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2014.03.01
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カテゴリ: 読書案内
【江戸川乱歩/幽霊塔】
20140301

◆黒岩涙香の翻案を乱歩が再創作

もともと推理小説とか怪奇小説というジャンルは、通俗小説の筆頭にあげられるものである。
そのため、作品としての評価が今一つ盛り上がらないのは致し方ない。
言わずと知れた江戸川乱歩は、西洋と比べると立ち遅れていた日本の創作小説というものを確立した人物であると言っても過言ではない。
かの大谷崎も、江戸川乱歩の描くおどろおどろしい世界観に早くから目をつけており、高く評価している。
日本人が実は、根っからのエロ・グロ好みである気質を、鋭く見抜いていたという点では、江戸川乱歩は谷崎に勝るとも劣らない文士なのだ。

江戸川乱歩といえば、『怪人二十面相』に始まる少年読み物が代表作であるのは疑う余地もないことだが、昨今でも一般読者の圧倒的な支持を集めるのは、この『幽霊塔』である。
この作品はもともと黒岩涙香の翻案したものを、さらに乱歩が再創作した小説である。〈※ウィキペディア参照〉
巻末にある乱歩本人による注釈だと、当時はこの黒岩涙香の翻訳した原作というものが分からなかったとのこと。
だが最近になって原作が判明。


『幽霊塔』のあらすじはこうだ。
舞台は長崎の片田舎、K町。時代は大正初期。
主人公・北川光雄の叔父が、時計塔のそびえる古風な西洋館を地所ごと買い取った。
光雄は改築を命じられ、はるばる下見にやって来たのだ。
ところがこの西洋館には、幽霊が出るといういわくつきの物件だった。
というのも、もともとの持ち主は徳川末期の大富豪渡海屋市郎兵衛で、維新前の物情騒然たる時世ゆえに財宝の隠し場所としてからくり部屋を作ったところ、出入り口が分からなくなってしまい、そのからくり部屋で巨万の富とともに絶命した。
その非業の死が悲痛な魂となって屋敷内をさまよっているという伝説が、まことしやかに囁かれていた。
その後、時計屋敷はお鉄婆さんという老婆の持ち物となったのだが、いっしょに住んでいた養女に殺されるという悲運な最期を遂げた。
このような因縁めいた屋敷に不安を覚えつつ見回っていたところ、光雄は突然、美しい女性と出くわす。
それはそれは神秘的で、凛とした美しさを持つ、野末秋子という女性だった。
秋子はなぜか時計屋敷について詳しく、大時計の巻き方なども知っており、持ち主である光雄の叔父にも挨拶がてらその旨、教えたいとのこと。


内容は古めかしく、時代性を感じさせるものだが、登場人物の善悪がハッキリ分かれているし、不透明感のない結末は、読後、清々しい。
ラストでこれだけ後日談がきちんと語られていると、本当の意味でのハッピーエンドを味わえる。
とかく社会派ミステリーなどにはつき物の、絶望的な後味の悪さは、乱歩の描くこの作品には皆無である。
怪奇小説、スリラー小説は苦手だという人も、この『幽霊塔』なら、あるいは最後まで楽しめるかもしれない。

『幽霊塔』江戸川乱歩・著(原作・アリス・マリエル・ウィリアムソン『灰色の女』より)

20130124aisatsu





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最終更新日  2014.03.01 06:08:32
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