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2020.01.18
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カテゴリ: 映画/戦争・史実
【アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場】

「言わせてもらえば、恥ずべき作戦ね。あなたは安全な場所にいながら命令を下したのよ」
「私は爆弾直後の現場処理を経験した。それも5つの自爆テロ現場でのことだ。地面には遺体が散乱していた。今日、コーヒーとビスケットを手にモニターを見ていたことは怖ろしいことだ。だが彼らがやったであろうことはもっと怖ろしいものだ。・・・決して軍人に言ってはならない。彼らが戦争の代償を知らないなどと」


近年、世界のあちらこちらでテロ事件が勃発している。私も含めて忘れかけているけれど、2015年にパリで130人も死者を出しているし、2016年にはバグダッドで220人もの犠牲者を出しているのだ。(Wikipedia参照)
そのつど、世界の警察として君臨し続けて来たアメリカが標的を発見し、ミサイルを発射するのだが、そんなものはまるでモグラ叩きのようにキリがない。
半ばお手上げ状態のオバマ前大統領は「アメリカは世界の警察ではない」と宣言してしまったほどだ。
この発言の影響は大きかった。どれほどリベラルで平和主義な大統領だったか知らないが、その一言はかなり「ヤバい」ものだった。
「しめしめ」と思ったであろう中国という軍事大国が、たい頭して来た。(甘く見てはならない。孫子の兵法を操る国である)
世界のトップを気取っているアメリカをその座から引き摺り下ろそうと言うわけだ。

前置きが長くなったが、第二次世界大戦やベトナム戦争のときと大きく戦争の形が変わった現在。人間同士が武器を手にしてドンパチやるアナログの時代は終わり、今やドローンと呼ばれる無人攻撃機からチョイチョイと手元のスイッチを操作し、ミサイル攻撃する、と言う手法。
そのドローン攻撃を扱ったのが『アイ・イン・ザ・スカイ』である。(直訳すれば〝空にある目〟の意)

ストーリーはこうだ。
アル・ジャバーブには英国籍の女性テロリストが入っていて、ケニアの首都ナイロビの隠れ家に潜んでいることを確認する。隠れ家の中のようすを偵察するため、昆虫型小型ドローンを飛ばし、内部映像の撮影に成功する。すると屋内では、狂信的なテロリストたちが爆弾を巻いたベストを着用し、このあとすぐにでもテロを決行しようとしている様子がうつしだされた。本来なら、イギリスの友好国であるケニアでは、事を大きくしないためにもテロリストらを逮捕・捕獲することで決着をつけたかったのだが、作戦変更。英国軍のキャサリン・パウエル大佐はテロリストのアジトへの攻撃を決定する。
テロリストらが、多くの人々で賑わう市街地で自爆テロを決行すれば、その被害はぼう大なものになる。一方、テロリストらがアジトにいる間にミサイル攻撃をすれば被害はもっと少なくて済むから、と言う算段である。
パウエル大佐からの司令により、ドローン・オペレーターがミサイルの発射準備に入ったところ、なんと標的の側の路上で、まだ幼い少女がパンを売り始めたのだ。慌てたドローン・オペレーターは発射を中止。パウエル大佐は予期せぬ民間人の巻き添え被害の分析を依頼すると共に、その数値を内閣府に報告。上の判断を仰ぐ。
パウエル大佐の上司であるベンソン中将は、パンを売る少女を犠牲にしてもこの機を逃さずテロリストらを壊滅することを主張するが、政治家たちは難色を示す。議論は平行線となってしまい、だれも攻撃命令を下せない状況が続くのだった。
私はこの作品を見て本当に驚いた。
なんだかいろんな役割がそれぞれにあるのだが、みんな所在地がバラバラなのだ。
まとめると次のようになる。

アメリカ・ラスベガス空軍基地
→①ドローンのリモコン操縦センター
 ②スパイ衛星のカメラ操作オペレーター

ハワイ→映像解析センター



上記以外にケニアの地上部隊ももちろん存在する。
このことから何がわかるかと言えば、もはや戦争は人間同士が血生臭い戦場で武器を持ってドンパチやるのではなく、もっと快適な場所でモニターを見ながら軍人以外の政治家や法律家が議論を交わし、AIの出した被害数値の確認をして、最後は人が判断を下す、と言う一見とてもスマートで合理的なものへと変貌を遂げた。
でもそれが本当に正しいことなのかは分からない。
AIの算出する被害確率が何百人単位の被害ではなく、わずか数人の被害ならばミサイル攻撃のボタンを押しても問題ないのかと問われれば、フツーの常識人なら「No」と答えるだろう。
そもそも人の命の重さを人数で推し量ることなどできるわけがない。


「この攻撃ボタンを押したら標的であるテロリストら以外に65%の確率で幼い少女が巻き添えになって死ぬ。でも押さなければ、凶悪なテロリストたちが大勢の人々で賑わう街に出て自爆テロを行い、80人もの民間人が必ず死ぬ。さて、どちらを選ぶ?」

と言うものである。
ネタバレになってしまい恐縮だが、ラストは攻撃命令が出て、パンを売っていた幼い少女は死ぬ。
攻撃ボタンを押したドローンのリモコン操縦者は涙を流さずにはいられない。罪のない、未来ある少女を巻き添えにしてしまったのだから。その罪悪感たるや、想像を絶する。
さすがはイギリス映画だと感心したのは、このラストによりキレイゴトに終わらせなかったことだ。
アメリカ(ハリウッド)なら、何らかの奇跡が起こって少女は助かる、と言う結末にしたかもしれないからだ。
私は、あえてこの後味の悪いラストに仕上げたことで、視聴者を震撼させ、何かを思考させることに成功していると思う。
2回3回と繰り返し見てみたくなる映画ではないけれど、メンタルにズッシリと来る感覚は分かって欲しい。
みなさん、ぜひ一度ご覧下さい。


【公開】2016年
【監督】ギャヴィン・フッド
【出演】ヘレン・ミレン、アーロン・ポール、アラン・リックマン

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最終更新日  2020.01.18 07:00:12
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