inti-solのブログ

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2012.12.01
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カテゴリ: 政治
最低賃金廃止、橋下氏「雇用狙い」 維新公約に波紋
日本維新の会代表代行の橋下徹大阪市長は30日、維新の政権公約「骨太2013~2016」に盛り込んだ「最低賃金制の廃止」について、雇用の創出が狙いだと説明。「ハードルを課せば、最低賃金を出せない企業や、本当ならあと2、3人雇えるのに1人しか雇えないという企業もある。できるかぎり多くの雇用を生み出したい」と述べた。市役所で報道陣に語った。
一方で、収入が一定水準を下回る人については、所得税を免除し、逆に国が一定額を給付する「負の所得税」の考え方を導入し、国が最低限の収入を保障する考えを表明。最低限の収入の水準については「専門家が意見を出して制度設計する話。今の段階で出せない」として明示せず、「今の生活保護の支給基準は高すぎるところがある。負の所得税的な考え方では、水準は下がる」とも述べた。
ネット上では、維新が公約に明記した「最低賃金制の廃止」について書き込みが相次いでいる。「労働する国民を奴隷化するものだ」「望むのは財界だけだろう」との批判の一方、「反対が出るだろうが、一石を投じるのは悪くない」と理解を示すものもある。

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最低賃金撤廃とは、恐れ入った主張です。
最低賃金という制度は、最低賃金法第1条によれば

賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

という目的で制定されています。それを廃止するということは、使用者側がどれだけ労働条件を切り下げるのも自由で、労働条件の改善や労働者の生活の安定を図る必要はないと、政府が公言するに等しい行為でしょう。
「ハードルを課せば、最低賃金を出せない企業や、本当ならあと2、3人雇えるのに1人しか雇えないという企業もある。できるかぎり多くの雇用を生み出したい」というのは、どう考えても詭弁としか思えません。単純に人件費を安く抑えるだけで雇用を増大させない企業のほうが、圧倒的多数であろうと思われます。

ちなみに、東京都の最低賃金は現在時給850円です。週40時間年52週働いたとして、176万8千円、月給に換算すると14万7333円にしかなりません。しかも、そこから所得税を引かれ、社会保険料を引かれる(または、国民健康保険と国民年金の保険料を自分で払う)わけで、まさしく生活できるギリギリの金額といわざるを得ないでしょう。
私は、最初に勤めた会社(約20年前)での手取りの給料が、確か最初は14万円弱で、年1万円ずつくらい上がって、退職するときには17万円くらいでした。就職して2年目の終わり頃、手取り15万円くらいのときに風呂なし家賃38000円のアパートで一人暮らしをはじめたのですが、当初は月々の給料では貯金を残すことができませんでした。正社員だったのでボーナスはあり、それを貯金として残すことはできましたが。その当時、すでにフォルクローレの演奏もやっていたし、年1~2回程度山登りにも行っていたので、ものすごい節約生活ではありませんでしたが、浪費していたわけでもありません。
手取り15万でもそうなのだから、手取りではなく額面支給額が14万7千円となると、本当にギリギリの生活ということになります。それを更に引き下げる、そんな給料で人を雇うことを放置してよい、とは私には思えないのです。

最低賃金は都道府県ごとに違いますが、「最低賃金より生活保護基準のほうが高い」という逆転現象が起こっている地域もあります(生活保護基準も、地域ごとに違う)。東京は数字の上では逆転していませんが、税金や健康保険料、さらに生活保護では就労収入に基礎控除が認められていることも考慮すると、実質的には東京を含めてどの都道府県でも、最低賃金と生活保護基準(単身で家賃が基準上限いっぱいの場合)は逆転しているに等しいと思われます。


「一方で、収入が一定水準を下回る人については、所得税を免除し、逆に国が一定額を給付する「負の所得税」の考え方を導入し、国が最低限の収入を保障する考えを表明」だそうですが、今だって生活保護受給者の急増が問題になっているのに、こんなことをやったら財政負担はどんなことになるのでしょうか。まったく恐れ入った主張と思わざるを得ません。

追記1
この件について、内田樹がなかなかいいことを書いています。(彼がブログで主張していることのすべてに賛同というわけではありませんが、この件に関してはまったく賛成)



「同一労働で一番安い賃金」が適正賃金であり、それよりよい条件で働いている労働者はそれに「揃えるべきだ」という議論が当たり前のように口にされるようになったのは、ほんのここ十年のことである。
それまでは誰も「そんなこと」を言わなかった。
そんな近過去のことも人々は忘れている。ずっと昔からこのルールでやってきたような気分になっている。
それを見ると、「人件費を切り下げることが国家的急務である」ということについては、どうやら思惑通りに国民的合意ができつつあるようである。
(中略)
もちろんその結果、国内の市場は冷え込み、内需は崩壊し、地域経済も衰退し、社会保障支出が増え、社会不安が亢進し、遠からず国民国家はその体をなさなくなるだろうけれど、そんなことはビジネスマンには「知ったことじゃない」のである。
彼らにとっては次の四半期の収支と株価だけが問題なんだから。
そういう目的に邁進するべく制度改革をしたいという政治家がわらわらと輩出し、それに拍手喝采する人々がいる。
いったい何を考えているのだろう。
たぶん日本の国民経済が崩壊しても、「時給267円で働く労働者を搾取できたおかげで、国際競争に勝ってフェラーリに乗ってドンペリを飲んでいる超富裕層」の一員になっている自分の姿を想像しているのだろう。
たしかに、そういう「いい思い」をする人が何万人か何十万人かは、これから出てくるだろう。
でも、それは「あなた」ではない。
これは私が保証してあげる。


追記2
この内田樹のコラムに対して、池田信夫がこんな批判を書いています。

内田樹氏の知らない最低賃金制度
最賃がすでに雇われている労働者の賃金を上げる一方で、労働市場から締め出されている人々の雇用を奪うことは実証的にも明らかだ。維新の会が提唱している解雇規制の緩和も同じで、こうした規制は労働者保護ではなく労組の既得権保護のためにあるのだ。内田氏が守ろうとしているのも、今のんびり働いている地方公務員のような労働者の既得権だが、その規制によって多くの若者の雇用が失われることには気づいていない。
私も中小企業を経営しているが、社員は全員委託契約だから、最賃も解雇規制も無関係だ。最賃が適用されるような雇用契約をしているIT企業はまずない。ほとんどの労働者はオフィスにも出てこないでPCで作業しているので、時給という概念もない。一般の製造業でも、最賃や解雇規制を守っているのは大企業だけで、そういう規制を強化すると大企業が雇用を減らし、契約労働者が増えるだけだ。

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「ほとんどの社員がオフィスに出てこない」業界をさも一般論のように語っても意味がないのです。そんな業態、勤務体系は非常に稀な例ですから。
低賃金で働いている人の大部分は、清掃やスーパー、ファストフード、飲食店、コンビニや宅配の配送センター等々で、時給いくらのパートやアルバイト。もちろん、大企業ばかりではありません。そういう、大多数の非正規労働者にとって最低賃金は意味があるし、彼らの労組加入率は非常に低いので、労組の既得権保護なんて、まったく無関係なのです。
もちろん、雇われている本人の既得権保護ではあるでしょう。でも、一番高い東京都の最低賃金が時給850円、一番低い島根県・高知県は652円です。この程度のささやかな「既得権」すら剥ぎ取って、その後に何が残るのでしょう。「健康で文化的な最低限度の生活」水準を維持する給料を「既得権」というなら、これはもう人間としてまっとうな生活水準で生きること自体が既得権だ、という話になるわけで。
しかも、最低賃金より、おそらく高い収入を得ているであろう人が、最低賃金を既得権と批判する図というのは、かなりグロテスクなものを感じます。





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最終更新日  2012.12.02 09:58:41
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