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花散里も心細くお思いになって、いつも源氏の君へ御文を差し上げていました。
それもお道理ですし『かの人にも、今ひとたびお逢いしなければ、薄情者と思われよう』
とお思いになるのですが、
左大臣邸からお帰りになった夜に、すぐまたお出掛になるのもたいそう物憂く、
ひどく夜が更けてからお出でになります。麗景殿女御が、
「私のように数ならぬ身を人並みにお扱いくださって、お立ち寄りくださるとは」
とお喜びになるご様子は、こうして書きつけるまでもありません。
恐ろしいほど頼りない生活の御様子で、ただ源氏の君お一人を頼りとして
暮らしていらっしゃいましたので、この後はどんなに荒れ果てることかと
思いやられるほど、邸内には人が少ないのです。
春の朧月夜が射し出でて、広い池や山の木深きあたりがもの寂しく見えて、
須磨という遠い地の、巌の中の住まいが思いやられるのです。
西面の花散里は、『お出でくださるはずがないわ』と塞ぎこんでいらしたのですが、
風情ある月の光が優雅でしめやかな場所に、
またとない源氏の君の御衣の匂いがたいそう忍びやかに漂ってきました。
花散里の女君は少しいざり出て、そのままご一緒に月を眺めていらっしゃいます。
こちらでもまたお話しなさるうちに、明け方近くになってしまうのでした。