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ロック界の大御所が集った奇跡のユニット 1987年、アルバム『クラウド・ナイン(Cloud Nine)』のリリースで久々の復活を果たした元ビートルズのジョージ・ハリスンが、シングルカット曲のB面録音のために何名かのミュージシャン仲間を集めた。彼らは意気投合・団結し、翌年にレコーディングを開始し、新たなプロジェクトが展開されていく。そのメンバーとは、G・ハリスンに加え、上のアルバムでジョージと共同プロデュースを行ったELOのジェフ・リン、さらには、ロイ・オービソン、ボブ・ディラン、トム・ペティという、意図してもそう簡単には集まらないような面々だった。 グループ名はトラベリング・ウィルベリーズ(Traveling Wilburys)。この名義でのアルバム発表に際して、彼らは各レコード会社との契約上の問題から、「正体不明の覆面バンド」として活動し、誰が見ても正体はばればれだったわけだけれど、公式には実名を明かさずにアルバムをリリースすることになる。 大物ミュージシャンが集まってレコーディングを行うとどんな大作ができるものかと思うかもしれないが、実は、それだけでは、名盤が生まれる保証はどこにもない。それどころか、一流ミュージシャンのプライドや個々のスタイルが衝突しあって、失敗に終わる確立の方が高い。トラベリング・ウィルベリーズの魅力は、それがエゴの衝突する失敗作とはならず、見事に調和した良質な音楽に昇華したという点にある。 『ヴォリューム・ワン(Volume One)』は1988年に発売され、筆者はファーストシングル「Handle With Care(ハンドル・ウィズ・ケア)」のリリースもリアルタイムで体験できた。当初から、「良質な」という形容がいちばん適切だと思った。当時のG・ハリスンのヒット曲「I Got My Mind Set On You(セット・オン・ユー)」や「Devil's Radio(デヴィルズ・レイディオ)」のようにノリノリでもなく、だからと言って聴き手をまったく退屈させないカントリーロック的なサウンドに上のような形容がぴったりだ。 その後、残念なことに、メンバーの一人だったロイ・オービソンが亡くなった。しかし、残るメンバーは彼の死を乗り越えてセカンドアルバムに取り掛かろうとする。しかし、このセカンドに参加予定のデル・シャノンが今度は自殺。セカンドアルバムは幻に終わる(この際のお蔵入りになった音源が存在するとされるが未発表である)。 それでもなお、残ったメンバーは『ヴォリューム3(Volume 3)』を完成させ、1990年にリリースした。紆余曲折の末の「出涸らし」かと思いきや、これがなんと『ヴォリューム・ワン』に比する出来ばえで驚いた。その出来ばえのよさは、もちろんロイ・オービソンの不在によるものではない。むしろ彼の不在が、メンバーを結束させ、よりいっそうの充実をもたらし、見事にまとまったアルバムを作らせたといえる。 「三人寄れば文殊の知恵」というが、5人が集まってこの一体感は素晴らしい。ロイがいなくなって4人になった後もその流れはきっちりと保たれた。気がつくとジョージ・ハリスンももはや故人。このスーパーグループはこのタイミングでしか生まれなかった。それは奇跡に等しかった。天才や奇才が同時に存在することはよくある。けれどもそうした天才・奇才が力を結集して一つのものを創造することはそう簡単には起こらない。人生で、そうした瞬間に立ち会い、その作品に触れることができただけでも、貴重な体験だと言えるのかもしれない。 なお、これら2作は長らく廃盤で入手困難が続いていたが、2007年にリマスター版が再発された。手に入れやすくなった今、実際に聴いてみるいい機会だと思う。[収録曲](『ヴォリューム・ワン』)1. Handle With Care ←おすすめ!2. Dirty World3. Rattled4. Last Night ←おすすめ!5. Not Alone Any More ←おすすめ!6. Congratulations7. Heading For The Light8. Margarita9. Tweeter And The Monkey Man10. End Of The Line11. Maxine*12. Like A Ship* *印はリマスター時のボーナス・トラック1988年リリース。(『ヴォリューム3』)1. She's My Baby ←おすすめ!2. Inside Out 3. If You Belonged To Me4. The Devil's Been Busy5. 7 Deadly Sins6. Poor House ←おすすめ!7. Where Were You Last Night?8. Cool Dry Place9. New Blue Moon10. You Took My Breath Away11. Wilbury Twist ←おすすめ!12. Nobody's Child*13. Runaway* *印はリマスター時のボーナス・トラック1990年リリース。
2009年07月25日
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陰の立役者は「正真正銘の天才」だった リトル・スティーヴン、またの名をスティーヴ・ヴァン・ザント。単独では知名度は決して高くないかもしれない。経歴をいくつか挙げると、サウスサイド・ジョニー&ジ・アズベリー・ジュークスの創設メンバー、ブルース・スプリングスティーンのバンド(E・ストリート・バンド)のメンバー、反アパルトヘイトソング「SUN CITY」の呼びかけ人。 ソロとしては、1982年の『メン・ウィズアウト・ウィメン』(リトル・スティーヴン&ザ・ディサイプルズ・オブ・ソウル名義)を皮切りに、E・ストリート・バンドを脱退(後に復帰)してから、1984年以降、さらに何枚かのアルバムをリリースしている。 その中で、今回取り上げるのは、3枚目に当たる『フリーダム ―ノー・コンプロマイズ(Freedom-No Compromise)』(1987年)だ。曲目からも見てとられるように、歌詞の内容は政治的メッセージが強い。そのことの賛否両論はあるだろうが、ここではいったんメッセージ性は脇に置いて、音楽性そのものに注目したい。 気持ちよくロックしている。アレンジがよい。ヴォーカルには彼にしかない個性がある。本来はギタリストなので、ギタープレイも見事。本作のいいところを挙げ始めるときりがない。敢えて難を言えば、打ち込みが80年代っぽくて耳に障るところぐらい。別に一人で全部吹き込んだわけではないが、実際にアルバムを通して聴いていると、何もかもスティーヴの責任の上で、彼の頭の中にあるイメージ通りに仕上げられたアルバムなのだろうと想像する。 頭の中にある音をズバリ表現することの難しさは、ジミ・ヘンドリックス(ギター)やマイルス・ディヴィス(トランペット)の試行錯誤からもよくわかることだ。いや、音楽を演奏するという行為そのものが、どんなジャンル、どんな楽器であっても、「頭の中の音を実際の音にすること」と同義なのかもしれない。そう考えると、スティーヴは天才なのだろう。 よく考えれば、スティーヴが天才なのは、彼のキャリアからも証明される。サウスサイド・ジョニー&ジ・アズベリー・ジュークス(余談ながら、ジョン・ボン・ジョビのアイドルで、ビデオで見た共演ライブの様子は実に嬉しそうだった)のベストに数えられるいくつかの楽曲は、スティーヴの作で、なおかつこのバンドのアレンジも務めていた。ブルース・スプリングスティーンの曲にもスティーヴが単なるバンドメンバーではない(例えばツイン・ヴォーカル)スタイルの曲がライヴのここぞという場面で登場し、盛り上がりどころとなる。「縁の下の力持ち」が実は天才で、たまに露出するのだが、サウスサイドやスプリングスティーンだけを見ていると、何だか当り前で見逃してしまう。 さらに、スティーヴに別の才能があることを知ったのは、10年ほど前のこと。米ドラマ「ソプラノズ」の出演で、役者としての才能まで発揮してしまった。 話がアルバムからどんどん逸れてしまったが、お許しを。そんなスティーヴも今や58歳。だけど、政治的メッセージを音楽に乗せて発し続けた頃と変わらず、攻撃的だ。最近では「最近のロック音楽はほとんどが二流クラス」と発言し、ライブをやらない若い世代のミュージシャンを批判したと言う。もうろくした年寄りのたわ言ではない。ここまでの天才ぶりを、天才であることをひけらかすことなく発揮してきた人物が言うからこそ、先の見えにくい音楽シーンへの警鐘だと思えるのだ。『ウィー・アー・ザ・ワールド』に浮かれていた頃、1人称複数の「私たち」ではなく、1人称単数形で「俺はサン・シティでは演奏しない」(「SUN CITY」の詞より)と主張したときと同じように、スティーヴは真剣なのだろうと感じる。[収録曲]1. Freedom 2. Trail of Broken Treaties ←おすすめ!3. Pretoria4. Bitter Fruit5. No More Party's6. Can't You Feel the Fire7. Native American8. Sanctuary ←おすすめ!
2009年07月25日
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「ロックンロールの未来」は既にこの時点で見えていた! 「僕はロックンロールの未来を見た」。この台詞は音楽評論家だったジョン・ランドウがブルース・スプリングスティーンを形容したものだ。そのランドウがプロデュースに加わった1975年のアルバム『明日なき暴走(Born To Run)』で、スプリングスティーンは一気にブレークし、その地位を不動のものにする。この『明日なき暴走』のキャッチコピーとして広まったのが、上の台詞である。 ここで紹介するのはその一つまえ、1973年に発表された2ndアルバムだ。原題は『The Wild, The Innocent & The E Street Shuffle』。ファーストアルバム(『アズベリー・パークからの挨拶』)がリリースされた時には、スプリングスティーンを「第二のボブ・ディラン」として売り出そうという意図があったため、ある種、無理にフォークロック的サウンドに色づけられた部分があった。それに対して、『青春の叫び』では、デビューまもないスプリングスティーンがやりたかったことをもう少し具体的な形にできた。 とはいえ、この作品は全くもって売れなかった。それどころか、本作は今もスプリングスティーンの代表作とは捉えられていない。「ロックンロールの未来」という台詞だけが一人歩きし、セールスを記録した『明日なき暴走』こそがスプリングスティーンのロッカーとしての出発点のようなイメージが流布ている。けれど、この作品を聴けば、決してそうではないことがわかるだろう。後の『闇に吠える街』や『ザ・リヴァー』へと続いていく、叙情溢れるストーリー性と活気に満ちたバンドサウンドの形は、この『青春の叫び』ではっきりとした形を見せるに至っている。 その意味において、「ロックンロールの未来」は既にこの時点ではっきりと見えていた。あとはそれを売り出せる環境さえあれば、ブレークは必然だったのだ。 おそらく、スプリングスティーンの過去作を聴こうという人がこの作品を最初に手に取る可能性は低い。私自身もそのような人に会ったら、きっと『ザ・リヴァー』か『明日なき暴走』あたりを勧めるだろう。でもその次の段階でこのアルバムを逃がすのは惜しい。そんなわけで、スプリングスティーンを気に入ったら2枚目か3枚目には必聴の作品だと言える。[収録曲]1. The E Street Shuffle2. 4th of July, Asbury Park (Sandy) ←おすすめ!3. Kitty's Back4. Wild Billy's Circus Story5. Incident on 57th Street ←おすすめ!6. Rosalita (Come Out Tonight) ←おすすめ!7. New York City Serenade ←おすすめ!*結局のところ、自分でも何回聴いたかわからないほど聴いた「LP時代のB面」がおすすめ。1973年リリース。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】青春の叫び [ ブルース・スプリングスティーン ]
2009年07月24日
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哀しみと希望を感じ取るための1枚 1984年発表のレナード・コーエン(Leonard Cohen)のアルバム。それにしても、邦訳タイトルがダサすぎる(注:本作収録曲1の「Dance Me To The End Of Love」に由来する)。アルバム名の原題は『Various Positions』。確かにどう訳せばよいか頭を悩ませるようなタイトルだけれど、いくらなんでも『哀しみのダンス』は、大詩人でもあるコーエンに失礼というものだろう。 そういえば、私が最初に聴いたコーエンのアルバム『Songs From A Room』(1969年)も、邦訳タイトルがひどかった。当初、『現代の吟遊詩人レナード・コーエン』の邦題が付けられていた。そのものずばりをアルバムタイトルの邦訳にするとは何たるセンスのなさ。さすがにひどいと思ったのか、こちらの方はいつのまにか『ひとり、部屋に歌う』という邦題に変更されている。近頃の何でもかんでもカタカナ表記という訳し方もどうかと思うが、センスのない邦題もなんとかしてほしい。 さて、筆者はコーエンのアルバムをすべて聴いたわけではないし、正直、どれが最良かわからない。上述の『Songs From A Room(ひとり、部屋に歌う)』も素晴らしいし、他にも優れたアルバムがあって甲乙つけ難い。とりあえず何か1作を紹介しようということで思いついたのが、この『哀しみのダンス』だ。 昔、どこかで読んだか聞いたのだが、悲しい時や落ち込んだ時には、思いっきり暗い音楽を聴いたり、この上なく悲愴な書物を読んだりして、どん底の気分から抜け出すことができるらしい。レナード・コーエンのアルバムは、基本的にどれを聴いても暗い。暗いからこそ、落ち込んだり、気分がめいった時に、一人静かに彼の音楽に耳を傾ける。曲調だけでもいいが、詞がわかるとなおよい。なんといっても、コーエンは歌手であると同時に、詩人なのだから。 このような聴き方を作者であるコーエン自身が希望するかどうかはわからない。けれども、ある意味、小説などの書物や絵画などの芸術作品と同様、音楽作品も、やがて作者の手を離れていくもので、その読者や鑑賞者がある意味、自己勝手に解釈するものである。収録曲1「Dance Me To The End Of Love」の悲愴感から、5「Hallelujah」を経て、9「If It Be Your Will」に至る暗く、淡々とした語りの中には、人生への「希望」も見え隠れする。[収録曲]1. Dance Me To The End Of Love2. Coming Back To You3. The Law4. Night Comes On5. Hallelujah6. The Captain7. Hunter's Lullaby 8. Heart With No Companion9. If It Be Your Will1984年リリース 【メール便送料無料】レナード・コーエンLeonard Cohen / Various Positions (輸入盤CD)(レナード・コーエン)
2009年07月24日
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創作意欲旺盛な時期の、しかもお得なアルバム キンクスと言えば「ユーリアリー・ガット・ミー」。その(少なくとも日本では)一般化されたイメージには、個人的に違和感がある。「ユー・リアリー・~」は確かに名曲・名演だけれども、それがキンクスのすべてという風潮(というか日本での売り出し方&定着した評価)には疑問を差し挟まざるを得ない。 1968年の『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』のあたりから、よくわからないコンセプト・アルバム群の世界に入り込んだキンクス…。彼らは70年代を通してそうしたアルバム群の制作に没頭することになる。マニア(とか言って私もそこに足を踏み入れているのかもしれないけれど)は、この時期のキンクスを高く評価すれども、売り上げはいまいち…。でもこれって、もしかしてレコード会社のプロモーションや雑誌等の媒体のやり方次第では、もっと違った結果があり得たのでは?なんて思ってしまう。初期キンクスのイメージから脱却できない日本での売り出し方、それがキンクスのコンセプト・アルバム群の評価を決して高いものにしないことにつながったのではないか。いやはや、今からでも遅くはない。キンクスを新しく聴こうという人たちには60年代末から70年代の名作群をもっと積極的に進めようじゃないか! 前置きが長くなり過ぎてしまったが、『この世はすべてショー・ビジネス(EVERYBODY'S IN SHOW-BIZ)』である。本作は、1972年発表の、レコードでは2枚組だったアルバムだ。現行のCDでは1枚にまとめられている。「セルロイドの英雄」という編集版向けにも有名な曲が含まれているので、タイトルを聞いたことがある人は意外に多いかもしれない。確かに、「セルロイド~」も名曲なのだが、他に聴きどころがないわけではない。というかまったくその逆で、メリハリの利いたビートの曲と哀愁漂うナンバーがほどよく配置され、全体を通したストーリーとして聴くけば、まさしく名盤の名にふさわしいのである。よく言われることだが、ノリのいい曲にもどこか哀愁が漂うのは、イギリス的キャラのなせる業か。 さらに、このアルバムを「お得」と表現した理由がある。それは、LPで2枚目にあたる部分(CDでは11曲目以降)だ。こちらは、ニューヨークはカーネギー・ホールでのライヴ録音になっている。この部分は少し前のアルバムの曲中心。つまり、キンクスが「(セールス)低迷期」=「(マニア的には)最盛期」の楽曲がライヴで再現されている。そんなわけで「お得」なのである。これを聴いて「マスウェル・ヒルビリー」が気に入れば、『マスウェル・ヒルビリーズ』に手を伸ばすのもよし。「ローラ」(ボーナス・トラックを除けば最後の曲)を気に入れば、『ローラ対パワーマン,マネーゴーラウンド組第1回戦』に発展していくのもよし。「ブレイン・ウォッシュド」や「マリーナ王女の帽子のような(She Bought A Hat Like Princess Marina)」(ボーナス・トラック)がよければ、『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』に進むとよい。そんなわけで、手始めに聴くには、お得で、そしてリスナーにとって発展性のあるアルバムだと思う。 「ユー・リアリー・~」のイメージだけで、キンクスを聞き流していた人は(私もかつてそうでした!)、早目に名作群の1枚(いや、できれば数枚)でも聴いていただきたい、その意味で、『アーサー~』も、『ヴィッレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』も、『ローラ~』も、少し後の『ソープ・オペラ(石鹸歌劇)』もいいのだけれど、「お得な」本作から入ってみるのもいいんじゃないかと思う。[収録曲]1. Here Comes Yet Another Day2. Maximum Consumption3. Unreal Reality4. Hot Potatoes5. Sitting In My Hotel6. Motorway7. You Don't Know My Name8. Supersonic Rocket Ship9. Look A Little On The Sunny Side10. Celluloid Heroes~以下、LP2枚目(ライブ)~11. Top Of The Pops12. Brainwashed13. Mr. Wonderful 14. Acute Schizophrenia Paranoia Blues15. Holiday16. Muswell Hillbilly 17. Alcohol18. Banana Boat Song (Trad.)19. Skin And Bone20. Baby Face21. Lola22. Till The End Of The Day [bonus track]23. She Bought A Hat Like Princess Marina [bonus track]1972年リリース。 [CD]KINKS キンクス/EVERYBODY’S IN SHOWBIZ【輸入盤】
2009年07月24日
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80年代のクラシック、極上のポップ・アルバム もう四半世紀も前のこと。シンディ・ローパーが米音楽シーンに登場した時、あの派手ないでたちを見て「ゲテモノ」と思った人も多かったことだろう。「ハイスクールはダンステリア (Girls Just Want to Have Fun)」、「グーニーズはグッド・イナフ」などのあのイメージだ。しかもブレークした時には既に三十路(失礼!)。ピチピチギャル(死語?)が網タイツはいて元気に踊っているというわけでもなかったし…。 さて、シンディの1983年のデビューアルバム『She’s So Unusual(シーズ・ソー・アンユージュアル)』からは、上述の「ハイスクールはダンステリア」のほか、「シー・バップ」、「マネー・チェンジズ・エブリシング」などヒット曲が連発された。しかし、最初に全米No. 1となったシングルが「タイム・アフター・タイム」だったことを忘れてはならない。ポップなノリのよさや、奇抜なファッション性、あの特異なキャラだけでは済まされない、情感たっぷりの極上バラードを歌っていたわけだ。彼女はメジャーデビューの時点で既にこれだけの名作を生み出す素養もしくは歌唱力を、実は十分備えていたのである。 そうした中、1986年に発表されたセカンド・アルバムがこの『トゥルー・カラーズ』であった。手持ちの発売当時のCDの帯には「"トゥルー"に生きるすべての人を、シンディは応援します!」などという、臭いセリフが書かれている。けれど、この売り込み方は(当時は仕方なかったのだろうけれど)、今から見れば大間違いだった。20年以上経った今あらためて聴くと、このアルバムはこんな軽い表現では済まされないくらいの輝きがある。今から帯の文句を変えられるものなら、「これぞ80年代最高のスタンダード!」と書き直したいぐらいだ。 ともあれ、当時はシンディ人気絶頂の真っただ中。女性ヴォーカリストとしてはマドンナとその人気を二分するほどだった。私の身の周りでは、「シンディかマドンナか」という選択肢が、まるで「ユーミン派と中島みゆき派」のごとく存在していた。そんな絶頂の最中、当然のようにこのアルバムからは、表題曲「トゥルー・カラーズ」や「チェンジ・オブ・ハート」といったシングルが大ヒットした。 けれども、アルバム全体や上記のような大ヒットに至らなかった曲にも目を向けて欲しい。本作はまだまだ奥深いのだ。例えば、マーヴィン・ゲイで知られる名曲「ホワッツ・ゴーイン・オン」、ニューオリンズの音楽シーンで繰り返しカバーされてきた「アイコ・アイコ」といった名曲もあり、シンディはそれらを見事に歌いこなしている。単なる誰かのコピーではなく、自分の世界を豊かなヴォーカル力で表現しているところがすごい。シンディのヴォーカルを「七色の声」と評すことがあるが、本作はその評価に見事に合致している。 そのようなわけで、『トゥルー・カラーズ』には、単なる80年代の流行りものという評価では済まされない何かがある。ポップ/ロックなノリからバラード、古典的名曲まで幅広く歌い上げた名盤。いまや定番の「極上のポップアルバム」と言っていいと思う。[収録曲]1. Change Of Heart2. Maybe He'll Know3. Boy Blue4. True Colors5. Calm Inside The Storm6. What's Goin' On7. Iko Iko8. The Faraway Nearby9. 91110. One Track Mind1986年リリース
2009年07月23日
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問題児の天才ギタリストがバンドとマッチした秀作 天才ギタリストとバンドの整合性は難しく、重要な問題だと思う。いいメンバーに出会わないと、なかなかいい作品が生まれないこともある。ちょっと思い浮かべるだけでも、いろんなギタリストがいろんなミュージシャンとコラボレートしながら、キャリアを歩んできたことが思いだされる。エリック・クラプトンしかり、ジェフ・ベックしかり、リッチー・ブラックモアしかり…。それぞれの歩みには、当然、成功もあれば失敗もある。 そんなギタリストたちの中でも、イングヴェイ・J・マルムスティーンはバンドメンバーにあまり恵まれてこなかった方だろう。イングヴェイは言わずと知れた早弾きのギターヒーローで、80年代以降のギター少年にとっては神様のような存在である。しかし、どうやら彼の「神様」ぶりはギター少年の間だけにはとどまっていないらしい。実際の音楽活動というか、人生においても「神様」らしき振る舞いが目立つ。バンドメンバーは一定しないし、好き放題の発言(暴言?)も多いらしい。「たかがドラマー」とか「(辞めたバンドメンバーを指して)死んだ魚」とか、「(バンド内で)俺は“絶対的存在”」などの発言が伝えられるが、これらはその一端にすぎない。そもそも、自分の先祖が爵位(伯爵)を得た1622年をモチーフに曲(『MAGNUS OPUS』収録の「Overture 1622」)を作るなんて、見方によっては、頭がどうかしているとしか思えない。 とまあ、こんな部分でよく扱き下ろされるイングヴェイだが、筆者は彼のプレイそのものには最大限の敬意を払いたい。無論、ただ「速弾きが偉い」などと言うわけではなくて、ふだんへヴィなロックを聴かない人にも通用する意味においてである。速いことだけが素晴らしいのではなく、その中にメロディアスで美しい要素がふんだんに込められているからこそ、そう思うのであって、この点は声を大にして言いたい。クラシックをベースにしたメロディアスでかつ速いギタープレイはやはり唯一無二の天才にしかなせない業だ。 ということは、バンド内の他のパートとの調和がうまく表現されれば、名作が生まれるのは至極当然のことである。その意味で、1988年にリリースされた本作『オディッセイ』は、イングヴェイの歴代アルバムの中で断然ナンバーワンの秀作である。 結局、このメンバーが永続するわけではなく、相変わらずイングヴェイはメンバーをころころと替えていくわけだけれど、ジョー・リン・ターナーというヴォーカリストの参加が、このアルバムを傑作にする上で重要な役割を果たしたことは間違いない。歌が優れていることで、ヴォーカルを聴きながら入っていくこともできるので、ギタリスト中心のロックに抵抗感のある人もとっつきやすい。無論、天才イングヴェイのギターは冴えわたっていて、本作ではバックとの息もぴったりだ。 そんなわけで、イングヴェイのギターだけ聴きたいという人には、何枚もある秀作のうちのひとつかもしれない。けれど、バンドの音楽をトータルで捉えたい人には、イングヴェイ最高の一枚と言えるだろう。[収録曲]1. Rising Force ←おすすめ!2. Hold On3. Heaven Tonight4. Dreaming (Tell Me)5. Bite the Bullet6. Riot in the Dungeons7. Deja Vu ←おすすめ!8. Crystal Ball9. Now Is the Time10. Faster Than the Speed of Light ←おすすめ!11. Krakatau12. Memories ←おすすめ!(イングヴェイ・ソロの小品) 【メール便送料無料】イングヴェイ・マルムスティーンYngwie Malmsteen / Odyssey (輸入盤CD) (イングヴェイ・マルムスティーン)
2009年07月23日
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「ギター小僧」、本領発揮のライブ盤 ニルス・ロフグレンは、ニール・ヤング関係(『今宵その夜』)、リンゴ・スター関係(オールスター・バンドに参加)、ブルース・スプリングスティーン関係(E・ストリート・バンドのメンバー)といったところでよく知られるギタリスト(他にピアノを担当することもある)。 自身のバンドとしては、Grin(グリン)として活動し始めたが、いまひとつ売れず、その後、ソロとして再デビュー。とはいっても、大ヒットがあったわけではなく、上で挙げた大物アーティストたちのサイドマンとしても活躍しながら、しかし、自分のアルバムも着実にリリースしてきた。 さて、ニルス(愛着があるので、こう呼ばせていただく)の各アルバムを年代順に聴いてみると、(あくまで持論ではあるが)大まかに次のような3つの時期に分けられるように思う。1) デビュー~70年代全般・・・・・「ギター少年」そのものの、あどけなく、巧く、小気味よいギターを聞かせてくれる成長期。2) 80年代~90年代前半・・・・・・ポップ、売れ筋ロック系のテイストを取り込みながらも、ギタリストとして成熟していった時期。3) 90年代後半~2000年代・・・・ヴォーカルに渋みが生まれ、ギターもさらに磨きがかかる時期。 本作は2)の時期の、つまりギタリストとして非常に油ののった時期の1985年にイギリスのハンマースミス・オデオンで録音されたライブ・アルバムである(リリースは翌86年)。バンドメンバーは、実の兄弟のトム・ロフグレンを含む、気心の知れた仲間で、うまくニルスを引き立てる演奏をしている。 クレイジー・ホース(ニルスは彼らのアルバムにも参加経験がある)に捧げられた「ベガーズ・デイ」(下記の通り、輸入版CDには未収録)で幕を開ける。その後は録音当時最新だったアルバム『フリップ』からの曲をピックアップしながら、中盤から終盤にかけては、グリン時代以来の名曲がずらりと並ぶ。中でも、筆者が気に入っているいくつかを紹介しておこう。 グリン時代の曲としては、「ライク・レイン」。この曲に加え、「ビリーヴ」と「シャイン・サイレントリー」はアルバム全体の中でもおとなしめの曲で、派手なギタープレイの曲の間で輝いている。70年ソロ時代の曲としては「コード・オブ・ザ・ロード」と、アルバムを締めくくる「アイ・ケイム・トゥ・ダンス」のギターが盛り上がる。さらには、「キース・ドント・ゴー」(日本盤CDには未収録)とグリン時代の「ムーンティアーズ」もギターの聞かせどころだ。全体を通して聴くと、弾きまくるところは弾きまくり、押さえるところは押さえて曲を聞かせるという、バランスのとれた構成になっている。 スタジオ録音の各アルバムもいいのだが、初めて聴く人で、ニルスのギターに興味があるという向きには、このアルバムをお勧めする。上で何箇所か注釈をつけたのでお気づきかとは思うが、困ったことに、盤によって収録曲に違いがある。事実関係はよくわからないのだが、おそらくは2枚組レコードをCD1枚に無理に収録したことがその利用と見受けられる。手元には1)リリース当時の2枚組レコード、2)日本盤1枚ものCD、3)輸入(ヨーロッパ)版1枚ものCDの3種がある。今からLPを捜し求める人はあまりいないと思うので、CD2種の曲目を記しておく。追記:ちなみに、どちらのCDがおすすめかは判断がつかないでいます。日本盤CDの方が、オリジナルLPの雰囲気に近い気がするけど、輸入版には収録されているビートルズの名曲「Anytime At All」やローリング・ストーンズのメンバーに捧げられた「Keith Don't Go」がカットされてるのは痛い…。(輸入版CD)1. Secrets In The Streets2. Across The Tracks3. Delivery Night4. Cry Tough5. Dreams Die Hard6. Believe7. The Sun Hasn't Set (On This Boy Yet)8. Code Of The Road9. Moontears10. Back It Up11. Like Rain12. No Mercy13. Anytime At All14. New Holes In Old Shoes15. Keith Don't Go16. Shine Silently17. I Came To Dance(日本盤CD)1. Beggar's Day2. Secrets In The Streets3. Delivery Night4. Cry Tough5. Dreams Die Hard6. Believe7. The Sun Hasn't Set (On This Boy Yet)8. Code Of The Road9. Moontears10. Back It Up11. Like Rain12. Sweet Midnight13. Shine Silently14. I Came To Dance
2009年07月23日
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ヒットにあやかったライブ・アルバムの「例外」 スマッシュ・ヒット曲や大ヒット・アルバムに乗じて出るライブ盤には総じて「はずれ」が多い。考えて見れば、そりゃそうか。レコード会社だって苦労して育てたアーティストがリスナーに支持されれば、さらにそのアーティストの作品をリリースして、しかも、しっかり儲けたいはず。そして、その結末たるや、推して知るべし。一過性のヒットに乗じた駄作ライブ・アルバムだけが後に残ってしまう、そんなパターンが典型だろう。 さて、ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジは1954年生まれのブルース・ホーンズビーをリーダーとするアメリカのバンド。デビューまでの下積み生活(シーナ・イーストンのバックでも演奏していたらしい)を経て、「ヒューイ・ルイスに見出された」との触れ込みでデビュー。当時のヒューイ・ルイスはといえば、アメリカン・ロックの大スター。それもあってか、デビューアルバム『ザ・ウェイ・イット・イズ』は大ヒットを記録。同アルバムからカットされたタイトル曲が1986年に全米No. 1となり、スターダムに躍り出た。その後も同アルバムからは、「エブリ・リトル・キス」、「マンドリン・レイン」といったシングルがたて続けにヒットした。 そんな大ブレーク真っただ中で、「日本限定盤」として発売されたのが、1987年のこのアルバム。ニューヨークはリッツでの演奏(同年2月)が収められている。収録曲はいずれも上記のデビューアルバムからのもので、6曲しか入っていない(うち1曲は2トラックに分割されている)が、それぞれが6~7分と長尺のため、トータルではフルアルバムなみの収録時間になる。 さて、本作の中身だが、上の収録時間(各曲6~7分)ということからわかるように、実にのびのびと、そして自由に演奏している。きっとブレークする前からこういう演奏をライブでいつもやっていたのだろうな、と想像させてくれる。つまるところ、大ヒットしたことで無理に聴き手に迎合することもなく、今までどおりのプレイを、今まで通りの方法で、いい意味でやりたいようにやっている雰囲気が伝わってくる。 そうした雰囲気を伝える最たる曲が「ザ・ウェイ・イット・イズ」。上で述べたように全米No.1だから、下手なライブアルバムだったら、聴衆が「キャー」と叫んで熱狂し、アーティスト側はといえば、演奏内容はほどほどに原曲を再現して終わってしまいそうなところだ。ところがブルース・ホーンズビーは「ソロ・ピアノ・イントロ」を7分にわたって延々演奏する。観衆がピアノ・ソロに聞き惚れたところで、かのヒット曲のピアノの出だし、そして曲本体へとなだれ込む。ヒット曲を「商品」としてではなく、「作品」として大事に演奏している。 もう一つ、このアルバム全体の雰囲気を良くしている要素として、チープなポップに終わらない彼ら(特にリーダーのブルース・ホーンズビー)の音楽的バックグラウンドがにじみ出ている点がある。後にジャズ系アーティストとのコラボレーションへと向かっていく志向性は既にこのライブ演奏でもかなり発揮されている。この点もまた、本アルバムを「ありがちな駄作」に終わらせなかった大事な要因なのだろう。(余談) これ書いてて初めて気づきました。「ホーンスビー」じゃなくて、「ホーンズビー」(濁点あり)だったんですね(笑)。日本盤の(日本語で表記された)アルバムを何枚も持ってるのに、20年も勘違いしていました。カタカナ絡みでついでに言わせてもらうと、「(ザ・ウェイ・)イット・イズ」っていう、ベタな表記は何とかならなかったのだろうか…。80年代だからその頃は気にならなかったのかもしれないけど、今となってはいかにも「日本人の通じないカタカナ英語」の典型みたいに見えてしまうのでした。[収録曲]1. Every Little Kiss2. The Long Race3. The Way It Is (intro)4. The Way It Is5. Mandolin Rain6. The Red Plains7. On The Western Skyline
2009年07月18日
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若き日のひたむきさとがむしゃらさが生んだ名作 ロッド・スチュワート(Rod Stewart)といえば、ロックの歴史を追っていく際に避けて通ることのできないヴォーカリストと言えるだろう。1945年生まれの現在64歳。1960年代から英ロックシーンに登場し、ジェフ・ベック・グループやフェイセズを経てソロ活動を進めた。70年代、80年代、90年代、そして現在00年代に至るまで、コンスタントに活動を継続している。 さて、そんなロッドの絶頂期は?と訊かれたら、70年代後半と答える人が多いだろう。「セイリング」や「今夜きめよう」、「アイム・セクシー」といった大ヒット曲がずらりと並ぶあの時期である。しかし、筆者の好みで好き勝手言わせてもらう。ロッドの絶頂期は二度あった。しかも、70年代後半はこの二度には該当しない。セール的には確かに絶頂期だけれど、彼のヴォーカルがもっと冴えていた時期が他にもあるという意味である。 一度目の絶頂期を彩るのがこのアルバム『ガソリン・アレイ』だ。フェイセズの活動と並行した時期(1970年)にリリースされ、ソロとしては2作目。アメリカへ渡って成功する5年前、ロッドにはまだまだ発展途上のがむしゃらさがあった。この「がむしゃらさ」は、ハングリー精神と言い換えてもいいかもしれない。タイトル曲をはじめとする自作曲も素晴らしいが、ボブ・ディランの「オンリー・ア・ホーボー」やロックのスタンダードナンバーである「イッツ・オール・オヴァー・ナウ」を熱唱するロッドには、ひたむきさが感じられる。 ちなみに、筆者がもう一つの絶頂期と思うのは、1990年頃である。トム・ウェイツの「ダウンタウン・トレイン」をリメイクしてヒットさせたあの頃である。この時期については、いつかまた改めて述べることにして、ひとまずは、若き日の、ひたむきでがむしゃらなロッドを『ガソリン・アレイ』で堪能していただきたい。[収録曲]1. Gasoline Alley ←おすすめ!2. It's All Over Now ←おすすめ!3. Only A Hobo4. My Way Of Giving ←おすすめ!5. Country Comforts6. Cut Across Shorty7. Lady Day8. Jo's Lament ←おすすめ!9. You're My Girl (I Don't Want To Discuss It)1970年リリース。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ガソリン・アレイ +1 [ ロッド・スチュワート ]
2009年07月12日
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圧倒的ライヴ・パフォーマンスの真骨頂 「名演」や「名作」などと称されるライヴアルバムはこの世に多く存在する。ここで紹介するアルバムは、別に「特定のコンサート」という意味の名演・名作ではない。バンドとしてコンスタントな名演をこなし続けた人たちの10年間の軌跡だ。 ブルース・スプリングスティーンが「ライヴの人」だということは、デビュー当時から言われていた。最近CD(&DVD)化された1975年、ハマースミス・オデオンでのライヴを聴けば(スプリングスティーンおたくの筆者はブート盤などで聴いたそれ以外の演奏でも既に同じ感想を持っていたのだが)、早い段階から圧倒的迫力のステージをこなしていたことはよくわかる。 何よりもこのアルバムの魅力は、まとまりを持ったバンド力にあると思う。スプリングスティーンとE・ストリート・バンドの演奏における一体感は、ほとんどオーバーダブなしに作られた『ザ・リバー』(1980年)で実証済みだった。とはいえ、本ライブ盤の前作にあたる『ボーン・イン・ザ・USA』までのアルバムはすべて「B・スプリングスティーン」名義であった。それが、このライブ盤ではいきなり「~&E・ストリート・バンド」名義になっている。 E・ストリート・バンドとの共作名義になっているのは、何よりもこれらのライブ演奏がバンドとの共作あることを強調しようとしたかったからではないか。本アルバムのリリースは1986年だったが、タイトルにもあるように、1975年(スプリングスティーンを一躍有名にした『明日なき暴走』の年)から1985年(『ボーン・イン・ザ・USA』のヒット時)までの名演を集めたものである。つまり、E・ストリート・バンドのメンバーがほぼ固まった時期から、大々的な世界的ツアーをこなしていくまでの過程が収録されているわけだ。実際の演奏を聴いてみればわかるように、E・ストリート・バンドほど「寸分違わず息のあった」バンドはめったにお目にかかれない。リリースされた80年代当時、上り調子にあったボン・ジョヴィの演奏がかすんで見えるほどバンドの息がぴったりあっていた。ボン・ジョヴィの名誉のために付け加えておくが、彼らの演奏が下手なわけではない。それでもなお、ボン・ジョヴィとE・ストリート・バンドの間には、デビュー前のアマチュアバンドとボン・ジョヴィの間にあるのと同じぐらいの差を感じた。その凄さは、リーダーであるスプリングスティーンがリハも練習もしたことがない曲をいきなり本番でリクエストし、メンバーがそれに応じられるというエピソードに如実に表れている。 発売当時のこのアルバムはLP5枚組、7500円という途方もないものだった(にもかかわらず、初登場1位という大記録まで樹立してしまった)。筆者が少年時代にした最も大きな買い物だったかもしれない。おかげで少し前に廃止されて記念に取ってあった旧5千円札は購入代に消えた。前代未聞の5枚組ライヴアルバムの箱の重さ(ジャケットが箱状になっていた)が懐かしく、たまに引っ張り出してきては意味もなく見つめてしまう。 今では聴く時はCDでしか聴かないが、CD化されて3枚にまとめられた際の中途半端な途切れ方はいまだなじめない。CDで聴く時は、ぜひオリジナル曲順を意識してもらいたい。なので、以下の曲目には、あえてA面・B面…の区分を掲載しておく。[収録曲](1枚目 A面)1. Thunder Road2. Adam Raised A Cain3. Spirit In The Night4. 4th Of July, Asbury Park (Sandy)(1枚目 B面)1. Paradice By The "C"2. Fire3. Growin' Up4. It's Hard To Be A Saint In The City(2枚目 A面)1. Backstreets2. Rosalita (Come Out Tonight)3. Raise Your Hand(2枚目 B面)1. Hungry Heart2. Two Hearts ←CDはここで1枚目終わり。『ザ・リヴァー』からの名曲が続くという流れが寸断されるのは痛い。Independence Dayで一息つくまで連続していて欲しい場面。3. Caddillac Ranch4. You Can Look (But You Better Not Touch)5. Independence Day(3枚目 A面)1. Badlands2. Because The Night3. Candy's Room4. Darkness On The Edge Of Town5. Racing In The Street(3枚目 B面)1. This Land Is Your Land2. Nebraska3. Johnny 994. Reason To Believe(4枚目 A面)1. Born In The U.S.A.2. Seeds ←CD2枚目はここで終わり。The RiverとWarの間は一息つくべし。シングルカットされたWarがCDでは2曲目扱いだが、それでは台無しだ。3. The River(4枚目 B面)1. War2. Darlington County3. Working On The Highway4. The Promised Land(5枚目 A面)1. Cover Me2. I'm On Fire3. Bobby Jean4. My Hometown(5枚目 B面)1. Born To Run2. No Surrender3. Tenth Avenue Freeze-Out4. Jersey Girl1986年リリース。
2009年07月11日
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