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冷ややかな風が吹きやや夜が更けゆく頃、二人がまどろむ気配がしますので、
頭中将がそっと入って来ました。
源氏の君は、お寝みになれぬ気持ちでいらっしゃいましたので、その足音を聞きつけて、
『あれはきっと、今でも典侍を忘れられずにいる修理職の大夫に違いない』
と勘違いなさいます。
分別のある老人に、不体裁な振舞いを見つけられることが恥ずかしいので、
「やれやれ、厄介な。私はもう帰りますよ。
あなたは大夫が来ることを知っていて、私を陥れたのですね」
と、直衣だけを取り、慌てて屏風の後にお入りになりました。
頭中将は可笑しさをこらえて近寄り、
ばたばたと音を立てながら大袈裟に屏風を畳みました。
典侍は以前にも経験しているので慣れっこになっているのでしょう。
年を取っているのにひどく気取ってしなを作り、
このような場合でも源氏の君を御守り申そうと、震えながら男を捕まえていました。
源氏の君は、ご自分が誰であるかを知られないうちに早くここを出なくては、
とお思いになるのですが、
だらしない姿で冠も曲がったまま逃げ出す後ろ姿を思いますと、
あまりに愚かしくて躊躇なさるのでした。