シリアでアメリカ軍が軍備を増強、撤退するようには見えない。 アメリカ軍がイラクからシリアにある同軍の平坦拠点へ軍事車両や軍備品を150両近いトラックで運び込んでいる
善意に解釈すると、トランプは大統領としての権限を持っていない。その推測が正しいなら、朝鮮半島に関する話し合いも無意味だ。
ソ連消滅の直後、1992年2月にアメリカ国防総省においてDPG草案という形で作成された世界制覇プランに基づき、ビル・クリントン政権の第2期目からアメリカ政府は動いている。このプランは国防次官だったポール・ウォルフォウィッツを軸に作成されたが、そのウォルフォウィッツは1991年の段階でイラク、シリア、イランを殲滅すると口にしていた。これは本ブログでも繰り返し書いてきたことだ。
アメリカ軍がロシア軍を圧倒していると信じていたクリントン政権とジョージ・W・ブッシュ政権は正規軍を投入したが、イラクやアフガニスタンでの戦争が泥沼化、ジョージアを使った南オセチアへの奇襲攻撃でロシア軍の強さを認識したこともあり、バラク・オバマ政権はサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を中心とするジハード傭兵を投入した。オバマ大統領は2010年8月にPSD-11を出し、ムスリム同胞団を中心に据えた。
しかし、ジハード傭兵を使った侵略は失敗に終わった。シリアに対する侵略戦争が長引く中、オバマ大統領は2015年に政府を好戦的な布陣にする。つまり、2月に国防長官をチャック・ヘイゲルからアシュトン・カーターへ、9月に統合参謀本部議長をマーティン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代させたのだ。
これに対し、ロシア軍はシリア政府の要請に基づいて9月30日に軍事介入、アメリカ側が侵略の道具として使っていたジハード傭兵を攻撃し、その支配地域を縮小させていく。
そして2016年に入るとアメリカと手を組んでいたトルコがロシアに接近する。戦争の長期化で国内経済が苦境に陥り、アメリカに従うことが難しくなったのだ。
レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はこの年の6月下旬、ロシアに対してロシア軍機の撃墜を謝罪、7月13日にはトルコ首相がシリアとの関係正常化を望んでいることを示唆した。軍事蜂起(クーデター未遂)が引き起こされたのはその直後、7月15日のことだ。黒幕はアメリカだと見られている。
この後アメリカはクルドを手先として使うことになるが、それもここにきて難しい状況になっている。トランプ大統領がアメリカ軍をシリアから撤退させると決断したのは間違っていないが、ウォルフォウィッツが所属するネオコンは反発した。現在、アメリカ軍はシリア領の約30%、油田地帯を占領している。イスラエル、サウジアラビア、フランス、イギリスなどもアメリカ軍の撤退に反発した。
トランプ大統領はスタート時点から手足を縛られているが、その後、自由度はさらに小さくなっている。交渉相手とは見なされなくなっている可能性が高いが、トランプを押さえ込んでいる支配層の戦術はアメリカの崩壊を早めることになると見られている。