ねこっぽ雑記

ねこっぽ雑記

2004年06月22日
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 観劇日から随分経ってしまいましたが6月歌舞伎昼の部の感想を。6月は18日まで教育実習に行っていた関係で観劇が大分遅くなってしまいました。本当に久々の歌舞伎座で、客席に入った瞬間一番に感じたことは「……生だ!」ということ(笑)。変な表現ですが写真でもビデオでもなく生の歌舞伎が見られるということがすごく嬉しかったです。
 まず最初の演目は歌舞伎十八番の内「外郎売(ういろううり)」。
【大磯の廓でくつろぐ工藤祐経のもとに、小田原名物の外郎売がやってくる。この外郎売は、祐経を親の敵とねらう曽我五郎時致。親を思う心を察した祐経は、曽我兄弟に討たれる覚悟で後日の再会を約束するのだった。】
という内容ですが、この演目の見せ場はなんといっても外郎売の早口の言い立てです。ちなみに私は高校生の時、短期の演劇講座に通ったことがあるのですが、そのときにこの外郎売の台詞を練習しました。当時訳もわからず口にしていた台詞とこういう形で再会することになるとは思わなかったです。
 それでは感想を。外郎売実ハ曽我五郎時致は松緑さん。当初團十郎さんが務められる予定だったのですが、團十郎さんが体調を崩されたということで松緑さんが演じられることになりました。とにかくあの言い立てをこなしているところを観て「すごいな~」というのが第一の感想。「練習すればできるようになるものなのかなぁ…?」とか。何かコツがあるのでしょうか。ただ曽我五郎だと分かってから以降は一生懸命さが空回りしているというか、浮いているような印象を受けました。
 工藤祐経は段四郎さん。どっしりとした存在感のある祐経で、その存在感自体がとても立派でした。ちなみに段四郎さんの祐経を観ていたら、ふと一昨年の御園座の「寿曽我対面」を思い出しました。というのはそのとき松緑さんの五郎を相手に祐経を演じられたのが段四郎さんのお兄さんの猿之助さんだったんです。猿之助さんの舞台もしばらくご無沙汰だなぁ…と思うと少し寂しくなりました。
 大磯の虎は芝雀さん、化粧坂の少将は七之助さん。お二人とも美しくて眼福でした。でも七之助さんと芝雀さんでは美しさの質が違う気がします。お二人の美しさを生かすんだったらあえて並べない方がいいのかも、などと思いました。
 それにしても「外郎売」、さすが歌舞伎十八番だけあって、どこかすっとんでいるな~という印象。理屈じゃないというか。そのすっとび加減の独特さがまた面白かったです。あとは富士に金の雲がかかっているという派手な背景に目を奪われました。
 2つ目は「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)―寺子屋―」。

というお話です。
 さて感想ですが、まず一番に挙げたいのは玉三郎さんの千代(松王丸の妻・小太郎の母)。玉三郎さんは千代の持つ背景や気持ちをすべて背負って花道から登場したんです。千代について言葉で説明しなくても玉三郎さん自身が千代を物語っている。それがすごいなぁ…と。そして玉三郎さんの千代を見ているとこちらまで悲しくなってくる。本当に玉三郎さんの千代は素晴らしかったです。玉三郎さんの千代を拝見するのは今回が初めてではないのですが、拝見する度に新たな発見があります。
 松王丸は仁左衛門さん。仁左衛門松王は首実験の場面が良かったです。言葉で説明するのは難しいと承知で言葉にすると、仁左衛門さんの松王は首桶の蓋を開けた時点で既に悲しみの感情が昂ぶっているんです。それで顔を下に向けて首を見ようとするのだけれど、首は下がっても目が下を向いてくれない。顔に抵抗するかのようにしばらく真正面を向いている。この場面が私はとても好きでした。
 源蔵は勘九郎さん。源蔵のようなシリアスな役でも演じるのが勘九郎さんとなると客席も沸き返り、大きな拍手が起きました。それにしても勘九郎さんというとどうしても「法界坊」だとか「野田版鼠小僧」のようなイメージが強いので、はじめのうちは「ああ…勘九郎さんが真面目だ…」と違和感を覚えてしまいました(勘九郎さん、ごめんなさい)。勘九郎さん源蔵は、松王に「菅秀才の首を討て」と言われているときの表情が好きでした。具体的に言うと「偽首でごまかそうとしても無駄だぞ」と言われたときの、図星をつかれて焦りつつもどこか肝が座っているような表情。良かったです。
 源蔵女房・戸浪は福助さん(戸浪って「仮名手本忠臣蔵」の小浪と戸無瀬を混ぜたみたいで紛らわしい…)。声の高さの波が激しかったせいか、台詞が聞きづらかったのが残念でした。それにしても福助さんが演じるとシリアスな芝居でも笑いが起こるのはなぜだろう…(笑)。
 「寺子屋」の次は十一代目市川海老蔵襲名披露口上。幹部俳優がズラリと並んだ豪華な一幕です。
印象的な口上をいくつか挙げると、まず仁左衛門さん。「7月の大阪松竹座公演では海老蔵さんの弁慶に富樫を務めますので海老蔵ファンの皆様はぜひ大阪までいらしてください」とちゃっかり宣伝をしていました(笑)。
勘九郎さんの口上も面白かったです。ただあれは勘九郎さんの話し方によるところも大きいのでここで活字にしてもあまり意味がないかもしれないけど。どんな話だったかというと、ある冬の公演で海老蔵さんと話をしていた勘九郎さん。ふと「最近足先が冷えるんだよね」と言ったところ、3時間後楽屋に「冷えは体に良くないっす。 孝俊」(注:海老蔵さんの本名は堀越孝俊)という置き手紙とともに靴下が置いてあったそうな(笑)。あとお互いに相撲好きの勘九郎さんと海老蔵さんがある日相撲をやったところ勘九郎さんは見事に投げられてしまったとのこと。そしてまた別の機会に相撲をやったときもやっぱり負けてしまった勘九郎さん。そんな勘九郎さんが海老蔵さんについて一言。「彼は遠慮することを知りません(笑)」。
 玉三郎さんの口上は特別面白い話をされたわけではありませんが、本当に海老蔵さんを思っておっしゃっているということが感じられる口上でした。観客に海老蔵さんの未来を託すような、そんな印象も受けました。
 さて口上のあとはお待ち兼ね、海老蔵さんのにらみ。心なしか5月に観た時よりも立派になっているように感じました。ちなみに海老蔵さんはにらみをする前に「先祖の衣鉢を力草に型ばかりながらお見せいたします」と言うのですが「先祖の衣鉢を力草に…」と言える家に生まれたってすごいことだなぁ……とつくづく感じました。
 最後は新歌舞伎十八番の内「鏡獅子」。一人の役者が前半の可憐な女小姓弥生と後半の勇壮な獅子を踊り分けるのが見どころの舞踊で、今回は海老蔵さんが務められます。

 後半の獅子の精は凄かったです。堰きとめられていた水が溢れ出す、あるいは水を得た魚が躍動するかのようでした。とんでもないほどの力や真剣さゆえの迫力を感じました。海老蔵さんの存在がすごくて、海老蔵さんの前には派手な衣装すら負けてしまう気がしました。毛を振った後も疲れを顧みずにただ前へと走っていく、そんな姿勢を感じました。





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最終更新日  2004年07月19日 20時47分19秒
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