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右大臣は何でも思った事をお口に出し、
御胸にしまっておく事がおできにならないご性分でいらっしゃる上に、
たいそうな老いの御ひがみまで加わってしまいましたので、
黙ってはいられず、ためらうことなく、あけすけに弘徽殿大后にお訴えになります。
「かくかくしかじかの事がございました。この畳紙の文字は右大将の御手でございます。
以前にも油断したばかりにこのような事がございましたが、
人柄に免じてすべてを許し『婿としても面倒をみよう』と申し上げた事がございましたが、
その折には衣手にしてつれない扱いをされましたので、心外だったのでございます。
しかし娘の身が穢れたとしても『そういう運命だったのだ』と、
帝がお見捨てにはなるまい事を頼みとし、端からの念願のように帝にたてまつりました。
それでもやっぱり憚りがございますので、
女御ではなく尚侍という官職として入内せねばならなかった事を、
親としましては何とも残念に思っておりました。
それなのに今またこのような不祥事が出来致しましては、
全くどうも癪に障ってなりませぬ。
好色は男の常とは言いながら、大将もずいぶんと怪しからぬ事をなさる。
斎院にもいまだに不埒な気持ちをお寄せになって、
忍んで御文を御通わしなどして怪しい様子だなどと人が噂しております。
このような事は世のためばかりでなく、大将ご自身にとりましても好からぬ事ですから、
よもや無分別な行いに走る事などあるまいと思っておりました。
当代の識者として天下を風靡していらっしゃる様子も格別ですから、
大将の御心を少しも疑わなかったのでございます。