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2013.04.06
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カテゴリ: 読書案内
【東野圭吾/秘密】
20130406

◆我が子の肉体で人生を二度謳歌する女

この本を貸してくれた友人は大絶賛だった。涙なしには読めなかったとも。
それは大げさでも何でもなく、事実そうだったに違いない。友人は言った。

「豊かな感情を持たない人には、分からないと思うよ」と。

私が一読してまず感じたのは、ああファンタジー小説だな、というものだ。あまりにざっくり言い過ぎてしまい恐縮だが、肉体と精神が完全に別人格であるという設定は、ヒューマンドラマとしてはちょっと読みづらい。
ならばラブ・ストーリーとして捉えれば良いではないかと読み直してみれば、親子愛にしてはあまりに淡白過ぎるし、夫婦愛ではラストのオチで失敗している。
だがファンタジー小説としてなら、どこをどう突いたところで申し分なく、まるでドラマのように美しく流れていく。鮮やかな映像を、見て来たように思い描くことが出きるのも、東野圭吾の一流作家としての手腕だとさえ思う。

ここからこの小説のあらましをご紹介してしまうので、この先は『秘密』を読もうとしている方々はご遠慮下さい。文字通り、秘密が秘密ではなくなってしまうので・・・。

40歳を目前にした平介は、妻・直子と11歳の娘・藻奈美の3人家族。小学校の春休みを利用して、直子と藻奈美は長野のスキー場に出かけた。ところが志賀高原を目指していたスキーバスが、長野市内の国道で転落事故を起こしてしまうのだった。テレビの報道で事故を知った平介は、急遽、長野の病院まで車を飛ばす。主治医の所見によれば、直子の方は外傷が酷く、ガラスの破片が心臓にまで達していると。また、藻奈美の方は植物人間のような状態であると言う。結局、直子の方は助からなかった。娘を助けようと、覆いかぶさるようにして藻奈美を守り抜いた、命の代償であった。ところがどうしたことか、息を引き取った直子の隣で、植物人間と化していた藻奈美の意識が戻ったのである。しかも、あろうことか、藻奈美のものであるはずの人格が、完全に直子に取って代わっているではないか。肉体は間違いなく11歳の藻奈美のものであるのに。驚きを隠せない平介は、すぐには現実を受け入れられないでいた。

物語は、妻・直子の人格(精神)に取って代わった藻奈美の行方を追う。

嫉妬に狂った平介の、ストーカー的行為にうんざりしながらも、人生をやり直すことに意義を見出す直子。
人は皆、少なからず過去に後悔を抱きながら生きている。
その時、その行為を、ゲームのようにリセットできないことが分かっているから、未練に駆られ、後悔に苦しむのだ。
『秘密』において、それは見事に覆され、人生のリセットが為されている。直子というキャラクターが、小説の中とはいえ、多くの女性の願望を叶えてくれるのだ。こうしたら良かった、ああしたら良かったと反省し、悩み抜いて来たことを一つ一つ成就する。努力の末、医大に合格し、その後、相性の良いパートナーを見つける。
ラストは、完全に平介を孤独のどん底に突き落とすものだ。
藻奈美が直子の人格そのままであることが分かっても、どうすることも出来ない。直子はすでに新しい人生をスタートさせようとしているからだ。
肉体が藻奈美のものである限り、一生、藻奈美として生きていかねばならない。だが直子にとってそれは苦痛ではない。若くエネルギッシュな実の娘の肉体を譲り受けた今、人生を二度謳歌するというものなのだ。
一方、平介は、藻奈美の真実を墓場まで持って行くしかない。直子との関係はすでに破綻しており、その肉体のない直子の死という事実は、もはや亡霊でしかない。

こうして作者は、平介に最大の苦悩を宣告したわけだ。
この結末は、おそらく賛否両論あるに違いない。
そうは言っても、何やら目覚めた女性たちのシュプレヒコールがこだまするようだ。



そんなわけで、私個人的には、世の女性に向けたファンタジー小説として捉えたら、最高にして最良の名著と成り得る小説だと思うのだ。
さて、あなたはこの作品をどう捉えるだろうか?

『秘密』東野圭吾・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.58)は赤川次郎の『ヴァージン・ロード』を予定しています。


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最終更新日  2013.04.06 06:21:26
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