東方見雲録

東方見雲録

2025.04.27
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カテゴリ: まちづくり


関連サイト:地方行政の達人(抄) こちら
江戸川区開発公社——もっとも光った政策
 昭和四十五年一月五日、中里区長は恒例の仕事始めに際して、職員への訓示の中で、

「行政は、人の着る着物と同じであります。体が成長して大きくなったら、着せるものも衣替えしなければなりません。育ってきた体に合うものを着せていかねばならないのです。袖丈も身幅も合わせていかねばなりません。また、批判のない人生は何もやらないことであり、批判のない人間とは何もしない人間のことです。何事でも百パーセントいいということは、ほとんどありません。十人のうち一人だけの批判でも、その声は強いのです。しかし、それを恐れていては何もできません。信念があるなら勇気をもって取り組む必要があります」

 と述べた。

 江戸川区の将来を拓く「江戸川区総合開発基本計面」の実施状況には満足しているけれど、区の施設を建設する用地のことを考えると焦らずにはいられなかった。同計画には四十八万平方メートルの用地取得が組み込まれているが、高度経済成長がもたらした地価の高騰は、大きな障害となるに相違なかった。

 都市化が急速に進んだ江戸川区の地価は、昭和三十年を基準にして、昭和四十年には平均上昇率は十三・四倍という異常さで、いわゆる「土地神話」が生まれ、土地は投機の対象にされかけていた。江戸川区は前年、用地特別会計をつくり、三億円余の資金を回転させつつ、土地の先行取得を行っているが、中里区長自身、それに満足していなかった。

(ぐずぐずしていたら、区が必要とする用地は、あらかた不動産会社に買い占められるんじゃないか……)

 一旦、不安に駆られると居ても立ってもいられなくなり、新しい方式を模索するようになった。予算案を作成し区議会の承認を得た上で、という方式では後手を踏む。苦しみを伴う模索が続き、暗いトンネルの中で立ち往生しているような気分にさせられた。

 窮すれば通ずで、ある日、ふと中里区長は、開発公社を設立し、そこに用地の先行取得をやらせることを思いついた。思い立ったが吉日と、すぐさま区長室に田中四郎助役と担当者らを呼んで、自分のアイデアを話し彼らの意見を求めた。



「是非、それでやらせて下さい」

 彼らの賛同を得て、中里区長は実現へと動き出した。
・・・・
江戸川区開発公社の土地取得総面積は、約五十万九千百平方メートル、取得金額は五百十五億九千二百六十万円、その売却金額は五百三十九億七千八百三十万円で、それによって得た二十三億八千五百七十万円は、福祉施設の充実や区民施設の建設に投入された。

 平成十二年七月三十一日、江戸川区開発公社は所期の目的を果たして解散した。一円の債務もなしに解散した開発公社は、他に例はないと思われる。

 こうして中里区長は、「江戸川区総合開発計画」を実施して、区長就任時に掲げた「雨が降っても長靴を履かなくても済む街づくり」という公約を果たしたのである。

保育ママ制度――子供は区の宝
 区長に再選された一年後の昭和四十四年四月一日、中里区長は画期的な「保育ママ制度」をスタートさせた。この制度も中里区長のユニークな発想に基づくもので、実施に至るまでの経緯は次の通りで、中里区長の人生観や行政観を知る手がかりになる。

  昭和四十二年四月、革新陣営から推されて華々しく登場した美濃部亮吉都知事は、その年の十月、「ゼロ歳児保育」の実現を約束した。二十三区の区長会は、それを時期尚早として消極的だったが、翌年の五月、民生局長の通達文書が出ると、その足並みは乱れた。

 それ相応の補助金を目当てに、多くの区は実施に踏み切った。それが自然の流れだと言われた。しかし、中里区長は、

「生まれたばかりの子供は、母親のもとで育てられるべきである」

 と主張して頑なに拒絶し続け、都知事の与党たる社会党・共産党の区議会議員らからの厳しい批判にさらされた。また、保守系議員からも実施を望む声が出始めた。中里区長は、それと公言しないが、美濃部知事が打ち出す政策のいくつかを「人気取り」と断じて、苦々しく思ってきた。むろん、それだけで事は解決しない。都から実施を求められている政策を拒絶する以上、その代案を示すべきで、さもないと単なる反対に終わってしまう。



「良いアイデアがあったら遠慮なく出してもらいたい」

 と結んだ。

 担当者らとの会合を重ねるうちに中里区長は、都が昭和三十五年十月に採用した「家庭福祉員制度」を思い出した。この制度の目的は、現役を退いている教員や助産婦、保母らに三歳未満児の保育を手伝ってもらうことで、昭和四十年四月には都から区へ移管された。

 しかし、完全に実施している区は少なく、中里区長にもその気はなかったが、代案を模索中に、この「家庭福祉員制度」に検討を加えた結果、「育児経験のある女性にゼロ歳未満児を預かってもらう」ことを思いついた。

 中里区長のこのアイデアに基づいて、次のような「江戸川区保育ママ制度運営要綱」が制定された。

江戸川区高齢者事業団――老人に「生きがい」を


 高齢者就労問題研究担当副主幹の小山昭作氏は、かつて江戸川区内の小岩清掃事務所長を務めたことがあり、中里区長の行政姿勢を熟知していた。「区民本位」を掲げる中里区長なら、この構想に賛成してくれるに違いないと、旧知の田島衞都議会議員に協力を乞い、同議員とともに中里区長に会って、それまでの経緯を説明したうえで懇請を繰り返した。

「是非とも江戸川区で始めて下さい」

「都の構想は結構だが、私の一存で決められる事じゃないので、老人クラブの幹部らと検討してみましょう」

 と、中里区長は即答を避けたが、早くも意欲を燃やしていた。平均寿命の延びは高齢化を進行させつつあり近い将来、高齢者の多くは色々の理由で働くことを望むはずで、それならば今のうちに都の要請に応じたいと、老人クラブ連合会と協議を重ねる一方、六十歳以上の区内在住者の半数に当たる一万七千人を対象にアンケート調査を実施した。

 事業団への参加希望者は九百二十六名で、区内の五地区で説明会を開いたところ第一期の登録者は三百五十六名だった。

「まず始めよう」

 と、中里区長は関係者の賛同を得て五十年二月二十四日、区民センターにおいて「江戸川区高齢者事業団」の設立総会を開いた。事業団の目的は次のように定められた。

「この事業団は高齢のため一般雇用になじまない、またはそれを望まないが働く意欲を持っている健康な高齢者が、その経験・能力・希望を生かして相互に協力し、地域社会の活動と密接な連携を持ちながら働く機会を得て、生活感の充実・福祉の増進を図るとともに地域社会に貢献しようとするものである」

 設立総会には登録会員三百五十六名が出席し、会長には川島貞次江戸川区老人クラブ連合会会長が選出された。席上、中里区長は、

「この事業団は、全国の仲間の期待を担って発足したのでありますから、皆さんも十分その期待に応えて下さい。区としても、皆さんが気持ちよく働けるよう側面からの協力をいたします」

 と挨拶した。

 全国のトップを切っての江戸川区高齢者事業団は四月一日、その事務所を区役所第五庁舎内に置き、区から三百万円の運転資金を借りて業務を開始した。会員の自主運営を貫き、会員は所定の会費を収める。登録会員は増えたが、折からの不況で受注は思うように伸びず、それをカバーするために数多い区立公園や児童遊園の清掃や、区の公共施設の仕事を引き受けた。一般家庭からの受注は、植木の剪定、手人れ、襖の張り替え、ベランダ、家屋の塗装などで、会員の丁寧な仕事ぶりは発注者に喜ばれた。

ドブ川を清流に――世界初の親水公園完成
 昭和四十八年、世界で初めての親水公園である「古川親水公園」を完成させた。かつて、農業及び舟運として使われた数多くの水路は、急激な都市化の中で、家庭排水により悪臭を放つドブ川と化した。そのため下水道整備を促進し、多くの不要となった水路を単に埋めて道路にするのではなく、川岸に樹木を配し、河川から水を引き込み、浄化して流す、水と親しめる清流によみがえらせた。この試みは、”親水”の言葉を全国に定着させ、自然回復の例として、カナダ・スポーケン博覧会に紹介されるなど、各方面に大きく取り上げられた。そして、市町村初の「全建賞」を受賞。さらにその後、次々と完成した親水公園や緑化事業を含めて、平成九年、「緑の都市賞内閣総理大臣賞」を受賞するなど高く評価された。

 現在、親水公園、親水緑道は、二十一路線、総延長二十五キロメートルに延び、水と緑のネットワークを成し、江戸川区の快適環境のシンボルとして区民に親しまれている。また、この成功が契機となり全国に親水公園が普及した。

関連サイト:江戸川区の歴史 こちら

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