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「私は、愚か者の話をしましょう」
今度は、頭中将が話し始めました。
「私がたいそう忍んで逢い始めた人がいましてね。
そのまま関係を続けていけそうな雰囲気でしたが、
私は特に長く続けたいとは思っていませんでした。
それでも慣れ親しんでいきますと可愛いいと思う気持ちが強くなりまして、
忘れぬ程度に通っていたのですよ。
それくらいの仲になりますと、どうやら子どもができたようで、
私を頼りにしている様子が見えてきたのです。
たまにしか訪れない私を頼りにするには、
恨めしいと思うこともあるだろうと察せられたのですが、女は気にしないそぶりで、
私を冷たい男とも考えていないようなのです。
それでもやはり朝に夕に、女の身の処し方で何かと分かるものですから、
こちらとしては心苦しく、私を頼りにするようにと言って聞かせるようになりました。
親もなくたいそう心細げなので、
折に触れ私を生涯の夫として頼りに思っている様子が愛しかったのです。