全31件 (31件中 1-31件目)
1

源氏物語〔15帖 蓬生 3〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語15帖 蓬生(よもぎう) の研鑽」を公開してます。普通なら、古い書物や小説を読み、心を慰めることで、孤独や退屈を紛らわせることもできる。しかし、この女王にはそうした趣味はなかった。他の女性たちのように手紙を書き交わすこともなく、友人も持たなかった。友情を深めることで、自然の美しさや日々の暮らしに慰めを見出すこともできたはずだが、末摘花は父宮が生きていた頃と同じ心持ちのままで、誰とも交際しようとしなかった。親戚であっても、手紙を送ることもなく、関係を深めようとはしない態度が際立っていた。古びた書物棚から取り出すのは、『唐守』や『藐姑射の刀自』、『赫耶姫物語』など、古い物語の絵であった。現代の婦人が好むような新しい物語には目もくれず、湿り気を帯びた古紙や檀紙に書き抜かれた、誰もが知っているような古い歌を眺めては時間を過ごしていた。古歌の優れた作品を選び、作者名を添えて鑑賞することもしない。物思いにふける時に、ただ古い書物を広げるだけであった。現代の女性たちが経を読んだり、仏に勤めたりすることも、この女王には無縁だった。数珠を手にすることもなく、そうした行為を生意気とさえ思っていた節がある。末摘花の生活は、古典的で閉ざされたものであり、父宮を偲ぶ心だけが、この荒れ果てた邸に彼女を縛りつけていた。末摘花の邸には、侍従という乳母の娘が女房の一人として残っていた。この侍従は、かつて斎院に半分ずつ仕えていたが、その斎院が亡くなってからは、やむを得ず別の勤め先を見つけた。侍従の母の妹は、地方官の妻となっていて、身分の違いを気にしない家だったので、侍従も時々そこへ通って仕事をしていた。末摘花は他人との交際を避ける性格で、叔母との関係も冷たかった。叔母は時折、侍従を通じて手紙を送ってきたが、その内容は辛辣で、「姉は私を軽蔑していたから、姫君が孤立しても助けない」というような皮肉を侍従に言わせていた。この叔母はもともと貴族の出でありながら、地方官の妻として生きる運命を受け入れ、卑屈な性格になっていた。
2024.12.31
コメント(27)

源氏物語〔15帖 蓬生 2〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語15帖 蓬生(よもぎう) の研鑽」を公開してます。「そんなことをしたら大変なことになる。世間の目もあるし、私が生きている間にこの邸を他人に渡すわけにはいかない。荒れ果てていて怖い場所だとしても、お父様の魂がここに残っていると思うと、心が慰められるのだから」女王は涙を流しながらこう語り、女房たちの進言を頑なに拒絶する。屋敷に残る手道具や骨董品は、価値を知る者たちが手に入れたいと申し出てくることもあった。それらの品々を売ってしまえば、今の窮状を少しは凌ぐことができるかもしれないと、女房たちは説得を試みる。「もう仕方ありませんよ。困れば道具を手放すしかありません。」しかし、末摘花はそれにも断固として反対する。「私のために作られた物を、他の家の飾りにするなんて考えられない。お父様の心を無視することになる。そんなことをすれば、お父様がかわいそう。」彼女には、頼れる人がほとんどいなかった。兄の禅師だけが、たまに山から京へ出てきた時に訪れることがあったが、その兄も古風な性格で、世俗的な生活能力はまるでない。庭の雑草を払うことすら気づかないほど、浮世離れした僧であった。庭は浅茅が生い茂り、蓬は軒先の高さにまで達し、葎が西門や東門を覆い隠してしまった。土塀は崩れ、牛や馬が踏み荒らすようになり、春や夏には牧童たちが無遠慮に放牧にやってくる。邸の荒廃は進み、もはや見る影もない状況であった。八月に強い野分が吹き荒れてから、邸内はさらに荒廃が進んでいた。廊下は倒れたままで、下屋の板葺きの建物は骨組みだけが残り、住む者もなくなった。台所から煙が立つこともなく、人が住んでいることさえ悲しく思われるような邸となっていた。盗賊たちも、この荒れ果てた見た目に魅力を感じず、ここを避けて通るほどであった。そんな荒廃した邸の中でも、寝殿だけは昔の装飾がそのまま残っていた。しかし、掃除をする者もなく、埃が積もり、物は揃っているものの、手入れの行き届かない座敷に末摘花はひっそりと暮らしていた。日々の慰めになるような古歌や物語を楽しむこともなく、物質的な不足を忍ぶような趣味も持っていなかった。
2024.12.30
コメント(24)

源氏物語〔15帖 蓬生 1〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語15帖 蓬生(よもぎう) の研鑽」を公開してます。須磨・明石の段階における光源氏の周囲の人々の様子と、その影響を受けた女性たちの苦境を描写している。源氏が京を離れ、須磨や明石に漂泊していた時期、都では多くの人々が悲しみに暮れていた。その中でも、しっかりとした立場を持つ者、たとえば二条の夫人などは、源氏の消息を比較的詳しく知ることができ、頻繁に手紙を交わすこともできた。また、源氏の無官の立場を思いやり、季節に応じて衣装を送るなど、心を寄せる手段もあった。一方で、真に悲しい状況に置かれたのは、源氏が京を離れる際に無視され、置き去りにされた女性たちである。常陸宮の末摘花は、父を失い保護者のいない孤独な境遇にあった。源氏との関係によって物質的な支援を受け、しばらくは生活を保つことができた。しかし、源氏が須磨へ行ってしまうとその関係は途絶え、遠方から手紙を送ることもなくなった。源氏からの支援は一時的なものであり、それが途絶えたことで、末摘花の生活は再び底知れぬ貧困に陥った。かつて源氏の庇護を受けたことがあるために、その後の苦痛は以前よりも一層激しく感じられた。かつての女房たちは、源氏の保護を「神や仏のような奇跡」と感じ、感謝していたが、それが崩れ去ったことに深い悲しみを抱いていた。屋敷の荒廃も進み、かつては多くいた召使いも老衰や死によって減り、邸内はまるで狐の巣のように荒れ果てた。梟の声が響き、木精のような怪しいものが現れるなど、不気味な雰囲気が漂うようになった。人々の数が減ったことで、こうした怪異も目立つようになり、かつての栄華とはほど遠い、荒涼とした現実が広がっていた。末摘花の邸には、まだわずかに女房たちが残っていた。その中の一人が、次のように語りかける。「もうどうしようもありませんね。近頃は地方官たちが立派な邸を自慢げに建てていますが、ここの庭の木を買い取りたいと言ってくる者もいます。そういう申し出を受け入れて、この恐ろしい場所を捨てて、他へ移り住んではいかがでしょうか。私たちも、ここに残り続けるのは耐えられませんから」しかし、女主人である末摘花は、そうした提案をすぐに退ける。
2024.12.29
コメント(23)

源氏物語〔14帖 澪標 10 完〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語14帖 澪標(みおつくし) の研鑽」を公開してます。若い頃の軽率な振る舞いを悔い、彼女に一生恨まれることになった。許されないまま彼女を死なせてしまったことに対する自責の念が強く残るが、亡くなる直前に御息所が斎宮の将来について語ったため、その遺志を守り抜くことがせめてもの償いだと考えている。孤児の境遇にある斎宮に対し、できる限りの保護と配慮を行い、過去のしがらみを乗り越え、彼女のために尽力しようとする意志を強調する。また、若い帝の後宮には、少し年長の女御が必要だという考えを持ちつつも、それをあくまで斎宮の意思に従う形にしたいと語る。これに対して、宮家の人々も源氏の考えを支持し、故人の遺言として斎宮を後宮に入れるのが良いとの意見を述べる。院も今では仏道に専念するようになり、以前ほど後宮のことに執着しなくなったため、反感を買うこともないだろうと考えられている。源氏は世間の目を気にしつつも、自らの尊敬する院に配慮し、あくまで彼の感情を害さないよう慎重にことを進めようとする。斎宮を二条の院へ迎え入れることで、その後の宮廷入りも自邸から行う形を考え、夫人には「良い友だちになるだろう」と語りかける。夫人もこの提案に喜び、斎宮を迎える準備を進めることに。一方で、兵部卿の宮が自らの娘を後宮に入れるために教育していることを入道の宮は知っており、源氏と兵部卿の間に緊張が生じることを懸念する。兵部卿の娘、中納言の姫君は華やかな後宮人として知られ、その背景も強力だが、宮廷内の勢力バランスを考えれば、年長の女御の存在が帝にとっても必要だという意見が強まる。最終的に、入道の宮は斎宮の後宮入りを正式に宮家へ申し入れ、源氏の後見を信頼しつつ、斎宮が宮廷で安定した立場を築けるよう配慮する。病弱な自分が帝に仕え続けることは困難であるため、成熟した女御が必要だという意見が宮廷内でも支持される形となる。(完)明日より15帖 蓬生(よもぎう) を公開予定。
2024.12.28
コメント(25)

源氏物語〔14帖 澪標 9〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語14帖 澪標(みおつくし) の研鑽」を公開してます。宮家の人々を呼び集めて葬儀の手配を進め、源氏の威厳ある態度や周到な配慮により、かつて源氏を疎ましく感じていた人々の心も次第に和らいでいく。葬儀は華やかに執り行われ、多くの人々が参加し、亡き御息所への敬意が示された。一方で、源氏は深い喪失感に苛まれ、部屋にこもって仏事に専念する日々を送る。彼は前斎宮を気遣い、手紙を頻繁に送る。宮もまた、その悲しみを手紙に託すものの、自筆で返事を書くことにためらいを感じている。乳母たちの勧めもあって手紙をしたためるが、その内容には控えめでありつつも深い哀しみが滲んでいる。雪が霙に変わる寒々しい日、源氏は宮の孤独を思いやり、詩を添えた手紙を送る。その丁寧に選んだ紙の色や香り、書の美しさに、源氏の思いが込められていた。宮からの返事もまた、哀切な感情が込められたものであり、その字は目立たぬように控えめながらも品位が漂う。源氏は斎宮として伊勢へ下る前から彼女に関心を寄せていた。今や彼女は自由な身であるため、恋人として心を通わせることも可能だと考えつつも、それを行動に移すことへの躊躇いがあった。御息所が生前、そうした点を案じていたこともあり、世間の噂や宮の立場を思えば、自分の感情を抑え、守り手として振る舞おうと決意する。彼は、いつか宮を正式に後宮へ入れることを望み、養女として大切に育てることに喜びを見出そうと考えていた。宮は非常に内気であり、男の言葉や接触に対して慎重で、女房たちも彼女の態度に困惑するほどだった。宮家の女性たちも彼女を守り、軽はずみな行動を避けるよう注意していたため、表面的には平穏が保たれている。だが、宮の美しさや気品を思うと、源氏は彼女を他の者に譲りたくない気持ちも捨てきれない。院からの宮に対する関心も続いており、彼女を後宮へ迎え入れようという意向があったが、源氏はその意向を尊重しつつも、複雑な感情を抱えていた。源氏は、自らの過去を回想しつつ、御息所との関係について深く述べる。若い頃の軽率な振る舞いが、聡明で品格のある御息所に浮名を流させる結果となった。
2024.12.27
コメント(24)

源氏物語〔14帖 澪標 8〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語14帖 澪標(みおつくし) の研鑽」を公開してます。源氏はこの知らせを聞き、恋人というよりも信頼できる相談相手として彼女の生命を惜しんで六条邸を訪れた。病床の御息所を真心から見舞い、慰めの言葉をかけ続ける源氏の姿があった。御息所は衰弱しながらも脇息に寄りかかり言葉を交わし、源氏は目の前のかつての恋人の弱々しい姿を見て涙を流し、自分の愛情を伝える機会がないまま別れなければならないことを無念に感じていた。この源氏の真摯な態度に心を動かされた御息所は、斎宮の将来を託すことを源氏に頼んだのである。「孤児になる斎宮を子の一人として守ってほしい」と涙ながらに訴える御息所の姿は痛々しく、源氏もその言葉を深く受け止めた。斎宮を自分の子供のように大切にすると誓った。しかし御息所は、源氏に対し斎宮を恋愛の対象にしないようにとも念を押し、あの娘には一生処女を貫かせたいと切実に願った。源氏は自分がかつての放縦な人間ではないことを強調し、御息所の誤解を解こうとするが、御息所は頑なにその思いを曲げなかった。やがて夜が更け、ほのかな灯影が病床を照らす中、源氏は静かに御息所を見つめ、彼女の衰えた姿に深い哀れみを感じた。その後、御息所は再び苦しみを訴え、源氏に帰るよう促したが、源氏は彼女の苦しみを少しでも和らげたいと願い続けた。最期の時が迫る中、御息所は源氏に深い因縁を感じ、心細さを訴えながら斎宮の未来を託すことを繰り返し頼んだのである。その後、御息所はついに息を引き取り、源氏は無常の人生を痛感し、深い悲しみに包まれたまま御息所の葬儀を取り仕切ることとなった。六条邸は静まり返り、かつて親しくしていた役人たちがわずかに出入りして葬儀の準備を進める中、源氏自身も参内せず、斎宮に対して深い哀悼の意を示したのであった。源氏は、御息所の死を受け、彼女の遺志を継ぎつつ、前斎宮に対して自分を信頼し、親しく思ってほしいと願う言葉をかける。
2024.12.26
コメント(24)

源氏物語〔14帖 澪標 7〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語14帖 澪標(みおつくし) の研鑽」を公開してます。明石の君は、自分の薄倖な身の上を嘆きながらも、源氏との縁を深く感じた。その後、源氏は浪速に出て祓いを行う。海辺の風光を楽しみながらも、明石の君のことを思い、彼女の悲しみを察する。貴族たちは遊女たちと戯れるが、源氏はそれを軽蔑し、真の愛情とは尊敬できる相手に向けられるものだと考える。明石の君は、源氏から都に迎えたいという手紙を受け取るが、京での生活に自信が持てず、不安を感じ続ける。父の明石入道も、娘を都に送り出すことに対して複雑な思いを抱いているが、都に行かなければ田舎での暮らしが惨めなものになるという現実も無視できない。こうして、住吉詣でを通じて、源氏と明石の君の身分差や愛の苦悩が描かれている。そして運命的な再会が描かれ、物語は次第に明石の君が京へ上る準備へと向かっていく。この御代になった初めに斎宮もお変わりになり、それに伴って六条の御息所は伊勢から帰京したのであるが、それ以来源氏は御息所に対してかつて以上に深い好意を示しているものの、若かった頃ですら御息所の心には源氏に対する恨めしい思いが残っており、今さら源氏の心の余炎のような愛情を受け入れる気持ちはなく、二人の関係が友人以上に戻ることは決してないと御息所は固く決めていたため、源氏も自ら御息所を訪ねることはなかったのである。たとえ無理に過去の情愛を温め直したとしても、それが再び御息所を苦しめる結果になることは避けられないと源氏自身も感じていた。今では人目が多くなり、かつてのように女性の元へ通うことは世間の注目を浴びるため、源氏は御息所が待っているわけでもないのにわざわざ訪ねることを控えていた。ただ斎宮がどれほど立派な貴女に成長しているのかを見たいという思いは強くあったのである。一方、御息所は六条の旧邸を修繕し、高雅で洗練された暮らしをしており、彼女の優れた趣味と教養は今も健在で、多くの女房が仕え、風流な男性たちが訪れてくることも絶えなかった。しかし、その華やかな暮らしの中で御息所は突然重い病に倒れ、これまで伊勢という神聖な場所で過ごし仏教から遠ざかっていた年月を恐ろしく感じて尼となる決意をする。
2024.12.25
コメント(26)

源氏物語〔14帖 澪標 6〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語14帖 澪標(みおつくし) の研鑽」を公開してます。一方で、源氏は自身の地位が高まるにつれて自由な恋愛が難しくなり、物足りなさや窮屈さを感じていた。恋に奔放な女性たちも、源氏の高い地位ゆえに慎み深くなり、源氏の誘惑に応じることも少なくなった。それでも源氏は変わらぬ情熱を持ち続け、尚侍や五節といった女性たちへの未練を抱きながらも、自身の立場と周囲の目の中で葛藤していた。彼が建設を進めている東の院は、そんな女性たちを集めて住まわせるための場所で、明るく現代的な住居として設計されていた。地方官たちに協力を仰ぎ、それぞれのセンスに応じて殿舎を割り当てて造らせていた。理想的な女性を集め、才女として活躍させる構想を持ちながらも、源氏はその計画が容易には進まないことを感じていた。宮中や政治の場面では、太政大臣と源氏の内大臣が二大勢力として権力を握り、すべての決定はこの二人によってなされていた。兵部卿親王は娘たちを後宮へ送り込むことを目指していたが、源氏はその意向に対して冷淡であり、親王一家との距離は広がっていた。一方、源氏は新たな推薦者を模索しているようで、その意図は周囲に知られていなかった。源氏が須磨・明石から都に戻り、かつての流謫の地での祈願を果たすため、住吉神社を参詣する場面が描かれている。この参詣は非常に大がかりで、貴族や廷臣が多数随行する華やかな行列となった。その日は偶然にも、明石の君が毎年恒例の住吉詣でを果たそうとしており、去年もこの春も参詣できなかったことへの謝罪も兼ねていた。しかし、海岸に近づくと、目にしたのは豪奢な源氏の参詣行列だった。行列の華麗さに明石の君は驚き、自分の身の上との差を痛感する。源氏の行列は美しい装束の楽人や随身で構成されており、最上級の貴族の子供たちや若い官人たちが競うように華美を尽くしていた。一方、明石の君は自分の子が源氏の子であるにもかかわらず、同じようには扱われていない現実に悲しみを覚える。さらに、自分の貧弱な幣では神も目を留めないだろうと考え、住吉を離れて浪速へ向かうことにした。源氏はそのことを知らずに、住吉で盛大な奉納の儀を行い、神への誓いを果たす。参詣後、源氏は偶然を必然と捉え、明石の君への想いを歌に込め、手紙を送る。明石の君はその手紙を受け取ると感激し、自分の薄倖な身の上を嘆きながらも、源氏との縁を深く感じるのだった。
2024.12.24
コメント(19)

源氏物語〔14帖 澪標 5〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語14帖 澪標(みおつくし) の研鑽」を公開してます。源氏は、明石に子供を送る手配をしているのも考えあってのことだと弁明しながら、明石の女を「平凡ではない特別な存在」と評した。その特別さを語るうちに、紫の上は自分が置かれた孤独と悲しみを改めて感じ、源氏に向けて恨みをこぼしながら、自分の苦しさを独り言のように歌に託して嘆いた。源氏は紫の上の気持ちを何とか宥めようと、自分は明石の女を特別に愛しているわけではなく、ただ当時の風景や気持ちが思い出されて歎息してしまうだけだと説明した。そう話しつつ、明石から届いた手紙の上包みだけを見せると、その品のある筆跡が紫の上を一層嫉妬させた。源氏は紫の上の機嫌を取ることに追われる日々の中で、ほかの女性たちを訪れる時間も減っていった。花散里のもとにも足を運べなくなっていた。五月雨の季節になり、公務に区切りがついた源氏は久々に花散里を訪れる決心をした。花散里の家は年々荒れ果てており、訪れない間に邸内の様子も寂しいものになっていたが、それでも源氏は一家の生活を支え続けていた。ある夜、姉の女御を訪ねた後、月が朧に照らす中で花散里の西の妻戸を叩き、静かに中に入っていった。美しい源氏が月の光の差し込むところに立つのは、花散里にとって恥ずかしいことだったが、彼女はもともとそこにいたので、その場を離れなかった。この控えめで落ち着いた態度が源氏を安心させた。夜の静けさの中、水鶏の鳴き声が聞こえてくると、源氏は「水鶏が驚かなければ、どうしてこの荒れた住まいに月が差し込むことができるだろう」と詠んだ。この何気ない言葉が、源氏にとって花散里の魅力をさらに深めるものとなった。源氏はどの女性に対してもその美点を見つけ出し、惹かれる自分に苦しさを覚えていた。「私は安心していられない」と続けて源氏は口にしたが、それは戯れの言葉に過ぎず、実際には花散里の貞淑さを心から信頼していた。彼女は、源氏が長い間不在にしている間も、動揺することなく静かに待ち続けていた。そんな彼女を源氏は軽んじることなく、大切に思っていた。花散里は、源氏とのこれまでのやり取りや思い出を回想しながらも、淡々とした姿勢で「なぜあの時、私はこれほど悲しく感じたのだろう。今の幸せな状況にあっても、やはり私は寂しいのに」と静かに語る。その姿に、源氏は彼女の可憐さを改めて感じた。
2024.12.23
コメント(22)

源氏物語〔14帖 澪標 4〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語14帖 澪標(みおつくし) の研鑽」を公開してます。彼女の家は以前に比べて荒れ果てていたが、彼女自身は若く美しく、源氏の戯れにも明るく応じる性格だったため、源氏は彼女を身近に置きたいという思いに駆られた。源氏は冗談めかして「取り返したい気がする、遠くにやりたくない」と言い、彼女もそれに軽口を返しながら内心では過去の不幸を忘れて新たな生活に希望を抱いた。京の間は車で送り、親しい侍を伴わせて秘密裏に送り出した。乳母には十分な支度金を持たせ、姫君の守り刀や母親への贈り物も託した。乳母の旅路は途中船や馬を用いて進み、明石の入道は感激しながら彼らを迎えた。小さな姫君の美しさを見て、源氏が大切にする理由を乳母は理解し、旅の苦労も忘れるほど愛情を注いだ。一方で、若い母親である明石の君は、連続する物思いと出産の苦労で体力が衰えていたが、源氏の誠実な思いやりに支えられ、徐々に回復していった。送られてきた侍も丁重に歓待される一方、早く京に戻る必要があると感じていた。明石の君は別れ際に感想と歌を源氏に送ったが、源氏は姫君への思いが募り、早く会いたくてたまらない気持ちに駆られた。源氏はこの出来事を夫人にあまり話さなかったが、他の人から耳に入って不快にさせることを恐れ、明石の君が出産したことだけは伝えた。源氏は紫の上と話しながら、自分の複雑な心情を吐露していた。人生というのは不条理なもので、望む形で物事が進むとは限らず、思いもよらない場所に子供が生まれた。しかもそれが女の子だったことで悲観する気持ちを伝えつつも、子供を放っておけない親の心情を語り、いずれ京に呼び寄せて紫の上に見せたいという意向を示した。しかし、その話が紫の上に不快感を与え、彼女は「私がそんな女であると言われるかと思うと、自分自身が嫌になります」と語り、これまでの出来事が女性を恨みがちにさせるのだと訴えた。源氏は自分の心情を理解してもらえないことを悲しみ、「私が思ってもいないことを忖度して恨むのは悲しい」と涙ぐんだ。過去に紫の上と別れていた頃の寂しさを思い返し、その時期に交わした手紙の中の悲しい言葉を懐かしく思い出し、明石の女との関係はそれに比べれば一時的なものに過ぎないと感じた。
2024.12.22
コメント(25)

源氏物語〔14帖 澪標 3〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語14帖 澪標(みおつくし) の研鑽」を公開してます。また過去の愛人たちにも誠意を示しながら二条院に拠点を置きその近隣の邸を改築して新たな生活を整えた。花散里をはじめとする恋人たちのために設計された邸宅を造る中、源氏は明石の君が妊娠していることを気にかけていたが、公私にわたる多忙さから様子を尋ねることができずにいた。三月初め、産期が近いと考えて使いを送ると、先月の十六日に女児が生まれたとの報せを受け、源氏は愛人から初めて女児を得た喜びを深く感じた。一方で、京に呼び寄せて産ませなかったことを悔やんだ。占いによれば、源氏には三人の子が生まれ、そのうち一人は帝、一人は后、そして最も運命が劣る子が人臣として最高位に達するとされていた。この言葉を逆境の中で信じることはできなかった。今上帝の即位がその予言の正しさを証明するものであり、后が自分の血筋から生まれるという未来が明石の君の報せによって現実味を帯びてきた。住吉の神の庇護を得て、明石の君が后の母となる運命を背負ったことを思うと、彼女の父がその結婚に尽力した狂気じみた行動にも納得がいった。しかし、后となるべき者を田舎で産ませたことを源氏はもったいなく思い、早急に彼女を京に呼び寄せることを計画し、東の院の建築を急がせた。田舎には適切な乳母がいないだろうと考えた源氏は、かつて父帝の女房であった宣旨の娘に目を付けた。この娘は宮内卿宰相の娘であったが、母を早くに失い、寂しい生活の中で恋愛関係から子をもうけたという話を源氏は聞きつけた。その噂を伝えた者を通じて、彼女を姫君の乳母として明石へ派遣する交渉を始めた。この娘は若く純朴で、寂しい生活に飽いていたため、源氏との縁に基づく新たな生活を喜び、即座に承諾してやって来た。源氏は彼女の田舎下りを哀れみ、出立の準備を丁寧に整えさせて送り出した。源氏は外出のついでに新しい乳母の家を訪れ、彼女が乳母になることを快諾したという報告を受けたものの、まだ迷いを抱いている様子を知った。彼自身が訪問したことで、乳母は安心し、源氏の提案に従う決意を固めた。その日が吉日であることもあり、源氏は彼女をすぐに明石へ向かわせる手配を整えた。源氏は明石の入道家の状況を説明しながら、自分も経験した土地の生活だから心配しないよう慰め、最初の不安はすぐに慣れると説得した。
2024.12.21
コメント(24)

源氏物語〔14帖 澪標 2〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語14帖 澪標(みおつくし) の研鑽」を公開してます。須磨の夜に父帝が源氏の夢に現れて以来、父帝の死を悼む源氏は京への帰還を果たした今日、父帝の冥福を祈るべく法要の準備を進め、十月に法華経の八講を催した。参列者は往年の盛況に匹敵するほど集まり、その中で太后は源氏を不遇に追い込むことができなかったことを惜しんだ。帝は院の遺言を思い出し、報いが自身に及ぶ恐れを抱きつつも最近は心穏やかに過ごし、眼疾も快方に向かっていたが、短命を予感しつつ源氏をよく召し、政治についても率直に意見を求めた。宮廷内では源氏の意見が多く採用され、その状況を多くの者が喜んでいた。一方で帝は自身の近い譲位を考えつつも尚侍を心配し、「私がいなくなればあなたはどうなるのか。あなたは私をそれほど思わなかったが私は誰よりもあなたが大事だ」と涙ながらに語った。尚侍も涙を流し、帝の愛情はますます深まるばかりであった。また、帝は「なぜあなたに子ができないのか」と嘆き、尚侍に対する愛情を示しながらも、その未来を憂いた。尚侍はこの深い愛に触れつつ、自分の過去の行いが招いた源氏との事件や自身の不幸を悔いた。翌年二月、東宮の元服が行われた。十二歳の若さながら大人びた美しさを持ち、源氏の面影を二重に映したような姿に世間は称賛したが、母宮は密かに心を痛めた。帝も東宮の立派さを喜び、即位後の心得を懇切に伝えた。同じ月の二十日過ぎに譲位が行われ帝は太后を慰めながら静かに過ごしたい意向を示した譲位により東宮には承香殿女御が生んだ皇子が立ち新しい御代が始まるその日から世間は華やかさに満ち新たな気分が広がる源氏は内大臣に任じられたが摂政への期待には応じず致仕の左大臣がその役を引き受けた源氏は説得を試み大臣は太政大臣となったかつて不遇に見えたその家も栄光を取り戻し子息たちも出世を遂げる中宰相中将は権中納言となりその家族も繁栄した源氏の子も美しさと品位で注目を集め後宮にも出入りする存在となったかつて葵の上を失った悲しみも源氏の栄光によって家から払拭され源氏は老夫婦を訪問し女房たちにも厚く報いた。
2024.12.20
コメント(22)

源氏物語〔14帖澪標 1〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語14帖 澪標(みおつくし) の研鑽」を公開してます。明石の君との関係や紫の上との間の微妙な感情の交錯が描かれ、澪標という題名は海路を示す杭を意味し、これは物語全体の転換点を象徴しているとも解釈される。源氏は政治的地位を確立し六条院での生活を満喫しているがその華やかさの中で複雑な人間関係が展開される。特に明石の君との間に生まれた明石の姫君の存在が物語を動かす重要な要素として浮上する。源氏は明石の君を京に迎えたいと考えそのための準備を進めるがこれには紫の上の心情に微妙な影響を及ぼす。明石の君は地方の出身でありながら品格と教養を備えた女性でその存在は紫の上にとって無視できないものである。物語はまず源氏が明石の君を六条院の北の対に住まわせる計画を進めるところから始まる。これにより明石の君は正式に源氏の庇護下に入り姫君の将来も確実なものとなる。一方で紫の上はこの変化に対し表面上は冷静を保ちながらも内心では不安を抱える。源氏の愛情が明石の君や姫君に向けられることで自分の立場が揺らぐのではないかという懸念がにじみ出ている。またこの帖では六条院という空間そのものが重要な意味を持つ。四つの対をそれぞれ異なる季節の庭で飾った六条院は源氏の繁栄とその文化的な力を象徴する。しかしこの華やかさの裏には権力と愛情をめぐる複雑な感情が渦巻き、明石の君が北の対に入ることで六条院はさらにその象徴性を強める。澪標ではまた紫の上の心情や源氏との関係を深掘りする帖でもある。紫の上は源氏への深い愛情を抱き明石の君や姫君の存在がその心をかき乱す。源氏は紫の上への愛情を表明しながらも明石の君への配慮を怠らない。このような複雑な愛情の絡まりが澪標の核心部分を成している。さらに明石の姫君が京に迎えられる場面では物語が一つのクライマックスを迎える。姫君は明石の君と源氏の間に生まれた存在としてその未来に大きな期待が寄せられる。紫の上もこの姫君の教育を引き受けることとなり自らの立場を再確認する。明石の姫君が物語全体の次世代を担う重要な存在であることが明確にされる一方で紫の上の複雑な心情が丁寧に描かれる。澪標は源氏の栄華の中に潜む人間関係の緊張や愛情のもつれを描いた帖であり物語全体において重要な役割を果たす。華やかな六条院を舞台に繰り広げられるこの帖は『源氏物語』の中でも特に感情の繊細な描写が際立つ部分である。
2024.12.19
コメント(26)

源氏物語〔13帖 明石 14 完〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。妊娠中の明石の君は源氏との別れに動揺し、彼女の父である入道も涙を流して悲しんだ。出発の日が近づくと、源氏は毎夜明石の君のもとを訪れた。彼女の美しさに改めて心を動かされ、何らかの形で京に迎える約束をした。琴を通じて心を通わせる時間も持ち、互いに将来を誓ったが、別れの悲しみは消えなかった。源氏は旅立ちの朝、明石の君に手紙と和歌を送り、彼女からの返歌を受けて涙をこぼした。別れの日、入道は盛大な宴を開き、贈り物を用意して源氏を見送った。源氏も明石の君への名残惜しさを隠せず、涙を流した。明石の君は表面では冷静を保ちながらも、心の内では自らの不運と源氏への思いに押しつぶされそうだった。母親も彼女をなだめることができず、悲しみに包まれた。源氏が流罪から帰還する過程とその後の出来事を描いた部分である。物語の冒頭では、明石の君の父である入道が、娘の結婚について後悔と苦悩を抱き、さらにその周囲の者たちが不幸な出来事に対する嘆きを表す場面が描かれている。入道は、自身の判断が間違いだったのではないかと悔やみつつも、周囲の責めに耐えながら娘の幸せを祈っている。一方で光源氏は浪速に船を寄せ、そこで祓いや住吉の神への祈りを行いながらも早々に帰京し、二条の院へ戻る。久しぶりの再会に喜び涙する人々に迎えられ、特に紫の上との再会においては、その変わらぬ美しさと成熟した魅力に深く心を打たれる。宮中では源氏の帰還が話題となり、帝や周囲の人々が彼の変わらぬ美しさと才気に驚嘆する。源氏と帝との再会では、帝が兄としての情愛と君主としての過ちを自覚する優しい姿が描かれ、二人の関係性がしみじみとした詩情の中で語られる。十五夜の美しい月の下での対話は、過去を振り返りながら未来に向けた新たな関係の再構築を示唆している。源氏が明石の君に手紙を送る場面が描かれ、そこには彼女への未練や哀愁が込められている。また、大弐の娘である五節からの返歌が届き、それに対する源氏の返答を通して、彼の恋愛感情や未練が明確に示される。源氏は多くの女性と関わりを持ちながらも、それぞれに対する感情が繊細に描かれており、特にこの巻では明石の君との関係が中心に据えられているが、同時に紫の上やその他の女性たちへの思いも交錯していた。(完)明日より14帖 澪標(みおつくし) を公開予定。
2024.12.18
コメント(23)

源氏物語〔13帖 明石 13〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。源氏は浜の館で夜を過ごす際、一人寝をすることが多く、その孤独感の中で、紫の上の気持ちを想像しては苦しみを覚えていた。紫の上の立場を思うと、源氏自身も心の中で葛藤が続き、彼女に対して以前にも増して思慕が募った。源氏は紫の上に手紙を送り、自分の過ちを率直に認めるとともに、彼女に対する変わらぬ愛情を伝えた。しかし、その一方で新たな恋愛に踏み込んだことを告白し、紫の上に対してその事実を受け入れてほしいと願った。その手紙に込められた思いに対し、紫の上は穏やかではあるものの悔しさをにじませた返歌を送り、その返事を受け取った源氏はその内容を痛切に感じ、心の中で紫の上への愛と新しい恋人への情熱の間で揺れ続けていた。一方で、明石の君は源氏の愛が時折感じられるものの、それが一時的なものに過ぎないのではないかという不安に苛まれ続けていた。源氏の訪問が減る中で、彼女はその距離を埋める方法もなく、自分の心の内で苦しみながらも、周囲にその悲しみを見せることなく、あくまで品位を保ちながら日々を過ごしていた。しかし、彼女の心の中では、「愛されること」と「捨てられること」の狭間で揺れ動き、すべてが終わった時にはただ海に身を投げるしかないという絶望感が広がっていくのだった。そのような状態の中でも、源氏の訪問があると彼女の心は一時的に安堵し、親もまた源氏の存在に一縷の希望を見出すようになっていた。しかし、明石の君は源氏にとって一時の気まぐれで終わるのではないかという恐れを拭い去ることができず、心の中で深い孤独を抱えて生きていた。源氏はいろいろな絵を描き、心の内を文章として添えていった。これは京に残る人々に対する思いを訴えるためのものだった。女王も悲しい時に同じように絵を描き、それに日記のように自分の生活を書き添えていた。この二つの絵巻の内容は非常に興味深いものだった。春になると帝が病に悩み、世間も穏やかではなくなった。右大臣の娘である承香殿の女御が産んだ皇子はまだ二歳ほどであったが、帝はその皇子に位を譲ることを考えていた。しかし、朝廷を支える後見人として適任者が必要であり、帝は源氏の君を起用するべきだと考えるようになった。
2024.12.17
コメント(21)

源氏物語〔13帖 明石 12〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。源氏が明石の娘と接近して会うことになったのは想像もしていなかったことであり、そのため彼女はよそよそしい態度でしか答えず、まるで貴族らしい気取った振る舞いを見せた。源氏は過去の経験から、もっと高貴な身分の女性であってもこれまで見せてきた熱意には応えるものだと理解していたが、この女性が自分を軽んじているのではないかと焦りの中で考えた。無理やり力で従わせるのは本意ではないし、相手の心を動かせないまま引き下がるのも見苦しいと感じた源氏は、次第に自分の感情が高まり、情熱的な言葉を投げかけるようになる。しかしこの場が明石の浦であることを思うと、そのような振る舞いが少し場違いであるようにも感じられた。源氏が注目している間に几帳の紐が動き、琴の弦が鳴る音がした。それを聞いた源氏は、さっきまで琴を弾いていたであろう若い女性の美しい室内生活を思い浮かべ、その想像がさらに彼の気持ちを熱くさせた。源氏は「琴の音が少し聞こえたように思います。せめて琴だけでも聞かせてください」と語りかけ、詩を詠むが、それに対して女性は控えめな答えの詩を返した。その様子は伊勢の御息所に似ており、源氏にとって興味深い印象を残した。彼女が源氏がそこに来るとは全く予期していなかったため、驚いて近くの部屋へ入ってしまい、扉を開けられないようにしてしまった。源氏は無理やり入り込もうとはしなかったものの、一瞬のためらいの後、結局は行くところまで行ってしまう。女性は少し背が高く、気高い雰囲気を漂わせる人物であり、源氏自身も特別な衝動があったわけではなかったが、これも前世からの因縁だと考えることで愛情が深まるように感じられた。この恋愛はこれまでのものとは異なり、近い身分であるがゆえに際立って特別なものに思えた。普段であれば辛いと感じる秋の長夜も、この時はあっという間に明けた気がした。翌日、源氏は彼女に手紙を送るが、それまでよりも人目を気にするようになり、それは源氏自身の内なる葛藤から来ていた。彼女の父親である入道もこの事態を公にしたくないと考え、結婚の二日目に使いを立てる際も慎ましやかに対応した。こうした扱いに娘は誇りを傷つけられたように感じたが、その後も源氏は彼女の元を時折訪れるようになった。源氏は浜の館で夜を過ごす際、一人寝をすることが多く、その孤独感の中で、紫の上の気持ちを想像しては苦しみを覚えていた。紫の上の立場を思うと、源氏自身も心の中で葛藤が続き、彼女に対して以前にも増して思慕が募った。
2024.12.16
コメント(23)

源氏物語〔13帖 明石 11〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。源氏はあからさまに毎日文を送ることは避けた。一方、娘自身も軽々しく動くことを良しとしない誇りがあった。田舎娘であれば都からの客に簡単に心を許すこともあるが、それは尊厳のある行動ではない。そうした関係は女に一生の苦悩をもたらす可能性がある。娘の親たちも、祈りが現実になりつつあることに喜ぶ一方で、もし結婚が成り立たず、源氏に愛されなければどうなるのかと不安に駆られていた。娘自身は、「源氏の情人になる夢など見ず、手紙のやり取りをする関係が幸福だ」と考え、今の状況に感謝していた。そんな中、源氏は入道に「この秋のうちにお嬢さんの音楽を聴きたい」と度々申し出ていた。入道は密かに結婚の吉日を選び、妻に反対されながらも準備を進めた。そして十三夜の月が輝く夜、入道は「新しい夜に」とだけ書いた風流な手紙を源氏に送った。源氏はそれを受け取り、直衣を整えて夜更けに出かけた。目立たぬよう馬で向かい、惟光ら少人数を伴うのみだった。途中、月夜の入り江の景色に見惚れつつ、源氏は紫の上への恋しさに胸を締め付けられた。そしてこのまま京へ戻ってしまいたい衝動に駆られながらも、明石の山手の家へと向かった。秋の夜の月毛の駒よ我が恋ふる雲井に駈けれ時の間も見んと独言が出た。秋の夜、遠くに輝く月を恋しく思い、その月に手が届かない切なさを馬に託して表現している。短い時間でもいいから、理想の世界(月)に触れたいという儚い願いを歌っている。山手の家は林泉の美が浜の邸にまさっていた。浜の館は派手に作り、これは 幽邃であることを主にしてあった。若い女のいる所としてはきわめて寂しい。こんな所にいて は人生のことが皆身にしむことに思えるであろうと源氏は恋人に同情した。三昧堂が近くて、 そこで鳴らす鐘の音が松風に響き合って悲しい。岩にはえた松の形が皆よかった。植え込みの 中にはあらゆる秋の虫が集まって鳴いているのである。源氏は邸内をしばらくあちらこちらと 歩いてみた。娘の住居になっている建物はことによく作られてあった。月のさし込んだ妻戸が 少しばかり開かれてある。そこの縁へ上がって、源氏は娘へものを言いかけた。
2024.12.15
コメント(26)

源氏物語〔13帖 明石 10〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。娘からの返事も定期的に来るようになり、その内容から彼女の自負心が感じられた。彼女は、自身の価値を高く持ち、決して卑屈な態度で源氏に接しようとはしなかった。源氏も、良清の縄張り内にいる娘を横取りする形になるのを躊躇し、積極的な行動を控えていた。しかし、娘の態度に期待する一方で、その自尊心の高さがかえって源氏を惹きつける要因にもなっていた。一方で、源氏は京に残してきた紫の上への思慕が募り、この一時的な別れを後悔していた。須磨から明石へと移ることで紫の上との距離がさらに感じられ、彼女をそっと呼び寄せようかと思うこともあった。しかし、現状の境遇では世間体を優先し、恋しさを抑えるべきだと自らを納得させていた。このように、明石の娘とのやり取りと京への恋心が交錯する中で、源氏の心は複雑な揺れを見せていた。この年、日本では天変地異と呼べる出来事が多発した。三月十三日の激しい雷雨の夜、帝の夢に先帝が現れた。清涼殿の階段のところに立つ先帝は険しい表情で帝を睨み、源氏に関することを多く語ったようだった。目覚めた帝は恐れを抱くとともに、亡き父帝が自分にまで心労をかけていることを悲しく思った。この夢を太后に話すと、太后は「雷雨の夜の悪夢など、日頃の心労が見せたものだ」と軽視し、軽々しく行動に移さないようにと諭した。しかし、その夢の影響か、帝は目を患い重い病に陥った。太后の宮では、謹慎的な祈祷が行われた。さらに太政大臣が突然亡くなり、その死が世間の不安を煽った。太后自身も体調を崩し、快癒することなく衰弱が進んでいった。これらの事態に、帝は源氏を思い出し、「無実の罪で官位を剥奪されている源氏を本官に復させるべきだ」と何度も太后に訴えたが、太后は「三年も経たずに許すのは世間の批判を招く」と反対し続けた。この対立の中、帝と太后の病は好転しなかった。一方、明石では秋風が強く吹き始め、源氏は一人暮らしの寂しさを強く感じていた。彼は明石入道に娘のことを話題に出し、「目立たない形でこちらへ来させてはどうか」と提案したが、自ら訪れるのは不適切と考えていた。
2024.12.14
コメント(21)

源氏物語〔13帖 明石 9〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。入道は自分には過ぎた幸福であると述べ、歌を詠んでいた。眺むらん同じ雲井を眺むるは思ひも同じ思ひなるらん(同じ空を眺めるのだから、お互いの心も同じような想いであるだろう」と述べている。空という広がりを共有することで、二人の気持ちが共鳴していることを想像している表現だ。遠く離れていても、空を通じて心がつながっていると感じている様子を描いている)自身の風流気を出してしまったことを詫びる文面であり、字も古風ながら風格が感じられるものであった。これに対し、源氏は入道の文を「なるほど風流だ」と思う一方で、娘本人から返事がないことにわずかな不満を抱いた。しかし、使いが立派な贈り物を持ち帰ったことで、多少気を取り直した。翌日、源氏は再び文を送り「代筆の返事など必要はない」としつつ、自身の心情を歌に込めた。いぶせくも心に物を思ふかなやよやいかにと問ふ人もなみ(もやもやとした気持ちで、心に色々と考えが巡ってしまう。『どうしたの?』と尋ねてくれる人もいない」と述べている。孤独感や、自分の気持ちを誰にも相談できないもどかしさ、またその心のうちを晴らせない鬱屈した思い)この文は柔らかい薄様に美しく書かれ、源氏の心遣いと洗練がにじみ出るものだった。しかし、明石の娘は、自分が源氏の目に叶うような存在ではないと感じ、返事を書くことをためらった。入道に責められる形で、香の匂いの沁みた紫の紙に、自身の心情を紛らわせるような淡い調子で、次のように返した。思ふらん心のほどややよいかにまだ見ぬ人の聞きか悩まん(私が思っている心の深さや程度を、まだ会ったこともない人が聞いて悩むだろうかという意味。会ったことのない相手(ここでは源氏)に、自分の想いを知られることへの不安や恥じらいが含まれている)娘の書く手は京の上流貴族の女性と比べても遜色のないものであり、その才は源氏を楽しませるものだった。彼はこの手紙を見ながら京での華やかな生活を思い出し、心が慰められるとともに、娘への興味が少しずつ深まっていった。しかし、源氏はあからさまに毎日文を送ることは避け、二、三日おきに、寂しい夕方や物哀れな夜明けに書いた文をそっと届けるようにした。
2024.12.13
コメント(22)

源氏物語〔13帖 明石 8〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。源氏は涙ながらに「娘の演奏をぜひ聞いてほしい」と願った。源氏は、入道の熱意を興味深く感じながらも、軽い冗談を交え、「松風がうるさい土地で、よくそんなに稽古ができたものだ」と感心するふりをした。その上で、十三絃の琴について、女性の名手が多いことや、過去の嵯峨天皇の時代に名高い女五の宮がいたが、その系統が現在には継がれていないと話し、入道の娘の演奏をぜひ聞きたいと口にした。これに対し入道はさらに熱を込めて、自信を持って娘の音楽の才を語った。十三絃の琴だけでなく琵琶も弾きこなす娘の芸は「品のある手筋が見える」と誇り、自分の娘を荒波の音しか聞こえないような場所に置いておくのは親として悲しいことであると語る。それでも、時にはその音を聞いて心を慰めることがあるとし、娘の才能が特別であることを再度強調した。源氏は入道の熱意と自信に面白みを感じつつ、入道に実際に十三絃の琴を弾かせた。入道の演奏は玄人然としたもので、唐風の技巧が多く含まれ、現代には聞けないような珍しい音を奏でた。催馬楽「清き渚に貝や拾はん」を歌わせたり、自らも拍子を取り、音楽を楽しむ場面は旅愁を一時的に忘れさせるようなもので、人々の心を和ませた。夜が更け、涼しい浜風が吹く中、入道は自身の過去と現在について語り始めた。明石に来てからの苦労、出家に至るまでの経緯、そして娘の幼い頃から住吉の神に祈願し続けたことを述べた。入道は長年、娘が都の高貴な人物と縁を結ぶように祈り続け、敵を作り苦難にあったこと、それでも娘を守るために努力を惜しまないと誓ったことを涙ながらに語った。これを聞いた源氏は、入道の熱意と親としての深い愛情に心を打たれ、静かに涙ぐみながら耳を傾けた。この場面には、入道の親心と源氏の繊細な感受性が交錯し、物語全体の人間味と感動を強く感じさせる趣がある。明石の入道から届いた手紙は、源氏にとって過剰ともいえる敬意と感謝が込められていた。入道は手紙の中で、源氏からの文を「もったいない」とし、自分には過ぎた幸福であると述べ、歌を詠んでいた。眺むらん同じ雲井を眺むるは思ひも同じ思ひなるらん。
2024.12.12
コメント(22)

源氏物語〔13帖 明石 7〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。その上で、十三絃の琴について、女性の名手が多いことや、過去の嵯峨天皇の時代に名高い女五の宮がいたが、その系統が現在には継がれていないと話し、入道の娘の演奏をぜひ聞きたいと口にした。これに対し入道はさらに熱を込めて、自信を持って娘の音楽の才を語った。十三絃の琴だけでなく琵琶も弾きこなす娘の芸は「品のある手筋が見える」と誇り、自分の娘を荒波の音しか聞こえないような場所に置いておくのは親として悲しいことであると語る。それでも、時にはその音を聞いて心を慰めることがあるとし、娘の才能が特別であることを再度強調した。源氏は入道の熱意と自信に面白みを感じつつ、入道に実際に十三絃の琴を弾かせた。入道の演奏は玄人然としたもので、唐風の技巧が多く含まれ、現代には聞けないような珍しい音を奏でた。催馬楽「清き渚に貝や拾はん」を歌わせたり、自らも拍子を取り、音楽を楽しむ場面は旅愁を一時的に忘れさせるようなもので、人々の心を和ませた。夜が更け、涼しい浜風が吹く中、入道は自身の過去と現在について語り始めた。明石に来てからの苦労、出家に至るまでの経緯、そして娘の幼い頃から住吉の神に祈願し続けたことを述べた。入道は長年、娘が都の高貴な人物と縁を結ぶように祈り続け、敵を作り苦難にあったこと、それでも娘を守るために努力を惜しまないと誓ったことを涙ながらに語った。これを聞いた源氏は、入道の熱意と親としての深い愛情に心を打たれ、静かに涙ぐみながら耳を傾けた。この場面には、入道の親心と源氏の繊細な感受性が交錯し、物語全体の人間味と感動を強く感じさせる趣がある。源氏の意図は単に入道の話を聞き流し、話のきっかけとして「十三絃の琴」という一般的な話題を持ち出しただけだった。しかし、入道はその言葉を過剰に受け取り、興奮した様子で笑顔を見せながら、自分の音楽の来歴や娘の芸の才を語り始めた。入道は自らの音楽の腕を延喜の帝の代から続く名門の三代目の継承者であると誇り、かつて世俗や音楽を一度は捨てたこと、今では娘が自身の弾く琴の音を耳で覚え、見事に再現していることを熱弁する。
2024.12.11
コメント(29)

源氏物語〔13帖 明石 6〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。紫の上、その人の影すらここにはなく、ただ淡路の島が見えるばかりであった。源氏は「淡路の島」を詠み、「遠く見える島すらも美しいこの夜の月」と歌い、袋から琴を取り出して心を慰めるように弾き始めた。山手の家では、波や松風に混じって聞こえてくる琴の音を聞き、若い娘たちも心を揺さぶられる思いであった。琴の音に慣れない地元の老人たちさえも外へ飛び出し、海辺を歩きながらその音に耳を傾けた。入道も祈りを中断し、急ぎ源氏のもとに駆けつけた。「あなた様の琴の音に、捨て去った世が恋しくなるように感じます。まるで死後に目指すべき理想の世界がそこにあるかのようです」と、涙を流しながら称賛した。源氏も、かつて宮中で催された音楽会や、その時に演奏した人々の名演、自身が帝をはじめとする多くの人から音楽の天才として尊敬されていたことを思い出していた。しかし、今や人々の手の届かぬ存在となってしまった自分の不運を思い、夢のような過去が心に浮かびながら愁いをこめて琴を奏でていた。老人は涙を拭いながら琵琶と十三絃の琴を取ってきて、琵琶を少し奏でた後、十三絃の琴を源氏の前に置いた。源氏はこれも少し弾いて見せ、入道は再びその技量に深く感銘を受けた。十三絃の琴について、源氏は「柔らかく、少し揺らぐように弾くのがこの楽器の面白いところです」と語り、心地よい空気の中、夜の情趣に浸り琴を奏で続けた。源氏の意図は単に入道の話を聞き流し、話のきっかけとして「十三絃の琴」という一般的な話題を持ち出した。しかし、入道はその言葉を過剰に受け取り、興奮した様子で笑顔を見せながら、自分の音楽の来歴や娘の芸の才を語り始めた。入道は自らの音楽の腕を延喜の帝の代から続く名門の三代目の継承者であると誇り、かつて世俗や音楽を一度は捨てたこと、今では娘が自身の弾く琴の音を耳で覚え、見事に再現していることを熱弁する。彼は涙ながらに「娘の演奏をぜひ聞いてほしい」と願った。源氏は、入道の熱意を興味深く感じながらも、軽い冗談を交え、「松風がうるさい土地で、よくそんなに稽古ができたものだ」と感心するふりをした。
2024.12.10
コメント(22)

源氏物語〔13帖 明石 5〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。源氏が明石にいる間、天候は穏やかに澄み渡り、漁師たちは明石の浦で忙しく活動し、源氏が最初に須磨に着いた時とは異なり、賑やかな村の雰囲気があった。最初こそその賑わいを疎ましく感じていたが、ここでの生活の中に新たな魅力を見出し、次第に慰めを感じるようになった。一方、明石の入道は信仰深く俗世を離れた人物でありながら、一人娘に対する愛情が強く、源氏に気を引こうとする言葉を度々洩らしていた。源氏もその娘に興味を持ち、彼女との縁が前世から続くものかと考えたりもしたが、京の大切な女性のため、誓いに背くことを恐れ、入道の娘に対して求婚的な態度はとらないと決心していた。しかし、ふとした瞬間に、入道の娘の魅力を感じることもあった。入道自身は、源氏に対して一定の距離を保ちながらも、美しい源氏の姿を遠くからでも見ていたいという思いを抱き、仏に念じて自らの願いを成就させたいと願っていた。年齢は六十に達していたが、清潔で老いを感じさせず、古典的な趣味に通じた品のある老人であり、語る内容からも教養の高さが感じられた。入道は過去の興味深い話を少しずつ源氏に話し、源氏もそれを聞くことで憂さを晴らすことができた。こうして入道は源氏に親しく接していたが、気高い貴人である源氏に対して、以前のように独断で娘の婿になってほしいとは言い出せず、自らの歯がゆさを妻とともに嘆いていた。明石の娘は、田舎で育ったため、都のような立派な男性を見ることがほとんどなかった。源氏を一目見たときには、世にこんな美しい人がいるのかと驚き、その端麗な姿に感嘆した。しかし、それによって自身との身分や立場の差を痛感し、この人を恋の対象にするべきではないと感じた。両親が彼女と源氏の縁を熱心に祈っているのを知りながらも、それは不釣り合いな願望だと、彼女は自分の低い身分を嘆くようになっていた。四月が訪れ、入道は衣替えの衣や美しい夏の帳を家で整えた。これを余計なことと思いつつも、源氏は入道の熱心さに対して何も言えなかった。京からも度々贈り物が届き、穏やかな初夏の夕月夜に、海の広がりが美しく見渡せる場所に立っていた源氏は、二条の院で見た月夜の池を思い出し、恋しい紫の上のことを思わずにはいられなかった。
2024.12.09
コメント(23)

源氏物語〔13帖 明石 4〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。海辺にも山手にも邸宅があり、渚には風流な小亭が設けられ、山手には入道が後世のために祈りを捧げる三昧堂があり、蓄財を保管する倉もあった。高波を避けて娘や家族は山手の家に移り住んでいたので、浜辺の本邸を源氏一行が気楽に使えるようにしてくれた。夜が明ける頃、源氏が船から車に乗り移ると、朝日が輝き、入道は若々しい源氏の美しさを見て心が躍り、まるで命が延びるような気がした。入道は喜びに満ち、まず住吉の神に向かって遥かに拝んだ。美しい庭園には林泉が巧みに配置され、入り江の景色は想像力の乏しい画家には描けないほどの趣きがあった。須磨の住まいと比べ、明石の住まいは非常に明るく華やかだった。都の貴族と変わらぬ設備が整えられており、むしろさらに贅沢で華やかさが感じられた。源氏が明石へ移り住んだばかりの頃は心が落ち着かなかったが、徐々に平穏を取り戻すと、京に手紙を書くことにした。内容は、「予期せぬ運命に導かれ、ここで死を迎えることになろうとは思いもしなかった」という嘆きの言葉であった。彼の元には、須磨に滞在していた京の使いが呼び寄せられ、彼らには過分な報酬が与えられた上で、新たな用命が託され、頼りにしていた僧や寺々への祈りを依頼するための使者にもなった。源氏は個人的な知り合いとしては、入道の宮へだけ須磨での生活の終焉を知らせた。また、二条の院から送られてきた切ない手紙への返事を書いていた。しかし、章を一つ書くたびに涙を流す様子から、源氏がその人をいかに深く思っているかが伝わってきた。源氏は「さまざまな苦しみを乗り越えてきたため、出家したい気持ちが絶えず湧いてくるが、あなたの面影が忘れられず、再会しないうちは実行できない」と告げた。さらに、「あなたに再び会えたなら、他のすべての苦しみも耐え忍んでいこうと思う」という内容で、彼女との再会が何よりも望ましいと綴っていた。そして歌を詠み、「まだ夢の続きのようで、明石の浦まで来ている心地がしない」という心情を表した。そうした手紙の乱れた美しい文字に、源氏の二条の院の夫人への深い愛情を惟光たちは感じ取った。
2024.12.08
コメント(26)

源氏物語〔13帖 明石 3〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。ある日、渚に小さな船が接岸し、二、三人が源氏の住まいへと近づいてきた。山荘の者が誰かと問いかけると、彼らは明石の浦から前播磨守の入道が使いとして送った者だと答えた。使いは、「もし源少納言様がいらっしゃるなら、どうかお会いして、入道が訪れた理由をお聞きください」と伝言を述べた。これを聞いた良清は驚き、入道とは播磨で知り合いだったが、両者間に感情のもつれが生じ、付き合いが途絶えていたと語り、なぜこの風波の被害の最中に訪れてきたのか、訳が分からない様子であった。しかし、源氏は昨夜見た夢が心に残っていたため、早く会ってくるよう良清に命じた。良清が船へ向かうと、入道は異例な天候にもかかわらず船を出した理由について話し始めた。「私は先月一日の夜、夢の中で異形の者から、十三日が来れば明瞭になるので、船を準備し、風が静まれば須磨の源氏の君を訪れるようにというお告げを受けた。その言葉を信じ、船を用意して待っていると、大変な風雨が起こった。しかし、私の船は特別な風に吹かれ、ここまで導かれたのです。神の御導きと思われますが、何かそちらでも神のお告げなどはなかったでしょうか?」と入道は語った。良清はこれを源氏に伝え、源氏は夢と現実が入り混じり、不穏な暗示が多い最近の出来事を思い返した。周囲の非難を恐れて神の助けを無視すれば、更なる苦難が訪れるだろう。世間の譏りを気にして勇気を欠くことは不名誉でもない。また夢の中で父帝が住吉の神に触れておられたので、もう疑う余地はないと考え、源氏は明石へ移る決心をし、入道に返事を託した。「京からの見舞いもない中で、ただ月日だけを頼りに過ごしていましたが、私のために船を寄せてくださり、ありがたく思います。明石には私の隠栖にふさわしい場所はあるでしょうか」と答えると、入道は大変喜び、源氏を夜明け前に船に乗せることとなった。少数の護衛を連れて源氏が船に乗り込むと、入道の言葉通り清々しい風が吹き、船は順調に進んで明石へと到着した。明石の浦は、源氏が聞いていた通り美しい風光に恵まれていた。須磨と比べると人が多く住んでいるのが気になったものの、入道が所有する土地は広い。
2024.12.07
コメント(21)

源氏物語〔13帖 明石 2〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。もし真実の神であるならば、慈悲深く人々を救ってくださるはずだ、と願いを込めて多くの祈願を立てた。惟光や良清ら従者たちもまた、彼ら自身の命はどうなろうとも、源氏のような高貴な人が不幸な結末を迎えることを悲しみ、源氏を救おうと懸命に仏神に祈り続けた。彼らは声を合わせて、光源氏が帝王の宮中で愛されて育ち、数えきれないほどの善行を積んできたにもかかわらず、今の不幸は何の報いであるのかと問い、神仏に訴えた。彼が無実の罪で官位を剥奪され、故郷を離れて今も苦しんでいるのは、前生の報いなのか、それとも現世での過ちなのかと真実を問い、苦境を鎮めてほしいと願った。人々の祈りが続く中、雷鳴はさらに激しさを増し、ついには源氏の居室の廊に雷が落ち、火が燃え広がり廊を焼き尽くした。人々は恐怖に震えながらも、源氏を後ろの倉や厨房のある建物へ避難させた。上下の者が共に泣き叫び、その声は雷鳴に劣らぬほどの響きであった。空は墨を磨ったように黒く、やがて風が穏やかになり、雨も小降りとなり、星の光が見え始めた。人々は源氏の避難した場所があまりにも粗末に思えて、寝殿の方へ席を移そうとしたが、焼け残った部分も荒れていて、御簾も風に吹き飛ばされていた。その夜、源氏は疲れ果て、ものにもたれかかりながら居眠りしていると、亡き父帝が夢の中に現れ、「どうしてこんなところにいるのか」と尋ねられた。そして、「住吉の神が導いてくださるので、早くこの浦を去るのだ」と告げられた。源氏は涙ながらに、「陛下とお別れしてから悲しいことばかりが続き、このままここで死ぬつもりです」と応じたが、父帝は、「これはお前が受ける小さな報いにすぎない。私も罪を犯しており、その償いで忙しく、やっとお前のためにここに来ることができたのだ」と語った。父帝は都に伝えたいことがあるからすぐに京に帰ると仰せになり、源氏が共に行きたいと願って父帝を見上げると、夢は覚め、月の光が前に輝いていた。夢とは思えず、父帝の余韻が辺りに漂っているように感じた源氏は、心の中で彼の訪れが自分を救おうとするものであったと悟り、気力が湧いてくるのを感じた。夢の続きが見られるかと再び眠りにつこうとしたが、夜明けを迎えてしまった。
2024.12.06
コメント(28)

源氏物語〔13帖 明石 1〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語13帖 明石 の研鑽」を公開してます。須磨に流された源氏は、幾日も続く風雨と雷鳴に囲まれていた。都を離れ、極度に侘しい場所で日々を過ごす彼と従者たちは、明日もわからない不安にさいなまれている。源氏は、京に帰ることも許されないまま、さらに山奥に逃げ込むことも世間から臆病者と見られるのではないかという悩みが尽きない。夢の中では不気味な者が誘ってくるような同じ夢が繰り返し現れ、心細さが増すばかりだった。雲が途切れることなく覆う空を見上げて過ごすうちに、京のことが気がかりになっていく。自分はこんな不安の中で命を終えるのだろうかと心細く思いながらも、天候が酷く外に出ることも叶わず、京に使者を送ることもできなかった。そんな中、二条院から使いが来た。雨具で何重にも身を固めているため、途中で人ともわからないほど奇妙な姿の使者を見て、源氏はみじめな境遇にいることを思わず自覚させられる。二条院の夫人の手紙には、雨が止まず、空までも見失いそうな不安を抱えながら須磨の方角を見つめられないという気持ちが書かれていた。歌には「浦風がどのように吹いているだろうかと、波の絶え間のない頃に袖を濡らしながら思い馳せている」という胸に迫る内容があり、それを読んだ源氏の涙は自然と溢れ出た。また、都の様子を伝える使者の話によると、京でもこの天候を天変地異として何らかの暗示と解釈しており、宮中では仁王会が行われているという。使者の表情には深刻な恐怖の色が浮かんでおり、それが光源氏の不安を一層深める。ついには、この世が滅びてしまうのではないかとさえ感じる。その翌日も大風が吹き、潮が満ち、波が山のように高く立ち、轟く音は岩や山をも崩しそうな勢いである。雷と稲妻が家の近くで激しく鳴り響き、周囲の者も理性を失い始める。「私はどんな罪を前世で犯したのだろう。親や愛しい家族に会えぬまま命を終えねばならないとは」と嘆く者もいたが、光源氏はこの孤独な地で命を落とす運命にあるとは思えず、異常な天候に対して神々に幣帛を捧げ祈るばかりだった。源氏は住吉の神に向かって、激しい天候を鎮めてくれるように祈った。
2024.12.05
コメント(27)

源氏物語〔12帖 須磨 14 完〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語12帖 須磨 の研鑽」を公開してます。宰相が「たづかなき雲井に独り音をぞ鳴く翅並べし友を恋ひつつ/かつて並んで空を飛んだ友を失い、独り寂しく鳴きながらその友を恋しく思う」と詠み、「失礼に過ぎるほど親しくさせていただいていた頃のことを思い返すと、本当に後悔ばかりです」と言い残し去っていった後、源氏は再び孤独の中に戻った。少し霞がかった空の色と同じく穏やかに凪ぐ海を眺めているうちに、過去や未来のことが思い起こされる。「八百よろづ神も憐れと思ふらん犯せる罪のそれとなければ/八百万の神々もきっと私を哀れんでいるだろうというのも、私が犯した罪には具体的な悪意や明確な罪状がないからだ」と詠んだ瞬間、突如風が吹き荒れ、空が暗くなり、肱笠雨と呼ばれるにわか雨が降り出した。嵐は一行を混乱させ、山荘へ逃げ帰ろうとするが、暴風が何もかも吹き飛ばし、雷鳴と稲光に脅かされながら、何とか山荘に戻った。人々は、この世が終わりを迎えるのではないかと不安に駆られ、源氏は経を静かに唱えていた。明け方、源氏が浅い眠りに入ると、不思議で不気味な夢をみたが、夢の中で現れたのは、人間ではない異形の者であり、どこか神聖で恐ろしげな存在感を漂わせていた。その者は「王が召しているのになぜ来ないのか」と告げ、源氏を捜し求めるかのように辺りを歩き回っている様子。夢の中とはいえ、その言葉と行動には不吉で強い力を感じさせ、目を覚ました源氏は、夢の異様さに心を乱しながら、昨晩の突発的で激しい暴風雨を思い返した。思えば、それはあまりにも不自然で恐ろしい嵐でした。突然に天が暗くなり、強風が吹き荒れて、海から大きな波が押し寄せ、まるで自然の摂理を超えた力が働いているかのように思われました。源氏はふと、この嵐はただの天候の変化ではなく、海に住む竜王が起こしたのではないかと考えた。源氏は、自分が竜王に目をつけられているのではないか、あるいは自分の美しさや気高い存在が、竜王の心を惹きつけてしまったのではないかという恐れに駆られた。そして、竜王が自分を手に入れようとでもするかのように、この自然の猛威を振るい、夜に夢の中にまで現れて「王が召している」と告げたのではないかと、身の毛がよだつような思いを抱いた。こうして源氏は、この山荘に留まることが不安でならなくなり、竜王の強大な力に惹きつけられている自分を感じ、ここに留まれば再びあのような恐ろしい嵐に見舞われるかもしれないと、恐怖に駆られて夜明けの山荘を見渡した。(完)明日より14帖 澪標(みおつくし) を公開予定。
2024.12.04
コメント(23)

源氏物語〔12帖 須磨 13〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語12帖 須磨 の研鑽」を公開してます。わざと京の服装を避けたこの装いがさらに源氏の美しさを引き立てて見えた。源氏の隠棲する須磨の室内は簡素で、寝る部屋も客座から丸見えである。部屋には田舎風のそまつな碁盤や双六盤、弾棊の具などが置かれており、数珠も先ほどまで仏勤めが行われていた様子でそのまま出ている。客への膳部にも地方色が現れ、漁を終えた海人たちが貝などを届けにやって来たので、源氏は彼らを座敷前に呼んで村の暮らしについて話を聞いた。彼らの話は小鳥のように賑やかだが、根本にあるのは厳しい世渡りへの不満であった。源氏も客もその苦労を憐れんで、それぞれに衣服を与えられた海人たちは初めての喜びを感じている様子だった。源氏の山荘には馬が幾疋も並べられ、納屋から取り出した稲を食ませているのが珍しい光景である。二人は催馬楽の「飛鳥井」を歌い、京でのことを泣いたり笑ったりしながら話し合った。特に若君が何も知らずに無邪気でいる姿が悲しいと大臣が嘆いていると聞かされたとき、源氏は深い悲しみに沈んだ。夜通し語り合い詩を作り、朝になって名残惜しい別れを迎えた。杯を手にして「酔悲泪灑春杯裏」とともに歌い、供をした者たちも涙を流した。別れの朝、雁が列をなして空を飛び、源氏は「故郷を何れの春か行きて見ん羨ましきは帰るかりがね」と詠み、宰相も「飽かなくに雁の常世を立ち別れ花の都に道やまどはん」と答えた。宰相は土産を渡し、源氏からは黒馬が贈られた。「風が吹くときにこの馬の嘶きがそばで聞こえるように」との言葉とともに、この馬を形見と考えてほしいと伝えた。また、宰相は名高い笛を置いていき、互いに表立つことのないよう別れを済ませた。去りがたい気持ちで振り返りながら去る宰相の後を、源氏は寂しげに見送った。宰相が「いつまたお逢いできるのだろうか。このままいつまでもあなたが置き去りにされることはないはずです」と言うと、源氏は「雲の近くを飛び交う鶴のように空に見えるが、私は曇りのない身なのだ」と詠んで、自分自身にやましいと思うことは何もない。だが、一旦こうなってしまえば、昔の偉い人でも再び世に出た例が少ないので、自分は都をどうしてもまた見たいとは思わないと答えた。
2024.12.03
コメント(28)

源氏物語〔12帖 須磨 12〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語12帖 須磨 の研鑽」を公開してます。冗談でもそんな話はしないでほしいと訴えたが、入道は悔しがり口をつぐんでしまう。彼は「歴史でも優れた天才には厄災がつきものであり、光源氏は叔父である按察使大納言の娘を母に持つ優れた家柄である。かつて桐壷の更衣が帝に寵愛されて亡くなったが、源氏の君の存在はその証であり、田舎者の自分にも近づく許しはいただける」と誇らしげに語っていた。この娘は優雅で上品な心持ちを備え、容姿が特に美しいわけではないが、気品と見識は貴族の娘に劣らず、彼女は己の立場を理解していた。上流の男性が自分に関心を持たないと考え、かといって身分相応の相手と結婚する気もなく、もし両親に先立たれ長生きするなら尼となり、あるいは海に身を投じる覚悟でいた。入道は娘を大切にし、年に二度、彼女を住吉神社に参詣させてひそかに神の加護を願っていた。春の長い日差しに誘われる頃、須磨で孤独を感じていた源氏は前年に植えた若木の桜が咲き始めるのを見て京を懐かしみ涙を流すことが多くなり、二月の終わり、京を発つ時に思いを寄せていた人々のことが気にかかり、都で過ごした最後の宴や父帝と東宮だった頃の兄帝の姿、詩を吟じていた光景を恋しく思い出していた。源氏は「いつとなく大宮人の恋しきに桜かざしし今日も来にけり」と詠んだ。源氏が日々の暮らしに寂しさを感じていた頃、左大臣家の三位中将が須磨の源氏の隠棲先を訪れた。この三位中将は現在参議で、名門の出身として世間から信頼される立派な人物だったが、当時の世の空気を良しとは思わず、源氏に会うことで罰を受けても構わないと覚悟して、突然京を発って源氏に会いに来たのだった。久しく会えなかった親友同士が再会すると、二人はまず涙を流した。三位中将は、源氏の山荘が唐風で美しいことに気づき、絵のように趣のある景色の中、竹を編んで作られた垣根や石の階段、黒い松の柱が使われていることを興味深く感じた。源氏は淡い紅色に少し黄みがかった服の上に青みがかった灰色の狩衣指貫という質素な装いをしていた。
2024.12.02
コメント(25)

源氏物語〔12帖 須磨 11〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語12帖 須磨 の研鑽」を公開してます。冬になり、雪が激しく降る中、源氏は灰色の空を眺めながら琴を弾き始める。良清には歌を、惟光には笛を演奏させたが、源氏が琴に感情を込めて弾き出すと、二人も感極まって涙を流し、演奏をやめてしまう。源氏は、かつて中国の皇帝が北国に送った宮女の琵琶の話を思い出し、もし自分の愛人たちを遠くへ送ることになったらどれほど悲しいだろうと想像し、その感情に深く沈んでしまった。そして、王昭君が異国で琴を弾きながら詠んだ「北の異郷に送られても心は変わらない」という詩句を口ずさんだ。夜が更けて月光が家の奥まで差し込む中、源氏は「自分も何処か見知らぬ遠い地に迷い込み、月を眺めるのが恥ずかしい」と言う。孤独と悲しみに駆られ、眠れぬまま夜を過ごした。夜明け頃、千鳥の鳴き声が聞こえ、その声に寂しさを和らげようと「友の千鳥が一斉に鳴く明け方、ひとり寝覚めする自分の床に安らぎを感じたい」と詠んで、何度も口ずさんだ。まだ暗いうちに手水をとって祈りを捧げる様子は、侍臣たちにも強い印象を与え、皆が源氏を慕い、この須磨での生活から離れがたいと感じ、都へ戻る気にはなれないでいた。明石の浦は近かったため良清朝臣は明石の入道の娘を思い出して手紙を送るが返事は来ず、入道から相談したいことがあるから会いに来てほしいと誘いがあった。良清は求婚に応じない相手の家に訪ねて失望した顔で出てきて馬鹿らしいと思った。行く気になれなかったが、一方で入道は現職の官職一族以外には尊敬を示さない地方の風習に疎く、娘の求婚者を次々と追い払う姿勢を保っていた。そんな中、源氏が須磨に隠れていることを耳にすると入道は妻に「光源氏が須磨に来ているのは娘の運命に通じる暗示であり、ぜひこの機会に娘を差し上げたい」と話した。これに妻は「既に立派な奥方がいらっしゃる上に、陛下の愛人を奪って失脚した方が娘を気にかけるとは思えない」と反対したが、入道は聞く耳を持たず、「結婚の準備を整え、源氏を明石に迎える手配をする」と勝手なことを言い放った。その住まいは娘のために華美な設備が整えられており、妻は「誰にせよ流罪にされた方を初めての夫とする気はなく、まして愛情を示してくれる望みもない」と言う。
2024.12.01
コメント(29)
全31件 (31件中 1-31件目)
1


