inti-solのブログ

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2009.11.01
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テーマ: ニュース(95879)
カテゴリ: その他
この種の事故はたいてい単一の要因ではなく、複合要因で起こるものですが、案の定というか、韓国のコンテナ船カリナ・スター号の前方を航行していた貨物船(パナマ船籍のクイーン・オーキッド号、9046トン)にも問題があったらしいことが分かってきたようです。

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/131703

関門海峡で海上自衛隊護衛艦「くらま」と韓国籍コンテナ船「カリナ・スター」が衝突した事故で、直前までコンテナ船の前方の航路中央付近を航行していたパナマ船籍の貨物船「クイーン・オーキッド」(9046トン)に、関門海峡の航行規則違反の疑いがあることが30日、第7管区海上保安本部(北九州市)の調べで分かった。7管は、低速の貨物船が航路中央付近を進み続けたため、コンテナ船が管制の誘導に反して、衝突寸前まで右側から追い越す航路をとり続けた可能性があるとみている。
港則法の施行規則は、関門海峡では「できる限り航路の右側を航行する」と規定。罰則はない。
7管によると、衝突の数分前、7管の関門海峡海上交通センター(北九州市)はコンテナ船に貨物船を左から追い越すよう誘導。だが、コンテナ船は減速せず、誘導とは違う右から追い越すコースをとり続けた。関門橋の下付近で貨物船が減速しながら右に進路変更し始めたため、貨物船の船尾右側に位置していたコンテナ船は追突を避けようと左へ急旋回。前方から直進してきたくらまと衝突したとみられる。
7管の幹部は「狭い関門海峡で航路中央を航行するのは危険な場合もあり、今回の貨物船の航行には疑問が残る。ただコンテナ船がいったん減速し、海峡を過ぎてから追い抜いていれば衝突は避けられたかもしれない」と指摘している。
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つまり、先行する貨物船が航路中央よりを航行して、後続するカリナスター号に対して、いわば「道を譲らなかった」ことも事故の一因になったようです。関門海峡海上交通センターが「左側を追い越すように」と助言したこと(これも、交信記録によれば、先行する「クイーン・オーキッド」から「左側を追い抜いて」という要望を受けてのことだったようですが)も事故の一因になったようです。


によると、この「助言」が助言なのか指示なのかを巡って海上保安庁と韓国船が「対立」しているそうですが、まあ普通に考えて国家機関である海上保安庁が「左を追い越してください」と「助言」したら、その助言に法的に強制力があるか否かは別にして、従うだろうなあと思います。海保自身も、この助言が事故の一因になったことは否定しない、とのことです。
上記リンク先によれば、交信記録は以下のとおりです



センター→貨物船「C号(韓国船)が接近している。注意してください」
貨物船→センター「了解。左側を追い越させます」
センター→貨物船「航路の中央付近を航行しているので右側に寄ってください」
貨物船→センター「了解。右に避けます」
センター→韓国船「貨物船が右側に移っています。左側を追い越してください」「前方に自衛艦が接近しているので注意してください」
韓国船→センター「了解。左側から追い抜きます」
センター→韓国船「カリナスター、注意してください。注意してください」
センター→韓国船「カリナスター、カリナスター」
護衛艦→センター「関門マーチス(センター無線局の呼び名)、こちら自衛艦くらま」
センター→護衛艦「C号が貴船に異常に接近しているようです。避けてください」

 …………<午後7時56分、衝突>…………


 ※センターと護衛艦との会話は日本語、その他は英語
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もっとも、記事によれば、「東西どちらへ向かう船も「圧流」と呼ばれる潮流で、下関側へ押し流される傾向がある。」とのことなので、先行する「クイーン・オーキッド」も意図に反して左(下関側)に押し流されていた、という可能性もあるのかも知れません(ただし、後述しますが事故当時の潮流はそれほど強くはなかった可能性が高いと思われます)。
もちろん言うまでもなく、事故を起こしたカリナスター号が減速しなかったことも事故の一因でしょう。

関門海峡の潮流の速さを指摘する記事は多いですが、肝心の事故当時の潮の流れがどうだったのかは触れられていません。それで、計算してみました。
気象庁の潮位表
http://inetsv.jodc.go.jp/KAN7/kisya/14nen/siryou2.jpg
によると、関門海峡の潮流は、干潮時は西→東、満潮時は西←東の潮流が最大になるとのことですから、事故当時は潮目が変わる少し前で、潮流は弱かった(わずかに西←東の潮?)可能性が高いように思います。(計算だけからはじき出しているので、確実ではありません)

結局のところ、事故を起こしたカリナスター号、先行する貨物船、関門海峡海上交通センター(海上保安庁)の指示、この三者それぞれに過失があるように思われます。そのいずれが最大要因だったのかは、おそらくこれから明らかになっていくのでしょう。
一方、護衛艦くらまは、回避操作が妥当だったかどうかまでは分かりませんけれど、いわば反対車線から対向車が飛び込んできたようなものですから、現段階では過失がありそうな感じではありません。

ところで、上記毎日新聞記事のタイトルには、少々違和感があります。
「クローズアップ2009:関門海峡事故 「助言」か「指示」か 7管と韓国側対立」
7管というのは海上保安庁第7管区海上保安本部のことですが、それと「対立」しているのはカリナスター号、あるいはその所属する南星海運であって、韓国という国と対立しているわけではないでしょう。もしそれを「韓国側」と書くなら、7管も「日本側」でしょう。
それに、対立というと両者が論争を繰り広げているような印象ですが、記事を読めば、実際には単に両者の言い分が食い違っている、というだけのことです。そして、法的には海上保安庁側の言い分が正しい。「助言」に法的に拘束力はないと法律上そう決まっているなら(条文までは確認していませんけど)そのとおりでしょう。ただし、実質的には違うと思われます。法的には従う義務がなくても、海上保安庁という国家機関(海の上の警察)が「助言」を行えば、実質的には指示のようなものと受け取られるのは当然でしょう。
例えば、警察が容疑者と目星をつけた人物に任意同行を求めることがあります。あれは「任意」であって従う義務はありません。職務質問も同様です。しかし、法的にはそうなっていても、実質的には任意同行を求められたとき、職務質問を受けたとき、それを拒否することはかなり難しい。つまり、実質的には半強制に近いわけです。
いずれにしても、天下の毎日新聞すらこんな見出しを掲げるくらいですから、ネット上では「韓国が悪い」みたいな勘違い書き込みが多いのも仕方がないかも知れません。カリナスター号に事故の責任の(少なくとも、その一部)があることは確実です。あるいはその船主である南星海運に責任があるという言い方もできるでしょう。しかし、韓国政府がチャーターしたというのでない限り、一民間企業の責任は政府の責任ではないでしょう。逆にもし日本の船会社の船が海外で事故を起こしたら「日本が悪い」ことになるんでしょうか?海上保安庁や海上自衛隊は、れっきとした国家機関ですから、海上保安庁が悪い=日本政府が悪い、という言い方も、局面によってはあり得るとは思いますが、今回の事故でそういう国と国という枠組同士で「どっちが悪い」と言い合うことに意味があるようには思えません。

全然違う話ですが各種新聞記事を読むと、大半の新聞が
貨物船クイーン・オーキッド(9046トン)
コンテナ船カリナ・スター(7401トン)
護衛艦くらま(5200トン)
という書き方をしています。
しかし、実際には護衛艦(軍艦)と民間商船では、重さのはかり方の基準が違います。「くらま」のトン数は基準排水量であり、 カリナスターのトン数 は総トン(厳密には国際総トン)です。クイーン・オーキッドも、確認していませんが貨物船なので、トン数は国際総トンと思われます。

総トンというのは商船に使われる基準で、大雑把に言えば船の中の荷物を積める容積を表した指標です。100立法フィートを1トンとして計算するようです。従って、実際に荷物を積んでいようが積んでいまいが、総トン数は変わりません。写真で見る限り、カリナスターはコンテナを満載しているので、総トン数どおりの重さがあったのではないかと思いますが。

一方、排水量とは軍艦の重さに基準で、満タンに水を張った水槽に船を浮かべたとして、押し流される水の量です。言い換えるなら、喫水線より下の部分の容積に相当する水の重さ、ということになります。総トン数とは違い、船の積み荷の状態次第で排水量は変わってきます(潜水艦に至っては、積み荷が同じでも浮上時と潜航時で排水量は変わります)。
基準排水量とは、その船が一切何の荷物(軍艦ですから荷物は積みませんが、燃料や水、砲弾など)も積んでいない状態での排水量です。一方、燃料、水・武器弾薬など必要な荷物を全て搭載した状態での重さは満載排水量と呼びます。
基準排水量は、第二次大戦前にワシントン軍縮条約の際に採用された単位ですが、現在ではほとんどの国の海軍は、軍艦の重さを満載排水量で示しています。ところが、その中でかたくなに軍艦の重さを基準排水量でしか公表しない国があります。それが我が日本(軍艦ではなく護衛艦ですが)。護衛艦の大きさを何とか小さく見せかけようという、涙ぐましい努力なのでしょうか。そんなことをしても、軍艦の燃料や水、弾薬の搭載量は一定の法則があるので、基準排水量が分かれば満載排水量も概ね推定可能なのですが。
護衛艦くらまの基準排水量は5200tですが、満載排水量は6800t程度と推定されています。
というわけで、何トンとかいてあっても軍艦と商船ではその基準が違うので、必ずしも5000トンの軍艦より7000トンのコンテナ船の方が大きい、とは限らないので注意が必要です。





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最終更新日  2009.11.01 19:28:17
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