草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2018年09月17日
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第 三百三十四 回 目


 今回から数回にわたって以前に、埼玉県の後援を得て劇場用の映画として実際に制作しようと、監督、

主演者などを決めて制作準備に取り掛かっていた作品の、第一稿を掲載いたします。勿論、セリフ劇の

台本としても使用できるものです。参考までに準備の裏話を一つ二つ御披露致しておきましょうか。

 私・草加の爺には、元来は「大言壮語」する癖など御座いませんで、いわば己の分と言うものを充分

に心得た、堅実な生き方をしてまいりましたし、これからもするでありましょう。が、この映画の発想と

実行に関しては、行きがかり上とは申せ、余りの大胆さに我ながらも呆れてしまったほど。今にして思え

ば、野辺地でのプロジェクトの前段階としてのステップを踏ませるべく、天が仕組ませたもの、では

あるまいかと内心で得心する部分も、なきにしもあらずなのです。とにかく、大風呂敷を目いっぱいに



からの働き掛けなどもあって、異常に面白い展開も見られたのですが、それもこれも東日本大震災という

未曽有の大事件が勃発して、中止のやむなきに至っている。この結末も、常軌を逸した異常展開と見られ

るではありませんか…。

 兎に角、実物をご覧に供しましょう。


            劇映画 第一稿  「 ビッグチャレンジ! 」

    脚本:しばた えつこ

            登場 人物

 日本(ひのもと) 一太郎(いちたろう)

          桜 子(一太郎の妻)


 長女・美雪



 次男・正次


 酒場の客

 作家

 歌手

 サッカー選手



 大衆演劇のスター

 カーレーサー


 命の恩人

 旅館の女将・橘 かおる


 一太郎の先輩・大家 建造

 易者


 J M C の社長・夢の翔子

 J M C の部長・大口 耀(あきら)

 J M C の課長・佐藤 勝之


 自称ライバル・鬼田 幸三

 ホームレス・柴 遊太郎

 料理研究家

 新谷 春子

 倒産した企業家

 タクシーの運転士

 サラリーマン

 お局様(得意先の女性)

 アカ詐欺師


 大家さん・人見 良助

 商店主

 中小企業の経営者

 タレントの付け人

 店員

 おかま

 バーテン


 受付嬢

 新人社員

 秘書

 守衛

 佐藤(重役付の運転士)


 その他


  1⃣ オフィスビル(昼)

 高層ビルの透明なガラス越しに、最上階のオフィスから次の階へと、次々と出たり入ったりを繰り返す

一太郎・四十八歳の姿を、カメラが追っていく。

  2⃣ 街(夕暮れ)

 肩をすぼめ、首うなだれて悄然と歩く一太郎の姿がある。彼が歩いているのは、広い通りの歩道部分の

車道とは反対側の、建物沿いである。

  3⃣ 大衆酒場

 その片隅に、コップの酒を前にして、呆然と腰を下ろしている一太郎の姿がある。

  4⃣ 一太郎の回想(二十数年前)・その一

  書店で、ベストセラー作家の澤木健二郎のサイン会が開催されている。行列するファンの中に居て

自分の番を首を長くして待っている一太郎 ―

 一太郎のモノローグ「僕は、自分が天才だと信じている時期が、四、五年間続きました」

  澤木のサインを得て、喜色満面の一太郎が、作家に握手を求めると、相手は気さくに応じてくれた。

 一太郎のモノローグの続き「よし、僕も絶対に傑作を書いて、人気作家になるぞ…」

  5⃣ 回想(同じく)・その二

  人気歌手の南島三郎チャリティーコンサート会場である。その最前列に陣取って、盛んに声援を

送っている一太郎の姿がある。

 一太郎のモノローグ「しかし、僕は極端に移り気だった。南島三郎! 恰好いいなあ。声が良いし、

歌唱力が抜群だ…。スターになるなら、何と言っても演歌の歌手だ。よし、これで決まりだ」

  6⃣ 回想・その三

  サッカーの国際的なスター選手の練習風景をテレビ局のクルーが取材している。遠巻きにしている

見物の中に一太郎も居る。

 一太郎のモノローグ「「夢見たり、憧れたりするのは、若者だけの特権かも知れない。これからは、

断然サッカーの時代なのだ。僕も負けないように、頑張らなくっちゃ!」

  7⃣ 回想・その四

  練習用のサーキット場。人気のカーレーサーの佐々原一気が颯爽とレーシングカーを走らせている。

その様子がテレビの映像で紹介されている。そのテレビ画面を喰入るように見詰めている一太郎。その

表情は真剣そのものである。

 一太郎のモノローグ「生か死か、自分の命を賭けて勝負に挑むカーレーサー。これぞ、男の中の男の

職業だ! 本当にすごいなあ」

  8⃣ 回想・その五(郊外のロケーション現場)

 大物タレントの大町研介が主演するドラマの収録が行われている。少し離れた所に人垣が出来ている。

その見物客の中に一太郎がいる。

 撮影の合間に、甲斐甲斐しく大町の汗を拭ったり、飲み物を手渡したりしている付き人の女性。その

付き人が何か必要な物でも取りに来たのか、一太郎たちの近く迄走って来た。傍らに停めて在った乗用車

から薬のような物を探し出し、再び現場に戻ろうとする。

 一太郎「済みません、ちょっと、お話が…」

 付き人「えっ、私に用事?」

 一太郎「お取込み中に恐縮ですが、僕は日の本いちたろう、と申しますが、大町研介さんの大ファンな

のです」

 付き人「先生の大ファンは日本中に山ほどいますよ。あなた、サインでも貰いたいの」

 一太郎「いえ、サインではなくて、大町先生の弟子になりたいのです」

 付き人「あんたが――」と、改めて一太郎の姿を上から下まで眺めて、

 付き人「演技の勉強でもしているの?」

 一太郎「全くの素人ですが、先生に弟子入りして、猛烈に、その、勉強するつもりです」

 付き人は半ば呆れている。その時、助監督の一人が呼びに来た。

 付き人「あたし、今忙しいので」と、現場に戻って行く。

 一太郎のモノローグ「全く偶然に、撮影中の大物タレントを目撃した。清水の舞台から飛び降りるよう

な気持ちだった。願っても無いチャンスが直ぐ近くまで、向こうからやって来た。そんな錯覚に捕らえら

れての暴挙だった」   

  9⃣ 元の大衆酒場

  「君、元気を出したまえ、元気を!」と、一太郎に声を掛けて来た客がいる。一太郎は無言で、ぼん

やりと隣に座った客の顔を見た。

 客「酒なくて、なんでこの世の花見かな、ってね。お酒は楽しく、愉快に飲まなくてはいけません」

 一太郎「この世の……お花見ですか」

 客「そうです。人生、楽ありゃ苦もある。当節では長寿、長寿と言い囃しますが、長寿と言っても

たかだか百年とちょっとじゃありませんか。お互いに、楽しくやりましょうよ」

 一太郎「はァ…、楽しくですね」、無理に笑顔を作ろうとするが、途中で泣き顔になってしまう。

  ⑽ 山道(回想)

 風景をスケッチしていた男が、鉛筆を動かす手を止めて、遠くを見た。一太郎(二十代前半)が、夢遊

病者の如く崖への道なき道を、行く。

  ⑾ 崖の上(回想)

 焦点の定まらない目を宙に泳がせて、一太郎がソロソロと歩む。その顔に一瞬恐怖の感情が浮かぶが、

それを振り切るようにダッシュする――

  ⑿ 病室(回想)

 ベッドの上で両目を開ける一太郎。

 看護婦「ご気分はいかかがですか?」

 一太郎「……ここは、――」

 看護婦「病院です。こちらの方が(と、傍らの椅子に腰を掛けた男 ― 山でスケッチしていた ―

を見返る)、消防に通報してくださらなかったら、あなたは今頃この世の人ではなかった筈です」

 一太郎「すると僕はまた自殺しようとした」

 看護婦「それじゃあ、何も憶えていらっしゃらない。村中の大騒ぎだったのに」

 一太郎「ええ、まるで記憶がありません」

 男「嫌な事は忘れるのがいいのです、無理に思い出すことはない」

  一太郎は突然にベッドの上に正座して、最敬礼した「本当に有難うございました」と。

 男「いやいや、どうぞお楽にしてください。せっかく授かった生命です、どうか人の為、世の為に役立

てて下さい」

 ⒀ ××旅館の玄関ロビー(回想)

 数日後。怪我も癒えた一太郎が旅館を出る所である。折しも、某大臣一行が視察の為に到着すると言う

ので、女将以下の旅館の従業員たちが慌ただしく立ち働き、村長や助役などの土地のお偉いさんが勢揃い

して、待ち設けている。

 ⒁ 旅館の前の道(回想)

  とぼとぼと歩く一太郎に、

 女将「あの、御客様、ちょっと……」と、足早に追って来て、声を掛けた。一太郎は、自分の事だとは

気付かずに行こうとする。

 女将「あの、御忘れ物です、お部屋に」、ぼんやりと立ち止まった一太郎の前に、古ぼけたノートを差

し出した。

 一太郎「これは……。あっ、どうも済みませんでした」

 声が上ずっている。一太郎は手渡されたノートをパラパラと無意識にめくっている。ノートの中には

乱雑な文字で「自殺、自殺、今度こそ最後まで遂行 ― 。しかし、勇気無し! ダメな自分!」などと

書き殴ってある。

 女将「お元気で。機会がありましたら、また私共の旅館にお越しくださいませ」、美しい笑顔で一太郎

を見送っている。

  ⒂ 元の大衆酒場

 ふっと我に返る一太郎。隣りの客はコックリコックリと静かに船を漕いでいる。時計は夜の九時過ぎを

示している。

  ⒃ J M C の事務所(ビルのワンフロア―が一太郎の勤める会社・JMCのオフィスになっている)

  力無い足取りで戻って来た一太郎。誰もいないと思っていたオフィス内に灯りが点いていた。恐る

恐るドアを開けかかると、「あいつ、まだ戻って来ないのか…。もう、クビだな、クビ」奥の方から部長

の声が聞こえた。首を竦めて、這う這うの体でその場から逃げるように立ち去る一太郎。

  ⒄ 深夜の裏通り

 やって来た一太郎に、風采の上がらない辻待ちの易者が、声を掛けた。

 易者「そこのあなた、そうです。あなたです、あなた」

  一太郎は仕方なく立ち止まりはしたが、明らかに迷惑そうである。

 易者「御心配は無用。今回は見料は取りません。そうです、サービスで、つまり無料で観て進ぜよう。

其処にお座りなさい」

  渋々、易者の勧める粗末な椅子に腰を下ろした一太郎。

 易者「袖すり合うも他生の縁と申します。貴君には心当たりがなくとも、この大宇宙の霊妙なる法則

によって、拙者と貴君とは必然的に、今夜ここでの出会いが約束されておった……」

 一太郎「(まるで、狐につままれたような面持ちである)」

 易者「(少し砕けた態度で)気が多すぎて、移り気で、根性無しの意気地なし。自分に愛想が尽きて

自殺しようとしても、死ぬほどの勇気は湧かない。一念発起して今度こそはと頑張ってみるが、現実は

厳しくて直ぐにも挫けそうだ」

 一太郎「(次第に、相手の言葉に引き込まれ始めている)で、これから僕はどうなりますか……」

 易者「(構わずに自分のペースで続ける)気が多く移り気なのも、必ずしも欠点ではない。森を作って

いる一本一本の樹木を見て御覧なさい。しっかりと大地に根を張っている。あなたの 移り気 という

気も、己という大地にしっかりと 根を下ろし 根を張らなければいけないのです……」

  その時、一太郎の背後を通り過ぎようとした男が、足を止めた。

 男「日本・ひのもと君じゃないか ― 」

 一太郎「やあ、鬼田さん」

  男は自らを一太郎のライバルと称して、敵愾心を剝き出しにしている鬼田幸三である。

 鬼田「久し振りじゃないか。遅いけど、一杯行こう。(易者を軽蔑したように横目で見ながら)君に

こういう趣味があったとは、知らなかったよ」

一太郎「いや、僕は別に…」

  一太郎が慌てて立ち上がると、鬼田は一太郎の腕を掴んで、一杯飲み屋の並んだ方へ連れて行くの

だった。





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最終更新日  2018年09月25日 09時54分42秒
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