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2013.04.20
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カテゴリ: 読書案内
【山本文緒/ブルーもしくはブルー】
20130420

◆リアリズムと表裏一体、正真正銘のファンタジー小説

直木賞作家の書く作品は、どうしてこんなにおもしろいのだろうか? 宮部みゆきも、角田光代も、浅田次郎も、渡辺淳一も、みんな直木賞作家だ。
『ブルーもしくはブルー』の作者である山本文緒も、やっぱり直木賞作家だが、本当に読み応えがあって、ページをめくる手が止まらない。それほど優れた筆致なのだ。
逆を言えば、それだけに魅力ある作品を生み出すセンスのある作家だからこそ、直木賞を受賞できたに違いない。
山本文緒はもともと少女小説家(ジュブナイルとかジュニア小説というカテゴリ)としてデビューしているため、非日常にあこがれを抱く女子たちの心情を、見事に表現していて、その先に何があるのかをシニカルに描いている。
恋愛をキレイゴトとして終わらせず、向こう側の幻滅もちゃんとしっかり見据えている点に着目したい。
この作品は、いわゆるファンタジー小説の部類に入るのだろうが、巷にあふれる地に足の着かないフワフワした小説とは一線を画し、正真正銘のファンタジー小説、つまり正統派である。
リアリズムと表裏一体となって存在する摩訶不思議な現象をスリリングに描写。ここでは、ドッペルゲンガーを扱っている。
自分の分身が影みたいに、どこか別の場所で、別の人生を送っているというものだ。(だがそれは科学的には立証されておらず、実際には精神を病んだ者が見る幻覚に過ぎないとされている。しかも、そのことを記述している文献は少ない)

話はこうだ。

だが結婚して一年も経つと、夫が自分に対し、まるで無関心であることに気がついた。女がいるのだ。
夫の愛がとっくに冷めていることは分かっているが、離婚には踏み切れない。何不自由なく暮らせるこの生活を捨て、一人で生きていく勇気などないのだから。
一方、河見蒼子(B)は、博多で板前をしている河見俊一と結婚し、近所の縫製工場でパートをしながらどうにか家計をやりくりしていた。
夫は酒癖が悪く、うっかりしたことを言うと暴力をふるった。だが酔いが醒めると、いつもの優しい夫に戻り、平謝りに反省するのだった。
蒼子を愛する余り、やきもち焼きで、独占欲が強く、いくら拒んでも蒼子の身体を求めて来る。そんな蒼子(B)は、先の見える人生をあきらめるしかなかった。
ある時、街でばったり出会ってしまった蒼子(A)と蒼子(B)は、お互いがそっくりな容姿の持ち主であることを利用し、一ヶ月間入れ替わることを計画した。

私は個人的に、サスペンスたっぷりの展開にドキドキした。
それがある種の恐怖感だとしたら、殺人鬼やモンスターなど一切登場することのない、ほとんど心理面のみの恐怖だ。
普通の恋愛小説に飽きたとかではなく、恋愛の向こう側の事情をしっかり書き留めた小説が好きなので、こういうラストは大好きだ。
「隣の芝生は青く見える」の教訓を壮大なドラマに仕立てたら、この小説になった・・・と言ったところかも。
とにかく女子のみなさん、必読の書ですよ!



20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.62)は村上龍の『限りなく透明に近いブルー』を予定しています。


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最終更新日  2013.04.20 06:22:36
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