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かの御息所はこのような祝宴のご様子をお聞きになるにつけても、
心穏やかではいられません。
『かねては、お命も危ういと聞いていたものを。ご安産だったなんて......!』
と、お思いになるのでした。
不審に思って呆然自失のお気持ちを辿ってごらんになると、
不思議な事に御衣などにも芥子の匂いが染み込んでいます。
御髪をお洗いになり、お召し物も着がえてごらんになるのですが、
どうしても芥子の匂いがとれませんので、我が身ながら厭わしくお思いになります。
ましてこれを世間の人がどう言い、どう思うかなど口に出して言うべき事ではなく、
御息所の御心ひとつに納めてお思い嘆くしかありません。
御息所の御乱心は、ますますひどくなって行くのでした。
源氏の大将殿はご安産に少し安堵なさいました。
御息所へのご訪問もつい間遠になってしまった事を心苦しく、
そうかといってまた、『直接御息所にお目にかかるのは、いかがなものだろう。
きっと厭な気持になるであろうから、あの方にとってはお気の毒な事になろう』
と、様々お思いになり、御文だけを差し上げるのでした。