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2012.09.26
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カテゴリ: 読書案内
【完璧な病室/小川洋子】
20120926
◆本物の孤独は精神世界へ到達する

何らかの対象を好評する時、よく使われるのが“透明感のある歌声”とか“透明感のある演技”だったりする。小川洋子の作品も、たぶん透明感のある小説と評価して間違いないだろう。つまり、とてもデリケートな表現力を持っている作家だ。


大切な人を不治の病で亡くすというストーリー展開そのものは、正直、ありきたりだが、違うのは主人公の悲哀がどれほどのものかをかなり特殊な形で表現していることだ。(間違っても、天を仰いで号泣したりしない)
『完璧な病室』では、たった二人きりの姉弟のうち、弟の方が不治の病に侵されてしまい、それを知った姉が押し潰されそうな悲哀の重さに耐え切れず、誰もいない空き病室で担当医師に裸で抱きしめてもらう、というものだ。
一般常識では考えられないが、小川ワールドにはあながちありえなくもない。世間でいう異常は、場合によっては芸術にまで高められるのだから不思議だ。
その医師というのがまた白衣の上からでもわかるほどの「水泳選手を連想させるような、すばらしくバランスのいいからだつき」なのだ。だがその一方で、医師は軽い吃音があり、孤児院の出身という過去を持っている。
この辺りの、医師の腕に包まれすっぽりと抱きしめられるエロティシズムは、さながら女谷崎とでも賛辞したくなるほどの表現力だ。行間を漂う孤独感は本物で、尋常じゃない精神状態は、主人公が気持ちのよりどころを夫に向けないところからも容易に察することが出来る。

本当の哀しみを描く時、これほどの官能的な空間を伴うと、反って精神世界へ到達してしまうのかもしれない。
生きていることと死んでしまったことの境目が分からなくなるような、深すぎる哀しみを表現した小説だ。


《余談》中公文庫の『完璧な病室』には、他に短編が3作入っている。『揚羽蝶が壊れる時』という作品も、主人公の複雑な心理状態が絶望的なまでに描かれている。





~読書案内~   その他

■No. 1 取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ
■No. 2 複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!
■No. 3 雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!

◆番外篇.1 新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!





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最終更新日  2012.10.20 06:33:11
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