inti-solのブログ

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2011.05.08
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テーマ: ニュース(95880)
カテゴリ: 災害
池田信夫という評論家がいます。元NHK職員で、「池田信夫blog」を主催、かなりの影響力があるようです。
私はもともと地球温暖化問題に関してこの人の主張(温暖化懐疑論)に疑問を抱いていたのですが、武田邦彦のような「大物」とは違って、この人の場合は、地球温暖化懐疑論だけで書籍を出しているわけではないので、これまで直接的にこのブログで批判したことはありません。
しかし、今回の原発事故に関しての言説を改めて読み直してみると、あまりに酷いので、取り上げることにしました。



浜岡原発についての首相の「停止要請」について協議した中部電力の臨時取締役会は結論が出ず、週明けに決定を先送りしたようです。これは当然です。首相の要請は閣議決定も経ていない個人的な「お願い」であり、それに従わなかった場合のペナルティは何もない。首相は6日の会見で「指示や命令は現在の法制度では決まっていない」と述べましたが、法的根拠のない要請(事実上の命令)を首相が公然と行なうのは言語道断です。
他方、これに従って中部電力が運転を止めると、火力発電の燃料費が今年だけで2500億円増えると予想され、これは今期の営業利益の2倍です。法的根拠のない要請に従って巨額の損失を出した場合、株主代表訴訟を起こされたら勝てないでしょう。それが歯止めになっているものと思われます。
実際には、政府は浜岡原発の運転を法的に止めることができます。いま東京高裁で係争中の浜岡原発訴訟で、中部電力に和解を勧告すればよい。これも強制力はないが、司法的な手続きで運転を差し止めることができます。これは日本政府として「浜岡原発は危険だ」と認めることであり、そういう意思表示なしに行き当たりばったりに運転を止めることはできない。
法的根拠なしに運転を止めるには、それによって中部電力のこうむる損害を政府が賠償する必要があるでしょう。2年間で5000億円の予算が必要ですが、これについて国側は「中部電力が原発停止を決めても、あくまで自主判断」と責任逃れをはかっています。日本の官庁は、これまでも口頭の「行政指導」で企業に指示を行ない、それが問題を起こすと「業者が勝手にやったこと」と逃げてきましたが、それを首相が白昼堂々とやったのは初めてです。(以下略)

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行政は、法的根拠がなければ何も指示できない(指示しなくてよい)わけではありません。引用文にあるとおり、「行政指導」があります。池田信夫はそれを批判的に捉えているようですが、事実として、国の機関から市区町村の役所まで、日常的に行われています。
たとえば、今問題となっている生食用の食肉取り扱い規制は、法の規定はなく行政指導です。池田信夫の言い分に基づけば、そんな法に基づかない行政指導は言語道断で、生食用の肉の取り扱いなど放任しておけ、ということになるわけですが、それで良いのでしょうか。

「実際には、政府は浜岡原発の運転を法的に止めることができます。いま東京高裁で係争中の浜岡原発訴訟で、中部電力に和解を勧告すればよい。」「三権分立」「司法の独立」というものを理解していないようです。中学生レベルの社会科の常識と思うのですが、裁判所で和解を勧告できるのは裁判所(司法)であって政府(行政)ではありません。司法権は行政権から独立しており、その命令は受けないというのが、我が国を含め民主主義国一般の制度です。
福島第一原発の事故の賠償総額は10兆円とも言われています。1日7億(2年間で約5000億)の出費と、どちらの方がより巨額かは言うまでもありません。

浜岡原発の「停止要請」は非科学的だ
菅首相は突然、記者会見で中部電力の浜岡原発の運転停止を要請した。その理由は
これから30年以内にマグニチュード8程度の想定の東海地震が発生する可能性は87%と極めて切迫しています。こうした浜岡原子力発電所の置かれた特別な状況を考慮するならば、想定される東海地震に十分対応できるよう防潮堤の設置など中長期の対策を確実に実施することが大切です。

ということだが、この理由は非科学的である。今までに判明している福島第一原発の事故の経緯は、次のようなものだ:

 1.地震によって原子炉は緊急停止し、核燃料の連鎖反応は止まった
 2.受電鉄塔が倒壊して外部電源が供給できず、ECCSが作動しなかった
 3.予備電源が津波で浸水して給水ポンプが作動しなかった
 4.原子炉(GE製)の電圧が440Vで、電源車と合わなかった

浜岡が危険だといわれたのは、東海地震の震源の真上にあって、原子炉が地震で破壊される(あるいは制御できなくなって暴走する)のではないかということだったが、これについては東海地震で想定されているよりはるかに大きな今回の地震で、福島第一の原子炉は無事に止まった。浜岡も国の安全審査では、東海地震に耐えられる(これは首相も問題にしていない)。
問題は、予備電源が津波で浸水したことである。これについては、浜岡には12mの砂丘があり、予備電源と給水ポンプを原子炉建屋の2階屋上(海抜15~30m)に移設する工事がすでに行なわれたので、防潮堤は必要ない。かりに予備電源がすべて地震で破壊されたとしても、浜岡の原子炉は東芝/日立製なので、予備の電源車が使える(構内にも電源車がある)。つまり3と4は福島第一に固有の欠陥であり、浜岡には当てはまらないのだ。(以下略)


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Wikipediaの記事による
それに、「構内に電源車がある」というのは、つまり電源車自体も津波で流失か水没する可能性があるわけです。

「東海地震で想定されているよりはるかに大きな今回の地震で、福島第一の原子炉は無事に止まった。」とありますが、これは2つの意味で間違っています。
第一に、停止はしたけれど、それだけでは「無事」では済まなかったことは、事実が証明しています。
実際のところ、揺れそのものに原子炉が耐えられたのかどうかは分からないのです。建屋は揺れそのものでは破損しませんでしたが、配管や格納容器については何とも言えません。配管や使用済み核燃料プール、2号機の圧力抑制室が損傷した原因が水素爆発のみだったとは断定できません。揺れそのものでも損傷が発生していた可能性は否定できません。今となっては、破損の原因が揺れだったか津波だったか水素爆発だったかを特定するのは至難の業でしょうが。

第二に、地震の規模と、ある地点における揺れの大きさを混同しています。どんな巨大地震でも、震源から遠く離れれば揺れは小さくなるのは当たり前の話です。(距離のみではなく地盤条件にも左右されます)
近年の大地震で記録された最大の揺れは以下のとおりです。

1995年阪神淡路大震災(Mj7.3/Mw6.9) 818ガル
2007年能登半島沖地震(Mj6.9/Mw不詳) 945ガル
2007年新潟県中越沖地震(Mj6.8/Mw6.6) 1018ガル
2004年新潟中越地震(Mj6.8/Mw6.6) 2515ガル
2011年東日本大震災(Mj8.4/Mw9.0) 2933ガル


※Mjは気象庁マグニチュード、Mwはモーメントマグニチュード
地震計で確認された最大の揺れなので、地震計のないところでもっと強い揺れがあった可能性はあります。特に、阪神淡路では、震度7を記録した地域に震度計がなかった(建物の損壊状況から、後で震度が判定された)ので、実際にはもっと強い揺れがあったのは確実です。

東日本大震災は、地震の規模では空前ですが、揺れの強さでは決して空前ではないのです。しかも、今回並かそれ以上の揺れを記録した地震の規模は、今回より遙かに小さいのです。震源が陸地だったので、震源の直上で揺れが観測されているからです。
今回、福島第一原発で記録された揺れは500ガル程度でした。震央から200kmほど離れており、しかも海岸沿いとはいえ地盤はやや強固だからです( 東京新聞の報道による と、比較的強い地盤まで25mほど掘り下げて建設されたそうです。津波に対しては、それが逆効果となりましたが)。


もちろん、あくまでも推測ですから、震央が確実に浜岡原発の至近距離であると断定できるわけではありません。運が良ければ浜岡原発からかなり離れたところが震央となるかも知れません。運が良ければ、ね。
そんな幸運を期待して手をこまねいているわけにはいかないでしょう。

酒やタバコは放射線より恐い
原発が恐れられるのは、凶悪な「放射能」で人を殺すと思われているからだろうが、放射線は特別な物質ではない。それは何十年も後に癌の発症率を数%増やすだけだ――と私がツイッターで書いたら怒る人がいるが、それは発癌物質としても特別に有害ではない(中略)
このデータをもとにして「野菜不足は何十年も後に癌の発症率を6%増やすだけだ」と書いても怒る人はいないだろうが、「放射線は何十年も後に癌の発症率を数%増やすだけだ」と書くと怒る人がいるのは、それを特別な有害物質だと思っているのだろう。しかし発癌物質は数多く、プルトニウムと同じぐらい有害な物質はいくらでもある。
発癌性という点では、特に危険なのは酒とタバコである。健康被害を減らすためなら、原発の放射線の処理に何兆円もかけるより、酒とタバコを禁止するほうが有効だ――こう書くと「放射線は選べない」とかいう人がいるが、原発の周辺に住まないことは選べるし、逆に受動喫煙は選べない。そんなことは問題ではないのだ。(以下略)

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酒やタバコは嗜好品です。野菜を取る取らないも本人の嗜好の問題。たとえば私は山登りをしますが当然山登りにはリスクがあります。リスクがあっても、楽しいから山登りをするのです。お酒やタバコ、食べ物の好みも同様です。
受動喫煙は選べない、それは事実ですが、だからこそ、近年は分煙や公共の場での禁煙が徹底してきているのです。幸いなことに、この10年ほど、私は自分の意に反して受動喫煙を強いられる場面はほとんどありませんでした。(それ以前は違いましたが)
原発の近くに住まなければいいとか、アホかと思います。憲法上住居移転の自由は保証されているけれど、現実にはそんなに自由ではありません。

同じ放射線でも、レントゲン検査なら、それによるメリットがあるから、リスクはあってもみんな受診するわけです。(私は近年、定期健康診断のレントゲン撮影は遠慮していますが)
しかし、原発事故による放射能には、何のメリットもない。従って、このような対比は無意味です。
死亡率にして数%の差、しかしその総数ではかなりの人数になります。こういう言い方をすれば、地震による直接の死者すら、「酒やタバコと比べて大した犠牲じゃない」と言えてしまうでしょう。





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最終更新日  2011.05.08 15:37:58
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