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藤壺の御殿で管弦の御遊びをなさいますのはいつものことながら、
帝が若宮をお抱きあそばしてお出でになりました。
「私にはたくさんの御子たちがあるが、
このような幼い頃より朝夕見ていたのはそなただけだ。
そのせいだろうか、若宮はたいそうよく似ているように思えるのだよ。
小さいうちはみな似ているように見えるのだろうか」
とて、可愛くてしかたがないとお思いでいらっしゃいます。
源氏の中将ははっとして、顔色が変わるような心地がなさいます。
恐ろしくも、もったいなくも、嬉しくも、申しわけなくも
様々な思いが去来して涙が落ちるほどです。
若宮がお声をたててお話しなさりお笑いになる様子が、
恐ろしいほどにうつくしくいらっしゃいますので、
我が身ながら『自分が若宮に似ているとしたら、可愛がられて当然』
とお思いになるのは、自惚れというものでございましょう。
藤壺の宮はいたたまれぬ思いで、冷や汗を流していらっしゃるのでした。
源氏の中将は若宮との対面を切望しておいででしたけれども、
今では反って御心がかき乱されるような心地で退出なさいました。