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2014.03.22
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カテゴリ: 読書案内
【壺井栄/二十四の瞳】
20140322

◆平和とは何ぞやを再認識する名著
今や高校生となった息子だが、その息子が小学生のころは、学校の方針で“朝読書”という時間があった。
その時間に読むための本が欲しいと言うので、買い与えた一冊に、『二十四の瞳』がある。恒例のポプラポケット文庫である。
対象年齢は小学校上級向きとあるが、大人の私でも充分に楽しめる名作なのだ。
著者の壺井栄の夫はプロレタリア作家(詩人)である壺井繁治で、栄自身も少なからず影響を受けたのか、貧富の差とか、薄幸な人々の生き様にスポットを当てているのが特徴的だ。
とはいえ、そこにむやみやたらな思想を織り込んだものではなく、ほのぼのとしていて、どこか懐かしい庶民の体臭が感じられるのだ。
解説によれば、今でこそ名作として語り継がれる小説だが、実際には木下恵介監督による『二十四の瞳』の映画化により、大ブームとなったとのこと。
この映画化をきっかけに、小説の方が遅れてベストセラーになったというわけだ。

『二十四の瞳』のあらすじはこうだ。
昭和3年4月4日。舞台は瀬戸内海べりにある小さな村の分教場。

新任の先生は大石久子で、女学校の師範科を出た優秀な教員だった。
大石先生の任されたクラスは全員で12名。
やんちゃな男の子におませな女の子、無口で大人しい子から騒がしい子までが揃っている。
大石先生はよその村の者だったせいで、何かと噂好きの村の者たちの好奇の目にさらされながら、どうにかこうにか頑張っていた。
ある時、大石先生はクラスのみんなを率いて、浜辺で唱歌を歌うことにした。
一通り歌い終わって、さて帰ろうとしたところ、大石先生は、子どもたちの掘った落とし穴に落ちてしまったのだ。
子どもたちはゲラゲラ笑いながら落とし穴に近付いて来て、手を叩いて喜んでいたところ、立ち上がらずにくの字に寝たままの大石先生を見て、すぐに黙り込んでしまった。
その様子にやんちゃな子どもたちも、異様なものを感じてしまったのだ。

一読して思ったのは、私たちが平和を謳歌できるのは、先人の血と汗と涙によって掴み取った自由と人権尊重のおかげだということ。
当時は、インテリが戦争に反対しただけで、反戦思想だと国家から国賊の落いんを押されてしまうのだから!
警察の拷問によって殺された者たちが何人もいたのだ!

貧しい農村、漁村の若者たちは、「兵隊に入れば腹いっぱいの飯が食える」と聞かされ、兵隊にとられていった。
著者の壺井栄は、作中、子どもにも分かるような易しい言葉で、当時の様子を克明に、そして事実を伝えている。

〈昭和8年日本が国際連盟を脱退して、世界の仲間はずれになったということにどんな意味があるか、近くの町の学校の先生がろうごくにつながれたことと、それがどんなつながりをもっているのか、それらのいっさいのことを知る自由をうばわれ、そのうばわれている事実さえ知らずに、いなかのすみずみまでゆきわたった好戦的な空気につつまれて、少年たちは英雄の夢をみていた。〉

今後、日本はどのような方向へ進もうとしているのか?
様々な情報が錯綜する中、私たちはあらん限りの知恵と知識を振り絞って、事実という本物を見抜いていかなくてはなるまい。

当時、新聞というメディアを通し、「戦争は正義の戦い」であると宣伝されたのだ。
国民は、政治のやり方について一切口を出してはならず、「政府の命令のままに、すべてを戦争のために」と強制したのである。
世界の情勢、日本の置かれた立場を知らなかった、否、知らされる自由のなかった国民に、もはや為す術はなかったのである。
あれから時代は変わった。もう“戦後”とは言わない。
だが、『二十四の瞳』を読んで、戦争によって様々な苦難の道を強いられることになる12人の子どもたちのその後と、女性教員・大石久子の歩みを通して、平和とは何ぞやを再認識するのも平和教育の一つではないかと、つくづく感じたしだいである。(沖縄への修学旅行だけが平和教育ではないはず)
この小説は、万人におすすめの名著である。

『二十四の瞳』壺井栄・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.118)は堀川アサコの「幻想郵便局」を予定しています。


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★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.03.22 06:01:42
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