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2016.02.21
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カテゴリ: 読書案内
【柳美里/潮合い(『家族シネマ』より)】
20160221

◆いつか、いじめは根絶できるのか?
世間ではいじめを扱った作品がはいて捨てるほどある。
そのほとんどが、いわゆる青春小説というカテゴリにあり、ティーンを対象にしたドラマチックな内容となっている。
これでもかこれでもかといじめ倒し、いじめる側の執拗なまでの陰湿な行為をあぶり出す一方で、読者の正義感を引き出そうという作品のねらいに、かえってしらじらしささえ感じてしまうこともある。
いじめというものは、それほど簡単に根絶できるものではないからだ。
社会が平和であっても戦時下であっても、いじめの質の違いこそあれ、まずこの世からなくなるものではない。

柳美里の初期の作品である「潮合い」は、転校生を徹底的にいじめ倒す内容となっている。
芥川賞受賞作である『家族シネマ』の文庫を買うと、同刊に収められている。
いじめには、いじめる側、いじめられる側、その双方に問題があるとか言われているが、私にとってそんなことはあまり問題ではない。
当事者の抱えている家庭の事情など、どれほど辛く苦しい背景が隠されているか、ということもさして気にならない。


「潮合い」のあらすじはこうだ。
小学6年生の2学期、麻由美のクラスに一人の転校生がやって来た。
その少女は安田里奈と言い、男子たちが妙にそわそわするだけのルックスをしていた。
とにかく目立つのだ。
目立つと言っても、表情はほとんど変わらず、一切だれともしゃべらず、ただその存在だけが目立っていた。
麻由美はイラっとした。
だいいち、2学期に転校して来ること自体、ヘンだと思った。
あと半年もすれば卒業だからだ。
きっとわがままで、前の学校では問題児だったに違いないと思った。
麻由美はまず、里奈の髪につけているリボンにイラだった。
ムリヤリ剥ぎ取ってやった。

バカ呼ばわりし、ホームレスだと言ってやった。
麻由美は数人の女子たちと里奈の服装について冷やかし、パンツを脱げと、みんなで一斉にはやしたてた。
さらにはプールで泳げと命令した。
びしょ濡れの里奈に気付いた担任の田中は、その場の状況をつかもうともせず、「転んで落ちたのか?」と、見当はずれのことを言った。
熱血教師気取りよろしく、「先生はいじめがあったなんて信じない。先生はいじめが大っ嫌いだ」などと生徒たちに涙ながらにいじめを否定するのだった。


まるでキレイゴトから唾を吐くように、リアリティのある、憂鬱でけだるい思春期を表現しているからだ。
いじめをなくそうとか、いじめのない社会を、などと説教くさい意味合いはまるでない。

いじめはあります、それが何か?

という突き放したようなクールな視線を感じるのだ。
いじめの問題はおそらくきっと、今後も世間を騒がせるに違いない。
だからと言って改善策を取らないというのも無責任な話だが、まずは子どもたちに強い心を持って欲しいというところだろう。
さて、みなさんはいじめ問題をどう考えるだろうか?

『家族シネマ』より「潮合い」柳美里・著



コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2016.02.21 10:37:09
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