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2013.05.18
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カテゴリ: 読書案内
【宮部みゆき/理由】
20130518

◆分相応な生活の奨励と物質至上主義への警鐘

本格ルポルタージュ、ノンフィクション小説と言えば、佐野眞一の『東電OL殺人事件』であり、沢木耕太郎の『テロルの決算』である。
宮部みゆきの『理由』という作品があくまでフィクションにもかかわらず、作品のそこかしこから重厚なリアリズムを感じるのはなぜか?
あれこれ考えたのだが、この、ルポ形式を取っている作風が成功したのではなかろうか? 著者がその事件を追うルポライターとしての役目を担い、事件の一部始終を語り尽くすのだ。
『理由』はあくまでもフィクションであり、宮部みゆきの創作ミステリーであるはずなのに、これほどまでに読者を惹きつけて止まない魅力に溢れているとは、やっぱりスゴイ。
著者のプロフィールなどを読むと、法律事務所に勤務していた経験もあるとのこと。特殊な事情を抱えたクライアントの悩みを小耳に挟むうちに、めくるめく創作意欲が湧いたのかもしれない。
作中の事件が決してウソっぽくなく、リアリティーに溢れていることから言っても、宮部みゆきの作家としての技巧的な能力以上に、事実から着想を得た(かもしれない)ことは有利に働いていると思われる。

『理由』は、ルポライターが「荒川の一家四人殺し」の真相に迫るために、当事者やそれにまつわる親族らに取材し、事件の一部始終を記事にした、という形式を取っている。
事件は雨の晩に起きる。荒川区にある高層マンションのヴァンダール千住北ニューシティ・二〇二五号室で、3人の惨殺死体とベランダから転落した1人を合わせ4人の遺体が発見された。
二〇二五号室の入居者は、小糸信治とその妻、それに小学生の息子であるはずなのだが、捜査の結果、殺された4人は小糸一家ではないことが判明。

では、殺された4人は一体どこの誰なのか?
事件の真相を追っていくうちに、意外なことが次々と明らかになっていくのだった。

私はこれまで、都会の高層マンション(億ション)と言えば、富裕層に与えられた特権的な象徴のように捉えていた。だが、世の中には身の丈以上の物へのあこがれからか、低所得者でも何十年ものローンを組んで購入しようとする人がいることを知った。
さらに、その行為によって自らの首を絞めることとなり、ローン返済も頓挫し、いかがわしい不動産屋との共謀で犯罪にまで手を染めてしまう例もあるようだ。
そこからは、物質至上主義がいかに虚しいものであるかが窺える。
著者はこの作品を通して、大切なのは「分相応」であることなのだと言おうとしているに違いない。
その一方で、低所得者に対する同情的な眼差しを向けているのも否めない。お金がないということは、ここまで人間を荒んだ生きものにしてしまうのだという警鐘にも思えるし、そんな低所得者を生み出したのは、この歪んだ社会なのだと痛罵しているようにも捉えられる。
ところで、この小説のタイトルにもなっている「理由」だが、殺人を犯したその理由は一体何だったのだろう?
とはいえ、読後はいかなる理由があろうとも、殺人など犯してはならないのだと痛感する。
ベストセラー小説の名に相応しい一冊である。

『理由』宮部みゆき・著 〔直木賞受賞作品〕

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最終更新日  2013.05.18 06:20:36
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