てにをは

2006.08.23
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 しかし、もっとも高貴なのは、怒りではないだろうか。故郷フィレンツェの裏切り者たちは死後も許すまいと、永遠の責め苦を詩句で作り出したダンテ、宗教戦争のあいまいな妥協をくつがえすために最後の審判を自らの詩篇でとりおこなったドービニエ、ナポレオン賛成を懲罰にしたユゴーに、産業社会に呪いをかけたセリーヌ。勿論ドストエスフキーも。
 『ダーク』は、崇高なる憤怒から発射された致命的な一撃だ。ジュネーブ条約で即座に禁止されるような危険な兵器。泣きたいだの、癒されたいだのという腑抜けた読者を打ち倒し、ダンディズムだのプライドなどにこだわる湿った自己愛者たちを射撃する、凶悪な憤怒の榴弾。『ダーク』は人を楽しませないし、喜ばせない。恐ろしくネガティブなものが、強烈な圧力で濃縮されている。だが、それは真実なのだ、剥きだしの現実からの言葉。
 (中略)作者は、もはや加害者としてしか小説を書かない、取り返しのつかない断崖を飛び越えてしまった。読者の反発と敵意を、加害者であることの無上の快感で圧倒すること、その悪への誘いが『ダーク』以降の桐野作品の、決定的な蟲惑になっている。
 (中略)
 本書の単行本発行当時、ミロ・シリーズの愛読者たちは、『ダーク』に当惑し、激怒した方もいたと仄聞している。たしかに、ここまでやれば仕方ないだろう。「父が象徴するこれまでの自分というものを殺してしまわなければ、自分を消し去ることは出来ないという強迫観念」というミロの認識、「父」を「小説」と読み替えると著者のそれにあてはまるではないか。それほどの切迫感が、いま、なお、『ダーク』からは伝わってくる。
               福田和也





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Last updated  2006.08.29 06:12:56
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