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- 秋月さん 私なら素直に言いますね。 全部話した上で、「だから別れましょう」って言います。 でも、その時点では、別れられなくてもいいと思います。 死に行く人のそばにいるのは、とても辛いことです。 相手が辛くなってきたら、その時にもう一度「別れましょう」って言います。 今井 -なるほどね。そういう考え方もあるか……。でも、これではルリさんからの質問の答えにはならないな……。結局は自分で考えなきゃダメって事だ。その日の夜、僕はルリさんへメッセージを送った。- ルリさん 僕ならば、自分のことを思って嘘をつかれるよりも、本当のことを言ってくれたほうがいい。 そこで、別れるか、別れないか、と聞かれれば、多分別れないだろうとは思います。 嘘をつかれるのなら、どんな嘘でも同じじゃないでしょうか。 主人公の彼氏は同級生なのだから、いつか嘘がばれるでしょう? その時の事を考えたら、正直に伝えるべきだと思います。 ごめんなさい。 全然答えになってないですね。 JUN -送信ボタンをクリックした後、ブラウザを閉じ、PCをシャットダウンした。結局は今井さんと似たような意見になってしまった。でも、実際そう思うのだから仕方が無い。コタツとリビングの照明を消して寝室へ向かったら、娘が僕のベッドのど真ん中に寝ていた。僕は娘を起こさないようにずらして、娘の横に滑り込むと、昨日の寝不足のせいもあって、一瞬で眠りに落ちた。
2009.01.30
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いつものように目覚ましの音にたたき起こされたものの、さすがに深夜のお迎えの後では、そう簡単に体が起きてくれない。とにかく根性だけで起き上がり、リビングの暖房を付け、いつものようにタバコを持ってベランダに出る。今でも釈然としないが、いつまでもぐだぐだ言っていると逆切れされて、子供にまであたり始める。妻はそういう女だ。とりあえずほかの事を考えて、頭を切り替えたほうがいい。「あ……」昨日のルリさんからのメッセージに返答していなかった。そう、返事を考えているときに、呼び出しを食らったのだ。彼女の小説の主人公は、どうやって彼と別れればよいのか……。いや、ルリさんは「もし僕が、小説の主人公の彼氏だったら……」と言っていたのだ。僕の考えを、そのまま答えればいいわけだ。もし、僕なら……。気が付いたら、タバコが燃え尽きていた。僕はタバコを吸殻入れに放り込み、朝の準備を始めた。昼食の後、屋外にある喫煙所へ行くと、今井さんが手を振っていた。うちの会社には、社内に喫煙ルームは無い。雪が降ろうが、台風が来ようが、ここで吸うしかない。いつものように、会社のロゴ入りのウィンドブレーカーを奪われ、寒い寒いとつぶやきながらタバコに火をつけた。「今井さんはさ、自分から男を振ったことってある?」「なんですかそれ?」「いや、まぁ、どうなのかな……と」彼女は僕をじっと見詰めながら、顔を近づけてきた。僕は自然と後ろにのけぞってしまう。「愛人と別れたいんですか?」彼女がボソッと小声で言った。「いや、そういうんじゃなくて……、てか、愛人いないし……」「わかってますよ、冗談です」彼女はそう言って、まだ長いタバコを灰皿に押し付けて消した。「そのくらいありますよ」「そういう時は、なんて言って別れるの?」「私の場合、別れるときは、その相手が嫌いになったときだけです。素直に『嫌いになった』って言います」「そっか……」僕もタバコを消し、今井さんと一緒に喫煙所を離れた。「もしもさ……」エレベーターの中で僕が口を開いた。「本当は別れたくないんだけど、事情があって別れなきゃならない。でも、相手に事情は話したくない。そういう時って、なんて言って別れる?」「……事情の種類によりますね」「たとえば……、自分が病気で、もうすぐ死んじゃうとか……」「それを相手に知られたくない……って事ですね?」「そういうこと」エレベータを降りた後、今井さんはいつものように、脱いだウィンドブレーカーを僕に着せた。社内の人に見られたら誤解を招きそうだが、彼女は一向に気にしない。社内の人が見ていても、彼女は気にしない。あるいは、故意にやっているのかもしれない。社内で言い寄ってくる男に対するけん制みたいなものかもしれない。「質問が難しすぎるのでゆっくり考えます。後でメールしますね」彼女はそう言って手を振り、自分のデスクへ戻って行った。
2009.01.28
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駅前のロータリーに車を停めると、妻が駆け寄ってきて、すぐに乗り込んできた。かなり酒臭い……。「ごめんね、ありがとう」そう言われたが「あぁ」と答えただけで、僕は車を発進させた。「ごめんねぇ、みぃちゃん」妻はそう言って、寝ている娘にほおずりしているようだが、娘が嫌がっているのがバックミラー越しに見える。妻はその反応が面白くなかったのか、むすっとして外を眺めていたが、そのうち眠ってしまったようだ。やはり迎えに来るべきではなかったのだろう。理不尽だと思いながらも、妻の言いなりになっていることで、妻を甘やかせているし、自分自身にストレスを溜め込むことになっている。頭では分かっているのに、妙な義務感みたいなものが、僕をそうさせる。誰かのために尽くすことだけが人生ではないはずなのに……。
2009.01.27
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-新着メッセージがありますJUNさん、こんばんはもし、JUNさんが、私の小説の主人公の彼氏だったら、病気の事を知ったら別れないですよね?どういう風に言われたら別れようって思えますか?ごめんなさい。男の人の考え方って、よくわからなくて……。ルリ -ルリさんの小説の主人公は、メッセージにもあったとおり、どうやって彼氏に別れを切り出せばよいのか分からず、悩んでいる。もし、僕が彼氏の立場だったら……。病気のことを知らずに別れたら、後で知った時に後悔するだろうな……。でも、病気のことを知らされたら、なおさら別れないだろうな……。“もし”の話とはいえ、真剣に考えていたら、キッチンカウンターの上に置いてある携帯が鳴った。どうせ妻が「終電逃した」とか、その程度のものだろうと思ったが、やはり妻からだった。「もしもし」僕はあからさまに不機嫌な口調で電話に出た。「ごめん、終電逃しちゃった」やっぱり……。「それで?」妻が何を要求してくるのか分かっていたけど、あえて聞いてみた。「迎えに来て……って言ったら怒るよねぇ」「美春はどうするんだ? とうの昔に寝てるぞ」「そうだよねぇ……、でも、そのままにしておいても起きないんじゃない?」「……」妻を会社まで迎えに行っても、車で往復1時間程度だ。多分娘は起きないだろう。でも、もし、何かの拍子に目を覚まして、家に誰もいなかったらどうするのだ。「多分、起きないだろうけど、ひとりで置いては行けない」「じゃぁ、いいよ、タクシーで帰るから」今度は妻がキレ始めた。なんなのだ。「わかったよ、迎えに行けばいいんだろ!」電話口に怒鳴って、返事を待たずに電話を切った。とにかく服を着替えて、寝ている娘に靴下をはかせ、パジャマの上からダウンのロングコートを着せて抱きかかえた。「ごめんね、ママ迎えに行かなきゃいけなくなっちゃった」娘は迷惑そうに顔をしかめながらも、抱っこされたまま眠ってしまった。僕は娘を抱っこしたまま家を出て、玄関の鍵を閉め、エレベータの下りボタンを押した。マンションの駐車場へ行き、娘を後部座席のジュニアシートに座らせ、シートベルトをする。「くまのぷーさん」のクッションのジッパーを開くとブランケットになる。それを娘にかけてやり、ため息をついてから運転席に座り、エンジンをかけた。なにもかも理不尽だ。怒りに任せてアクセルを踏み込みそうになるのを抑えながら、僕は妻の仕事場のある街に向かった。
2009.01.24
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娘をお風呂に入れた後、ドライヤーで髪の毛を乾かしてやってると、娘が寂しげに口を開いた。「ママ、今日も飲み会なの?」「うん、そうだよ」「ママはダメ人間だね……」「ダメ人間? どこでそんな言葉覚えたの?」「おばあちゃんが言ってたよ。お酒ばっかり飲んでるのはダメ人間なんだって」「そっか……、ダメ人間か……」本当なら「ママはダメ人間じゃないよ」って、フォローしなければいけないのだろう。でも、6歳の娘の口から「ダメ人間」という単語が出てきた事が少なからずショックだったし、否定する気持ちよりも、同意する気持ちが強くて、結局フォローするタイミングを逃してしまった。一緒に歯磨きをして、仕上げ磨きをしてやって、ベッドに入った後、絵本を読み聞かせ、添い寝する。妻がいても、いなくても、これは僕の仕事になってしまった。以前は妻が添い寝した事もあった。でも、最近はほとんど無い。娘も「ママと寝る」と言わなくなった。娘が寝息を立て始めた。時計を見たら、ちょうど9時半……。10分待ってからベッドから出よう。すぐに出ると、娘が起きてしまうから……。目が覚めたら12時を回っていた。また撃沈してしまったらしい。このまま朝まで寝てしまおうかと思ったけど、メールくらいはチェックしたい……。一度は寝てしまった体と頭を、もう一度起動させて、ついでにPCも起動……。今日はブログは書けないな……。そう思いながらも、ブログの管理画面を開くと、メッセージが来ていた。
2009.01.21
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「お疲れ様!」PCをシャットダウンして、急いで会社を出た。今日は部署内で軽い飲み会があるのだけれど、僕は保育園へ娘を迎えに行かなきゃならない。妻は今日は会社の勉強会があって、お迎えに行けない。多分その後は飲み会で、また終電なのだろうけど……。正直、不公平だとは思う。妻の仕事はストレスが溜まるのは理解しているし、それを発散する必要があるのも分かる。でも、その分僕のストレスが溜まるのだと言っても、妻は理解しない。では、どうやってストレスを発散すればいいのだ、と逆に詰め寄られる。飲むなとは言わないが、5時間も6時間も飲んでいるのは異常だ、程度をわきまえろと言っても、どうも理解してくれない。帰りの急行も朝の通勤ラッシュと変わらず混んでいて、さらに僕のストレスを増加させる。まったく自分の力で立とうとしない、隣のサラリーマンの体重を支えながら、心の中で悪態を付く。きっとこんなシチュエーションで「お客様同士のトラブル」が起こるのだろうな……。娘を連れて家に帰ると、夕食が準備されてなかった。いつもなら妻が出勤前に準備していくのだけれど、今日は時間が無かったらしい。「スパゲティでいい?」娘に聞くと、「カレーがいい」と言うので炊飯器の中を確認したけど、見るまでもなく中身は空っぽで……。「今からご飯炊くと遅くなるから、スパゲティにしようよ」「じゃぁ、みぃもお手伝いするー!」娘はそう言って袖をまくり、水道で手を洗い始めた。娘に手伝わせると却って時間がかかるのだけれど、多分、これも育児というものなのだろう。僕は軽くため息を付いて、パスタ鍋に水を入れ、火にかけた。冷蔵庫からレタスを取り出し、娘に水道で洗わせ、ちぎってお皿に並べるように指示。その上に洗ったプチトマトを乗せさせ、その上からドレッシングをかけた。その、いい加減なサラダと、フォークとスプーンを娘にテーブルに持っていかせる。茹で上がったパスタを皿に取り、茹でた後のお湯にパスタソースをパックごと放り込む。5分ほど加熱した後に、パスタの上にかけて出来上がり。一応妻の分も用意したけど、多分食べないだろう……。「みぃは、上手にスパゲティがくるくる出来るようになったね」娘は左手に持ったスプーンの上で、右手で持ったフォークをぎこちない手つきで回している。「うん。 みぃはもうすぐ小学生だから、上手にくるくるできるよ」そう言って嬉しそうに笑った。
2009.01.18
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オフィスに着いてPCの電源を入れた後、給湯室にコーヒーを取りに行くと、庶務の今井さんが来客用のコーヒーをいれていた。彼女は黙って僕の手からマグカップを奪い取ると、いれたばかりのちょっと高級なコーヒーをなみなみと注いだ。当然、従業員用の安物ではない。「秋月さんは、年末年始はどうされるんですか?」彼女はそう言いながらマグカップを僕に渡し、トレーに並べたカップにコーヒーを注ぎ始めた。「なんにも予定なし」僕はそう答えてから、マグカップからコーヒーをひとくち飲んだ。今年も子供と二人で初詣かな…。「また娘さんと二人っきりのお正月ですか?」そう言って彼女はコーヒーカップの並んだトレイを持ち上げて、僕の顔をまじまじとのぞき込んだ。「…多分…そうかな」彼女の整った顔立ちが、予想外に接近してきた事に多少どぎまぎしながら答えた。「お父さんが幸せじゃないと、娘さんも幸せじゃないと思いますよ」彼女はそう言って軽く微笑むと、給湯室を出て、応接室の方に向かって歩いていった。お父さんが幸せじゃないと、娘も幸せじゃない……か。彼女の両親は、彼女がまだ幼い頃に離婚しており、多分彼女もさみしい思いをしたのだろう。社内にそれを知っている人間はあまりいないと彼女は言っていたし、彼女の明るい、面倒見の良い性格が、さみしさの裏返しなのだと知っている人も、多分少ないのだろう。そうは言っても、特に彼女と特別な関係があるわけじゃない。「良い友人」というのが、一番適切な表現なのだろう。顔立ちもスタイルも、友達にしておくには勿体無いのだけれど……。
2009.01.16
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いつものように、目覚まし時計のアラームにたたき起こされた。僕の家は、シングルベッドを二つ並べて、そこに川の字になって寝ている。娘はいつも僕のベッドで寝ているから、妻はひとつのベッドを一人で占有して寝ている。でも、そこに妻の姿はなかった。ベッドには乱れもなく、昨日の夜のままだ。リビングに行ってみたが、そこにも妻の姿はない。僕は暖房のスイッチを入れてから、キッチンのテーブルの上に置きっぱなしだった携帯とタバコを持って、ベランダに出た。タバコに火をつけて、携帯を開く。妻からメールが来ていた。受信時刻は、今朝の1時。- 終電を逃したので、会社に泊まります。 -僕は、素っ気無い短いメールを一瞥して、煙を吐き出しながら携帯を閉じた。妻は妻の価値観で行動している。そして、その価値観は、僕とは相容れない。それは良く分かっている。でも、理解する事と納得することは別。夫婦って、家族って、こんなものだっただろうか。僕が思い描いていた「幸せな家庭」って、こんなものだっただろうか。タバコの火を灰皿で消し、少し暖まってきたリビングに戻った。コタツの上に置きっぱなしのノートPCを起動し、Windowsのロゴを眺めながら、タバコを吸う前にコタツのスイッチを入れなかったことを、軽く後悔した。ブログの管理画面を開くと、僕の私書箱にメッセージが1件来ていた。- 新着メッセージがありますJUNさん昨日はありがとうございました。否定的なコメントって、心に突き刺さります。あのコメントを読んだ時、もう、書くのをやめようかと思いました。でも、JUNさんのコメントを読んで、もう少しがんばろうって思いました。 ルリ -翌日の夜、ブログの管理画面を開くと、彼女から僕宛にメッセージが来ていた。誰でも読むことが出来るコメントではなく、僕だけが読むことが出来る、要するにメールのようなものだ。わざわざお礼のメールなんてくれなくてもいいのに……。そんな思いとは裏腹に、彼女が書いた数行の文章に、僕のささくれ立った心が癒される気がした。- ルリさん 世の中にはいろいろな人がいて、色々な意見を持っています。 どれが正解で、どれが間違いって事はないのだとは思いますが、僕は少なくともルリ さんの書く小説は素敵だと思います。 僕はルリさんの書く文章が好きです。 これからも是非書き続けてください。 JUN -メッセージの送信ボタンをクリックして、ブラウザを閉じ、PCをシャットダウンした。「がんばるかな……」僕は、なんだかちょっとだけ前向きな気分になって、娘を起こすために寝室へ向かった。
2009.01.10
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- 余命3ヶ月なんて、物語の中ではありふれていて、いまさらって感じですね。 文章もなんだか自己満足っぽくて、読んでいて不愉快です。 通りすがり-彼女のブログに、そんなコメントが書かれた。「不愉快」だなんて……。「あなたのコメントこそ不愉快だ!」と、声を大にして言いたい……。でも、彼女のブログを荒らすわけにもいかないし……。僕は、少し考えて、そのコメントに対して、レスをつけた。- 確かに、「不幸な少女」というのは、ありふれた題材かもしれない。 でも、その、ありふれた題材を、一流の物語にするのは、書き手の才能だと思います。 JUN -なんだか、あからさまに弁護しているようなコメントになってしまったけど、本当にそう思うのだから、まぁ、よしとしよう。彼女の文章は、自己満足という感じではないと思う。文章を書く才能があるのだと思う。言葉が素直に響いてくると言うか……。心にしみる文章を書く人だ。気が付くと、時計は12時を回っていた。今日は、妻は職場のミーティングで遅い。多分その後は、いつものように飲み会になり、終電で帰ってくるか、それすら逃して職場に泊まるかもしれない。飲み始めるのが遅いから、終電で帰ってくるのも仕方がないのかもしれないけど……。そんな事を考えていたら、寝ていたはずの娘が起きてきてしまった。目をこすりながら歩いてきて、僕にしがみつく。仕方ない……。僕はPCをシャットダウンした後、娘を抱っこしてベッドに運び、隣で眠った。
2009.01.08
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- 彼とはお別れした方が、いいのかもしれない……。 病院で検査を受けた帰り道、バスに揺られながら、そんなことを思った。 彼の事は好きだけど、でも、そこまで甘えていいのかなって思う。 病気の事は、彼には話していない。 話せない。 話したら、多分、彼の負担になる。 彼の心に傷をつけてしまう。 私は、もう長くない。 若いから、進行が早い。 先生は、あと3ヶ月と言っていたけど、本当にそこまで持つのかな……。 「彼女」が死ぬという事と、「元カノ」が死ぬと言うことは、やっぱり違うと思う。 傷の深さが違うと思う。 私は死んでも、傷つくことも、悲しむことも出来ない。 私自身がなくなってしまうのだから。 でも、残された人は、そうじゃない。 「私はいない」 その現実を背負って生きていかないといけない。 多分、それは、想像以上につらい事なんだと思う。 だから……。 彼とはお別れしなきゃ……。 外の景色が滲んで見えて、私は目を閉じた。 -
2009.01.03
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