草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2018年09月21日
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第 三百三十五 回 目


     劇映画『 ビッグチャレンジ! 』 その二

  (18) 赤ちょうちん・一杯飲み屋

 鬼田「そうか……、飛び込みで、見ず知らずの会社に営業をかけているのか」

 一太郎「それも、一日のノルマが三十社なのです。三十社なんて、探すだけでもかなり大変ですから」

 鬼田「ノルマで三十社か。普通じゃ考えられない数だね、そうか。君も頑張っているのだ、毎日、毎

日」

 一太郎「(頷く)半分は、惰性のようなものです、正直の所は…」

 鬼田「うん、うん(と頻りに頷いている」」



  鬼田に抱えられるようにして一太郎は、かなり酩酊している。鬼田もまた同様の状態である。

 桜子「まあ、まあ、とんだご迷惑をお掛けしまして……」

  迎えに出た桜子の顔を、吃驚して見詰める鬼田。初対面の鬼田を妻の桜子に紹介する一太郎である

が、バツが悪すぎて、とてもまともには桜子の顔を見ることが出来ない。

 一太郎「こちら鬼田さん…、僕の家内です。いつもお世話になっているのだ」

 桜子「初めまして、日本の家内で御座います。どうぞ、お上がりになって下さい。お茶でも差し上げま

すので」

  リビングの方に鬼田を招じ入れる桜子。

 鬼田「(桜子の美しい顔に視線を釘付けにしながら)君の奥さん、すこぶる附きの美人だな」と、一太

郎の耳元に囁いた。

  (20) 日本家のリビング(早朝)



ガバッと弾ね起きた。一太郎、時計を見る。

 一太郎「もう、こんな時間か」

  (21) ジョギングコース

  勢いよく走って来た一太郎が、ジョギング仲間の数人と挨拶を交わして、日課の早朝ジョギングを

開始する。



 一太郎「申訳ありません。つい昨夜は深酒をしてしまいまして」

 中小企業の経営者「深酒ですか。それも日頃の日本さんらしくないことですな」

 一太郎「はあ(と頭を掻くしかない)」

  (22)河原(時間経過)

  ジョギングを終えた一太郎が、中小企業の経営者と話をしている。

 経営者「日本さんの前ですが、われわれ零細企業にとっては、経営理念とか理論とか言っている余裕は

まるでありません、実際の所は」

  一太郎は、ただ黙って聞いている。

 経営者「野生の動物と一緒です。只々、本能的な、身体に備わった嗅覚みたいなものだけを頼りに、

毎日それこそ死に物狂いで、生き延びている。そんな感じです」

 一太郎「成程、そうですか(深く頷いている)」

  (23) 日本家・リビング

  出勤の身支度を終えた一太郎が、桜子の淹れたコーヒーを飲んでいる。

 美雪「お父さん、言って参ります」

  二階から下りて来た長女の美雪が声を掛けた。

 一太郎「うん、行っておいで」

  桜子も「毎日、ご苦労様」と、夫に続けた。玄関へ向かう娘の後ろ姿を見返りながら、

 一太郎「何だか少し、疲れているみたいだね、美雪」

 桜子「そうなんです。本人はそんなことはない、と言うのですけれど…」

 一太郎「社会人としてスタートしたばかりだから、何かと神経を使うのだろうね、きっと」

 桜子「そうでしょうね。所で――」

  桜子は少し言い難くそうに、しかし努めて明るい調子で切り出した。

 桜子「例の知合いの人がね、パートではなく、フルタイムで働かないかって、熱心に勧めて下さるの。

あなたには少し不自由をお掛けするんですけれど、私の実家から融通してもらったこの家のローンの頭

金、少しでも早く返して上げたいと思うの。両親もあの通り高齢だし」

 一太郎「(深々と頭を下げる)君にも苦労を掛けるね」

 桜子「そんな、気にしないで下さい。半分は私の我儘なのですから。世間に出て働くのって女性に

とっても、心の張りになるのですから」

  この時、二階からノソノソと次男の正次が、下りて来た。

 桜子「正ちゃん、急いで。学校に遅刻しますよ。あなたも、そろそろ出掛ける時間です(と、一太郎に

カバンを手渡す)」

 一太郎「有難う。健太は、相変わらずなのかい?」と、目で二階の方を示しながら訊く。

 桜子「少しずつ良い方向に向かっている感じなんですけれど…。健太も、私の仕事の件に賛成してくれ

ているのです」

  一太郎は小さく頷き、玄関に向かう。

  (24) J M C の事務室

  恒例の朝礼が行われている。

 課長「―― と言うわけで、皆さんのより一層の奮起と、更なる努力に期待したいと考えます。部長、

一言ございましたら、お願い致します」

 部長「今の課長の言葉に尽きているので、私から特別にどうのこうのと言う事はありません。唯、一部

社員に覇気の感じられない者が居て、全体に悪影響を及ぼしている、と思われるので十分に注意をして

貰いたい」と、一太郎に対して鋭い一瞥を与えた。気弱く視線を伏せて、聴いている一太郎である。


  (25) A社の社長室 

  秘書に案内されて一太郎が緊張の面持ちで入って来る。 ( 期間経過 ) お茶の差し替えに

戻って来た秘書に向かい、懇願するように言う。

 一太郎「先輩は、いや、その、社長さんは本当に会って下さると仰ったのでしょうか?」

 秘書「(無表情に、飽くまでもビジネスライクな口調で)お待たせ致して申訳も御座いません。もう

少々、お待ち下さいませ」

 一太郎「はい、分かりました。喜んで待たせて頂きます」

  ―― 時間経過

 先輩の社長「済まん、大分待たせてしまったようだな」

  別に急ぐ様子もなく、落ち着き払った様子で姿を現した社長。一太郎はほっとした表情で椅子から

立ち上がり、深々とお辞儀をして見迎えた。

 社長「で、君の用件と言うのは何だね?」

 一太郎「(ここぞとばかりに意気込んで)有難うございます。先日も、お電話で申し上げました様

に……」

 社長「何だ、その件か」

 一太郎「はい、実はその件で折り入って、先輩に、いや、その社長様に御相談を―」

 社長「分かった、帰れ!」

 一太郎「はあ……」

  何が何だか全く呑み込めないで、怪訝の塊の一太郎である。稍々あってから、

 社長「今日は帰れと言ったのだ」

  全く、取り付く島も無いのである。

  (26) B社・応接室(数日の期間経過あり)

 B社の専務「貴男の仰る事は、いちいち尤もな様な、気も、一応はするのですが、私にはもう一つ、と

言うか、何かこう、心の奥底にズンと来ない所がありまして―」

 一太郎「私共では様々なデータを駆使しまして、ええ、勿論諸外国の最新の事例なども取り入れました

完璧な資料を解析致し、ええ、その中にはアメリカ合衆国の著名な学者の学説なども取り入れて居ります

が、それらを参酌した上で、我が国独特の企業風土なども勘案した、パーフェクトな、万全極まりない

セオリーと自負致して居ります。どうか、手始めに弊社の月刊誌の御購読だけでも……」

 専務「成程、成程。貴男の仰る事は、繰り返し申し上げると、ご尤もと聞きました。唯、私としまして

は何かこうシックリと来ない、決定的な何か、ハートの、つまりは、琴線に触れて来るところの何物か

が、つまり、不足しているような気が、つまり、するのですな、要するに」

 一太郎「琴線に触れるもの、ですか……」

 専務「そうです、そうです、詰まりは、その通りなのです、まさにズバリとその通り」

 一太郎「……(絶句している)」

  (27) C 社・事務室の一隅(数日の時間経過がある)

  衝立で仕切られただけの応接コーナーに、向かい合って座る一太郎と、町工場の経営者が居る。

 経営者「経営というものは理念や理窟だけではどうにもならないものがあって、最後は懸って実践

だと、儂(わし)は思っているのだ。行動力や、実行する上でのパワーを授けると言うのなら、儂として

も少しくらい高い授業料を支払っても、よいと思うのじゃが」

 一太郎「ですから、ですから、ですね。何度も申し上げましたように、その行動・実践の為にも、

行動の指針をきちんと整えまして、行動に対する自信をより深めまして…」

 経営者「いやいや、やっぱり儂は逆だと考える。実践して、然る後にデーターを収集・整理する中か

ら、その、アイディアと言うか、色々な戦略が生れるので――」

 一太郎「はい、御説はご尤もで御座います(力なく頷いている)」

 経営者「(至極得意げに)そうでしょう。儂には立派な学歴こそないが、実体験から獲得した生きた

学問が、そう言うと少し語弊がありますがな、詰まりは自分なりの流儀があるのですよ。あんたの方に

その気がおありなら、いつでも格安でレクチャー、講義のことを英語でレクチャーで良かったですよ

ね……」

  唯々、拝聴するしか仕方のない一太郎である。

  (28) D 社の重役室(数日の時間経過)

  若手の重役に対して、熱心にセールストークを開陳している一太郎。汗だくである。

 重役「うん、うん。それで――」

 一太郎「ですから、先程も縷々申し述べました様にですね……」

  一太郎が何を言っても、「うん、うん、それで」を繰り返すのみ。何とも張り合いのない相手なので

ある。

 重役「あっ、君。ところでお子さんはいらっしゃいますか」

 一太郎「はい、お陰様で娘一人と、男の子が二人、三人の子供が居ります」

 重役「ほう、それはそれは。それで、ご家庭は円満に行っていますか。御夫婦仲は睦まじくて…」

 一太郎「はあ、お陰様をもちまして、一応は幸福に暮らしておりますが、その……」

 重役「色々と問題を抱えてもいる。そうです、どちらの家庭も傍目には倖せそうに見えても、中に

入ってみると様々な悩みが有るのが、常識というものでしょう。因みに、わが社が某調査機関に依頼した

データーを分析した結果でも、まことに興味深い事実が判明しているのですが、君は、それを知りたいと

は思いませんか――」

  一太郎は仕方なく、聞き役に廻らざるを得ないのである。

  (29) 街角(翌日)

  急ぎ足で歩く一太郎の肩を、ポンと叩いて呼び止める女性。

 女性「ちょっと、一寸、あんた…。えーと、名前、あんたの名前だけど、何て言ったっけ?」

 一太郎「(困って)あの、僕は先を急いでいますので」

 女性「間違いない。あんた絶対にあたしの師匠に弟子入りしたいって、無理難題を持ちかけて来た、

そうそう、思い出した、ひのもとなんたらさん」

 一太郎「(ハッキリと思い出した)あなたは付き人の…」

 女性「そうよ、やっぱりそうだった」

  (30) 小公園(数分後)

 女性「そうだったの。今は真面目にセールスの仕事に打ち込んでいるのだ」

 一太郎「ところで、あなたの方はどうなっているのですか。どう見ても有名タレントの御付さんには

見えないけれど」

 女性「私の方も色々とあったのよ。有為転変は世の常って言うけれども、先生、急に仕事の量が減って

しまって、お酒浸りの毎日。以前からあった借金も莫大なものに膨れあがって…」

  この時、自称ライバルの鬼田が向こうからブラブラと、やって来た。一太郎は慌てて顔を隠そうと

するが、気付かれてしまった。

 鬼田「おいおい、昼日中から仕事をサボって、気楽なご身分で御座いますね」と、隣りの女の顔を

一瞥する。

 女性「あらっ! こちら日本さんのお友達。素敵な方ね。私は元大物タレントの付き人で、現在はフ

リーターの橘 小鳩です。どうぞ宜しく――」

 鬼田「(最初から、相手に飲まれてしまい、辟易している)……」

  その隙を見て、コッソリとその場を逃げるように立ち去る一太郎である。





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最終更新日  2018年09月21日 10時04分51秒
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