inti-solのブログ

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2016.02.15
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テーマ: 戦争反対(1197)
カテゴリ: 戦争と平和
少し前に、北朝鮮の打ち上げたロケットを、日本のマスコミはみんな「事実上のミサイル」と表現していることの不可解さを 記事に書きました

それにしても、ミサイルとロケット、なかなかにその用語の使い分けは微妙なところがあります。
手元の岩波国語辞典によると



ミサイル ロケットで発射・推進する飛行兵器。誘導弾


とあります。この説明は若干不正確なところがありますが、それについては後述するとして、私の定義では、ミサイルとは、噴進式の誘導可能な飛行兵器、ということになります。ポイントは、まず兵器であること、です。兵器ではないロケットのことをミサイルとは言わない。では、兵器として使われるロケットはすべてミサイルと呼ぶかと言うと、そうではありません。多連装ロケット弾という兵器があります。第二次大戦中にソ連軍が「カチューシャ」の愛称で大量使用し、現在も各国軍で使われています。これは、間違いなく兵器ですが「ミサイル」とは呼びません。なぜかと言うと、誘導式ではないからです。発射したらそのまま放物線を描いて飛ぶだけの無誘導ロケットは、「ロケット弾」「ロケット砲」(例の、黒田バズーカの語源となった「バズーカ」は携帯式の対戦車ロケット砲です)と呼びます。
一方、誘導爆弾は空を飛ぶ(落下する)誘導兵器ですが、無動力なのでミサイルとは呼びません。また、岩波国語辞典では「ロケットで発射・推進」とありますが、実際にはジェットエンジンで推進するミサイルもあります。ジェットエンジンで駆動するミサイルは、ミサイルではあってもロケットではありません。
つまり、軍用のロケットのすべてがミサイルではないし、ミサイルのすべてがロケットではない、まあなかなか使い方の難しい用語です。ただし、これはあくまでも日本語での用法の話ですが。

ごく大雑把に見て、ミサイルには弾道ミサイルと巡航ミサイル系があります。弾道ミサイルは、発射時の推進力で放物線を描いて飛翔し、目標に命中します。誘導できるといっても、放物線の範囲を大きく外れるようなところまで敵を追尾するようなことは不可能なので、通常は静止目標を攻撃する、ピンポイントの命中精度までは求めないものになります。
巡航ミサイルは、翼の揚力で飛翔して、目標を追跡することができます。いわば無人飛行機です。狭義の巡航ミサイル以外に、たとえば対艦ミサイル、対戦車ミサイルなどもこの範疇に入りますし、対空ミサイルも短射程の場合はこの範疇に入るかも知れません(長射程の場合は、放物線を描いて敵機に接近する対空ミサイルもある)。前述の、動力にジェットエンジンを使うミサイルは、この巡航ミサイル系に数多くあります。狭義の巡航ミサイルや対艦ミサイルでは、多くの場合はジェットエンジンが使われています。



元々、ミサイルの起源となったのは、第二次大戦中のドイツ軍の兵器です。V1が、今日の巡航ミサイルの元祖であり、V2が弾道ミサイルの元祖、そして、Hs293という、今日の対艦ミサイルの元祖となったミサイルもあります。
このうち、弾道ミサイルの元祖となったV2は、エタノールと液体酸素を燃料と酸化剤に使う、つまり液体燃料ロケットでした。このV2が、戦後米ソをはじめ各国の弾道ミサイルの原型となったため、当初弾道ミサイルはみんな液体燃料を搭載していました。

液体燃料ロケットの発射を描いたアニメの傑作があります。

オネアミスの翼


アニメですが、本物のロケット打ち上げの映像をよく研究して、それを忠実に再現しています。
この中で、打ち上げに際して、ロケットに大量の氷が張り付いているのが、いっせいに剥がれ落ちる描写があります。

ロケットに使われる液体燃料にはいろいろなものがありますが、酸化剤はもっぱら液体酸素が使われます。言うまでもなく酸素は常温では気体です。それを液体にするにはマイナス200度以下の低音にしなければなりません。そんなものを燃料タンクに入れれば、当然ロケットに大量の霜が付きます。それが発射時の衝撃でいっせいにはがれるわけです。また、これが万が一漏れ出して炭素を含む有機化合物に触れると爆発するので、取り扱いには厳重注意が必要だし、ロケット内にずっと搭載しっぱなしにしたら、温まって気化してしまいます。一方、燃料のほうは、いろいろな種類がありますが、やはり極低温であったり、猛毒であったりと、取り扱いに注意が必要で、ロケットの燃料タンクに入れっぱなしに出来ないのは酸化剤と同じです。。

そのため、液体燃料ロケットは、発射前に燃料と酸化剤を注入するわけですが、何しろ取り扱い注意の危険物質ですから、注入にはひどく時間がかかります。「敵がミサイルを撃ってきた!反撃だ!」と言っても、燃料を注入して撃ち返すのに何時間もかかったりするわけです。そのため、軍事用としては、やがて固体燃料に取って代わられていきます。
固体燃料とは、言い換えれば火薬(の一種)です。もちろん、これはこれで取り扱い注意ではありますが、少なくとも液体燃料と酸化剤のように、極低温だったり猛毒だったりするわけではないし、固体だから漏れ出す危険も少ない。ロケットの中に入れっぱなしにしておくことも可能、というより、固体燃料はロケット内に搭載し、密閉状態で封印した状態で完成して、よほど特別な事情がない限り、そのままの状態で保存しています。

このため、今日では、軍用ミサイルのロケットエンジンは固体燃料で、液体燃料は民生用のロケットにしか使われないようになってきています。(ただし、民生用の固体燃料ロケットもあり、日本はそれを長く実用使用してきています)

北朝鮮が先日打ち上げたロケットは、国連決議に反しており、その点では非難に価することは言うまでもありません。しかし、液体燃料ロケットであり、事実燃料注入に長い時間を要していました。北朝鮮も、対空ミサイルや対戦車ミサイルなら固体燃料ロケットは保有していますが、大型で長射程の対地ミサイルのエンジンに使えるような大型の固体燃料ロケットを開発する技術力はないのだと思われます。


これらのことから見て、今回の北朝鮮のロケットは、軍事用に使いたいという意図はあるにしても、実際にはとても軍事用として使い物になるような代物ではなく、ミサイルとはとうてい言い難いもの、と言うしかないでしょう。





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最終更新日  2016.02.16 00:36:58
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