私訳・源氏物語

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March 1, 2009
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カテゴリ: 古典文学

 浦嶋太郎は一本の松の木陰に、呆然としておりました。

 そこで太郎は、

「そうだ。亀がくれたかたみの箱がある。決して開けるなと十分に注意されたけれども、今になってはもう、構うものか。開けてみよう」

すると、中から紫の雲が三筋立ち上りました。これを見ると二十四・五の太郎も、たちまち変わり果てた姿になってしまいました。

 さてさて、浦嶋は鶴になって虚空に飛び上ってしまいました。

 それはさておきこの浦嶋の年を、亀の計らいで箱の中に畳み入れたのでした。

 そうしてこそ七百年の齢を保ったのです。開けてみるなと言われたものを、開けてしまったことこそつまらないことでありました。

君にあふ 夜は浦嶋が玉手箱 あけてくやしき わが涙かな

と、歌にもよまれてしまったほどです。

 いのちあるものは皆、情けを知らぬということがありません。いわんや人間の身として生まれながら恩を知らぬのは、木石にたとえられましょう。

 情け深い夫婦は二世(現在・未来)の契りと申しますが、まことに珍しいことでありました。

 浦嶋は鶴になり、蓬莱の山にいるそうです。亀はその甲に祝福をそなえ、よろず世を生きたそうです。そのため鶴と亀は、おめでたい例(ためし)とされています。

 このように情のある人の行く末はめでたいものであるから、凡人には情けあるべしと申し伝えられています。

 その後浦嶋太郎は、丹後の国の浦嶋の明神として顕れ衆生に済度をお与えになり、亀も同じところに神としてあらわれ、夫婦の明神になりました。

 おめでたい例でございました。






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最終更新日  March 9, 2017 12:27:02 AM
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