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読書案内「BookCoverChallenge」2020・05 16
読書案内「リービ英雄・多和田葉子・カズオイシグロ」国境を越えて 5
映画 マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、クロアチア、スロベニアの監督 5
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マリヤム・トゥザニ「モロッコ、彼女たちの朝」シネ・リーブル神戸 北アフリカ、モロッコ、その名前を聞けば、もうそれだけで心が躍る町カサブランカ、アラビアンナイトのドアに印をつける物語を彷彿とさせるメディナ(下町)の路地が映り、重そうな木のドアが次々と映し出されます。 街角のドアの前に座りこみ、やがて、再び立ち上がってヨタヨタと歩きはじめる女性は身重で、ほとんど臨月を思わせる大きなおなかを抱えています。 見知らぬ家のドアの前に立ち、仕事を乞う身重の女サミア(ニスリン・エラディ)に、ドアの向こうの人びとは迷惑そうな顔をしながらも、彼女とおなかの中の子供の幸運を祈る言葉を口にしてドアを閉めます。 夫に先立たれ、小学生でしょうか、幼い娘ワルダを育てながら小さなパン屋を営むことで生計をたてているアブラ(ルブナ・アザバル)は、カーテンの隙間から、街角に座りこむ身重の女を見ています。 そんなシーンから始まった映画は、二人の女、サミアとアブラの出会いを描き、やがて、新しく「アダム」という名を与えられた赤ん坊とサミアが、アブラとその娘ワルダのもとから、ドアを開け出発するシーンで終わります。 人が人と出会うとはどういうことなのか。人間が人間を励ますとはどうすることなのか。女性が子供を身ごもるとはどういうことなのか。子どもを生むとは、子供を育てるとは、畳みかけてくる難問とは裏腹に、とてつもなく美しい映像が目の前に広がります。 ありきたりな言い草ですが、フェルメールの絵を彷彿とさせる、灯りがどこから差し込んでくるわからない部屋の少し暗い光の中で、パン生地を練り小麦粉を篩う女性たちの美しさは、そこにこそ物語があるのですが、物語など知らぬとでも言いたげな風情で、人間が生きていることの美しさを描き出していました。 一人の女の生き方が、もう一人の、追いつめられている女を励まし、「女手一つ」で育てられている一人の少女の笑顔がこの世から捨てられかかっていた赤ん坊の命を救うという、奇跡のように美しい作品でした。 人のいい粉屋の男は登場しますが、それぞれの女がそれぞれの生き方を自ら選び取っていく姿を描いた堂々たる作品だと思いました。 カサブランカの下町メディナの独特の迷路と閉ざされた扉、そして群衆が、映画が最初からさしだしている難問を暗示しているのですが、フェルメールの絵のように、光はどこかから、そっと差し込んでいて、「希望」を感じさせ続けていたふしぎな作品でしたが、そうした「物語」の作り方に加えて、室内の調度や装飾、パン作りの小道具にマリヤム・トゥザニという女性監督のセンスの良さが印象に残りました。 とてつもなく不愛想な顔で押し通しながら、ふとゆるんだ表情が、異様に美しいルブナ・アザバル、本当に妊娠して出産しているのではと思わせるニスリン・エラディという二人の女優さんの演技と、文句なく愛くるしいワルダを演じた少女に拍手!拍手!監督 マリヤム・トゥザニ製作 ナビル・アユチ脚本 マリヤム・トゥザニ ナビル・アユチ撮影 ビルジニー・スルデーキャストルブナ・アザバル(アブラ)ニスリン・エラディ(サミア)2019年製作・101分・G・モロッコ・フランス・ベルギー合作原題「Adam」2021・09・20‐no85シネ・リーブル神戸no120
2021.09.23
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ニコラ・バニエ「グランド・ジャーニー」シネ・リーブル神戸 予告編を見ていて、見たくなった映画です。 理由ははっきりしています、コンラート・ローレンツという人が書いた「ソロモンの指輪」(早川書房)という面白い本があります。動物行動学の初歩を楽しく紹介した入門書ですが、その中にガチョウの「刷り込み」の話があります。 卵から孵化したばかりの雛鳥は、最初に目にした動くものを「母鳥」だと認知して行動するという現象で、ローレンツ自身が「母鳥」になって雛鳥を引き連れている写真も、その本にあったと思います。 その「刷り込み」で親になった人間が「カリガネ・ガン」のヒナを連れて「渡り」を教えるというらしいのですから、見ないわけにはいきません。 映画はネット・ゲームにオタク化している少年トマと母親パラオの生活シーンから始まりました。 実はこの映画は鳥の研究に熱中している夫クリスチャンに愛想を尽かせているパオラが新しい男性と暮らし始めているという、ありがちな「家族崩壊」のなにげないシーンから始まり、その「再生の物語」の行方を描くという設定なのですが、ぼくの興味は、「刷り込み」の結果、人間を「親」だと思い込んでいる「絶滅危惧種」の「カリガネ・ガン」の行方の方にありました。 カリガネ・ガン(ウキペディア) 鳥と人間のかかわりを撮った映像のどこまでがドキュメンタリーで、どこからが特撮なのかという疑いを感じさせるシーンが、あることはありますが、少年の乗る「軽量飛行機」を「渡り」のリーダーと信じて(?)、鳥たちが付き従うシーンは驚きの連続でした。 北極海に面したノルウェーのラップランドから地中海にあるフランスの沼沢地カマルグ迄、ヨーロッパ大陸を飛び越えていく「グランド・ジャーニー」が映し出す空撮シーンはなかなか見ごたえがありました。 環境保護や現代の家族の問題といった社会性が映画を支えているのはよくわかりますが、ぼくには「人間になつく野生(?)の渡り鳥」の姿のリアリティがすべてといっていい映画でした。 家族崩壊なんてことにはなっていないにしても、コロナ騒ぎの中で「ネットおたく」化してしまいがちな少年や少女たちの眼に、14歳の少年が絶滅危惧種の鳥たちを引き連れて大空を飛ぶ世界がどう映るのか、ちょっと見せてみたい気がするのは、ぼくがネットのヴァーチャルになじめない老人だからでしょうか。 ともあれ、渡り鳥を引き連れて飛んでゆく少年の姿が地上から発見され、「情報」として拡散され、称賛の輪が広がっててゆくのも、SNS上であるわけで、現代のソーシャル・ネットワークの働きについて、改めて考えさせらる映画でもありました。 監督 ニコラ・バニエ 製作 クレマン・ミゼレ マチュー・ワルテル 製作総指揮 ダビ・ジョルダーノ 脚本 マチュー・プティ クリスチャン・ムレク ニコラ・バニエ リル・フォッリ 撮影 エリック・ギシャール 美術 セバスチャン・ビルシュレ 衣装 アデライド・ゴスラン 編集 ラファエル・ウルタン 音楽 アルマン・アマール キャスト ルイ・バスケス(トマ・雁と旅行する少年) ジャン=ポール・ルーブ(クリスチャン・トマの父・鳥類学者) メラニー・ドゥーテ(パオラ・トマの母) フレッド・ソレル(ビョルン・鳥類学者) リル・フォッリ(ダイアン・新聞記者) 2019年・113分・フランス・ノルウェー合作 原題「Donne-moi des ailes 2020・07・30シネ・リーブル神戸no60ボタン押してね!にほんブログ村
2020.08.02
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キウェテル・イジョフォー「風をつかまえた少年」パルシネマ 全く知りませんでしたが、有名な原作を俳優さんが作った映画なんですよね。お父さん役のキウェテル・イジョフォーが監督です。風車を作る少年もいいですね。中でもお母さんの姿と言葉に「いいなあ。」と思いました。 お話しは、結果的にはハッピーエンディングでしたが、決して「楽しい」映画ではありませんでした。 アフリカをはじめ、世界中にある貧困の姿をぼくたちはどれほど知っているのだろうと考えながら、この映画の少年と全く同じ時期から、場所は違いますが、アフガニスタンで井戸を掘り続けた末に、銃弾に倒れた医者中村哲のことを思い出しました。 インチキな政治や因習的な宗教、飢餓の村に必然のように起こる盗みや逃散、食料を求めるパニック、豪雨と干ばつの自然をきちんと描きながら、未来へ向かう「希望」を描こうとしている監督の真摯な態度を感じました。 アフリカの自然のありさまの遠くから映像として見ていても苛酷でやるせないシーンと、前を向こうとする少年と母親の美しい表情が印象的な映画でした。監督 キウェテル・イジョフォー Chiwetel Ejiofor製作 アンドレア・カルダーウッド ゲイル・イーガン 原作 ウィリアム・カムクワンバ ブライアン・ミーラー 脚本 キウェテル・イジョフォー 撮影 ディック・ポープ 美術 トゥレ・ペヤク 衣装 ビア・サルガド 編集 バレリオ・ボネッリ 音楽 アントニオ・ピント キャスト マックスウェル・シンバ(ウィリアム・カムクワンバ・少年) キウェテル・イジョフォー (トライウェル・カムクワンバ・少年の父) アイサ・マイガ (アグネス・カムクワンバ・少年の母) リリー・バンダ(アニー・カムクワンバ・少年の姉) 2018年113分イギリス・マラウイ合作 原題「The Boy Who Harnessed the Wind」 2020・02・03パルシネマno20ボタン押してね!
2020.02.05
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