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2014.12.13
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カテゴリ: 読書案内
【曽野綾子/寂しさの極みの地】
20141213

◆セレブの抱える心の闇
今年も残すところあと一か月。
この時期になると、必ず独居老人の孤独死や中高年の自死などが取り沙汰される。
それもそのはず、クリスマスや大晦日など、家族や親しい仲間と明るく楽しいひと時を過ごすことがスタンダードな常識人のあり方と見なされるようになった昨今。
その枠からはみ出てしまった人々の苦悩と言ったら、生易しいものではない。
孤独なことが好きだという人、行事なんかに振り回されたりしないという人ならともかく、人並みの感情を持っていれば、世間が賑やかく浮かれ騒いでいればいるほど、絶望的な気持ちを味わうのではなかろうか。
だからどうなのだと言われてしまうと困るのだが、曽野綾子の『寂しさの極みの地』を読むことで、私は少しだけ救われたことをここでお伝えしたいと思う。

主人公は諸戸香葉子で、大学受験を控えた息子がいる。
夫は最高級ホテルのオーナーで、一家は何不自由なく暮らしている。
本来なら絵に描いたようなラグジュアリーな生活で、波乱などなく、小説のプロットとしてはちょっと弱いぐらいに感じてしまうところだ。

それも底知れぬ闇をだ。

あらすじはこうだ。
都内に高級ホテルを経営する夫を持つ諸戸香葉子は、一人息子にも恵まれ、何不自由のない生活を送っていた。
しかし結婚後すぐに感じ始めたのは、夫婦の価値観の相違だった。
それがとくにハッキリしたのは、息子が大学受験を控える年になってからだ。
東大卒の夫は、息子に対しては何が何でも東大に入れたいと熱望した。
一方、香葉子は、いずれ父親の後を継ぐ息子にさして学歴など必要はないという考えを持っていた。
ホテル業は、人の心が読め、経理と語学に強ければ学歴にこだわることはないと思ったからだ。
結局、香葉子は夫に反発することもできず、言いなりとなり、息子の東大受験を黙認した。
しかし息子は東大に落ちてしまう。
香葉子は、滑り止めに受けた大学が合格していたので、そこに入れたら充分と思っていたところ、夫は納得がいかず、一浪させる。

香葉子としては、家族がバラバラに住むことに抵抗があったが、夫に意見することもできず、受験生の息子に一人暮らしをさせることとなった。
だがそのことで、香葉子と息子の間にはますます亀裂が入り、会話もなく、親子としての関係が希薄になった。
息子は自分勝手な言動を憚ることもなく、父に対する態度と母に対する態度を区別し、香葉子には何を考えているのかさっぱり分からなかった。

『寂しさの極みの地』のラストはあまりに衝撃的で、救いようがない。
しかし、クリスチャンである著者の用意した赦しの手段は、やはり「神」への懺悔に近いものだった。

主人公の香葉子は、夫という存在をあてにせず、むしろ信頼を寄せた友情の中に魂の癒しを求めているのだ。

率直な感想として、これほど孤独を煽る小説はないと思った。
その反面、これが現実なのだろうという苦し紛れの肯定をせずにはいられない。
経済的に恵まれたとしても、精神の安定と充足がなければ、人生は空虚なものでしかないという定番中の定番とも言えるテーマだが、この年の瀬には持って来いの作品だと思う一冊なのだ。


『寂しさの極みの地』曽野綾子・著


☆次回(読書案内No.152)は未定です、こうご期待♪


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2014.12.13 07:50:36
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