2006年03月27日
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テーマ: お勧めの本(7895)
カテゴリ: 雑考生活


ワタシもむかし実家で犬を飼っていて、こいつは雑種の捨て犬だったせいか、図体がデカくて飯ばかり食うくせに気のきいた芸のひとつをするでもなく、機嫌が悪いと家族に噛み付いたりして、いつも一家の問題児だったのだが、死んでしまうと寂しいものである。

ドッグイヤーなどと言われるように、犬の寿命は短く、どんなに長くても20年。昔と違って2世帯、3世帯で家族が暮らすケースがレアになり老人と同居することも少ない昨今、子供たちにとって老いや死に対する実感が薄れてきているのは間違いない。
犬を飼うことで得られる大きな経験は、こうしたヒトの「生き死に」の疑似体験ができることである。特に子供にとって、たまごっちなんかと違って二度と「リセット」が効かない、リアルな生死の体験である。犬も元気なうちは良いが、死に際は哀れなものであり、時として壮絶ですらある。このことをテーマに描いた漫画で、ワタシがかつて読んで感動した名作『犬を飼う/谷口ジロー(著)』というのがある。

これは、著者の実体験をベースに、郊外に住むある平凡な夫婦が飼っていた愛犬が、やがて年老いて死ぬまでの、最後の1年間の日々に焦点をあてて描いた作品である。この中には、なんら感動的な美談や誇張された演出はない。元気だった飼い犬がやがて衰え、歩くことも、自力で立つことも困難になり、食事を摂ることも、排泄のコントロールさえもできなくなっていく様を、淡々とした静かな語り口で描いていくだけである。

なかでも印象的なのは、弱った愛犬と飼い主が空き地で日なたぼっこをしているシーン。ひとりの老婆が話しかけてくるのだが、「早く死んであげなきゃだめじゃないかね。でもね、死ねないんだよ…なかなかね…死ねないもんだよ。」と、まるで自分を重ねるように話すシーンが胸に響く。そして、愛犬がいよいよ死へと向かう数日間の記録が感動ものである。もはやいつ死んでもおかしくない悲惨極まりない状態になりながらも、もはや本人(犬)の意志とは関係なく、息も絶え絶えでなおも生きようとし続けるむきだしの生命力に、思わず涙がこみ上げる。生きるということ、死ぬということは、こういうことなのだ、ということを最も身近に教えてくれるのが「犬を飼う」ということである、と感じずにいられないのがこの物語なのである。

10年以上も前に読んだので、単行本はおそらくもう廃刊になっているが、現在、文庫版で復刊しているようである。

犬を飼っているヒトもそうでないヒトも、また、普段マンガなど読まないというヒトにも、これはぜひ一度読んで欲しい名作なのである。







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最終更新日  2006年03月27日 21時21分47秒
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