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今日は、前回予告したガガンボの美麗種を紹介する。ホリカワクシヒゲガガンボ(Ctenophora bifascipennis)、ガガンボ科(Tipulidae)ガガンボ亜科(Tipulinae)Ctenophorini(クシヒゲガガンボ族?)に属す、翅長約15mmの中型ガガンボである。 隣家との境になっているブロック塀の表面を這い回っていた。目の高さよりも上に行きそうになったので、左の掌で前を遮ると、飛んで逃げることもなく大人しく進行を停止した。その後、撮影の最中に電池が切れたが、新しい電池に交換して戻ってきても、まだ同じ場所に留まっていた。中々律儀?なガガンボである。ブロック塀に留まるホリカワクシヒゲガガンボ(雌)翅の模様が特徴的な美麗種(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) 背景がブロック塀とは何とも味気がないが、こればかりは何とも致し方ない。もっと綺麗な背景の場所に移ってくれれば良いのだが、逃げられては元も子もない(後述)。何卒御勘弁頂きたい。 なお、上の写真は、拡大すると背景から虫体が浮き上がって見えるので、その様にして御覧頂ければ幸いである。横から見たホリカワクシヒゲガガンボ何故か左前肢を空中に持ち上げている(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) ソモソモ、私はガガンボ(カガンボ、ガガンポ)は苦手でよく知らない。しかし、このホリカワクシヒゲガガンボだけは、幸いなことに、以前、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に投稿があり、私も若干関与したので、それだと直ぐに分かった。 この種は手元の図鑑には載っていない。掲示板での投稿が無かったら、種名までは分からないところであった。もう少し近づいて・・・.尖ったお尻が印象的(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) この個体、名前は「櫛鬚」だが、下の写真の通り、触角は数珠状で櫛状ではない。これは、この個体が雌だからで、クシヒゲガガンボ類の雄は、名前の通り、櫛状の触角を持つ。数珠状の触角、頭の後側には毛が多い(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) 実は、昨年の8月末に、同種雄の残骸を庭で見つけた。この辺りでは見たこともない鮮やかな模様のガガンボだったので、かなり酷く破損した個体ではあったが、一応撮影して置いた。下の写真がそれである。チャンと櫛状の触角をしている。昨年の夏に見つけたホリカワクシヒゲガガンボ(雄)の残骸雄の触角は名前に違わず櫛状で大きい残骸なのでかなり褪色している(写真クリックで拡大表示)(2009/08/30) 前述の掲示板での投稿に回答されたのは、九大名誉教授の三枝先生である。先生の御話では、ホリカワクシヒゲガガンボは暖地に多い種で、市街地などにも時々現われるとのこと。また、クシヒゲガガンボ類の多くは朽木に穿孔してこれを食べるが、本種の雌は、腹の先にある細く尖った産卵器で腐葉土中に産卵し、幼虫は腐葉土を食べて生長するそうである。ホリカワクシヒゲガガンボの横顔小腮鬚が複雑に折り畳まれている(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) 先生は飼育についても書かれている。「メスを採集すれば飼育は簡単で,腐葉土を十分に湿らせたのを厚くいれた容器にメスを放せば盛んに産卵し,幼虫は腐葉土を摂食して成長します。幼虫はかなり大型なので,多数を飼育する場合は頻繁に腐葉土を入れてやる必要があります。桜などの葉を乾燥させたものを細かく砕いて腐葉土にまぶしてもいいでしょう。羽化は蛹が地上に上半身を出して脱皮します。なかなか美しいガガンボですので,メスを採集したら飼育を試みられたらと思います」とのこと。飼育の詳細は、「川瀬勝枝・三枝豊平,1984.ホリカワクシヒゲガガンボの飼育記録。まくなぎ,(12):31-34.」を参照すれば分かるらしい。モミジの葉上に移ったホリカワクシヒゲガガンボ残念ながら、葉の反射が一寸強過ぎた左に葉があるので少し斜めに撮影(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) 一通り写真を撮ってから、背景が余りに無粋なので、何処か葉の上にでも誘導出来ないかと思い、一寸チョッカイを出してみた。慌てて逃げることはなく、緩やかに飛んで彼方此方移動したが、小さな木の葉や枝などは留まり難いらしく、やがて重なったモミジの葉上に留まって動かなくなった。しかし、撮影してみると、葉からのストロボ光の反射が強過ぎる(上の写真)。 其処でもう一度チョッカイを出した。すると・・・、あらら摩訶不思議、ガガンボの姿が消えてしまった。こんなに大型でしかも緩やかに飛ぶ虫が突如見えなくなるとは何とも理解し難いが、兎にも角にも、居なくなってしまった。蛾などはポトリと落ちて突如眠りに入ることがあるので、下の方も探してみたが、やはり見付からない。 ・・・と云う訳で、綺麗な背景の写真は遂に撮れなかった。飼育の方も、親が居なければ諦めるしかない。
2010.05.31
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昨日、ギボウシの葉に大きな「バッタ」が留まっているのを見つけた。クビキリギス(Euconocephalus varius = E. thunbergi)の褐色型(緑色型は此方)、成虫である。クビキリギスと言えば、秋に成虫になる虫の筈だが・・・???。 そう云えば、クビキリギスは成虫で越冬する。一寸調べてみると、越冬成虫は7月位まで見られるとのこと。このクビキリギス、右の前肢が無いが、これは厳しい冬を乗り越えて来た名誉の負傷と云うところであろう。ギボウシの葉上にいたクビキリギスの越冬成虫.褐色型右の前肢が欠けている.名誉の負傷と言うべきか(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) 先日、「虫探検広場」の5月19日(2010年)の投稿記事に、9月に捕まえたオンブバッタを飼育したところ、まだ生きている、と云うのがあった。オンブバッタは卵越冬である。だから、成虫は初冬にはあの世へ行ってしまうのが本来なのだが、条件が良ければ随分と生き延びることが出来るらしい。クビキリギスは、本来オンブバッタよりも長生きの出来る成虫越冬である。条件が良ければもっともっと生き延びるのかも知れない。自然光で撮ったクビキリギス.翅の部分は少し暗い(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) クビキリギスはキリギリス科(Tettigoniidae)に属し、九州大学の日本産昆虫目録、東京都本土部昆虫目録、北隆館の大圖鑑などを見ると、クビキリギリスとなって居る(保育社の昆虫図鑑下巻ではクビキリギス)。冒頭で、「バッタ」と「」に入れたのは、バッタ(バッタ科)では無いからである(クビキリギスをバッタなどと呼ぶと三枝先生のお叱りを受ける)。しかし、私はどうもこの連中(直翅目)が好きではないので、皆引っくるめて「バッタ」と呼んでしまう傾向がある。同じく自然光で撮影.少しピーカンに過ぎた(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) 昨日は非常に天気が良かったし、被写体は大きいので、自然光でも撮影してみた。2番目と3番目がそれだが、自然光だけで虫を撮るのは、私としては極めて稀なことである。背面からのは、丁度撮影者(私)の陰になってしまうので、仕方なくストロボを使った。接写の方は、レンズが100mmだから、ストロボを使わなければ撮影出来ない。 自然光の方が緑色が自然に写る。しかし、頭部や胸背の陽の当たるところは白っぽくなっているのに対し、陽光にほぼ並行する翅の部分は暗くなり、光ムラを生じてしまった。こう云う時は、ストロボを銀レフ的に使って、横から少し光を足してやる必要があると言える。クビキリギスは口が赤いのが特徴(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) クビキリギスの大きな特徴は、上の写真の様に、「口が赤い」ことである。しかし、上の写真には赤い部分の他にも何やら色々とややこしい構造が見える。 以前から「バッタ」の口器はどうなっているのか少し気になっていた。其処で、北隆館の図鑑にバッタ(本当のバッタ)の頭部の模式図を参考に、これらの「ややこしい構造」が何かを調べてみた(バッタ科とキリギリス科で基本的な違いが無いと仮定)。 下の写真で、1:赤いのは大顎(大腮)、2:上唇、3:小顎(小腮)、4:??、5:小顎鬚(小腮鬚)、6:下唇鬚、となる(7は前肢の取れた傷口)。小顎鬚は非常に長く、クネクネと続いている。4はどうも良く分からない。位置的には下唇なのだが、これは写真では上から下へ延びる構造である。4の構造は逆に下から上に牙の様に飛び出している様に見える。下唇鬚は多分間違っていないと思う。この下唇鬚が下唇から分岐する所が見えれば下唇の位置が良く分かるのだが、丁度その部分が小腮鬚の影になって良く見えないのである。口器の各部を調べてみた.番号に付いては本文参照(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) 今日は、ガガンボの美麗種を見つけてしまった。ガガンボにもこんな美形が居るのか、と云う位綺麗な虫である。乞う御期待!!
2010.05.29
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1週間ほど前のことになるが、見慣れないハムシが庭に逗留していた。クロウリハムシよりも二回り位小さく、チョコマカと良く歩き回る。その上、かなり敏感なので、中々写真を撮る機会がない。 それでも、先日、何とか撮れた。しかし、出来映えは余り芳しくない。些か不本意な品質なのだが、もう何処かへ行ってしまったのか最近は見かけないし、我が家の庭ではハムシの記録が少ないので、敢えて掲載することにした。ヨツボシハムシ.体長は5mm強前胸背に1横溝が認められるチョコマカと良く歩き回る(写真クリックで拡大表示)(2010/05/22) 頭部胸部は赤褐色、鞘翅は白地に黒斑が4つと非常に特徴的なので、今回は検索表は用いずに、いきなり保育社の甲虫図鑑で絵合わせをしてみた。・・・ところが、どうした訳か見付からない。これは何としたことか。ヒョッとすると、最近我国に入って来た外来種? 結局、検索表を引くことになってしまった。概略を書くと、頭部は正常、口器は頭部の先端に位置する→触角の基部は相互に近く位置し、頭部の前半部に位置する→後肢腿節は一般に肥大しない、と云うことでヒゲナガハムシ亜科(Galerucinae)に落ちた。 しかし、ヒゲナガハムシ亜科は甲虫図鑑に77種(九大目録では95種)も載っているにも拘わらず、族や属への検索表はない。結局、また絵合わせに戻ることになる。前胸背板の前・後縁は縁取りを欠く中・後胸は黒色、腹部は黄褐色(写真クリックで拡大表示)(2010/05/22) 普通の図鑑の図版は標本を撮影したものである。標本は変色することが多い。これは図鑑の図版を見るときに注意しなければならないことの一つで、白は往々にして黄色になる。そこで、淡い色の違いは無視して、背中に4紋黒斑のあるハムシをヒゲナガハムシ亜科の中で探してみた。 直ぐにヨツボシハムシが見付かった。写真では白い鞘翅の地色が、図版では頭部胸部と余り違わない黄褐色になっている。しかも、頭部胸部が下側に曲がっているのか、相当な猪首である。見かけはかなり異なる。本当にヨツボシハムシであろうか。鞘翅は焦点を外れているが、まァ、ご愛敬と云うことで・・・(写真クリックで拡大表示)(2010/05/22) そこで画像を探してみた。ヨツボシハムシはかなり普通種らしく、写真は沢山あった。何れも今日の写真の虫とソックリである。しかし、Web上の情報は、以前掲載した「”ニセ”アシナガキンバエ」の様に、時として殆ど全部が誤っている場合もある。其処で、もう一度図鑑に戻って記載を読んでみた。「5.0-5.7mm.頭部・前胸腹面・腹部は黄褐色.中・後胸は黒色・個体によっては、上翅の黒紋は相接する.前胸背板は1横溝を有し、前・後縁は縁取りを欠く.(中略)中・後肢脛節末端に1小突起を有し(後略)」とある。前胸背板の1横溝は1番目や4番目の写真で明らかである。また、4番目の写真原画を拡大すると、脛節末端の小突起が辛うじて見える。 図鑑に載っていない種の可能性も論理的にはある。しかし、まァ、甲虫図鑑に載っていない様な珍種はこの辺りに居ないだろうから、ヨツボシハムシ(Paridea quadriplagiata)として問題ないであろう。原画を拡大すると中肢脛節末端に1小突起が見える前胸背に1横溝が認められる(写真クリックで拡大表示)(2010/05/22) 日本産ハムシ科(Chrysomelidae)には16亜科700種以上が棲息するが、これまでに紹介したのは、ヒゲナガハムシ亜科(ウリハムシ、クロウリハムシ、ウリハムシモドキ)、ノミハムシ亜科(ルリマルノミハムシ、テントウノミハムシの1種)、クビボソハムシ亜科(キバラルリクビボソハムシ、キベリクビボソハムシ、アカクビボソハムシ)に今日のヨツボシハムシを入れて、3亜科9種、全体の僅か1.3%に過ぎない。しかし、我が家のカミキリムシ科はもっと少ない。日本産約900種の内、これまで紹介したのはタケトラカミキリ、ルリカミキリ、キクスイカミキリの3種で、全体のたった0.3%!! ハムシもカミキリムシも植食性である。種類数が少ないのは、そのまま我が家の植物相が貧弱であることを示しているのだろう。今の家を売り払って、自然の豊かな田舎に引っ越せば、もっと色々な虫を紹介できるのだが・・・。
2010.05.26
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今日は3年前に撮った芋虫の写真を出すことにする。キバラモクメキリガ(Xylena formosa)の4齢幼虫である。 今まで何故掲載しなかったかと云うと、キチンと背側からも撮った写真も無いし、頭部の拡大写真もなく、また、全体の枚数も少ないので、もう一度我が家の庭に出現したら撮り直そうと思っていたからである。 しかし、その後3年待ったが、全く現れない。画像倉庫に寝かせておいても仕方ないし、写真を拡大してみると、この芋虫、結構綺麗、敢えて紹介することにした次第である。ホトトギスに居たキバラモクメキリガの4齢幼虫(写真クリックで拡大表示)(2007/04/19) 「みんなで作る日本産蛾類図鑑」に拠ると、食草はバラ科、マメ科、ケシ科、タデ科、キク科、ナス科、ラン科、ブナ科、モクレン科と、非常に広範囲に亘る。 我が家ではホトトギスに付いていたので、最初遠くから食痕を見つけた時にはルリタテハの幼虫かと思った。しかし、近くに寄ってみると、居るのは緑色の芋虫であった。 キバラモクメキリガはヤガ科(Noctuidae)ヨトウガ亜科(Hadeninae)に属す。ヨトウガと言えば農業害虫としてその名が知られているが、「キバラモクメキリガ 駆除」で検索しても有意なヒットは殆どない。この幼虫は、問題になる程の「悪者」ではないらしい。毛は少なく、透き通る様で、中々美形である(写真クリックで拡大表示)(2007/04/19) 4齢幼虫は、御覧の通り特に目立った斑紋もなく、肉眼的にはモンシロチョウの幼虫をもう少し太めにしたと云う感じで、何処にでも居そうな芋虫(モンシロの幼虫は拡大すると細かい毛が沢山見えて、この幼虫とはかなり雰囲気が違う)。写真の枚数が少ないのは、どうせ種類は調べても分からないだろうと思って、真面目に撮らなかったからである。 しかし、その後5齢に達した時、極めて特徴的な姿へと変わり、それで漸くキバラモクメであることが分かった。隣の葉に移ろうとするキバラモクメキリガの4齢幼虫(写真クリックで拡大表示)(2007/04/19) このWeblogでは、幼虫は原則として各齢ごとに掲載することにしている。今回は写真が少なかったので5齢と一緒にしようかとも思ったが、5齢の写真が多いので、やはり原則通り4齢は4齢だけで紹介することにした。些か物足りないが、何卒御容赦被下度候。
2010.05.24
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先の連休中のある日、中庭のスレートの上に妙な虫が居るのを見付けた。翅長25mm位はある大きなアミメカゲロウの様な虫で、翅に模様がある。ハタハタと頼りない飛び方をする。 留まったところを良く見ると、驚いたことに、トビケラである。トビケラの幼虫は例外なく水生、何でこんな水の無い住宅地のど真ん中に居るのか?? トビケラと云う虫は川の傍にしか居ないと思っていたのだが・・・。ヒゲナガカワトビケラ.水生昆虫が住宅地のド真ん中に出現!!(写真クリックで拡大表示)(2010/05/03) 少し前までは、トビケラに関して全く無知であった。しかし、今年もう一つのWeblogで初めてトビケラを2種紹介したので、少しは分かる様になった。 先ず、北隆館の新訂圖鑑にある検索表で科まで落とす。概略を記すと、小型種でない→単眼がある→小腮鬚は5節→小腮鬚の第5節は第4節に較べて2倍以上の長さで鞭状になる→触角は長く、大型種で、前翅にハッキリとした茶褐色の斑紋がある、と云うことでヒゲナガカワトビケラ科(Stenopsychidae)に落ちた。ヒゲナガカワトビケラの頭部.1~5は小腮鬚の節を示す「L」は下唇鬚だが、トビケラの分類には余り関係ない(写真クリックで拡大表示)(2010/05/03) 少し解説をすると、先ず、上の写真で、頭の上にまるで対空探照灯の様な大きな単眼が見える。単眼は3個あり、これは5番目の正面から見た写真の方がより良く分かる。小腮鬚は小顎鬚、小顎肢(最近よく使われるが、誤解を招く不適切な表現)とも呼ばれ、口器の一部である。これが、トビケラ類では非常に大きい。上の写真で番号を振ってあるのがそれで、全部で5節、第5節は第4節の数倍以上も長く、鞭状になっているのが分かる。 なお、虫の種類によっては、小腮鬚と紛らわしいものに下唇鬚がある。上の写真で「L」で示したのが下唇鬚である。尤も、これはトビケラの分類には余り関係しない。上の写真と同じ.前肢に距が3本ある(矢印)(写真クリックで拡大表示)(2010/05/03) さて次は、種へ落とせるか?である。九州大学の日本産昆虫目録に拠れば、ヒゲナガカワトビケラ科は6種、その内本州に産するのは5種、一方、東京都本土部昆虫目録を見ると、ヒガナガカワトビケラ只1種のみである。 北隆館の圖鑑には2種、他にチャバネヒゲナガカワトビケラが載ってる。まァ、この辺りに珍種が居る可能性も無いので、図鑑に載っている無印ヒゲナガカワトビケラか、このチャバネの何れかであろう。真上から見たヒゲナガカワトビケラ(写真クリックで拡大表示)(2010/05/03) 圖鑑の解説を読むと、決定的な違いは、脛節にある距の数である。また、少しややこしいことになるが、トビケラの分類では、距式と云うものを使って、脛節にある距の数を表す。もし仮に、前肢脛節には距が無く、中肢脛節では2本、後肢脛節では4本、であれば、距式は0-2-4と表される。圖鑑に拠れば、チャバネの距式は雄が0-4-4、雌が2-4-4、一方、無印ヒゲナガカワトビケラでは、雌雄共に3-4-4である。頭の上に航空探照灯の様な3個の単眼が見える(写真クリックで拡大表示)(2010/05/03) 写真のトビケラではどうか? 3番目の写真や此処に示していない写真から総合的に判断すると、前脚には3本,中脚には4本の距が認められる。後肢の距は良く見えないが、前肢、中肢で3-4だから、これは明らかにチャバネではない。無印ヒゲナガカワトビケラの解説を読むと、「産地から平地に広く分布し、全種[チャバネ]よりも分布も広く密度も高い」とある。圖鑑に載っていない珍種である可能性は、論理的には否定出来ないが、まァ、無印ヒゲナガカワトビケラ(Stenopsyche marmorata)として良いであろう。トビケラは毛翅目だが、この種では翅に毛が少ない(写真クリックで拡大表示)(2010/05/03) しかし、何故に水生昆虫のトビケラが我が家に現れたのか。私の住んでいる町は、東西を互いに約1km離れた2本の川に囲まれている。我が家はその中央よりやや東に位置するが、近い方の川でも400m位は離れており、また、何れの川も崖を下った所を流れている。其処から、自分で飛んで来たとは思えないし、また、風が強い日があった訳でもない。 圖鑑に拠ると、ヒゲナガカワトビケラは灯火によく飛来するそうである。川から明かりを求めて飛んでいる内に迷子になり、挙げ句の果てに、我が家の庭に現れたのであろうか。翅の付け根辺りには長い毛が多い(写真クリックで拡大表示)(2010/05/03) 今日、朝のコーヒーを飲む為にベランダの椅子に座ったら、ヒトスジシマカが数頭現れた。今年初見である。早速、横に置いてあるネットで掬い取って処分したが、兪々蚊の季節に入ったらしい。蚊、特にヒトスジシマカは大嫌いである(好きな御仁はまァ居ないだろうが・・・)。しかし、それでも寒いのよりは暖かい方がずっと宜しい。
2010.05.22
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もう5月も下旬に入ってしまった。連休中に撮影してまだ紹介していない虫が何種か有るので、時期遅れにならない様に急いで掲載することにしたい。 アカクビボソハムシ(Lema diversa)、ハムシ科(Chrysomelidae)クビボソハムシ亜科(Criocerinae)に属す、体長6mm程度(図鑑では5.5~6.2mm)の中型のハムシである。アカクビボソハムシ.体長は6mm程度「首」(前胸)は明確に括れる(写真クリックで拡大表示)(2010/05/02) このハムシ、今まで我が家で見たことがない。しかし、今年は4月からチョクチョク出没していた。かなり敏感なハムシで、何時も近づくだけで逃げられてしまい、中々写真が撮れない。今日の写真も、正面からの撮影したものを除いて、非常に不安定な姿勢で撮影したので、焦点が少しずれていたりするのだが、まァ、御勘弁願いたい。横から見たアカクビボソハムシ.少し後ピンだが御勘弁を(写真クリックで拡大表示)(2010/05/02) この様な「首」(前胸)が細く、全体的にも細長いハムシは、先ずネクイハムシ亜科かクビボソハムシ亜科に属すと思って良い(他亜科にも多少あるが・・・)。前者は後者よりも触角の基部が接近しており、触角は糸状で細長い。また、後者では前胸背板が中央部で明確に括れる。複眼の基部が隆起している(写真クリックで拡大表示)(2010/05/02) アカクビボソハムシは鞘翅斑紋の変異が極端なハムシで、真っ黒に近い個体から、黒斑を全く欠くものまである。Webを参照すると、カワリクビボソハムシと云う和名もある様だが、「カワリ」は「変わり」で、斑紋の変化が多いことから来ているのかも知れない。 しかし、頭部や胸部の色に変異はない。また、脚は全て黒色である。正面から見たアカクビボソハムシクビボソハムシらしい険悪な顔(写真クリックで拡大表示)(2010/04/25) 保育社の甲虫図鑑に拠れば、食草はツユクサとのこと。我が家にはツユクサが沢山生えているので、それを目当てにやって来た可能性が大である。 クビボソハムシ亜科の昆虫は、一部を除いて、単子葉植物を食草とする。以前紹介した、キバラルリクビボソハムシも寄主はツユクサであった。ツユクサを食草とするクビボソハムシには、他にも数種ある。何故、こうもツユクサに集中するのか些か不可思議ではある。オマケにもう1枚(写真クリックで拡大表示)(2010/05/02) 最近は漸く暖かくなって来た。植物もその成長速度を急に増した様に見える。庭を飛び交う虫の数もかなり増えてきた。やっと人の住む環境になったと、ご満悦の今日この頃である。
2010.05.21
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一昨日、ベランダの椅子で一服していると、何か覚束ない飛び方をする5mm位の黒い虫が目の前にやって来た。殆ど空中を漂っている、と云う感じである。何時もの癖でつい左手が出て、隣の人の財布・・・ではなく、虫を捕まえてしまった。 何と、コガネムシの1種であった。恐らくハナムグリの類であろうが、見たこともない小ささ!! 最近は新顔の虫がよく現れる。これは大変結構なことである。掌で捕まえたヒラタハナムグリ.体長5mm程度と小さい(写真クリックで拡大表示)(2010/05/16) さて、撮影を終わってデータをコムピュータに移そうとしたら、アリャ、知らない間に記録形式がjpg形式のBasic size(2896×1944)に変更されている。バッテリーを交換した時に何か妙なことが起こったのだろうか? 何時もはRaw形式(3872×2592)だから、画面の大きさが約1/2になってしまった。 ・・・と云う訳で、今日の写真が画質が良くないが(最大幅750ピクセル)、何卒御寛恕被下度候。小さくてもコガネムシはゴツゴツしていてカッコイイ鞘翅の上側は名前の通り真っ平ら(写真クリックで拡大表示)(2010/05/16) 保育社の甲虫図鑑で調べると、どうやらヒラタハナムグリ(Nipponovalgus angusticollis)らしい。コガネムシ科(Scarabaeidae)ヒラタハナムグリ亜科(Valginae)に属す。体長4~7mm、発生は4~8月、殆ど日本全土に分布するが、トカラ列島には別亜種を産するとのこと。 胸背、鞘翅、腹部の上側、或いは、写真の解像力が低くて良く見えないが、脚にも、爬虫類の様な鱗片がある。Raw形式で保存していれば、その部分だけ拡大出来たのだが、残念至極。正面から見ると平らなことが良く分かる一見眼の様に見えるのは触角(写真クリックで拡大表示)(2010/05/16) 名前の「ヒラタ」は、鞘翅の上側が平らなことから来ているらしい。写真を見ると、確かに「平ら」である。 図鑑の解説には、前胸背板の2縦隆条は前半のみ顕著でわずかに湾曲、と書いてある。背面と正面からの2枚の写真を頭の中で合成すると、あまり明瞭ではないが、それらしきものが認められる。 また、前脛節の外歯は5~7とある。下の写真では6本認められるから、この点でも問題ない。前脛節の外歯は6本認められる(写真クリックで拡大表示)(2010/05/16) このハナムグリ、所謂死んだ真似をする。実際はショックで気絶するのだそうだが、下はその最中の写真。ユスリカやチャタテムシ等は、手で捕まえた時に指に挟まれて潰れてしまうことが多いが、甲虫は頑丈な外骨格を持つからその程度は屁のカッパ、全く問題ない。だから死ぬことなど考えられない。 今日は残念ながら、真横から撮った写真がない。と云うのは、このハナムグリ、撮影中にいきなり飛んで逃げてしまったからである。普通のコガネムシやカブトムシは、先ずおもむろに?鞘翅を拡げてから、後翅を延ばして飛ぶ。しかし、ハナムグリ類は鞘翅を殆ど畳んだまま後翅を延ばして飛ぶことが出来る。だから、一瞬の内に逃げられてしまうのである。「死んだ真似」を演じているヒラタハナムグリ(写真クリックで拡大表示)(2010/05/16) これまで紹介した「庭を漂う微小な羽虫」には、今日のヒラタハナムグリの他にも、「ハネカクシの1種」、「デオケシキスイ亜科の1種」等、結構甲虫が多い。勿論、数の上から云えば、アブラムシの有翅虫やコナジラミ、ユスリカなどが多いのだが、これらは浮遊しているところを捕まえても種類が分かる可能性が殆ど無いので無視されているのである。 実は、前から知っていたのだが、野村周平他:「皇居における空中浮遊性甲虫の多様性と動態-2004年度地上FITによる調査」(2006)と云う論文がある。FITとは「Flight Intercept Trap」の略で、垂直に設置したシートの下に固定液のトレイを置いたものである。シートに衝突した虫が固定液に落ちて其処に溜まる仕掛けである。これの論文に拠ると、何と、総計63科、393種もの「空中浮遊性甲虫」が皇居で記録されている。 このWeblogで言うところの「浮遊」とは、普通の移動の為の飛翔ではなく、何らかの目的があってゆっくり飛んでいる、空中を漂っている状態を指している。この装置では「浮遊」ではなく「飛翔」している甲虫も捕まってしまう筈だから、此処で言う「庭を漂う微小な羽虫」には入らない種類が沢山入っていると思う。それにしても393種とは大変な数である。一番多いのはハネカクシ科で76種、次がゾウムシ科52種・・・、「庭を漂う微小な羽虫」シリーズをやっていれば、ネタ不足に陥る心配は無用かも知れない。
2010.05.18
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最近、見慣れない大きなハナアブがこの辺り(東京都世田谷区西部)に出没している。体長15mm位、黄褐色~灰褐色の長毛に被われた、かなり太ったハナアブである。大きな羽音を立てて飛び回り、敏感で容易に写真が撮れない。 町の奥の方には沢山居るのだが、これまで我が家の庭では見たことがなかった。それが、昨日、遂に出現した。妙なハナアブで、地面に興味があるらしい。最初は巣穴を探しているニッポンヒゲナガハナバチの雌と思った位である。スイセンハナアブの雄.地面に御執心(写真クリックで拡大表示)(2010/05/15) 残念ならが、2方向撮ったところで逃げられてしまい、正背面と正面からは撮れなかった。しかし、翅脈は良く見えるし、かなり特徴のあるハナアブなので種類は判別出来そうである。早速、市毛氏の「ハナアブ写真集」を参照してみた。 始めはハラブトハナアブの仲間かと思ったが、どうも違う。ハナアブ科では、CuA1脈は翅縁近くで曲がりdm-cu脈となって翅縁に沿って走る(下の写真)。ハラブトハナアブ類ではハッキリした角を持って曲がるのに対し、写真のハナアブでは円弧を描く様に滑らかに曲がっている。また、R4+5脈(下)の曲がり具合も一寸違う。どうやら、別のグループらしい。最初の写真に翅脈名を入れた(写真クリックで拡大表示)(2010/05/15) 更に探してみると、ナミハナアブ亜科(Milesiinae )マドヒラタアブ族(Eumerini)のスイセンハナアブが見付かった。全体の形ばかりでなく、翅脈相もよく似ている。手元の図鑑を調べてみると、北隆館の大圖鑑に載っていた。 解説には、「脚は黒色で後脚の腿節は肥厚し脛節内側中央付近は広く瘤状に膨れ、末端内側には長い角状突起があり、外側には板状の突起がある」とある。脛節末端は見えないし、その外側の出っ張りも角度の関係で板状であるか否か判断出来ないが、「内側中央付近で広く瘤状に膨れ」ているのは確認出来る。 また、学名で検索すると海外の綺麗な画像がゴマンと出て来る。圖鑑にも書かれている通り、胸背と腹部の被毛には変化が多いが、非常によく似た色合いのものもある。スイセンハナアブ(Merodon equestris)の雄として間違いないであろう。後脚脛節は中央付近で内側に膨れている(写真クリックで拡大表示)(2010/05/15) このスイセンハナアブ、名前の通り幼虫がスイセンやグラジオラス、アイリス、ユリ等の球根を傷害する(北隆館の圖鑑に拠る)。地面に興味があるらしく見えたのは、そのせいかも知れない。 外来昆虫で、何時頃渡来したのかは調べても分からなかったが、オランダから輸入した球根に付いていたと云われている。「外来種ハンドブック」を見ると、備考欄に「根絶」と書かれていた。・・・ちっとも根絶していないではないか!! 今年、このハナアブを彼方此方で見かけるのは、ヒョッとすると大発生の前兆ではないだろうか。読者諸氏の庭にも来ていないか、気になるところである。
2010.05.16
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今日は久しぶりに花を紹介する。赤花八重咲きのサンザシ、八重と云うのは本来私の趣味ではないが、シジミバナやこのサンザシの様な小さな花の場合は余り気にならない。赤花八重咲きのサンザシ.アカバナサンザシと云う品種らしい(写真クリックで拡大表示)(2010/05/03) 8年程前に園芸店から安く買って来て、鉢植えにしてある。変な盆栽崩れの株で、台木の直ぐ上には棘が生えているが、その上に棘のない種類が更に接いである。 サンザシはバラ科サンザシ(Crataegus)属に属す。講談社の園芸大百科事典を見ると、この属は北半球に1000種余りが分布するとある。しかし、保育社の図鑑には「北半球の温帯に200種」と書いてある。文献により酷い差!!、分類が混乱しているのだろう。花は小さく、直径1cmより少し大きい程度(写真クリックで拡大表示)(2010/05/02) それでは、我が家のこのサンザシは何と云う種なのだろうか。よく分からないが、先の大百科に拠ると、八重の赤花で棘がない園芸種は、メイフラワーとも呼ばれているセイヨウサンザシ(Crataegus oxyacantha)の変種で、アカバナサンザシと言うらしい。多分この辺だろう。私には、園芸品種の学名を調べる趣味はないから、これ以上は追求しないことにする。花を拡大.中央に雌蕊が1本見える(写真クリックで拡大表示)(2010/05/02) 八重だから、実は着かない。しかし、昔の我が家には白の一重のサンザシがあって、毎年赤い丸い実を沢山付けていた。見た目には中々風情があるが、食べても渋味があり美味しくない。しかし、支那ではこれを食用として珍重する(食用改良品種)。中国林業出版社の「中国果樹誌」シリーズには「山?巻」があり、142品種について詳細な解説がある。 支那のサンザシ加工品としては、実を潰して砂糖を加え乾燥させたもの(山?片、或いは、山?条)がよく知られている。何ともクドイ味だが、支那人はこう云う味が好きらしい。糖醋肉(酢豚)も、北京などで食べると、矢鱈に味がクドイ。蘇州明菜(有名料理)の松鼠魚も甘酸っぱい料理だが、もっとキョクタンに甘味が強く、日本人は閉口する。別の花.雌蕊は中央に2本?(写真クリックで拡大表示)(2010/05/03) 八重咲きと云うのは、雄蕊や雌蕊、特に雄蕊が花弁に変化したもの、と言われている。この八重のサンザシの花を拡大してみると、雄蕊は見えないが、雌蕊は多いものでは5本もある。図鑑の解説を読むと、サンザシ属は「心皮は1-5、合生するが、腹面と上部で離生する」とある。5本雌蕊があってもおかしくないことになる。5本の雌蕊があるが、1本は柱頭が隠れている(写真クリックで拡大表示)(2010/05/03) このところ天気はよいが気温は低い。水曜日の夜などは「木枯らし」が吹いていた。5月半ばと云うのに、今だに暖房を入れ、衣類も冬と殆ど変わりがない。もっと暖かくなって欲しいものである。
2010.05.15
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「楽天ブログ」のアクセス記録は極く簡単なものだが、もう一つのWeblogをやっているココログでは、実に様々なアクセス情報を得ることが出来る。例えば、閲覧者がどの様なキーワードで検索して来たかが分かるし、その統計も様々に表示出来る。 此処1週間、或いは、1ヶ月間で、昆虫の種名として最も頻度の高い検索ワードを調べてみると、何と、今日の主人公キクスイカミキリ(Phytoecia rufiventris)であった。今は、キクスイカミキリの季節なのである。キクスイカミキリ.体長9mmと小型(写真クリックで拡大表示)(2010/05/09) 体長は9mm(図鑑では6~9mm)のかなり小さいカミキリムシである。ほぼ毎年今頃、我が家の庭に出没するのだが、結構敏感な虫で直ぐ逃げるし、留まるのは葉っぱの裏側であったりして、今までチャンとした写真が撮れなかった。今回は産卵で疲労困憊していたのか、逃げもせず、充分に撮ることが出来た。横から見ると、腹部の先半分位は橙色(写真クリックで拡大表示)(2010/05/09) 上から見ると全体に黒っぽく、胸部背面や腿節(特に前肢)に赤い斑がある。図鑑に拠れば、これらの色彩には変化が多いとのこと。鞘翅は少し白っぽく見えるが、これは白い毛が密生している為で、下地は黒い。横から見ると、腹部の先半分位は、やや淡い橙色をしている。正面から見たキクスイカミキリ.触角第1節が太い(写真クリックで拡大表示)(2010/05/09) キクスイカミキリは、カミキリムシ科(Cerambycidae)フトカミキリ亜科(Lamiinae)トホシカミキリ族(Saperdini)に属す。このトホシカミキリ族は大きな族で、九州大学の日本産昆虫目録をみると70種もある。体長20mm以下(多くは10mm前後)の細めの小さなカミキリムシで、ハンノアオカミキリの様な緑色の金属光沢を持つ種も多いが、リンゴカミキリやこのキクスイカミキリに似た比較的地味な種類も多い。前の写真の部分拡大.カミキリムシらしく大顎が頑丈そう(写真クリックで拡大表示)(2010/05/09) 以前紹介した、やはり小型のルリカミキリは、族は異なるが亜科までは同じである。ルリカミキリでは複眼が上下に分かれていたので、このキクスイカミキリではどうだか見てみた。下の写真でお分かりの様に、触角の基部をグルリと取り巻いていてはいるが、分離はしていなかった。複眼は触角の根元をグルリと取り巻いている(写真クリックでピクセル等倍)(2010/05/10) 何故、このカミキリがほぼ毎年我が家の庭に現れるとと言うと、それは菊が植えてあるからである。キクスイカミキリは、菊の大害虫なのである。菊の園芸種(在来品種)や野草ではヨモギがよくやられているが、今回は「北米原産シオンの1種(紫花)」(通称友禅菊)に来ていた。害虫としてのキクスイカミキリは、また別に紹介しよう。
2010.05.13
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今日は、これまで卵からその発育過程を掲載してきたヨツモンホソチャタテの完結編として成虫を紹介する。体長は、今日は2個体あるので、2.7mmと2.8mm、翅端まで3.5mmと3.8mm、前翅長は2.7mmと2.8mm、複眼幅(左右の複眼の端から端まで)は0.64mmと0.66mmである。 ヨツモンホソチャタテ(Graphopsocus cruciatus)はホソチャタテ科(Stenopsocidae)に属す。この科には前翅長が5mm前後あるやや大きな種類が多いのだが、このヨツモンホソはそれらと較べると相当小さい。6齢から飼育して羽化させたヨツモンホソチャタテ「首」の所にお弁当ならぬ糞を付けている(写真クリックで拡大表示)(2010/04/24) 最初と最後の2枚の写真は、6齢から飼育して羽化させた個体である(他は、トベラの木で幼虫を探した時に見つけた個体)。他の5齢から飼育していた4頭も後日チャンと羽化したので、何れも本来の住処であるトベラの木に放してやった。 この辺り(東京都世田谷区西部)には、ヨツモンホソチャタテは居ることには居るが、その数は普段は決して多くはない。少なくとも我が家で見たことはこれまで一度もなかった。 それが何故か、今年の冬は例年よりずっと数が多い。もう一つのWeblogでフィールドの一つにしている「四丁目緑地」では、毎回5頭以上を見付けた。この辺りで全体的な数が増えたので、我が家の庭にも飛んで来たのだろう。トベラの木に居たヨツモンホソチャタテ最初に孵化した内の1頭であろう(写真クリックで拡大表示)(2010/04/20) さて、このチャタテムシをヨツモンホソチャタテとした根拠を書かねばならない。実際のところ、翅の模様を見れば一目瞭然なのだが、一応チャンと検索してみよう。 先ず、科の検索である。チャタテムシの検索表としては「富田&芳賀:日本産チャタテムシ目の目録と検索表」がある。珍しく日本語の文献だが、この論文中の科への検索表では生態写真からは良く分からない構造がキーとなることが多く、非常に使い難い。 それではどうするか。翅脈相を見るのである。これだけでかなりのことが分かる。北大農学部の吉澤準教授が書かれた「Morphology of Psocomorpha」には25科(日本産は16科)の翅脈図が載っている。吉澤准教授のHPにある最新(2004)のリスト「Checklist of Japanese Psocoptera」を見ると、日本産チャタテムシは全部で20科だが、無翅、或いは、翅の退化した種が多い科が4科あるので、16科と云うことは、日本産の有翅チャタテムシの全科を含んでいると考えて良いだろう。同一個体.ヨツモンホソチャタテ翅脈の説明付節は2節からなる様に見える(写真クリックで拡大表示)(2010/04/20) ホソチャタテ科の前翅翅脈相の特徴は、後小室とM脈、縁紋とRs脈がそれぞれ横脈で繋がっていることである(上の写真の「A」と「B」)。後小室とM脈の間に横脈を持つ科としては、他にスカシチャタテ科とケブカチャタテ科(一部のみ)があるが、これらの科には縁紋とRs脈を繋ぐ横脈は無い。 しかし、翅脈だけでは些か心配なので、「富田&芳賀」の科への検索表をホソチャタテ科から逆に遡ってみる。暫くは問題無く辿れるが、キー3で「爪の先端近くに歯を持たない」と云う写真からは判断出来ない特徴が出て来る。反対は「・・・歯を持つ」である。其処でこれを下へ降りてみると、該当するキーが無くなり迷子になってしまう。どうやら「・・・歯を持たない」で正しい様である。上位にあるキー2は「付節は2節」であり、これは写真から何とか判断出来る。 ・・・と云うことで、ホソチャタテ科で特に問題は無い様である。 さて、次はホソチャタテ科の種への検索である。「富田&芳賀」は1991年に書かれているが、その後チャタテムシの分類に大きな変更があり、吉澤準教授のリストを見ると、種数は「富田&芳賀」と同じだが、その種構成はかなり異なっている。「富田&芳賀」でホソチャタテ科に属していたホソヒゲチャタテ(Kodamaius brevicornis)とマダラヒゲナガチャタテ(Taeniostigma ingens)は、何故か種自体が吉澤教授のリストには見当たらない。しかし、「Psocodea Species File Online」と云うチャタテムシ専門のサイトを参照すると、何方もケブカチャタテ科に属している。この両種は縁紋-Rs間の横脈を欠くので、ホソチャタテ科から追い出されたらしい。 一方、吉澤準教授のリストでは、ホソチャタテ科に新たに2種が加わっている。しかし、何れも北方領土に分布する種で、この辺りに居る可能性はない。結局のところ、「富田&芳賀」のホソチャタテ科の検索表で、前述の2種を除いたキー3から始めればよいことになる。正面から見たヨツモンホソチャタテ(写真クリックで拡大表示)(2010/04/20) キー3は、「後小室と中脈[M脈]の横脈は短い.前翅には目立った斑紋がある.前翅長は約3.0mm」で直ちにヨツモンホソチャタテ(Graphopsocus cruciatus)に落ちてしまう。実は、この横脈が短いか否かに付いては後述の様に一寸問題があるのだが、反対のキーは「・・・前翅には縁紋を除いて目立った斑紋はない」だから、此方の可能性はない。 最後に確認の為、学名を使って写真を探してみる。幸いなことに、このヨツモンホソチャタテは北米にも産する(移入種)のでBugGuide.netに沢山の写真が見付かった。何れも「ソックリ」である。これでホソチャタテ科のヨツモンホソチャタテと決まり、目出度しメデタシと相成る。斜めから見たヨツモンホソチャタテ(写真クリックで拡大表示)(2010/04/20) 一寸検索表で気に掛かるのは、後小室と中脈[M脈]の横脈は短い、と云う記述である。3番目の写真では明らかに短いが、下の写真(矢印)では縁紋とRs脈間の横脈に近い長さがあり、短いとは言い難い。もう一つのWeblogで紹介した個体でもこの横脈はかなり長かった。 雌雄で違うのか、或いは、雌雄とは無関係に長さにかなりの変異が見られるのか。一介の素人には判断出来ないが、今考えてみると、羽化した個体を庭に放す前に全て翅脈を撮影すべきであった。今後、機会があれば調べてみよう。最初と同じ個体.後小室とM脈間の横脈は短くない(写真クリックで拡大表示)(2010/04/24) 今回で漸く成虫となり、これで「チャタテムシ幼虫の観察」も終わりである。読者諸氏の中には、余り代わりばえのしない幼虫写真が続いていい加減ウンザリされた方も居られるかも知れない。しかし、卵から成虫までの各段階を追った記録は、Web上には無い様なので、全体を纏めた記事を更に1本書こうと思っている。[追記]纏め記事は未だに書いていないが、以下に、卵から終齢幼虫(6齢)までの成長記録一覧を示しておく。 内 容 掲 載 日 撮 影 日 卵と初齢幼虫 2010/03/13 2010/02/25,03/12 2齢幼虫 2010/03/23 2010/03/22 3、4齢幼虫 2010/04/19 2010/04/10 5齢幼虫 2010/04/25 2010/04/18,20 6齢幼虫 2010/04/29 2010/04/20
2010.05.11
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連休中は毎日良い天気で、虫の方も色々と新顔が現れた。多くは直ぐに逃げられてしまい、思ったほど写真は沢山は撮れなかったが、まァ、数種は撮れた。 今日はその中から、毛むくじゃらのアブを紹介する。ミズアブ科(Stratiomyidae)Pachygasterinae亜科(和名なし)のKolomania albopilosa(和名なし)である。体長約5.5mm、翅端まで約7.0mm、翅長は約4.5mm、ミズアブとしてはやや小型と言える。ミズアブ科Pachygasterinae亜科のKolomania albopilosa(和名なし)毛むくじゃらで真っ黒だが腹部に白い毛帯がある(写真クリックで拡大表示)(2010/05/01) クリスマスローズの咲き終わった花(萼片)の中に居た。真っ黒で毛むくじゃら、撮影中は有弁類(イエバエ科、ニクバエ科、クロバエ科、ヤドリバエ科等)かと思っていたのだが、データをコムピュータに移して良く見てみると、ハエではない。 触角第3節が分節している。翅脈相もハエとは全く異なる。触角第3節が細かく分節している.複眼にも毛が一杯(ピクセル等倍、拡大不可)(2010/05/01) ハエやアブ等の短角類では触角は3節からなり、蚊やヌカカ、ケバエ等の糸角類では8節以上、と云うのが双翅目を見分ける時の基本である。しかし、ミズアブ科、アブ科、キアブ科、クサアブ科等では触角第3節が3~8節に分節して、3節よりも多く見える。 これらの触角が分節する科の中で、下の写真の様に、R脈基幹から分かれたRs脈が短く、中室(discal cell:下の写真では反対側の翅の脈が重なって分かり難いが、「Rs」と書いた下にある6角形の室)が小さいのがミズアブ科である。 また、ミズアブ科の多くでは、R1,R2+3、R4+5の各脈も短く、翅端よりはかなり手前で前縁脈に終わる。最初の写真に翅脈の名称を付け加えたRs脈は短く、他のR脈も短くて翅端よりもかなり手前で前縁脈に終わる(写真クリックで拡大表示)(2010/05/01) さて、ミズアブ科であることは分かったが、それ以上はお先真っ黒である。ミズアブ科と云えば、子供の頃「便所虻」と呼んでいたコウカアブや以前紹介したアメリカミズアブ、或いは、もっと綺麗なところでエゾホソルリミズアブ位しか知らない。何れも、細長い種類で、写真の様な腹の丸まったのは見たこともない。 其処で、ミズアブ科(Stratiomyidae)の写真を探していたところ、何時もお世話になっている双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に「ミズアブ科図鑑」と云うのがあることを知った。今までミズアブ科を調べたことがなかったので、気が付かなかったのである。横から見た図.全身、体の裏側まで毛だらけ付節の先端に3個の嚢状物がある(写真クリックで拡大表示)(2010/05/01) このページに拠ると日本産ミズアブ科は73種(九大目録では62種)で、その内の49種の標本写真が載せられている。日本産ミズアブ科全種の約2/3である。こんな有用な図鑑があるのを知らなかったとは、全く我が身の不明を恥じるばかりである。 その図鑑を辿って行くと・・・、あった。腹が丸くて白い毛帯を持つ種類が居た。Pachygasterinae亜科(和名なし)のKolomania albopilosa(和名なし)であった。 目録を調べると、Kolomania属には3種あり、その内本州に産するのはこのK. albopilosaだけだから、この種である可能性が高い。しかし、東京都本土部昆虫目録を見ると、記録がない。些か不安が残るので、「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に御伺いを立ててみた。前から見た図.しかしながら毛深い(写真クリックで拡大表示)(2010/05/01) 問い合わせには、東京都本土部昆虫目録で双翅目を担当されているケンセイ氏が対応して下さった。銀色の微毛が腹部に認められるので、Kolomania albopilosaの雄で宜しいとのこと。これで安心して掲載出来る。 氏に拠れば、仕事としての調査では都内で採集しているが、個人としては中々採れないとのこと。調査結果は調査を依頼した組織のものなので、採集しても受注側は記録として公表できず、結果として東京都本土部昆虫目録には載っていないのである(東京都本土部昆虫目録は、同人誌を含む文献に載った昆虫の目録なので、幾ら確実な採集記録があっても、文献として公表されない限り目録に載ることはない)。しかし、ケンセイ氏が個人として採集されていないと云うことは、これは結構珍しい種類と考えて良いであろう。我が家の様な、私鉄の駅から直線距離で200m、商店街から100mの住宅地に、珍しい種類が居たとは、一寸驚きである。Kolomaniaの生態写真はWeb上には無い様なのでもう一枚載せることにした(写真クリックで拡大表示)(2010/05/01) このKolomania albopilosaの生態は良く分からない。ミズアブ科幼虫の多くは腐ったものを餌とするが、双翅目の常として種々の環境に適応しており、この種の食性を特定する情報は全く得られなかった。
2010.05.07
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少し前のことになるが、3月中~下旬に何回か見慣れないハナアブが姿を現した。非常に敏感で何時も1m以内に近づくだけで逃げてしまう。飛んでいる時の腹部は黒っぽい感じで、遠目にはクロヒラタアブに一寸似ている。しかし、腹部が全体に細く、先端の方が元よりも膨らんでいる様な印象を受けた。 何回来ても一枚も撮れず残念に思っていたが、漸く最後に何とか写真が撮れた。但し、充分に撮る前に逃げられてしまったので、使える写真は3枚しかない。クロツヤヒラアシヒラタアブ.前肢の先が横に拡がっている体長9mm、翅端まで11mm、翅長は7.5mmである(写真クリックで拡大表示)(2010/03/31) 初見のハナアブなので、先ずハナアブの図鑑として最も役に立つ「札幌の昆虫」や市毛氏の「ハナアブ写真集」で調べてみる。すると・・・どうやらヒラアシヒラタアブの仲間(ヒラアシヒラタアブ属:Platycheirus)らしい。 しかし、「ヒラアシヒラタアブ」の「ヒラアシ」とは何だろう。「平足/平肢」なのだろうか? そう思って市毛氏の「ハナアブ写真集」を良く見てみると、種類によっては前肢の先が奇妙な具合に横に拡がっている(拡がらない種類もある。また、雄では顕著だが雌では不明瞭)。これが「ヒラアシ」と付いた理由であろう。 上の写真では、かなりボケているが、明らかに前肢の先端部は横に拡がっている。其処で、もう一度市毛氏の写真集に戻って調べてみたところ、その形はクロツヤヒラアシヒラタアブ(Platycheirus urakawensis)のものに一番近い。また、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に1件だけあるクロツヤヒラアシヒラタアブの記事を見ても、やはりよく似た前肢の形をしている。横から見たクロツヤヒラアシヒラタアブ腹部側方に3つの不明瞭な紋がある(写真クリックで拡大表示)(2010/03/31) しかし、この記事には「長野県では標高1,500m以上の高山帯に主に分布しているようです」とあり、高山性のハナアブであることが示唆されている。一方、東京都本土部昆虫目録を見ると、皇居での記録が載っているから、関東の平地にも居るらしい。 この記事は5年前に投稿されたものである。或いは、当時は分類がキチンとして居らず、その後2種に分かれた、等という可能性も無くはない。何となく不安なので、クロツヤヒラアシで宜しいか「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に御伺いを立ててみた。余り取り柄のない写真だが、2枚では寂しいので・・・(写真クリックで拡大表示)(2010/03/31) 今は春の黄金週間の真っ最中、ハナアブ屋の皆さんはフィールドに出撃中と思いきや、市毛氏から早速の御回答を賜った。「クロツヤヒラアシヒラタアブで合っていると思います.本種は,平地~亜高山まで広く分布しており,本属の中での最普通種だと思います」とのこと。これで安心して掲載することが出来る。 実は、このクロツヤヒラアシヒラタアブにはルリボシヒラアシヒラタアブ、クロツヤホシヒラタアブと全部で3つの和名がある。「札幌の昆虫」や東京都本土部昆虫目録を見るとクロツヤヒラアシヒラタアブとなっているが、市毛氏はその写真集でルリボシヒラアシの名を先に出してクロツヤホシをカッコに入れているし、最近改訂された北隆館の大圖鑑や九大目録ではクロツヤホシが使用されている。一介の素人としては、どの和名を使用すべきなのか良く分からない。 其処で、この点も双翅目の掲示板で問い合わせてみた。これも市毛氏が対応して下さった。「急いでハナアブ図鑑を調べたところ,クロツヤヒラアシヒラタアブ(改称)と書かれているので,これが最終的な和名です」とのこと(この「ハナアブ図鑑」とは、双翅目懇談会が会員用に作った図鑑のことで、普通の本屋では入手できない)。此処ではこれに従い、クロツヤヒラアシヒラタアブをPlatycheirus urakawensisの和名として使用した(まァ、和名など余り気にしないのだが・・・)。 なお、先日紹介したクロケコヒラタアブは、「ヒラタアブ」と付いてもナミハナアブ亜科に属し幼虫は樹液食であったが、このクロツヤヒラアシヒラタアブはヒラタアブ亜科(Syrphinae)ツヤヒラタアブ族(Melanostomatini)所属で、普通のヒラタアブ類と同じく幼虫はアブラムシ等を捕食する。
2010.05.02
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