アメリカのジョー・バイデン大統領とロシアのウラジミル・プーチン大統領が今月、中東を訪れた。バイデンは7月13日から4日間にわたってイスラエルとサウジアラビアを訪問、またプーチンは19日にテヘランでイランとトルコの首脳と会談している。
イスラエルとサウジアラビアはイギリスが長期戦略に基づいて作り上げた国であり、イギリスの戦略を引き継いだアメリカにとっても重要な位置を占めている。
アメリカはイスラエルへ多額の資金や兵器を供給、その資金はロビー活動という形でアメリカの政界へ還流している。サウジアラビアは石油取引の決済をドルに限定、貯まったドルを兵器の購入や預金、投資などの形でアメリカへ還流させてきた。アメリカの支配システムの柱であるドル体制を支えてきたのだ。
そのイスラエルとサウジアラビアがウクライナの問題でアメリカと一線を画し、アメリカの支配層を慌てさせている。イスラエルは何とか引き戻したようだが、サウジアラビアのアメリカ離れは止まらない。
今回、バイデンはサウジアラビアで石油相場の高騰について議論したと見られているが、アメリカの思惑通りにはいかなかったようだ。それ以上にアメリカを焦らせているのはサウジアラビアがBRICSへ接近していることだろう。
言うまでもなく、BRICSの中心はロシアと中国。サウジアラビア国王のサルマン・ビン・アブドラジズ・アル・サウドは2017年10月にロシアを訪問、防空システム「S-400」を含む兵器の取り引きについて話し合うなどアメリカから離れ始めている。
その年の4月、ドナルド・トランプがフロリダ州で習近平と会食している最中、地中海に配備されていたアメリカ海軍の駆逐艦、ポーターとロスから巡航ミサイル「トマホーク」59機をシリアのシャイラット空軍基地に向けて発射させた。中国に対する恫喝のつもりだったのかもしれないが、発射したミサイルの6割がロシアの防空システムによって無力化されてしまった。
この攻撃に合わせ、アメリカの傭兵、つまりアル・カイダ系武装集団やダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)がシリアで一斉に攻勢をかける手筈になっていたとも言われているが、そうした展開にはならなかった。
ドナルド・トランプ政権は2018年4月にもシリアをミサイル攻撃している。この時はアメリカ軍だけでなくイギリス軍やフランス軍も参加して100機以上の巡航ミサイルをシリアに対して発射したのだが、この時には7割が無力化されてしまった。前年には配備されていなかった短距離用の防空システムの「パーンツィリ-S1」が効果的だったと言われている。
その後、サウジアラビアはイランとの関係も修復する動きを見せ、秘密裏に話し合いを進める。その交渉でイラン側のメッセンジャーを務めていたのがイランのイスラム革命防衛隊の特殊部隊「コッズ軍」を指揮していたガーセム・ソレイマーニー。2020年1月3日、緊張緩和に関するサウジアラビアからのメッセージに対するイランの返書を携えてバグダッド国際空港へ到着した彼をアメリカは暗殺したのだ。
関係国を脅し、関係修復の動きを潰すつもりだったのだろうが、これは失敗に終わる。今回、バイデンがサウジアラビアを訪問した目的のひとつはサウジアラビアを引き戻すことにあったのだろうが、成功したようには見えない。
一方、ロシアはテヘランでイランのイブラヒム・ライシ大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談、シリア情勢について話し合ったという。ロシアはアメリカによる不法占領、破壊、略奪などを非難している。
中国の「一帯一路」に連結する形でインド、パキスタン、イラン、アゼルバイジャン、トルコ、ロシアなどを連結する交易ルートができつつあり、アメリカの経済戦争に対抗できる態勢が整いつつある。このネットワークにサウジアラビアも興味を示しているわけで、日本人が服従しているアメリカは孤立しつつある。その事実をバイデンとプーチンの中東訪問は示した。