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吉川宏志(よしかわ・ひろし)しらさぎが春の泥から脚を抜くしずかな力に別れゆきたり歌集『夜光』(平成13年・2001)註現代短歌の正統派俊英による秀歌。当地・栃木では、ちょっと郊外に足を伸ばせば、一年中河川や田圃で各種の白鷺を普通に見ることが出来る。まことにのどかで美しい光景だ。そういった白鷺が、餌を求めて静かに抜き足差し足で歩む習性を捉えた上の句の観察眼が鋭い。さらにそれを序詞(じょことば)として、「しずかな力」という言葉を導いている見事な手際である。「春の泥(春泥・しゅんでい)」という季節感溢れる表現も絶妙。ややおおげさに言えば、目に見えない静かな運命の力によってもたらされた春の(青春の)別れが、ウェットにならない抒情を伴って鮮やかに詠われている。
2012.04.21
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梅内美華子(うめない・みかこ)截るごとにキャベツ泣くゆえ太るときもいかに泣きしと思う夕ぐれ歌集『若月祭みかづきさい』(平成11年・1999)註截る:「きる」と読む。俎(まないた)の上のキャベツに感情移入している風情がユニークで、独特の清新さがある一首。私は野菜の中でもキャベツはかなり好きな方だが、キャベツについてこういった擬人的な見方をしたことは一度もない(・・・それがまあ、普通だろうと思うが)多少乙女チックな、おもしろい、かなしい、かわいいの三拍子揃った、若い女性がしばしば持っているセンシティヴでやや被害妄想的な感覚か。
2012.04.20
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来嶋靖生(きじま・やすお)花すでに過ぎたる樹々のもとを来て夕ゆふべほとびてくる想ひあり歌集『雷』(昭和60年・1985)註ほとぶ(潤ぶ):水分を含んで膨らむ。ふやける。
2012.04.20
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小中英之(こなか・ひでゆき)風光るうつつを沢に独活うどの芽はいまだ未生の神かも知れず歌集『わがからんどりえ』(昭和54年・1979)註うつつ:現。現実。または、「夢現(ゆめうつつ)」の略。未生:「みしょう」と読む。いまだ生まれざる。春の爽やかな風景の中に生い出でたウドの芽を、アニミズム(精霊信仰)的な依り代(よりしろ)のように見ているのだろうか。
2012.04.18
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窪田空穂(くぼた・うつぼ)純白の円き花びら群れはなれ落ちゆくさまの静かさを見よ桜花ひとときに散るありさまを見てゐるごときおもひといはむ遺稿歌集「清明の節」(昭和43年・1968)註作者の絶詠に近い最晩年の作。ここに詠(うた)われた桜は、現実のものというよりは、最期の時を迎えた作者自身の隠喩であろう。まことに清澄な境地の、現代の辞世歌。
2012.04.17
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花山多佳子(はなやま・たかこ)誰かうしろになみだぐみつつ佇つごとし夕ぐれが桜のいろになるころ歌集「空合」(平成10年・2008)註佇つ:「たつ」と読む。たたずむこと。「うしろになみだぐみつつ佇」っているのは、いったい誰だろうか。懐かしい人だろうか。それとも自分自身の片割れ/ドッペルゲンガーだろうか。作者は語らず、ただ歌をしてもの思わしむ。
2012.04.16
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大塚寅彦(おおつか・とらひこ)さくらばなあふるる白のひそめゐる青みるときぞいつかあらなむ歌集「声」(平成7年・1995)桜花 ──。あふれている「白」が潜めている「青」を見る時がいつかあるのだろう。/ いつあるのだろうか?註(たぶん皆さんと同様)論理的な意味内容は何が何だかよく分からないのが正直なところだが、ものすごく魅力的な一首であることは間違いないだろう。「純粋詩」のごとき美しさが確かにある。幻視的な感覚の鋭さと「白つながり」で、巨匠・佐佐木幸綱氏の「竹は内部に純白の闇育て来ていま鳴れりその一つ一つの闇が」(歌集「夏の鏡」昭和51年・1976)をちょっと連想した。・・・歌壇の「寅さん」は、いつもカッコイイ~
2012.04.16
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大塚寅彦(おおつか・とらひこ)花の宴たちまち消えて月さすは浅茅がホテル・カリフォルニア跡歌集「刺青天使」(昭和60年・1985)註浅茅がホテル・カリフォルニア:上田秋成『雨月物語』の一篇「浅茅が宿」の説話を踏まえる。イーグルスの名曲「ホテル・カリフォルニア」の歌詞は難解を以て聞こえるが、虚飾に満ちた世界を根源的に批判していることは間違いないだろう。
2012.04.16
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前登志夫(まえ・としお)さくら咲くゆふべとなれりやまなみにをみなのあはれながくたなびくさくら咲くゆふべの空のみづいろのくらくなるまで人をおもへりふるくにのゆふべを匂ふ山桜わが殺あやめたるもののしづけさ歌集「青童子」(平成9年・2007)
2012.04.16
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稲葉京子(いなば・きょうこ)抱かれてこの世の初めに見たる花 花極まりし桜なりしか細枝まで花の重さを怺へゐる春のあはれを桜と呼ばむ歌集「槐えんじゆの傘」(昭和56年・1981)
2012.04.16
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尾崎左永子(おざき・さえこ)雨の日のさくらはうすき花びらを傘に置き地に置き記憶にも置く歌集「夕霧峠」(平成10年・2008)
2012.04.16
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上田三四二(うえだ・みよじ)しづかなる狭間をとほりゆくときにわが踏むはみな桜の花ぞさびしさに耐えつつわれの来しゆゑに満山明るこの花ふぶきちる花はかずかぎりなしことごとく光をひきて谷にゆくかも歌集「涌井」(昭和50年・1975)
2012.04.16
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奥村晃作(おくむら・こうさく)ボールペンはミツビシがよくミツビシのボールペン買ひに文具店に行く歌集「鴇色の足」(昭和63年・1988)註現代短歌の最高傑作水準あたりの秀歌であると思う。崇敬する巨匠・小池光氏も絶賛していると仄聞する。作中で作者は季節に言及しておらず、論理的な根拠はないが、私はこれは直観的に春の歌ではないかと思う。内容としては、たぶん男にはけっこう分かりやすい、感情移入しやすい気分が詠(うた)われている。作者にとっては、ボールペン=ミツビシである。いや、等号でも足らず、ボールペン≡ミツビシという恒等式なのであろう。もしくは、絶対的な「公理」のごときものである。また、それを買いに行くという後段(下の句)は、短歌定型の員数合わせの付け足しの文言であり割とどうでもいいが、どうでもいいなりに意図的につまらなく凡庸に、適切に処理されている。たぶん大抵の男は、こういったたぐいの思考を不断に行っている。女性にはなかなか理解され難い、しばしばマニアック・オタク的と揶揄され疎んじられる種類の思考である。「ボールペンはミツビシがよく、ミツビシでないボールペンは(あんまり、もしくはきわめて)よくない」というような思考である。問題点の整理といってもいいし、排除の論理といってもいい。作者がどこまで意図しているかどうかはともかく、「ミツビシ」という固有名詞も独特なニュアンスを帯びている。大河ドラマ「龍馬伝」でお馴染みの通り、三菱は岩崎弥太郎が興した旧財閥であり、明治維新以来、日本の近代に常に寄り添ってきた代表的大企業である。私個人は、ボールペンのことは何も知らないし興味もなく、ミツビシだろうがゼブラだろうがシマウマだろうがどのメーカーのでも大差ないと思っているが、これはひとつの命題措定の雛形(基本形・プロトタイプ)と見るべきであろう。例えば、「ミツビシのボールペン」という固有名詞&普通名詞の部分に変数の代入を試みるならば、「アイドルはあっちゃんがよくあっちゃんの卒業告知涙ぐましも」とか、「オートバイはCBR750がよくCBRを見にホンダに行く」とか。いくらでも応用が利くように思われる。・・・ところで、私は今「短歌人」6月号詠草の締め切り間際で、アタマの中が強制ナチュラルハイのトランス&炎上状態になってますので、今日のところはこのへんで~
2012.04.08
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小中英之(こなか・ひでゆき)芹つむを夢にとどめて黙ふかく疾みつつ春の過客なるべし歌集「過客」(平成15年・2003、没後刊行)註疾み:「やみ」と読むのだろう。過客(くわかく=かかく):松尾芭蕉「月日は百代(はくたい)の過客にして、行かふ年も又旅人也」(「おくのほそ道」序文)や、李白の「夫天地者万物之逆旅、光陰者百代之過客」(「春夜宴桃李園序」)を踏まえている。
2012.04.03
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吉川宏志(よしかわ・ひろし)炭酸のごとくさわだち梅が散るこの夕ぐれをきみもひとりか歌集「青蝉」(平成7年・1995)
2012.04.02
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小池光(こいけ・ひかる)フィレンツェの衰弱とともにこの地上去りし光を春といはむか歌集「廃駅」(昭和57年・1982)註いはむか(言はむか):現代語の「言おうか」に当たる古語的な言い回し。〔画像〕サンドロ・ボッティチェッリ「春(プリマヴェーラ)」(1482年頃作、イタリア・フィレンツェ ウフィツィ美術館蔵)* 画像クリックで拡大ポップアップ。
2012.03.31
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米川千嘉子(よねかわ・ちかこ)お軽、小春、お初、お半と呼んでみる ちひさいちひさい顔の白梅歌集「滝と流星」(平成16年・2004)註上の句に登場するのは、いずれも一途な恋の果てに悲劇的な運命を辿った、実在と思われる歴史上の女性の名であり、浄瑠璃などの登場人物である。ただ、清楚な白梅を見てこれらの女性を連想し、何ほどか共感し同情し感情移入して呼びかけるというような浮世離れした人が、現代日本にそうそういるとは思えないから(・・・もしいたら、ちょっとアブナイ人じゃないかと思う)、これはきわめて主知的に仮構された設定であろう。が、いわば「枕草子」の「ものはづくし」の章段のような知的な面白さもあって、一種の生活の中の小さなファンタジーとして成功している秀歌といえよう。お軽:人形浄瑠璃(文楽)・歌舞伎を代表する演目「仮名手本忠臣蔵」(竹田出雲・三好松洛・並木千柳作)の重要な登場人物。映画「四十七人の刺客」(市川崑監督、高倉健主演、1994年)では、この役を宮沢りえが務めた。小春:近松門左衛門の最高傑作「心中天網島(しんじゅうてんのあみしま)」のプロタゴニスト(主人公)。映画「心中天網島」(篠田正浩監督、中村吉右衛門共演、1969年)では、岩下志麻が演じた。お初:同「曽根崎心中」。お半:菅専助「桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)」。
2012.03.30
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小島ゆかり終ります白梅散りて 終ります紅梅散りて いつか終ります歌集「エトピリカ」(平成14年・2002)註論理的な意味はよく分からないというほかはないが、何やら神秘的なまでに蠱惑的な作品。終りがあり、散るからこそ美しい梅の花に託して、人生の本質的一回性などの形而上学的(メタフィジカル)な命題を重ね合わせて伝えようとしている。敬愛する才女・小島ゆかり氏の短歌の中でも屈指の名歌であろう。技法的には、「散りて」の文語体と、「終ります」という慇懃でありつつきっぱりとした語調の口語体の混淆が印象的。なお、送り仮名の「終る」は、現在の教育やメディアにおいては「終わる」が標準とされているが、文学作品(特に詩歌)においては、必ずしもそれらのいわゆる「現代仮名づかい」に準拠する必要はない。不肖私も、例えば古拙・レトロな感じを出したい時など、この「標準」を意識して無視することがしばしばある。
2012.03.28
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俵万智(たわら・まち)「クロッカスが咲きました」という書きだしでふいに手紙を書きたくなりぬ第一歌集『サラダ記念日』(昭和62年・1987)
2012.03.24
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小中英之(こなか・ひでゆき)身辺をととのへゆかな春なれば手紙ひとたば草上に燃す第一歌集「わがからんどりえ」(昭和54年・1979)註ととのへゆかな:「な」は自己の意思を表す上古語終助詞。「整えてゆこう」。
2012.03.22
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佐佐木幸綱(ささき・ゆきつな)なめらかな肌だったっけ 若草の妻ときめてたかもしれぬ掌ては第一歌集「群黎」(昭和45年・1970)
2012.03.18
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佐佐木幸綱(ささき・ゆきつな)竹は内部に純白の闇育て来て いま鳴れりその一つ一つの闇が歌集「夏の鏡」(昭和51年・1976)
2012.03.17
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小中英之(こなか・ひでゆき)鶏ねむる村の東西南北にぼあーんぼあーんと桃の花見ゆ歌集「翼鏡」(昭和56年・1981)
2012.03.16
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大下一真(おおした・いっしん)天に昇る蔓も梯子も見えざれば地上の日暮れ酒飲み始む歌集「月食」(平成23年・2011)月食 大下一真歌集【送料無料選択可】価格:3,150円(税込、送料別)
2012.03.16
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奥村晃作(おくむら・こうさく)投げられし石がそのまま閉とざされて厚き氷に締められてをり歌集「父さんの歌」(平成3年・1991)
2012.03.16
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石田比呂志(いしだ・ひろし)芹摘みて土筆つくしを摘んで 惜春の白雲一片はくうんいつぺん仰ぎて帰る歌集「忘八」(平成7年・1995)
2012.03.15
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阿木津英(あきつ・えい)たいらけくひとしきという概念を大笑いせよ遠阿蘇の嶺歌集「天の鴉片」(昭和58年・1983)註たいらけくひとしきという概念:平等というコンセプト。現実社会においては空理空論に過ぎないと抗議しつつも、半ば諦めているような複雑な感情が読み取れる。作者はフェミニズム(女権拡張論)陣営の論客でもあるが、そういうことは抜きにして味わえる歌と思う。
2012.03.15
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小池光(こいけ・ひかる)無理心中未然連用かにかくに終始連帯家庭命令歌集「日々の思い出」(昭和63年・1988)註巨匠のウィットの凄さに圧倒される問題作にして秀歌。動詞・助動詞などの活用形「未然、連用、終止、連体、命令」や「仮定法」などの文法用語に掛けて、一家心中の悲惨な“連帯”を嘆く。女性の自立や家父長制の衰微、DV防止法の定着などもあってか、近年では無理心中のような事件は減っているような気もする(統計的にはどうなのか知らないが)。これはいいことである。
2012.03.15
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奥村晃作(おくむら・こうさく)新幹線、ゴンドラ、リフトと乗り継いで労せずにわれは雪山に立つ歌集「蟻ん子とガリバー」(平成5年・1993)註研ぎ澄まされてはいるが斜に構えた視点で、つまらない人生と世界をつまらなく淡々と詠む。というよりむしろ、そのつまらなさを際立たせることによって、何ほどかのおかしみと真実が開陳される。ある意味では近代西洋文学のリアリズム(現実主義)とナチュラリスム(自然主義)の方法論に近いともいえる「ただごと歌」を徹底して追及し続けている作者の真骨頂。
2012.03.15
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藤原龍一郎(ふじわら・りゅういちろう)不燃布という布ありてああついに炎ほむらだたざるかなしみもある歌集「東京哀傷歌」(平成4年・1992)註自己の隠喩を含め、不完全燃焼のまま去っていった者たちのかなしみの挽歌、はたまた苛立ちと自嘲のようなものを、若かりし砌みぎりから詠うたい続けているわが師・藤原氏のストレートな慨嘆。「ああついに・・・ざる~」のあたりの大真面目な(大袈裟な?)詠嘆に“藤原節”が炸裂しており、手練てだれの歌舞伎役者が見得を切るごとくに決まっている。誰からも慕われている知的でダンディな都会派勝ちリーマンの紳士である師の胸中に、こういった暗い屈託と得体の知れない情念が燻くすぶり続けているのは、意外ではありつつもさもありなんと思わせる唯一無二の個性である。こういうのを読むと、僕のような単純明快・無芸大食・五体満足・厚顔無恥な小人は、もっと悩まねばならないのが課題であり、短歌道の修行なのだと思う。治にいて乱を忘れずというか、自ら乱を作り出すというか、悩みや矛盾のないところに悩みを見出すのが、現代短歌のひとつの芸というものかも知れぬ(・・・自分でも何を言っているのか、今ひとつ分からないのだが)
2012.03.15
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前田透(まえだ・とおる)わが愛するものに語らん 樫の木に日が当り視みよ冬すでに過ぐ歌集「冬すでに過ぐ」(昭和55年・1980)
2012.03.15
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永井陽子(ながい・ようこ)うつむきてひとつの愛を告ぐるとき そのレモンほどうすい気管支
2012.03.13
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永井陽子(ながい・ようこ)からっぽの酒瓶ばかり 遠い野にあれは原始の火かもしれない歌集「葦牙」(昭和48年・1973)註論理的な意味はほぼないが、直観的に把握された詩があり、きわめて魅力的なイメージだ。酔いつぶれた果てに作者が見ている、内なる原野の幻視の原始の火というようなことであろうか。
2012.03.12
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小高賢(こだか・けん)流言りゅうげんも蜚語ひごもたのしや 幾百のすじのからまる組織力学歌集「太郎坂」(平成5年・1993)
2012.03.12
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石田比呂志(いしだ・ひろし)人ハミナ生老病死身ニシ負ヒ 此ノ世遊戯イウゲノ天涯ノ孤独歌集「邯鄲線」(平成21年・2010)註生老病死 : 「しやうらうびやうし(しょうろうびょうし)」と読む。石田比呂志歌集 邯鄲線【送料無料】 価格:3,150円(税込)
2012.03.12
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坂井修一(さかい・しゅういち)獏を喰うメタ・獏のごとはろばろと群青天下しずかなりけり歌集「群青層」(平成3年・1991)註群青:「ぐんじょう」と読む。明らかにメタ言語的解読(?)を要する難解な一首である。情報工学者であり、とりわけ作歌当時は時代の最尖端にいた科学者である作者の自解によると、この「メタ」は「メタ言語」や「メタフィジクス(形而上学)」「メタフィクション」、ひいては近ごろ話題の「メタ・シンキング」などの「メタ」(「高次の」「後の」「変化した」などの意味の接頭辞)であり、高度な数学的問題の証明の過程の考え方などがそういったものに似ている感じを受けたのだという。ところが、この抽象的な「メタ思考」というものはなかなかの曲者であって、ともすれば現実の機微から乖離して一気に足許を掬われる危険性があるのだという。その辺のいわく言いがたいところを歌にしてみたとのこと。(三枝昂之『討論・現代短歌の修辞学』所収、1996・絶版)・・・「獏は夢を喰う」というが、その獏を喰うというモンスターかエイリアンか知らねども、家政婦ならぬ「メタ」がいたなどとは、恐れ入谷の鬼子母神である。作者の思索は、おぼろげには分かったような分からないような感じだが、それなりに魅力的な表現ではあると認めるにやぶさかではない問題作。
2012.03.09
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小島ゆかり(こじま・ゆかり)雪は神のやうにあまねく獣園の檻を一つ一つ濡らせり歌集「ヘブライ暦」(平成8年・1996)註うう、すごい。大上段に振りかぶって剛速球160km/hの力作。・・・「雪は神のやうにあまねく」かあ。「獣園の檻を」ね~。まあ、普通の散文でいえば「動物園に雪が降りました」というだけのことなんだろうけどさこういうの、あの笑顔の素敵なゆかりさんのどこから出てくるんだ?そんじょそこらの歌人からは、まず出てこない表現ですな~
2012.03.09
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高瀬一誌(たかせ・かずし)この朝さむしさむしと追いこしてゆきし一人がなかなか消えぬ歌集「レセプション」(平成元年・1989)
2012.03.05
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宮柊二(みや・しゅうじ)大雪山の老いたる狐毛の白く変りてひとり径を行くとふ歌集「忘瓦亭の歌」(平成2年・1990)註径:「みち」と読むのだろう。小道、抜け道、獣道(けものみち)などをいい、転じて「さしわたし」(長径、半径など)の意味が生じた。伝聞の形を借りたロマン主義的な表現で、作者自身の隠喩であることが誰の目にも明らかな、巨人晩年の境涯詠の名歌。
2012.03.04
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河野裕子(かわの・ゆうこ)そのこゑが言葉となる間の息づきのほのかなるかもをとめといふは歌集「紅」(平成3年・1991)その声が言葉となるまでのほんのわずかな間の息づきがほのかだなあ少女というものは。とまと梅(小梅ちゃんバージョン)ロッテ × JA紀州みなべのコラボレーション【送料無料】価格: 3,100円(税込)
2012.03.02
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河野裕子(かわの・ゆうこ)良妻であること何で悪かろか日向の赤まま扱しごきて歩む歌集「紅」(平成3年・1991)註日向:「ひなた」と読む。赤まま:赤まんま。犬蓼(いぬたで)の花の通称。
2012.03.02
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萩原裕幸(はぎわら・ひろゆき)黄昏のインフルエンザわれを襲ふ一週間は悩みもなからう歌集「甘藍派宣言」(平成2年・1990)
2012.03.02
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塚本邦雄(つかもと・くにお)ながらへて今日の夕食ゆふけにしろたへの真烏賊まいかの甲府四十九聯隊 *この世は修羅以上か以下かうかつには宇都宮五十九聯隊尾花、花のごとくにはあらね飛び散つて立川飛行第五聯隊歌集「魔王」(平成5年・1993)* イカの甲羅は、生きている間には必要だが、死んでしまえば屑である。また、山梨・甲府に帝国陸軍四十九聯隊が置かれたのは歴史的事実だが、「四十九歳の始終苦労」の地口も微かに作歌時の念頭にあったという(三枝昂之『[討論]現代短歌の修辞学』の作者自解より)。
2012.03.02
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穂村弘(ほむら・ひろし)舞う雪はアスピリンのごと落丁本抱えしままにかわすくちづけ歌集「シンジケート」(平成2年・1990)
2012.03.01
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小池光(こいけ・ひかる)雪に傘、あはれむやみにあかるくて生きて負ふ苦をわれはうたがふ第一歌集「バルサの翼」(昭和53年・1978) 写真:けさ当地で撮影。
2012.02.29
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池田はるみあんたホホしようむないことしようかいな格子は春の銀色しづく歌集「妣ははが国・大阪」(平成9年・1997)註「ホホ」の小文字表記は原文のまま。格子(こうし): 一般的にいえば、木造家屋の格子戸・窓などのことであろう。関西方面でよく見られる印象があり、京都や小京都などと呼ばれる町屋や古い町並みを連想させる。ただし、この「格子」は、作者が嫁いだ東京の現代建築に多い無機質な金属の格子窓を言っているのかも知れない。
2012.02.28
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池田はるみあかねさす光るさんまがやあやあと「こんちくわ」アラ「ごめんくだもの」歌集「妣ははが国・大阪」(平成9年・1997)註あかねさす光るさんま: 明石家さんまを「光る君」、すなわち光源氏に擬(なぞら)えているのだろう。
2012.02.28
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池田はるみうのさらら 汝がしぶとさの根幹ををみなと呼びて涙ながるる歌集「奇譚集」(平成3年・1991)?野讚良よ。あなたのしぶとさの根幹にあるものをおんなと呼んで涙が流れるわたくしである。註?野讚良(うののさらら): 持統天皇(古代の女帝)の諱(いみな、本名)。天武天皇皇后となったのち即位。強大な実権を擁し、日本国家の黎明期に重要な役割を果たした女傑。汝(な)が: 上古語の第二人称代名詞(の所有格)。あなたの。そなたの。「なむち」→「なんぢ(なんじ、汝)」に痕跡的に残る。をみな(おみな): 女。* ブラウザによっては「?」の字が正確に表示されない場合があるかも知れません。ご了承下さい。
2012.02.26
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池田はるみ王権をめぐつて首の二つ三つはなるることは─善悪のほか歌集「奇譚集」(平成3年・1991)絶対権力をめぐって勇者の首の二つや三つ胴体を離れることは─善悪の彼岸の出来事。
2012.02.26
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生方たつゑ(うぶかた・たつえ)木を齧かじる音ききし夜も雪ふれり欠けし紋章も濡れつつあらむ歌集「花畑」(昭和46年・1971)註蕭条たる雪の一夜、天井や壁の裏に棲みついた鼠が柱や梁の木を齧る音に耳を聳(そばだ)てているのは、群馬県沼田の旧家・生方家に嫁いできた作者。少し傷んだ名家の古い紋章も、今は解けだした雪やつららの雫に濡れはじめているのだろう。ちなみにこの邸宅は、のちに国が重要文化財に指定。* 「かじる」は、「口偏に齧」の字が使われていますが、楽天ブログでは表示できません。ご了承下さい。
2012.02.22
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