

学者らしく「私と葬儀の関わり方」一覧表を作っていて、5人の葬儀の移り変わりを見せている。葬儀だけでいえば、私は喪主を3回していて、彼は一回だ。家族葬は、私は遂に選択できなかった。あんなに格式あった彼の家族の葬儀は、兄上の時は一挙に都会風の家族葬になっている。これは良くも悪くも「社会のあり様の変化」のお陰である。と、著者は言う。ホントに良くも悪くも。



最後の方で著者は万葉学者らしく「挽歌の心理」と一章を設ける。さらに最後の方では、「死と墓をめぐる心性の歴史」についても考えを回らす。東アジアには、薄葬と厚葬思想が交互に現れるという。そういえば、古代の薄葬令から現代の上皇の決断まで、薄葬の伝統は確かにあり、巨大古墳から庶民的石墓の厚葬だけの歴史ではなかった。大伴旅人は薄葬主義の竹林の七賢に学んで「この世にし楽しくあらば」の歌を遺している。この歌については機会があれば、また書きたい。






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最終更新日  2020年07月17日 21時53分49秒
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