inti-solのブログ

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2014.01.30
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カテゴリ: 政治
年頭にあたり 「あたり前」を以て人口減を制す


日本の人口は昨年の10月1日で1億2730万人となりました。すでに8年前から減少に転じて、今のところ毎年20万人ほど減り続けています。

だからといって何が怖いのか、と首をかしげる人も多いでしょう。戦後急に増えすぎた人口がもとに戻るだけではないか。毎年20万人減れば百年後には1億そこそこの人口になってちょうどよいのではないか--そう考える方もあるでしょう。しかし、そういう単純計算にならないというところが人口減少問題の怖さなのです。
今の日本の人口減少は飢餓や疫病の流行などでもたらされたものではありません。出生率の低下により、生まれてくる子供の数が減ることによって生じている現象です。子供の数が減れば、出産可能な若い女性の数も減ってゆく。
(中略)
単純に、人口不足の国が人口過剰の国から人間を調達するなどということはできません。またもし仮にできたとしても、人口の3分の2を海外から調達している日本を、はたして日本と呼べるでしょうか? わが国の人口減少問題は、わが国が自国内で解決するほかないのです。
ではいったい、この問題をどう解決したらよいのか? 実は、解決法そのものはいたって単純、簡単です。日本の若い男女の大多数がしかるべき年齢のうちに結婚し、2、3人の子供を生み育てるようになれば、それで解決です。
実際、昭和50年頃まではそれが普通だったのです。もちろん一人一人にとってそれが簡単なことだったというわけではありません。いつの時代でも子育てが鼻歌まじりの気楽な仕事だったためしはないのです。しかし当時は、私も近所のお母さんたちもフーフー言いながら2、3人生み育てていた。それがあたり前だったのです。
もしこのあたり前が、もう一度あたり前になれば、人口減少問題はたちまち解決するはずです。ところが、政府も行政もそれを大々的に国民に呼びかけようとは少しもしていない。そんなことをすると、たちまち「政府や行政が個人の生き方に干渉するのはけしからん」という声がわき起こってくるからです。

でもこれは全くおかしな話です。というのも、以前のあたり前を突き崩し、個人の生き方を変えさせたのは、まさに政府、行政にほかならないからです。
たとえば平成11年施行の「男女共同参画社会基本法」の第4条を見てみますと、そこでは「性別による固定的な役割分担」を反映した「社会における制度又は慣行」の影響をできるだけ退けるように、とうたわれています。どういうことなのか具体的に言えば、女性の一番大切な仕事は子供を生み育てることなのだから、外に出てバリバリ働くよりもそちらを優先しよう。そして男性はちゃんと収入を得て妻子をやしなわねばならぬ--そういう常識を退けるべし、ということなのです。
実はこうした「性別役割分担」は、哺乳動物の一員である人間にとって、きわめて自然なものなのです。妊娠、出産、育児は圧倒的に女性の方に負担がかかりますから、生活の糧をかせぐ仕事は男性が主役となるのが合理的です。ことに人間の女性は出産可能期間が限られていますから、その時期の女性を家庭外の仕事にかり出してしまうと、出生率は激減するのが当然です。そして、昭和47年のいわゆる「男女雇用機会均等法」以来、政府、行政は一貫してその方向へと「個人の生き方」に干渉してきたのです。政府も行政も今こそ、その誤りを反省して方向を転ずべきでしょう。それなしには日本は確実にほろぶのです。

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ネット中では、この文章が結構話題になっているようです。何しろ、かのNHKの経営委員の意見ですからね。私に言わせれば、論者の名前と記事のタイトルを見ただけで内容が予想でき、かつその予想をまったく裏切らない中身だな、と思いますね。

結局、この人の言いたいことの根本は、「女性の一番大切な仕事は子供を生み育てることなのだから、外に出てバリバリ働くよりもそちらを優先しよう。そして男性はちゃんと収入を得て妻子をやしなわねばならぬ」という部分なのでしょう。
しかし、そんな価値観に回帰して、出生率が向上することなどあり得ないと、私は確信しています。そもそも、「男性はちゃんと収入を得て妻子をやしなわねばならぬ」って、そんなことは日本の経済状態や雇用環境に左右される問題であって、個人の努力で何とかなる問題ではありません。それとも、長谷川が日本社会のために給料のよい仕事をたくさん提供してくれるのでしょうか。

長谷川は、昭和50年(1975年)頃までは既婚女性の大半が専業主婦だった、という思い込みがあるようですが、それは事実に反します。
歴史的に見て、専業主婦は江戸時代以前の一般庶民には、まず存在しませんでした。いたとすれば、武家、それもある程度裕福な人に限られたでしょう。貧乏武士は、妻だって働かなければ喰っていけなかった。
専業主婦が増加したのは、明治以降、いや、実際にはもっと新しい時代かもしれません。基本的に、農家で妻が農作業に携わらない、なんてことはあり得ませんから。
検索したところ、興味深い資料に行き当たりました。

既婚女性の労働
この3ページ目(紙面上は171ページと書いてある)に、有配偶女子就業率(全国)というグラフが載っています。つまり、既婚女性の就業率です。

長谷川の頭の中では、おそらく1975年頃までの日本はずっと専業主婦が多く、それ以降専業主婦が減ったということになっているのでしょう。しかし実際は、専業主婦がどんどん増えて、そのピークが1975年、それ以降は再び減少している、ということなのです。
そして、その1975年でも、25歳から34歳までの既婚女性(その当時は、まずたいていは小さな子どもを抱えていたはずです)の就業率は1/3を超えていたし、1940~50年代には、5割に近かったのです。

また、同じ資料に、別の興味深い統計が載っています。
6ページ(記事中には174ページとある)に、地域別の就業率が載っています。全国平均が5割を越えている中で、実は東京、大阪などの大都市圏の既婚女性の就業率は、全国平均以下です。一方、既婚女性の就業率が全国平均より高いのは、山形、福井、鳥取、島根、富山などとなっています。
さて、一方合計特殊出生率を都道府県別に見ると、どうでしょうか。
2011年の数値ですが、 こちらのサイトにグラフ がありました。
全国平均が1.39(2012年は1.41)に対して、既婚女性の就業率が一番低い方から順番に、大阪1.30、奈良1.27、神奈川1.27、東京1.06、埼玉1.28と、合計特殊出生率は全国平均以下です。
一方、既婚女性の就業率が高い方から順番に、山形1.46、福井1.56、島根1.61、富山1.37、鳥取1.58です。富山だけは合計特殊出生率が全国平均を下回りますが、それ以外はすべて全国平均以上です。なお、合計特殊出生率が突出して高い沖縄は、既婚女性の就業率はほぼ全国平均並です。
したがって、この数値からは、長谷川の思い込みとは逆に、むしろ既婚女性の就業率が低い地域ほど女性は子どもを産まない、という結果になっています。

もっとも、この資料からは別の結果も読み取れるでしょう。大都市圏ほど合計特殊出生率が低い、都市化されていない地域ほど出生率が高い(既婚女性の就業率も同様の傾向)ということです。

でも、中国の文革時代の下放じゃあるまいし、どんなトンデモな政治家でも、今の時代に都市の住民を無理やり田舎に移住させる、なんてことはやらないし、できるはずもありません。

「人口不足の国が人口過剰の国から人間を調達する~ことはできません。」
とあります。確かに、出生率の高い国から移民を受け入れることは解決策にならないことは事実です。でも、その理由が「はたして日本と呼べるでしょうか?」というのは、なんの理屈にもなりません。少子化問題を論じるのに、この底の浅さは何なのかなと思います。
出生率の高い国から移民を受け入れることが解決策にならないのはなぜかと言うと、諸外国の例から見て、たいていの場合は移民の出生率が最初は高くても、やがて、元々の住民と同水準まで低くなってしまうからです。(唯一の例外は米国のヒスパニック系)

男女共同参画社会基本法についても何か書いていますが、これは、行政が主導して「性別による固定的な役割分担」を変えたのではなく、社会のなかで「性別による固定的な役割分担」が変わってしまった現実に、遅ればせながら行政が対応した、ということにすぎません。この法律が制定されたのは1999年ですが、先の資料が示すように、それより20年も前から既婚女性の就業率は上昇し続けているのですから。


私の知る限り、哺乳類で(いや、別に哺乳類に限らないのですが)、エサ取りはオスだけがやる、メスは子どもの世話だけに専念する、なんて動物はいません。
だいたい、人間のような一夫一妻という家族構成をとる動物は、鳥類には非常に多い(ただし、繁殖期以外は「夫婦」はバラバラで、したがって繁殖期の度にパートナーが変わるのが一般的)ですが、哺乳類では多数派とはいえません。
とりわけ、人類に最も近い動物である類人猿には、人間と同じような一夫一妻の「夫婦」を常時維持している動物はいませんから、人間の家族の形を哺乳類一般に当てはめて、「自然」とか「自然ではない」なんてのは、そもそも無意味な話です。
人間に最も近いチンパンジーとボノボは、複数の雌雄同士が群れをつくり、いわば乱婚の状態です。ゴリラは一夫多妻。じゃあ、人類の「自然」にあわせて乱婚や一夫多妻にしますか?あり得ないことでしょう。

産経新聞が、イデオロギーを優先して粗雑な論文を掲載しがちなのは、今に始まった話ではないけれど、こんなのがNHKの経営委員で、しかも名誉教授の肩書きを持っているというのだから、呆れてしまいます。





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最終更新日  2014.01.30 23:25:38
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