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せっかく魔法使いと友達になったのに、喧嘩をして食パンにされてしまった。食パンは、はっきり言って辛い。何が辛いって、全然動くことが出来ないのだ。メチャクチャ暇なのである。だったら空想にでもふければいいじゃん、って思うかもしれないけど、空想にふけるったって限度がある。第一、空想にふける食パンなんて聞いたことがない。困ったものである。 ところで、目下片想い中の理奈ちゃんは今何をしているだろう。理奈ちゃんのことを考えると、胸が勝手にドキドキする。シャワーを浴びているところなんかを想像すると、体がヘンな感じになる。つまり僕は、理奈ちゃんにぞっこんなのだ。・・・でもちょっと待てよ、食パンになったってことは、理奈ちゃんと付き合える可能性はほとんどゼロに近いんじゃないだろうか。いや、そんなことはない。それはちょっとネガティブに過ぎる。食パンだって、チャンスはあるかも知れない。諦めないことが重要だってジーコも言ってたもん。「誰、こんなところに食パン置いたの?」 そ、そ、その声は我が愛しの理奈ちゃん!! ということはここは、理奈ちゃんの家なのか? 目が見えないから分からなかったけど、魔法使いの野郎、なかなか憎い演出するじゃないか。食パンにされたこと、全部じゃないけど一部許してやってもいいぜ。「お腹空いたから、あたし食べちゃお」
2006.11.19
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ある日突然、ママが猫になった。猫になったってママはママだから、ボクは普段通りの甘えん坊でママに接してみる。「ママあのさ、ムシキングのフィギアのやつがあってさ、学校でさ、みんな持ってるから、ボクも欲しいんだけど」「ミャアー」「ママあのさ、ボクね、やっくんが鉄棒できないの手伝ってあげたら、先生にエライって言われたよ」「ミャアー」 猫になったママはミャアミャア言うだけで、ちっともボクと話してくれない。抱きつこうとするとびっくりしたみたいな動きでボクの手からすり抜けて、振り返ってしばらくボクを見詰めたあと、コタツの中に入って出てこなくなった。ボクは腹が立ったので、ママがコタツから出られないようにコタツ布団の上に図鑑とかを置いて塞ぐと、温度設定を最高値にしてやった。これでママも少しは反省するんじゃないかと思った。 ところがママは十分経っても十五分経ってもコタツから出てこようとする気配をみせず、そのうち逆にだんだん心配になってきて、ボクはそっとコタツ布団をめくってみた。するとすぐ目の前にママがいて、いきなり顔面を引っかかれた。 自然に熱い涙があふれてきた。ママはもうボクを嫌いになったのだろうか。もう僕を忘れてしまったのだろうか。「ママ!!」 大声で呼んでみたが、何の反応もない。恐る恐るコタツの中を覗いてみたけど、もうもぬけの殻だった。部屋を見回しても、やっぱりママの姿はない。どこに消えたのか、気配すらない。来週の参観日、ママはちゃんと来てくれるだろうか。来てくれたとしても、ママが猫だと知ったらみんなどんな顔をするだろう。やっくんあたりに笑われちゃうんじゃないだろうか・・・。 いろいろ考えてたら水泳のあとみたいに急に眠くなってきた。ボクは熱くなりすぎたコタツの中に入ると、吸い込まれるように深い眠りに堕ちた。
2006.11.18
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転勤が決まった夜、残業で一人残ったオフィスで、窓の外を眺めていた。いつになく老けて映るガラスの中の自分の姿に透けて、ランドタワーのじんわりした赤いネオンが明滅している。ふいにそのネオンが二重にぼやけて見えて、思わず目頭を押さえた。疲れが、重く深く体に染み込んでいた。ふと、学生の頃の恋人のことが頭に浮かんだ。どういう会話の流れだったかもう忘れたが、彼女と過労死について話したことがあって、その記憶が今の自分の状態とリンクして彼女の思い出を喚起したのだろう。「あなたは素直じゃないのよ、無理なことは無理だって断るのは、全然カッコ悪いことじゃないよ」「べつにカッコなんかつけてないよ」「それがもうカッコつけてんの、いつかがんじがらめになって死んじゃうんだよ」 ・・・冗談じゃなく、私は当時の彼女の予言した通りになろうとしていた。明らかにオーバーワークなのに、頼まれれば断れず、能力を超えた仕事量を引き受けていた。それで出世に繋がればいいのだが、てんで評価の対象にはならず、挙句の果てが地方への左遷だった。 目を開けると、窓の外にハラハラと雪が舞っていた。そういえば今夜は初雪が降るかもしれないとニュースで言っていた。クリスマスの夜、学生身分で無理をしてホテルのフレンチレストランで彼女と食事をしたことを思い出す。高いワインと雰囲気に酔ってベッドに入り、彼女を抱き締めた。ずっと一緒にいようね、私の胸の中で、彼女はそう囁いた。 私の軽はずみな行動が原因で、結局彼女とは別れてしまったが、思い返してみれば、心から愛した女は彼女だけのような気がした。 彼女は今どこで、何をしているだろうか。 僅かの間に雪は激しくなり、夜の闇を埋め尽くしつつあった。このまま何もかも雪に埋もれてしまえばいいのに、一瞬そんなバカな考えが脳裏を過ぎった。 私は深い溜息を一つつき、現実と向き合うように、再びパソコンに向き直った。
2006.11.12
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雨が降り始めた。雷を伴うような激しい雨だった。雨はやまなかった。やまない雨だった。そのことを知ると、街の人々は恐怖した。雨で海面の上がった海に街が飲み込まれるのも時間の問題だからだ。オリンピック候補にもなった元スイマーが、だったらみんなで魚になるか? と冗談を言ったが、誰も笑わなかった。 死の雨の降りしきるなか、街はパニックに陥った。外国に発つ客船のチケットが高騰し、アウトドアショップから小型ボートが消えた。やまない雨はないとテレビで絶叫した気象予報士が袋叩きにあい、名曲『雨に唄えば』は廃盤に追い込まれた。 そんななか僕は、残された時間をあなたと過ごすために傘を広げて街に出た。道中あなたに電話をして、お腹減ってない? 何か買ってこうか? と質問する。仕事を放棄しつつある携帯電話会社のせいで電波が悪く、あなたの声をはっきり聞き取ることが出来ない。肉まん、とも、いらない、とも聞こえる。僕は携帯を切り、近くのコンビニに入って肉まんを買う。仮にあなたにいらないと言われても自分で食べればいいだけの話だ。「人間っておかしいですよね」 店長の名札をつけた中年の店員がレジで声を掛けてきた。「何がですか?」と僕。「だって、遅かれ早かれ僕らは死んじゃうんですよ、なのに、こんなふうに働いて・・・働くってことは、それは、つまり収入を得るためで、生きていくための行為ですよ、矛盾してるとは思いませんか?」 僕は肉まんを受け取ると店長を無視して外に出た。早くあなたに会って話がしたかった。出迎える玄関で、たぶんあなたは濡れた僕の肩口をタオルでやさしく拭いてくれるだろう。そしたらきっと僕はあなたの唇にキスをする。そんなことを考えながら、ふと空を見る。 雨は、降り続いている。
2006.11.11
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いろいろあって、二ヶ月ほど中国に滞在した。二度目の中国の印象は、国民に広がる激しい貧富の差だった。一度目に訪れたのはまだ北京空港が新しくなる前で、そのときは共産圏の暗さばかりが目立った。十年ほどの間に、中国はめまぐるしく変わった。報道などで中国国民の所得格差の問題は耳にしていたが、現状は私の想像を超えていた。共産主義と資本主義経済の同居する中国社会の、今後の大きな課題だろう。 中国滞在中、宿泊していたホテルの近くで一人の女と知り合った。彼女の名はリン。漢字で凛と書き、二十歳で、売春婦だった。外国の宿泊客をターゲットにした売春婦たちは、黒塗りのベンツに何度クラクションを鳴らされてもめげなかった。 私は金持ちではないので、ベンツのハイヤーで街に繰り出すようなことはしなかった。ホテルを出るたび、リンは待っていたように私に声を掛けてきた。最初は相手にしなかった私も、彼女の情熱に、ある日ついに足をとめた。「こんなことをしないと生活出来ないのか?」 通じるはずのない日本語で、私は尋ねた。リンは私のジャケットの袖口を引っ張り、イチマンエン、イチマンエンと繰り返した。やりきれなかった。胸のうちに、怒りに近い感情が生まれていた。 リンと言葉を交わしたのは、彼女の情熱のせいなどではなかった。私はリンと寝たかったのだ。リンは、昔私が愛した女に似ていた。私は、昔の恋人に売春婦をだぶらせ、せつない恋の思い出に金の力で浸ろうとしていたのだ。 結局私はリンを買った。大人の良識を捨て、自分のエゴだけを満たした。そして自己嫌悪にも陥らず、シャワーを浴びれば全部洗い流せるとでもいうように、今日ものうのうと生きている。
2006.11.11
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