てにをは

2006.01.29
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 彼女は今ようやく、自分が「平凡な人生」を歩む一人であることを気付きはじめていた。(中略)こうして人生は、ゆっくりと大きな弧を描くように、巨大な営みの中で最期の死というものに向かって進んでいく。



「---俺は、つまらんよ。みんな何も考えてないし、何も感じてない。そのくせ傷つけられることだけにはえらく敏感でさ。(略)」



あたしたちは管理された毎日に飽き飽きしている。はるか彼方まで、おそらく死ぬ瞬間まで引かれたレールが、教科書の行間に、テレビのニュースの画面に、朝履く靴の中に見えているのだ。しかし、それ以上に、あたしたちは自由を恐れている。いや、この言い方は正しくない。自由に伴う責任と決断を恐れている。(中略)できることなら誰かに決めてほしい。自分が何をすればよいのか、何が一番あたしにとっていいことなのか。ああ、坂井さんね、あなたはこれがいいですよ、向いてますよ、一番。誰かにそういってもらいたい。


そうか--そうだったのか。あの医師は、本当はいなくなった人ではんく、そばにいる人を呼び戻すための石だったのだ。いつもすぐそばにいる人でも、いつわかれが来るかわからない、近くにいても、本当にそばにいてくれるわけではない、手が届くところにいても、その人の心は遠くにいるかもしれない。そういう心を呼び戻そうと、昔から女の人たちは石を積んできたのだ。


                           恩田陸「球形の季節」





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Last updated  2006.02.02 03:33:12
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