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ご出産はまだ先の事、と人々がみな気をゆるしていらっしゃるところに、
にわかにその兆しがおありになってお苦しみになります。
左大臣家ではなお一層の御祈祷を、数を尽くしておさせになるのですが、
例の執念深い御物の怪が一つあって、一向に動こうとしません。
尊い修験者どもも「これは異なこと」と、持て余すほどです。
それでもさすがにひどく調伏させられて苦しげに泣き喚き、
「少し手加減してくださいませ。大将殿に申し上げたい事がございますので」
と、言うのです。女房たちは、
「やはりそうだったのね。何かあるのよ」
とて、源氏の大将を女君に近い御几帳のもとに入れたてまつりました。
女君が今にも死に絶えそうなご様子でいらっしゃるので、
申し上げたい事でもおありなのでしょうか。
父・左大臣も母・大宮も遠慮なさって、女君から少しお離れになりました。
加持祈祷の僧侶たちが声を低くして法華経を読むのが、たいそう尊いのです。