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源氏の君は、切ない思いを藤壺の宮にお伝えする手立てもなくお帰りになります。
宮ご自身は世間の思惑も厄介ですから、このような事は迷惑な事とお思いになり、
命婦さえも以前のように気をお許しにはなりません。
人目には分からぬように穏やかに接していらっしゃるのですが、
『嫌な事』とお思いの時も当然おありでしょうから命婦は心中たいそう辛く、
こんな結果になった事を意外にも思うのでした。
藤壺の宮は若宮とともに、四月に内裏にお帰りになります。
生後二カ月にしては大きく知恵づいておいでで、起き返りなどもしようとなさいます。
あきれるほど源氏の君に瓜二つのお顔つきでいらっしゃいますので、
帝は『他に比類のない者同士は、本当に似通っていらっしゃるものだ』とお思いになり、
限りなく大切にご養育なさいます。
帝は源氏の君を最も大切な存在と思召しながら、
世間の人々が許さぬであろうために、東宮にも立てることがおできにならなかった事を
残念にお思いでいらっしゃいました。
臣下としては勿体ないほどのお顔つきやご様子にご成長なさるにつれ
いつも心苦しく思召すのでしたが、
この度は高貴なご身分の藤壺の宮の御腹に、源氏の君と同じ光をもって
若宮がお生まれになりましたので、帝が「疵なき玉」とご寵愛なさいます。
けれど藤壺の宮は何事につけてもお胸の内の安まる暇もなく、
不安を募らせていらっしゃるのです。