inti-solのブログ

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2011.12.29
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カテゴリ: その他
実は、先日公開されたばかりのこの映画を見てしまったのです。


はっきりいって、面白くなかった。映画の主張がどうこうとか、時代考証や戦史の描き方がどうこうという以前に、とにかく映画として面白くなかったのです。途中から退屈で、早く終わらないかなと思ったのですが、これがまたやたらと長い映画で、上映時間は多分2時間半くらい。もし無料招待券で見ていたら、確実に途中で席を立ったところですが、何と当日券を買って入ってしまったために、うんざりしながら最後まで見てしまいました。

何でこんなに面白くなかったんだろうかと、後で色々考えてみました。致命的なのは、戦闘シーンに迫力がまったくないことです。真珠湾攻撃でもミッドウェー海戦でも、描き方があまりにあっさりしている。まあ、山本五十六自身は真珠湾でもミッドウェーでも戦闘の現場に立ち会ってはいないので、「山本五十六を描いた映画」のなかでは、それらの戦闘シーンは添え物程度でよい、ということなんでしょうかね。
じゃあ、肝心の山本五十六という人物の描き方はというと、美化しすぎ。まるで聖人君子のようで、実在感がないのです。道徳の教科書を映像化したような人物像では、おもしろみなんかあるはずもない。
山本五十六がギャンブル好きであったことは映画でも一応は触れられていますが、描写としてはさほどギャンブル好きなようには見えません。実際のところはかなり強烈なギャンブル狂だったようです。だから、真珠湾攻撃にしてもミッドウェー海戦にしても、山本の作戦は投機的な性質が強い。
家族思いであったという描写もありました。それも事実ではあるでしょうが、一方で愛人を囲っていた(それも1人ならず)事実もあります。しかし、そちらの方は映画には描かれていません。

そもそも、長野修身や及川古志郎、南雲忠一その他大勢の高級軍人(主に艦隊派とされる人々や海軍省、軍令部のエリート)は悪玉、新聞は戦争を煽るだけの存在で、一般国民はその煽りに載せられて流されるだけの存在、正しいのは山本と、その同調者である井上成美、米内光政、既に海軍を追われていた堀悌吉らだけ、という描き方もどうかと思います。
要するに、使い古された「海軍善玉論」の変形版です。さすがに、海軍全体を善玉扱いするのは、もはや無理だから、海軍内の「良識派」だけを善玉にする作戦ということでしょうか。でも、それもここまで露骨だと、リアリティーが感じられません。


加えて、時代考証や戦史の描き方にも変なところがいっぱいあります。
すぐに違和感を感じるのは、「船の上のシーンなのに揺れていない」ことです。艦内シーンも、CGで作られた洋上を進む艦隊も揺れていない。どれだけ凪いだ内海を走っているんだよって感じです。さらに細かいことを言えばきりがないけど、零戦が無線を駆使して戦っている(当時の日本の無線は品質が大変低く、特に零式艦戦の航空無線は、まったく実用にならない代物だった)、ミッドウェー海戦の、もはや破綻した「運命の5分間説」※2にまだ固執している。空母の格納庫内が余裕たっぷり(実際には格納庫内には飛行機をぎっしり押し込まないと、60機70機という艦載機は搭載できない)、一般社会の食糧事情の描き方が変(太平洋戦争開戦の時点で、既に食糧事情は相当悪化していたし、「贅沢は敵だ」というキャンペーンは1939年には既にあった)、などなど、首をかしげるところがいっぱいありました。

※1 この映画の原作・監修者である半藤利一は、しかし山本五十六はそんなに米国のことを知らなかったのではないかと言っています。「たとえば、山本五十六はアメリカに留学したからアメリカをよく知っているだろうという人が多いんですが、私は、山本さんはアメリカをあんまり知らなかったと思うんですよ。なぜそう言えるかといえば、簡単なんです。彼にはお友達がいないんですよ、アメリカ人のね。」(「日本海軍はなぜ誤ったか 海軍反省会400時間の証言より」岩波書店P79)

※2 運命の5分間説、ミッドウェー海戦で日本側の3隻の空母が、米軍の爆撃で次々と炎上したとき、各空母は攻撃隊を発艦させている最中だった、だから、爆撃があと5分遅ければ攻撃隊は出撃していた(日本が勝てたかもしれない)のに、という説。もともと言い出したのは、草鹿龍之介(第1航空艦隊参謀長)と淵田美津雄(空母赤城飛行長)らしいのですが、これに敢然と異を唱えたのが、ノンフィクション作家の澤地久枝。生存者からの聞き取り調査で、実際には攻撃隊の発艦準備はまだまったく整っていなかったことを明らかにし、現在ではそれが定説になっています。しかし、この映画では未だに「攻撃隊の発艦が始まった直後に爆撃された」という表現になっています。





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最終更新日  2011.12.29 14:51:34
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