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さて浦嶋が故郷へ帰ってみますと、「人跡絶えはてゝ、虎ふす野辺となりにけり。浦嶋これを見て、こはいかなる事やあらんと思ひ」ふと傍を見ると柴の庵がありました。そこへ行って「物を訪ねるが」と言いますと、内から八十ばかりのおじいさんが「どなたがおいでになったのかな」と言って、出てきました。
浦嶋が「ここに浦嶋という人がいたはずだが、行方を知らぬか」と尋ねますと、翁が申しますには
「浦嶋の行方をお尋ねになるとは、不思議なことでございますれば、あなたさまはどういうお人でございましょう。その浦嶋とやらは、もう七百年も昔の事と言い伝えられております」
太郎は、これは一体どうしたことだとたいそう驚き、今までのことをありのままに語りましたところ、その翁も不思議に思い涙を流したのでした。そして、
「あそこに見える古い塚、古い石塔こそ、浦嶋という人の墓所であると伝わっております」と言って指さし、教えてくれました。
太郎は泣く泣く、草深く露しげき野辺を分け入り、古き塚にお参りし、涙を流しながらこう歌いました。
かりそめに 出でにし跡を来てみれば 虎ふす野辺と なるぞ悲しき
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