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2018年08月08日
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テーマ: 粉物大好き(51)
カテゴリ: B級
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海島綿のシャツを通して、紫外線が素肌を刺すように降り注ぐ中、俺たちは、片腕の男の情報を持っているらしい店に向かった。
カリブ海の西インド諸島の乾ききった日差しを、まさか大阪で浴びるとは、海島綿も思っていなかったろう。
店の前で、お持ち帰り用のたこ焼きを、千枚通し一つで器用に焼いている男が、首の凝りをとるように首を左右にコキコキさせながら、チラっとこちらを見た。
千枚通しを軽く操っていた手の前腕部の筋肉が一瞬大きくなったのを、俺は見逃さなかった。

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ド派手な店だな。
浮浪者にクーラーの室外機を盗まれないようチェーンをしてるのか、そのフリをして、チャイニーズマフィアに車を突っ込まれないようコーンを置いて居るのか。
コーンは、内側にセメントが流し込んであるに決まっている。
なかなかの街だぜ。

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これは、逃げ易いわ。
満席の一階を避け、情報屋は、黙って、さっさと二階へ上り、何故か、そこだけ客を受け入れることを拒絶しているようなテーブル席の端っこに座った。

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「タコ焼きは、五個で300円です。出汁がついたのとマヨネーズがかかったのが400円です。たこ焼き、お好きでしたから、三種類とも頼んどきました。」
俺は、狭い路地が、必要以上に見下ろせる窓際に座り、注意深く、眼下を行きかう車と人の動きを追っていた。

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「もちろん、出汁巻きもね。オレ、千枚通しの兄ちゃんに、片腕の事、聞いて来ますから、先にやっててください。」


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熱を感じさせないほど乾ききった表面カリカリ、中がとろとろのタコ焼き。
出汁が良く効いたクリームシチュウのような中身は、投げつけたら、そのまま凶器になりそうだ。
柔らかくて大きなタコも入っている。
何年ぶりに食べるんだろう。
逃亡が始まって五年、五年間は食っていない。
旨い、旨すぎる。
一瞬、食べることに夢中になってしまい、路上の注意を怠ってしまった自分が情けない。

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戻ってきた情報屋が、さも、楽しそうに仕込んできたことを話し始めた。
情報屋の方を向いて、殆どのメニュウが300円だと気づいた。
「いい話がありました。とうとう、具体的に、片腕の動きをとらえました。あいつがこの近くの質屋に、奥さんの時計を売りに来ました。そして千枚通しが珍しい時計を集めているんで、店主から話が来て、持ち込んだ奴が片腕だと判りました。。」
俺は思わず自分のしている時計を右の掌で押さえ込んだ。
目を閉じなくても、眼前に、昨日の事のように、あの日のことが角膜の上に浮かぶ。
浮かぶというより、焼き付いて剥がれ落ちない。

2002年のクリスマスイブ、二人は、自分たちへのクリスマスプレゼントにルイ・ヴィトンの時計を手にした。
ルイ・ヴィトンは2002年から本格的に時計の販売を開始した。
海外旅行によく行く俺たちは、タンブールのGMTの、本で言ったら、初版本をペアで予約していたのだ。
片腕の男は、家内を殺すと、財布と着けていたタンブールを奪い逃げやがった。
​真珠のネックレスも奪おうとしたが、抵抗したのか、千切れてバラバラに成ってしまい、9ミリの花珠真珠が家内の遺体を囲むように、そこかしこで鈍く輝いていた。​

口の中が乾いていた。
たこ焼きも、出汁巻きも味がしなくなっていた。
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そこへ、ふて腐れた態度の店員が、ごめんよと言いながら、俺たちの座っている横の壁に張り紙をしに来た。

そして、ハイボールのジョッキを一つづつ、両手に掴むと、Tシャツの前にこぼすように交互に飲みながら、ふらふらと階段の方に歩いて行った。


あの時か、あの時、一瞬、たこ焼きを食うのに夢中になって、路地裏の動きを見逃したか。
俺は、非常階段へ走りながら、途中のテーブルの上に有った、週間新潮を取ると、ぎゅっと丸め込み左手で握りしめた。





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最終更新日  2018年08月08日 18時19分33秒
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