PR
カレンダー
キーワードサーチ
女は風情のある扇の端の方を折って、
「はかなしや 人のかざせるあふひゆゑ 神のゆるしの 今日を待ちける
(頼みになりませんわね。
逢う日として神も許すこの日を、こうしてお待ちしておりましたのに、
あなたさまは他の方と同乗していらっしゃるなんて)
しめ縄の内には、とても入れませんわ」
と書いてあります。
源氏の大将は、
「やれやれ、年甲斐もなく派手な事をするものだ」
と憎く、みっともないとお思いになります。
「かざしける 心ぞあだに思ほゆる 八十氏人に なべてあふひを
(浮気者のあなたがかざした葵は私にではなく、たくさんの人に向けてなのでしょう。
今日は誰かれなく逢える日ですからね)」
典侍はこのお返事を、『ひどい』と思いました。
「くやしくも かざしけるかな名のみして 人だのめなる 草葉ばかりを
(葵の祭りが逢う日だなんて名ばかりですわ。
あてにならない草葉を頼みにしていたなんて、悔しくて)」
と、申し上げます。