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「これから院のお傍などに参上いたしますが、きっと早く帰ってまいりましょう。このように、始終あなたとお逢いすることができれば嬉しいのですが、あなたの母大宮がずっとお傍にいらっしゃるところに行くのはぶしつけかと思い、苦しい思いをしながらも私はご遠慮していたのですよ。ですから、あなたもはやく良くなって、いつもの御座所でお逢いできるように心を強く持ってくださいな。母宮があなたを子供扱いなさるから、それに甘えてご病気が良くならないのですよ。」などと言い置いて、美しく上品なお召し物にお着替えなさるのです。葵の上はご病床に臥しながら、そのご様子をいつもよりじっと目を留めてご覧になるのでした。
葵の上は大事に育てられたお姫様でしたから、ご両親からお諌めを受けるといった経験など、きっとなかったことでしょう。ですから、ここで源氏に諭されるようにやさしくお説教されたとき、新鮮なお気持ちで、素直に聞き入っていたのではないでしょうか。そこには年齢差を感じさせるどころか、反って源氏の頼もしさを感じていたように思います。
この後作者は「重りかにおはする人の、ものに情おくれて、すくずくしき所、つき給へる」葵の上を急死させ、わがままでかわいい性格のまま、物語から退場させています。
葵の上はいつまでも、甘えっ子のかわいらしさと上品な重々しさ、自己中心のわがままと育ちの良い素直さを併せ持つ、愛すべき女人として描かれているように思います。