2006年10月13日
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# 059

【 前回のおはなし 】

ある夜、散歩に出た 私と まる は、道路の真ん中で立ち往生していた 黒い子猫 に 遭遇します。

車にはねられないようにと助け出した その 子猫 を公園に連れて行き・・・

前回を読む >>




2004年。
夏も終わりに近づく 8月のある朝、

私は いつものように仕事へ行くため
自転車に乗ってアパートを出ました。


その頃の私は 疲れ切っていて、季節の
移ろいや道端の草花に目を向けるような余裕などはありませんでした。


ただ眠い頭をぼんやりとさせたまま自転車をこいで行くのですが、それでもアパートを出てすぐ、
角を曲がって公園の横を通る道へ来たとき、通りの向こう側、道端のわずかに積もった落ち葉の上に 何やら 動物 がうずくまっているのは目に入ってきました。

「 猫 かな。」

黒くて、犬よりは小さい 丸いもの。

こんなとこで寝ているよ、日なたぼっこでもしてるうちに眠くなったのかな、
そう思いながら近づき、通り過ぎざまにちらっと見て


その瞬間  愕然としました。

もう その体に命はなかったのです。


寝ているだけとは違う力の抜け方、 傷や血が見えるわけではなく ただ眠るように目を閉じているだけでしたが、 もう動かないことは、なぜか明らかでした。

公園から飛び出し 道路を横断しようとしたとき、車にはねられたのだと思いました。
死んでいる など 間近で見たのは初めてかもしれない…、 金縛りにあったような感覚で
もうひとつ、脳裏をよぎったことは、

「 あの 黒チビちゃん じゃないか …? 」


大人の だということは間違いありませんでしたが、小柄できゃしゃな体格。
まだ成長段階の若い感じ。  あの子 を助けたのは たしか1年ぐらい前だっただろうか。
何より、全身真っ黒な毛並み。


何の確証があるわけでもありません。

その間も 自転車は走り続けていましたが、何だか
怖くて、戻って確認しようなどという気にはなれませんでした。

黒い猫 など他にもいる、
そう思いながらもどこか直感めいたものが体を貫き、おかしなことに
「 ちゃんと大きく育ってたんだ~ … 」
などと能天気なことを考えては、すぐに さっきの現実を思い出して また頭は暗い気持ちに支配されて行くのでした。



車にはねられた猫。 私には、このことで思い出す ある1匹の猫がいました。


  「 タマ のはなし 」

タマ は、私が小学生の頃 よくうちの庭に遊びに来ていた野良猫でした。

ほかに2匹の兄弟がいて、かわるがわるやって来る その猫たちに、我が家ではいつしか食事を出すようになっていました。

3兄弟の中で タマ だけがメス。 どこか貫禄のある風貌で、食事には来るものの私たちに甘えたり なついたりするような素振りは見せませんでした。


ある年の春、 タマ は隣の空き地になっている草むらで 7匹の子猫を生みました。

こっそり産み育てていたらしく、ある朝カーテンを開けると 窓の外にはヨチヨチ歩きの小さな小さな子猫たちが タマ のまわりで群れていて、私たち家族はとても驚かされました。

完全に心を許してはいないものの、我が家を頼って近くで産んでくれたんだ、と少しうれしく思ったりもしました。

そうは言っても、野良猫である タマ が7匹の子猫を育てるということは大変らしく、乳を飲ませるのにも体力を使い、また7匹それぞれの行動を見守ることにも神経を使い、 タマ の目つきは さらに鋭さを増していました。

人間が子猫に近付くのも心配そうな タマ でしたので、私たちはなるべく親子を刺激しないよう ただその微笑ましい光景を眺めているだけにしました。


子猫たちがそろそろ乳離れをし、私たちの出すキャットフードや残飯などの固形物を食べ始める頃になると、 タマ は自分でもどこからかエサとなる食べ物を調達してくるようになりました。

虫であったり、ゴミをあさったものであったり、 あるときなど、自分の体の半分ほどもある大きな牛のレバーのかたまりを、ラップのかかったパックごと持って来たことがあり、驚かされました。

どこか近所の台所に忍び込み、スーパーで買ったままのレバーを盗んできたようで、 盗まれた家を探して返しに行くわけにもいかず、私たちはただ ヒヤヒヤするばかりでした。

タマ は子供たちを養うのに必死で、その執念はひしひしと伝わってきました。

可愛いだけと思っていた猫の タマ が いつの間にか人間の私たちをしたたかに利用するたくましい になっていて、その強さは小学生の私など足元にも及ばない頼もしいものでした。
しかしその無鉄砲な行動に 私は少し危うさも感じていました。


ある秋の日の夕方、近所の人の知らせで タマ が車にひかれて死んだことを聞きました。


家のすぐそば、 町内のゴミ置き場の前でした。

きっとゴミをあさっていたのでしょう。人に見つかれば追われるのを知っていて、神経はアンテナのように張り巡らされていたはずです。気配を感じ、方向も確認しないままその場を走り出し 自ら車の前に飛び込んで行ったようです。

それほどまでに、 タマ は疲れていたのかもしれません。

もうすぐそれぞれに一人立ち、という子供たちを残して タマ はいなくなってしまいました。


野良猫が、野良猫として人間のそばで暮らすのは、決して楽なことではないのかもしれません。

こちらが100%任せろという気がなければ、向こうも100%頼っては来ないのです。




タマ が車の前に飛び出した「理由」を思い出していました。


私が考えごとをしている間も、相変わらず 自転車は通い慣れた道を走って行きます。

「 あの子はどうして 道路に飛び出したんだろう … 」
そうして私はまた  黒チビちゃん のことを考えるのでした。


この悲しい再会が、後になって思えば
くつした と出会う 運命に繋がる偶然のひとつ だったのです。



トラコミュ
野良猫・捨て猫の今



はじめましての方







今回も登場しません。




* 前回からの登場人物 *


ある夜 出会った
迷い猫

仮に「黒チビ」とする




大人その1
人間のオス

○○さん
仮に「まる」とする




大人その2
人間のメス

私(me)
仮に「みー」とする









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Last updated  2020年04月14日 22時27分20秒
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Re:★くつしたの生い立ち ~悲しい再会~(10/13)  
のりりんGO  さん
うんうん…。
その黒猫は1年前のあの子だったのかしら…。
猫って脇目もふらず突っ走るからねー。私もひやひやしたこと何度もあるわー。
(2006年10月14日 09時08分29秒)

Re:★くつしたの生い立ち ~悲しい再会~(10/13)  
人の人生の中で・・猫たちとの出会いもまた、涙あり笑いありのドラマですよね。
心に残る猫たち私も思い出としてそっと・・しまってありますよ~。思い出すとキュンとしてしまうこともあるもん~。(=^・^=)
その後のお話 楽しみです!(^^♪ (2006年10月14日 12時08分07秒)

Re:のりりんGOさん  
>猫って脇目もふらず突っ走るからねー。私もひやひやしたこと何度もあるわー。

■用心深いようで、いざとなると周りが見えなくなるんですよね。
 ほんと、車の通るとこには行かないで欲しいです。 (2006年10月14日 17時15分15秒)

Re:クロージョーさん  
>心に残る猫たち私も思い出としてそっと・・しまってありますよ~。思い出すとキュンとしてしまうこともあるもん~。(=^・^=)

■自分の中で美化されてる記憶も結構あって、
 今回あらためて書き起こしていると、私 何にもしてやれてなかったんだな…
 と反省することだらけでした。 (2006年10月14日 17時17分51秒)

Re:★くつしたの生い立ち ~悲しい再会~(10/13)  
みやっちや  さん
こんばんは!
すごく読みごたえあります!色んな出来事があったんですね。
こういう話に弱いんですよ・・・。
でも続き聞きたいですね^^ (2006年10月14日 21時46分38秒)

Re:★くつしたの生い立ち ~悲しい再会~(10/13)  
こういう出会いで、どう思うかは人それぞれありますよねっ・・・ただ通り過ぎる人、見守る人・・・野良猫も一生懸命生きてる命のひとつですよね。こういう体験を大切に心に閉まっておく事も大事な事だなぁって思いますよ。。。 (2006年10月14日 22時20分57秒)

Re:★くつしたの生い立ち ~悲しい再会~(10/13)  
me-co さん
はじめまして、me-coと申します。
トラコミュへのTBありがとうございました!!
お話、心にグッときました。
野良猫に対して自分は何ができるか。
とても、考えさせられました・・・。 (2006年10月14日 23時10分19秒)

Re:★くつしたの生い立ち ~悲しい再会~(10/13)  
akanekobee  さん
まだ私が結婚する前、実家に住んでいた頃にも、頼ってくる(利用しにくる?)野良猫たちがいたのですが、いろいろな出来事がありました。
いまだ生き残っている猫がいますが、その猫はいつの間にか部屋猫になっています。(いまだ健在)

猫でも人でも、縁があって出会ったり、離れたり、いろいろですね。 (2006年10月14日 23時24分19秒)

Re:★くつしたの生い立ち ~悲しい再会~(10/13)  
未々子  さん
やっぱり一年前の子だったのでしょうか・・それにしても外猫には厳しい現実が立ちはだかっているのですね。野良猫の平均寿命は2歳だと聞いたことがあります。病気、怪我、事故によるものだそうです。 (2006年10月14日 23時48分41秒)

タマ~~~~~~~(>_<)  
こうゆうお話ダメです。
泣いてしまいました(>_<)
ニャンコは、どうしてよく車にひかれてしまうのでしょう・・・・・・・・(T_T)
母ネコの愛情はすごいものですね。
(2006年10月15日 00時13分23秒)

Re:★くつしたの生い立ち ~悲しい再会~(10/13)  
道路で目を覆いたくなるようなネコちゃんの姿、時々見かけます。
野良猫は長生きできない。
勿論、病気だったり事故だったり色々なんでしょうけど。
複雑な思いに駆られますね。

昔大人になった野良猫を飼った事があるんですけど、飼い猫と違って大変でしたね。
おしっこも決まった所でできないし、いつも警戒している感じ。
結局、家出してしまいました。
猫にとっては、暖かくてゴハンに不自由しないところの方がいいと思ってたのに・・・。
難しいですね。
どちらにしても、やっぱり野良ちゃんはかわいそう。
少しでもかわいそうな猫ちゃんが減る事を願って止みませんね。
(2006年10月15日 01時42分55秒)

Re:みやっちやさん  
>こういう話に弱いんですよ・・・。
>でも続き聞きたいですね^^

■前回、期待を持たせるような終わり方だったので
 悲しい話でがっかりさせてしまうかな…と
 書き方をちょっと悩みました。
 でも今後は、楽しい展開になるはず!です。
(2006年10月15日 23時01分51秒)

Re:熱帯うーりんさん  
>野良猫も一生懸命生きてる命のひとつですよね。こういう体験を大切に心に閉まっておく事も大事な事だなぁって思いますよ。。。

■人間の近くに野良猫がいて、そこが車の通らない静かな島でもない限り、
 やっぱりこういうことは絶えないでしょうね…。
 だからといって、当たり前 とは思いたくないですよね。
 少しでも、何か感じられる自分、そしてみんなであって欲しいです…。
(2006年10月15日 23時07分52秒)

Re:me-coさん  
>お話、心にグッときました。
>野良猫に対して自分は何ができるか。
>とても、考えさせられました・・・。

■ご訪問、ありがとうございます!
 野良猫・捨て猫を扱った素敵なテーマだったので参加させて頂きました。
 すべての猫たちに“いい縁”があればいいですが、
 せめて安心して暮らしてくれれば、と思います。 (2006年10月15日 23時12分53秒)

Re:akanekobeeさん  
>いまだ生き残っている猫がいますが、その猫はいつの間にか部屋猫になっています。(いまだ健在)

■それは素敵ですね♪
 外での苦労を体験しているからこそ、
 余計にいま幸せなんじゃないでしょうかー。
 長生きするといいですね。 (2006年10月15日 23時15分23秒)

Re:未々子さん  
>野良猫の平均寿命は2歳だと聞いたことがあります。病気、怪我、事故によるものだそうです。

■そうなんですか、知らなかったです。
 確かに、生まれても大人になれるかどうかは難しいようですね。
 どんどん生まれて数が増えてしまうのも困りますが、
 そんな短い一生は、やはり可愛そうですね…。
(2006年10月15日 23時20分24秒)

Re:やっちゃん43831さん  
>こうゆうお話ダメです。
>泣いてしまいました(>_<)

■ごめんなさいね~…。
 なんか悲しい話のダブルパンチになってしまうので、
 タマの話は書かないでおこうかとも思ったのですが、
 やはりそのとき私が感じたこと、思い出したことを
 そのまま書きました。
 つらい思いをさせてしまって、すみません。 (2006年10月15日 23時23分22秒)

Re:おじゃがイモさん  
>昔大人になった野良猫を飼った事があるんですけど、飼い猫と違って大変でしたね。
>おしっこも決まった所でできないし、いつも警戒している感じ。
>結局、家出してしまいました。

■幼い頃に相当苦労した子だったんでしょうか。
 ある程度 大きくなってしまうと
 そのネコにとっての幸せって何が一番なのか、
 定義はできないんですね…。
 ネコたちがそんな辛い選択をしなくてすむように…願います。 (2006年10月15日 23時31分28秒)

くつしたの生い立ち ~悲しい再会~  
やばい・・・なんだか目が潤んでしまった・・・

一人でよかった・・

なんだか切ない・・切なすぎるよ・・・

(2006年10月16日 00時29分07秒)

Re:あのときの猪木さん  
>一人でよかった・・
>なんだか切ない・・切なすぎるよ・・・

■一人で過ごす楽しい時間、ブルーにしてしまって
 すみませんです…。
 こんな切ない思いをしなくてすむよう、
 あのときの猪木さんは お子さんに幸せなものばかり見せてあげて下さいね。
(2006年10月16日 02時19分40秒)

Re:★くつしたの生い立ち ~悲しい再会~(10/13)  
あずKing  さん
写真だけでなく構成も上手で羨ましいです。
貴方の複雑な感情が伝わります。
自然界だって生きていく為の生死をかけた戦いがある。私達だって動物性タンパクを摂取してるわけで..解ってても何だか気持ち複雑になるんですよね↓ (2006年10月16日 11時11分35秒)

Re:あずKingさん  
>自然界だって生きていく為の生死をかけた戦いがある。私達だって動物性タンパクを摂取してるわけで..解ってても何だか気持ち複雑になるんですよね↓

■だからこそ、交通事故のような
 自然の生存競争とは関係の無いことで
 命を落としてしまうことは、人間の責任だと思います。

 悲しい思いをさせて、ごめんなさいね。 (2006年10月16日 15時13分25秒)

富士市の公園で紫陽花と子供達が空に舞い上がる  
智太郎 さん
動物を捨てることは犯罪です!捨てたら罰金50万円以下で虐待したら100万円以下の罰金という看板を見つけました。 (2011年06月17日 21時17分47秒)

◆智太郎さん  
◆知っていますよ。
 看板に書かれなくても、法律や条令で決められていますね。
 正論だけを言えば、飼えない動物には手を出さない。
 たとえ見殺しにすることになっても。ですね。

(2011年06月17日 22時56分58秒)

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