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尚侍の君はほんとうにお困りになって、
そっと几帳の外にいざり出ていらっしゃいましたが、
お顔がたいそう赤らんでいらっしゃるので、
まだお熱があるとお思いになったのでしょうか、
「まだお顔の色が普通ではないね。厄介な物の怪などがあるのかもしれない。
もっと修法を続けた方がいいだろう」
と仰せになりながら、『おや?』とお思いになります。
尚侍の君の御衣に薄二藍の男帯がまつわりついて、
引きずっていらっしゃるのをお見つけになったのです。
その上御几帳の下には見慣れぬ手習いなどした畳紙が落ちていました。
右大臣は、『一体これは何だ?』と驚かれて、
「それは誰のものだね?見慣れない妙な物だね。
こちらへお出しなさい。誰のものか調べてみましょう」
と言われて振り返り、ようやく尚侍の君もご自分の失態にお気付きになります。
もう、取り繕う事もおできになりませんので御返事のしようもなく、
途方に暮れていらっしゃいます。
右大臣ほどの人物ならば、わが子ながら恥かしかろうと遠慮なさるべきなのでしょう。
けれどもまことに性急で寛大なところのない右大臣でいらっしゃいますから、
とてもそこまで考えが及びません。
畳紙をお取りになって几帳から奥をお覗きになりますと、
ひどくおっとりとして、遠慮もなく添い臥している男がいます。
覗かれて、やっと顔を引き隠して誤魔化しています。
右大臣はあまりの事に癪に障るし腹が立つのですが、
面と向かって暴露するわけにもいきません。
目の前が真っ暗になったような心地がしますので、
この畳紙を取って弘徽殿大后のもとへお出でになりました。
尚侍の君は正気を失ったような心地がして、
もう死んでしまいたいようなお気持ちになります。大将殿も尚侍の君がお気の毒で、
「つまらない事をして、ついに人の非難を受ける事になってしまった」
とお思いになるのですが、とにかく尚侍の君をお慰め申し上げるのでした。