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結婚を考えている彼女がいて、こないだついにプロポーズした。 彼女は泣いて喜んで、二つ返事でOKしてくれた。 彼女は商社に勤める超キャリアウーマンで、英語もペラペラで、年俸だって僕の三倍はあって、おまけに振り返るくらいの美人だ。 そんな彼女が何で僕なんかを選んだのか、いまだに本気で分からない。 昨日、ピッツバーグから帰国した彼女をデートに誘った。僕は昔からデートのプランを考えるのが苦手で、昨日も思いつきで行動した。 午前中、上野の駅で彼女と待ち合わせをして、動物園で檻から出れない猿をさんざんバカにしてから、その辺の定食屋でランチを食べる。それから偶然立ち寄った神社の境内で、偶然知り合った小学生の女の子二人と話し込み、転校で二人がもうすぐ離れ離れになることを知る。「人生なんてそんなもんだよ、まるで試すように、次から次へと過酷な現実を突きつけてくる。でも、冬があるから春の素晴らしさが分かるように、そういう試練を一つ一つ乗り越えていくたびに、人生の素晴らしさを知るんだよ」 僕は小学生相手にやわな人生哲学を述べ、二人にアイスクリームをおごってやる。それから彼女と手をつないで、知らない街の知らない道を歩き、やがて、夕暮れに染まり始めた空を背に、知らない橋の上でキスを交わす。彼女の柔らかい髪の匂いをかぎながら、僕はふと、これからこの女を幸せに出来るだろうかと考える。でも、そんな答えはどこにもなく、僕と彼女はあてどもなく再び歩き始める。「ねえ、あたし達今どこにいて、どこに行こうとしてるの?」 まるで人生の行路を尋ねるように、彼女が聞いてくる。僕は、考える。「・・・さあ、でもとりあえず、夕日に向かって歩こうか」 そんな感じで、僕と彼女のデートは終わっていく。
2006.08.20
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稲妻に打たれてからというもの、人の心の中が見えるようになった。 僕の彼女は、いつまでも夢ばかり口にして才能のない僕に見切りをつけ、最近知り合った取引先の営業マンに乗り換えようとしている。その営業マンは顔はイマイチだがおもしろくて仕事は出来るし、第一あたしはもう来年二十八なんだからそろそろ現実を考えなきゃいけなくて、贅沢なんか言ってらんないの、そんなふうに僕の彼女は思っている。 僕はすっかりしらけてしまった。彼女はまだ僕に別れ話をしてこないが、近々フラれることは分かっているのだ。一緒に居ても楽しいわけがない。つれない僕の態度に、彼女が眉をひそめる。「・・・どうしたの? 最近ちょっと変だよ」 よく言うよ、と僕は思う。だけど、おまえの腹の中は分かってるんだ、なんて言えないから、べつに、稲妻に打たれてから、ちょっと疲れやすいんだ、そう言って誤魔化す。「病院行きなよ、稲妻に打たれたんでしょ?」「いいよべつに、疲れなんて寝りゃ取れるんだから」「そういう問題じゃないでしょ、何考えてんの?」「うるせえな、俺は音楽だけ出来りゃそれでいいんだよ」「音楽だけって何よ、だったらバイト辞めて音楽だけで食べてきなよ」「うるさんいんだよおまえは、俺の人生に口出しするな」 喧嘩を始めた僕と彼女の遥か西方の空で、雨雲が発達していた。稲妻に打たれて以降気になってしょうがない天気予報がそう告げていた。 気象予報士の言葉を信じれば、雨雲は更に発達を続け、やがて僕の住む街の空を覆うだろう。 激しい雨に交じって、またあの空を裂くような稲妻が街に落ちるだろうか。 そう考えると興奮して居ても立っても居られず、僕は彼女との口論をやめてエレキギターを手にし、部屋を飛び出していた。稲妻の電気を利用してギターを弾くと、とんでもないメロディーが生まれるに違いない。曇りつつある西の空に向かって、僕は走り続けた。
2006.08.20
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とうとう犬は約束の場所に現れなかった。 その犬との出会いは十年ほど前にさかのぼる。当時私はまだ子供で、ある日、川に入って遊んでいると、いつの間にか急流に流されていた。おぼれている私のTシャツの襟を、ふいに何か強い力が引っ張った。強い力は、そのまま私の体を川岸まで運んだ。 ゲボゲボ水を吐き出しながら、私は強い力の正体を見た。それは見事な毛並みの一匹の犬だった。犬はしばらく黙って私の様子を見ていたが、やがて一言、大丈夫そうだな、そう言い置くと去ろうとした。私は子供心に、カッコ良過ぎだと思った。去っていく犬に向かって、必死に言葉を探した。「ねぇ犬さん、またいつか犬さんに会えるかな?」 犬は振り返らずに、おまえが大人になったらな、と言った。「大人っていつ? 何年後? どうやったらなれるの?」 犬はやはり振り返らず、こう言った。「見返りを求めることなく、誰かのために自分を犠牲に出来たときだ」 犬は大きく尻尾を振ると、それがサヨナラの合図かのように去っていった。 あれから十年、私は今、大人になった。結局彼女は死んでしまったが、愛する彼女の看病に、私は大学生活のほとんどを費やしていた。 子供の頃おぼれた川のほとりで、私はひたすら犬を待った。 だが、犬は現れない。もう大人になったはずなのにな、と私は思い、タバコに火をつける。 初夏の光を受けた川面がキラキラと輝き、子供の頃に見た光景と全然変わっておらず、私は一瞬、ここだけ十年前から時間が止まっているのではないかと、バカなことを思った。
2006.08.07
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ある日突然、あなたは透明人間になった。あなたは最初驚くが、自分の姿や声が絶対に誰にも認知されないことを知ると、狂喜した。 あなたはまず、恋心を寄せている相手の家に上がり込み、同棲生活を始める。恋心を寄せている相手が使っているベッドの上で思う存分飛び跳ねたり、付けている日記を遠慮なく見たり、戸棚の上の置物のレイアウトを勝手に変えたりして、あなたは楽しむ。昔だったら高くて絶対に入れないようなレストランの厨房に堂々と入って何万円もするスペアリブを平気で食べたり、ものすごく緊迫した上場企業の営業会議の場でひょっとこ踊りを披露したりもする。だが、やがてあなたはあることに気づく。どんなに派手に騒ぎ立てても、世間から完全に疎外されていることを。 世間のルールを無視して生きられる透明人間になって初めて、その代償として強いられる孤独をあなたは知る。それまでは、貧乏でも恋人が出来なくてもダイエットに失敗しても、愚痴を聞いてくれる相手がいた。だが、透明人間になった今、あなたの話を聞いてくれる人はどこにもいない。 結局あなたは孤独に耐えられなくなって頭が変になって電車に飛び込んで死んでしまう。だが、当たり前だがあなたは透明人間だから、死んでも誰も気づかない。 これを読んでいるあなたのすぐ後ろにも、あなたに気づいて欲しい透明人間が、必死になって訴えかけている。
2006.08.06
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メチャクチャ悩んでへこんでどうしようもなくて死のうと思って、近所の河原でぼんやりタバコを吸っていると、猫が話しかけてきた。尻尾に特徴のある三毛猫で、まだ若かったが落ち着いていて、何となく信用できる気がした。仕事がちっともうまくいかないこと、結婚を考えていた彼女に突然フラれたこと、隣の部屋に住む中国人の女にイタズラ電話をされることなど、諸々の悩みをその三毛君に打ち明けた。三毛君は私の悩みを目を閉じて黙って聞いていたが、私が話し終えると、バカかおまえ、とはき捨てるように言った。「すべてにおいて甘いんだよ、そんなことくらいで死のうとしてんのかよ、いいよ、じゃあ死ねよ、おまえみたいな甘い人間いらないよ、役に立たないよ」 私は三毛君にボロカスに言われ、ますます落ち込み、タバコの味さえ分からなくなった。ぐったりと落ち込んだ私の背中に三毛君は飛び乗り、更に頭の上に移動した。 西の空に太陽が沈み、頭の上に三毛君を載せた私の影が地面に細長く伸びていた。私は深い溜息をつき、三毛君は大きなあくびをする。遥か彼方の空で、西日を浴びた飛行機の機体が赤く染まって見えた。
2006.08.06
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今日はトマト合戦の日だ。去年の雪辱を晴らすため、この一年間、私は今日の日を待ち続けた。だからこそ仕事が山ほど残っていても定時にタイムカードを押して、会社を飛び出してきたのだ。 コンビを組む次女とは自宅近くの公園で待ち合わせをしている。次女はこの日のために迷彩服を購入するほどの気の入れようだった。そう、我々は妻と長女のコンビに二年続けて負けるわけにはいかないのだ。 公園で次女と合流すると、我々は予定通り八百屋に向かった。そこで注文していたダンボール一杯分のトマトを受け取り、合戦の場である自宅マンションへと向かった。 マンションの玄関ドアの前まで来ると、トマトのダンボールを下に置き、大き目のトマトを一つ手に取った。ドアを開けると、いよいよトマト合戦が始まる。「パパ、準備はいい?」 真剣な目つきで、次女が私に囁く。次女にうなずくと、私はドアノブに手をかけ一気に中に突っ込んだ。「チクショー、今年こそトマトまみれにしてやるぞ!!」 興奮して私は叫んだ。だが、私の気合とは裏腹に家の中はしんとしてもぬけの殻だった。まさか妻と長女は、今日がトマト合戦だということを忘れたのだろうか。そんなバカな。トマト合戦の日を忘れるなんて絶対にあり得ない。これは罠だ・・・ 不穏な気配に気づいて振り返った瞬間、迷彩服に身を包んだ次女が私に向かってトマトを投げつけるのが見えた。・・・ 信じられなかった。次女が裏切るなんて・・・ 顔面トマトまみれで視界を奪われ、ひざまずいた私の耳に、妻と長女と次女の笑い声が響いた。
2006.08.05
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